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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
番外編 〜休息〜
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*ユリシス、どうしようもなく小さな男。


「そうか……君たちだけで行ってしまうのか……。僕を置いて」


「なにその言い方」


ユリシスです。

明日の朝一番で、マキちゃんとトール君が、故郷のデリアフィールドに帰郷します。その前に、二人は僕の所へ来てくれたのです。


レイモンドの叔父上が二人の帰郷の許可を出した様で、トール君はその間、病気の母親の側に居られるらしい。

その事に関して、マキちゃんがホッとしている様で、何とかこの時期に王国も一段落付いて良かったなと思っている所です。


しかし、先日の魔族襲来のせいで王都は大きな被害に合い、残された僕らにはまだまだ仕事も多いのです。

それは別に良いのですが、最近何だかマキちゃんとトール君の関係が妙な気がして、僕は若干疎外感……。


「あんただって、春の結婚式の準備とか、何だか大変なんでしょう?」


「ああ、うん。まあね……緑の巫女は聖教祭に結婚式を挙げるのが、教国の習わしだからね」


「ぺルセリスの容態はもう良いのか?」


トール君が真面目に聞いてきました。

最近まで、ペルセリスは緑の巫女特有の病で臥せっていたのです。


「うん、もうそろそろ大丈夫だろう。君たちの事は、彼女に言っておくから……」


「お見舞いに行けなくて、悪いわね」


マキちゃんは少し眉を寄せ、申し訳無さそうにしています。

僕は二人を見比べ、小さく頷いて、微笑みました。


「君たちも、ちゃんとゆっくり、体を休めておくんだよ。春からは国王が変わり、この国は一気に前進する事になる。その際、君たちの力を借りる事になるだろうから……」


「………むしろ、あんたの方が休んだ方が良いんじゃないかしら……」


「僕? ははは、大丈夫だよ。最近は一日3時間は寝れるんだから……」


「………」


マキちゃんとトール君が絶句しているけれど、まあ事実ではあります。


「でも……ありがとう二人とも。君たちを、一年もの間王宮に留めてしまって申し訳なかった。本当に感謝しているんだ。特にトール君……君はやっぱり凄いよ。凄い事を、やってくれたよね」


「………そうか?」


「正式にアイズモアを国家として認定するよう、決定は出たんだ。君は、ルスキアが認める一国家の王様なんだよ。……そろそろ、少し偉そうに振る舞っても良いんじゃないかな?」


いつまでも下っ端仕事を引き受けてしまうトール君。

彼はきっと、自分が貴族の生まれでは無いからと、いまだにそう言った態度で居るのだろう。


「………うーん………考えておこうか」


「あんたが偉そうに? 王様らしく? ふふっ……あははは。何だか想像がつかないわね」


「何でだ。俺は昔黒魔王だったんだぞ」


「……知ってるけど」


マキちゃんとトール君が言い合っています。しかし、前までの皮肉り合いでは無い様な気がして、僕は首を傾げるのでした。










王宮での仕事が一段落し、僕は教国へ向かいました。

明日になったらマキちゃんもトール君も居ないのだと思うと、少し寂しいですが、僕にはやるべき事も沢山ありますし、ペルセリスだって居ます。


ペルセリスは完全に復帰し、例の地下の庭に居ました。


「……ペルセリス」


僕は、大樹の前で祈りを捧げていた彼女を、じっと後ろから見守っていましたが、彼女の祈りの区切りを見つけ声を掛けました。

すると、彼女はパッと振り返り、僕の所に飛んでやってきます。


「ユリシス!! 私、やっと元気になったの!!」


「そのようだね……。良かったよ。もう、どこも辛くはない?」


「ええ!! この通りぴんぴんしているわ!!」


ペルセリスは自分の袖を手で引っ張ったまま、くるりと一回転。

柔らかい緑色の帯が美しく舞って、僕は目の前の“緑の巫女”の復帰に嬉しく思いました。


彼女は僕の、妻になる人です。





僕らは大樹の、ちょうど良い根の盛り上がった部分に腰掛け、久々に沢山会話しました。

一つは、やはり跡継ぎ騒動の顛末と、魔族の王都襲来。彼女はこの時ずっと床に臥せっていたから、全くと言って良い程この件に関与しなかったのです。


二つ目は、マキちゃんとトール君の帰郷についてでした。


「うそお……二人とも、デリアフィールドに帰っちゃったの?」


「ああ。残念だったね……二ヶ月程は帰ってこないと思うよ」


「そんなあ……私、やっと元気になって、マキアたちとももっとお話し出来ると思っていたのに」


「………」


彼女はしょんぼりして、足をぶらぶら。

僕はわざと、少し悲しそうな顔をして……。


「……僕だけでは駄目かい?」


「そ……っ、そんな事無いよ!!」


ちょっと意地悪な質問をしてみた所、ペルセリスは慌てて首を振りました。

何か可愛い。


「ユリシスが来てくれるなら、私……寂しくないよ?」


「本当に……? 最近、君はマキちゃんとばかりお茶をしていて、楽しんでいたようだったから、僕はてっきり……そっちの方が楽しいのかなと思っていたけど」


「そんな事無いよっ!!」


ペルセリスはあわあわと僕の袖を掴んで、ブンブン振って必死になっています。


「確かに、私、女の子とのお友達がほとんど居なかったからマキアとお話ししたりお茶会をしたり、一緒にお風呂に入ったりするのが楽しかったわ……っ、でも……」


「………い、一緒にお風呂? はああ……それは、僕なんかよりよっぽど親密だな……」


「!? で、でも、ユリシスは全然特別で、違うんだよ? ユリシス、お仕事で忙しそうだったから、あんまり我が侭を言ってちゃダメだと思って……私……っ」


だんだんと涙目になってくるペルセリス。

僕はからかいすぎたかなと思って、慌てて彼女の手を取り謝りました。


「ごめんごめんっ。違うんだよ、ちょっとからかってみただけで……。あああ、ごめんペルセリス……っ」


彼女は下唇を噛んで、グッと涙をこらえているので、僕は彼女の肩を抱いて、さすってみました。


「ごめんね……ちょっとした、男のジェラシーみたいなものだから……」


「……ジェラシー?」


「そうそう。君があんまり我が侭を言ってくれないから……。僕の仕事の事を気にかけてくれていたって、知っていたのにな。ゴメンね……」


「………」


ペルセリスは丸い大きな瞳に、涙の粒を溜め、まじまじと僕を見ました。

あんまりじっと見つめるので、僕は思わず目をぱちくり。


「な、何……?」


「ユリシスでも、そんな風に人をからかったりするのね……」


「………えっ」


確かに、僕は冗談めいたからかいをする事はあるけれど、こう言ったジェラシーによるからかいはめったにしません。

と言うか、ただ単にペルセリスがどんな反応を見せてくれるか、単純に気になったと言うのもあるんだけど……。


「まあ……君がそうやって必死になってくれるのを見たかったんだよ、僕も」


「………そうなの?」


「そうだよ。僕はずっと、君がマキちゃんやレピスさんと一緒に居る事の方が楽しかったらどうしようかと、ドキドキしていたんだから………。小さい男だよ全く」


本当にどうしようもなく、小さな男でした。

言いながら恥ずかしくなってきて、額を押さえます。


するとペルセリスは、どこか嬉しそうに瞳を大きくして、木の根の上で膝を立て僕の頭をわしゃわしゃと。


「な、何?」


「………ユリシスが私の我が侭を聞いてくれるって言うから。私、ずっとユリシスの頭をこうやってわしゃわしゃしてみたかったの!!」


「な、何だいそれはっ」


確かに僕の髪は猫っ毛だけど!!

ペルセリスは嬉しそうに、一時わしゃった後、僕の髪をフワフワと整え始めました。


「ユリシスって、寝癖って結構ついちゃうでしょう?」


「……う、うん。そうだね。……毎朝頑張って整えているね……」


「ふふ。結婚したら、ユリシスは教国に住んで、王宮に通うのでしょう? だったら、私、毎朝ユリシスの寝癖を整えてあげる!!」


「………」


ペルセリスが、僕の髪を一房づつ、元ある場所へ優しく整えてくれている。

僕は、彼女の手の温かさを感じながら、何だか嬉しくなりました。


「毎朝、ユリシスのスカーフを整えてあげる!!」


「……そ、そこまで……?」


「うん!! 私は、今度こそユリシスの奥さんらしい事を沢山するのよ……」


ペルセリスは僕の髪をいじる手を留め、ゆっくりと、僕の頭を抱える様に抱き締めました。

彼女の思いが痛い程伝わってきて、僕も彼女の背に手を回します。


「怖くないかい?」


「……何が?」


「また僕と……夫婦になるってことが……」


呟く様に聞きました。

2000年前の僕たちは、夫婦らしい時間を長く過ごした訳では、決してなかった。

僕は彼女を幸せに出来たと、胸を張って言う事が出来ないのです。


「……ユリシス、でも……プロポーズしてくれたでしょう? また、私を選んでくれたでしょう? 私、とても嬉しかったな……」


「………」


「それだけで、答えにはならない?」


「……いや、十分だよ。何でだろうね……僕らはまた同じ様な立場で、同じ場所で結婚するのに……何だか新鮮な気分だ。これからがとても楽しみなんだよ……」


「私だってそうだよ」


「………」


ペルセリスは膝を崩して、僕に身を寄せ珍しく甘えてきました。

いや、本来彼女は甘えん坊なのですが、今までずっと我慢していたのです。


「ねえユリシス? 私の事、好き?」


「………そりゃあ、勿論」


「なんで間があったの!?」


「い、いや、即答も趣が無いかなって……。ダメだなあ……僕は黒魔王程そういった事が得意じゃ無いから……」


「……黒魔王? トール?」


「そうそう。彼はほら……色々と経験豊富だからね。最近はストイックを気取っているけど……本気の彼は正直……」


うん、これ以上は言うまい。男として何だか切なくなります。

ペルセリスはよく分かっていなかったけれど、僕の顔を覗き込むと、


「でも……私はユリシスの方が好きだよ?」


どこか恥ずかしそうに。

改めてそう言われると、ガッツポーズしたくなるほど嬉しいものですね。


「……うん。僕には君だけで十分だ……っ」


「そうじゃないと困るよ」


ムスッとして、口を尖らせるペルセリス。可愛い。

僕は彼女を抱き寄せ、背をポンポンと撫でながら。


「……大丈夫。きっと、何もかも上手く行くよ。……僕らはもう、沢山の味方が居るからね。前の様にはならない」


「………」


「前の様に、一人にはさせないからね……」



一人にはさせない。


僕はそう言葉にして、自分自身頷きました。

僕らが築き上げる未来は、確かに前世の上に成り立つものだけど、前世を辿るものじゃない。


今度こそ、絶対にペルセリスを幸せにしてみせる。

そしてまた再び、我が子を授かったなら、今度こそ家族を守りたい。


心からそう思います。



世界は2000年前とは全く違う混沌の中にあるけれど、それを乗り越える力が、今の僕らにあるでしょうか。


自分自身納得出来る未来を、今度こそ歩んでいきたいと、このヴァビロフォスに祈りを捧げました。


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