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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第四章 〜王都血盟編〜
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02:マキア、パッションとか言わないで欲しい。



ユリシスとペルセリスの結婚式が、教国の大聖堂にて粛々と行われました。

いったい何をしているのかと思わされる程、数々の手順を踏んだ細かな儀式が行われ、二人は私たちに見守られながら、大聖堂の奥の間に消えていきました。





「ああ〜……終わってしまったわ」


「終わったってな。ユリシスとペルセリスはこれからが大変なんだぞ。……色々とな」


「色々ねえ」


大聖堂の裏側に出て、私は背伸びをしながら。

確かにユリシスやペルセリスには、これから大変な使命と期待を担う事になるでしょう。


色々と。



「………!?」


私が背伸びをしていた時、ブワッと勢いのある風が吹き荒れたかと思ったら、地響きの様な鈍い音が響きました。

ふらついて地面に倒れそうになった時、トールが腕を引っ張って体勢を整えてくれました。


「あり……ありがとう」


「お前ヒールだもんな」


いつもの二人の適当なやりとりの後、大きな影が私たちの頭上に現れた事に気づきます。

それはとても無視出来る存在ではありません。



「………ヴァルキュリア艦隊……」



空を仰いで、久々に見たその戦艦のフォルムに胸がドクンと高鳴りました。

紫色の、駒状の戦艦。あれはフレジール王国の対巨兵最新戦艦。世界で唯一、巨兵に太刀打ち出来る戦艦と言われています。


ルスキア王国は、先日からフレジール王国の艦隊を一つ、この王都の側の港の上空への駐留を認めました。

ただし、結婚式が終わるまでその姿を見せないと言う事が条件でした。結婚式の終わったこの瞬間、上空に留まっていた戦艦が姿を現したのです。

まあ、確かにこんなにおめでたい、ある意味神聖な結婚式の日に、物騒な艦隊が空に浮かんでいたらヴァビロフォスの怒りに触れてしまいそうですからね。


この日、結婚式に招待されたシャトマ姫が、大聖堂にて私たちとは少し離れた場所に居たのを確認しました。

私はあまり考えない様にしていた事を、ふと考えたりします。


「……もしかして、あいつも来ているのかしら」


「あいつって……勇者か?」


「そうよ。一年も会っていないわね……」


「会わない方が良いだろう。あいつは俺たちにとって死神の様なものだ。いつ殺されるかも分からない」


「そうだけど。でも、今なら少し、聞いてみたい事だってあるんじゃ無いの? 特にあんたは……」


「……無いよそんなもの」


トールは勇者の話になると、少々慎重になります。


でも私は、今だからこそ聞いてみたい事が沢山ありました。

私自身、2000年前の感情を、勇者に対する憎しみを忘れた訳ではないけれど、“憎くて仕方が無かった”と言う事を思い出すのもそれなりに辛いのです。



「ふふふ……魔王クラスがお揃いで何を企んでおる」


背後から聞き覚えのある声が聞こえ、私とトールは振り返ります。

そこには、淡い藤色の髪を持った可憐な少女が、黒いフードをかぶった一人の護衛だけを連れ堂々とした態度で仁王立ちしていました。何と言う女王様。


今日はいつもの軍服ではなく、フレジールの正装姿です。


「……藤姫」


フレジールの王女、シャトマ姫でした。藤姫と言うのは彼女の前世の名でもあります。

私はハッとして彼女の背後を覗いたりしてみましたが、勇者ことカノン将軍は居ませんでした。


「安心しろ紅魔女。カノンは今、艦隊の方に待機しておる。奴には、あの娘のお守りをさせているからな」


「……あの娘?」


意味深に、知らぬ人物を上げられ、私とトールは瞳を細めます。


「おいおい、こんな所でそう構えるな。私はただ、白賢者様と緑の巫女の結婚を祝いにきただけなのだから。いやおめでたい。世界はこの結婚を、祝う者と憎む者に別れておる……。それだけ意味のある結婚だった訳だ」


シャトマ姫は手に持つ扇子をピシッと開いて、口元に当て、ニヤリと笑いました。

相変わらず読めない姫様ですこと。


「それはそうと、トール・サガラーム。……いや、黒魔王と言うべきか。後ほどそなたの国を、妾に見せてもらおう。わかっておるな?」


「……ええ。承知しております、シャトマ姫」


トールは淡々と受け答えています。

シャトマ姫は、トールのアイズモアの視察もかねての訪問の様でした。


「2000年前の魔族国家、アイズモアの復活……なかなか面白い事になったものよ。のう、ソロモン?」


シャトマ姫が後ろで控えていたフードの護衛に声をかけた。


「……ソロモン?」


聞き覚えのある名でした。どこで聞いたんでしたっけ。

ソロモンと呼ばれた者は、ゆっくりとフードを外します。


その瞬間、私もトールも、大きく瞳を見開き、息を飲んだ事でしょう。色々と衝撃的な容姿だったから。


シャトマ姫はニヤリと瞳を細め、私たちの反応を楽しんでいた様でした。


「この男は、ソロモン・トワイライト。……トワイライトの一族の当主にして、今ではフレジールの顧問魔術師だ」


「……」


なかなか言葉が出ませんでした。

このソロモンと言う男は、顔の半分が鉄の仮面に覆われていて、黒いローブから見える手足は、どこも義肢でした。

でも、そっくりなのです。トールに。


「お初にお目にかかります、偉大なる魔王樣方。私はソロモン・トワイライト。現トワイライトの一族の当主を任されております」


ソロモン・トワイライトは物腰柔らかに挨拶をして、微笑みました。

なかなか愛想の良い男の様で、私はそこからも若干の違和感を感じてしまいました。


トールをもう少し大人にして、髪を少し伸ばした感じ。

そう、そんな印象でした。名前から見えてくる魔力は、魔王クラスに及ぶ事は無くても一般人では破格の数値です。9000mg台とは……。


「マキア・オディリール嬢、私の妹が大変お世話になっている様で」


「え? あ、ああ……そっか。あなた、レピスのお兄さんなのよね」


「ええ。今もずっと、物陰から私たちを見ている“レピス”の兄です」


ソロモンはチラリと右側に視線を流しました。

遠くの小さな礼拝堂の裏に、レピスが居る。その事に既に気づいてしまっています。


私は小さくため息をついて、レピスを呼びました。


「レピス、こちらへいらっしゃい」


するとレピスは、いつの間にかスッと私の傍らに姿を現し、藤姫の御前だと言う事で跪いていました。


「シャトマ姫様……ご無沙汰しております」


「おお、レピスか。そんな風に膝をつくな。私とそなたの仲だろう? 相変わらず地味なローブを着ているな。美しい顔をしているのだからもう少し着飾ったらどうだ」


「いえ……私は……」


レピスが躊躇いがちにそう言って、顔を上げた瞬間、彼女は前方から勢いよく飛びかかってきたその男によって押し倒されました。


「あああああああっ、レピスレピスっ!! 私の可愛い妹よ!!」


「………」


「……え」


私とトールは唖然としています。

さっきまであんなに物腰柔らかに、雰囲気ある大人の男性を匂わせていたソロモン・トワイライトが、勢いよくレピスに抱きついたのでした。


ソロモンは「あああああっ」と、何とも言えない喜びの声を上げ、妹に頬擦りをしています。

レピスはいつもの事と言わんばかりに淡々とした瞳をして「鉄仮面が痛いですお兄様」と。


まさか……まさかのシスコン。


トワイライトの一族の、何ともインテリ風の不思議な雰囲気が台無しと言うもの。

黒魔術の最高峰の一族のトップが、まさか……。


「こらソロモン。妹に会えて嬉しいのは分かるが、その辺にしろ。不審者と間違えられて、警備が来たらどうする」


「いいえ、シャトマ姫。いくら姫の命令でも、この胸を打つパッションを抑える事は出来ないでしょうっ」


「まあ……お前が妹命なのは知っているが……」


流石のシャトマ姫も少し引いています。

何だこのソロモンとか言う男。ある意味凄いですね。


でもトールと同じ顔で「パッション」とか言わないで欲しいものです。苦笑いが出ます。


彼の先祖でもあるトールは呆然としたまま、そこらで妹に抱きついたままゴロゴロ転がっている自分の子孫を見下ろしていました。

トール……これがあんたの子孫です。ねえねえ、今、どんな気持ち?



「お兄様……いい加減にしてください。正直鬱陶しいです」


「何を言うレピス。スキンシップは大切だよ?」


「ほとんどお体の無いお兄様に、スキンシップも何も」


「あははははは、これは一本とられた!!」


さらっとダークな部分ぶっ込んできますね。

私もトールも、入る余地の無いこの兄妹の再会の勢いに押され、本当にただただポカンとしていました。

つっこみすら、言葉で入れる事が出来なかったと言う部分に、悔しさすら感じます。



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