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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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+α:玲奈、異世界にやってくる。


私の名前は、たいら 玲奈れな



「………こ………ここはどこ?」


私はいつの間にか、知らない世界に立っていた。

広大な砂漠の真ん中。砂漠のあちこちには、化け物の頭の様な体の一部の様な、見るも無惨な金属製の残骸が。


自分の手を見つめる。手には何故か英単語帳。


私はただの高校生で、ちょうど塾から帰ろうとしていた所だったはず。

なのに、どうしていきなり砂漠に居るの?


「うそ……あり得ないわ。私、夢でも見ているのかな……」


白いシャツに、汗が流れて染み込んでいく。水色と紺色のネクタイは、明らかにうちの高校の制服。

だけど、目の前には漫画かアニメに出てくる様なロボットの残骸が、砂漠のあちこちに飛散している。


怖い。

何で私はこんな所に、たった一人で居るのよ。


「どうしよう……私、きっとあの時死んじゃったんだ………っ」


だんだんと記憶が鮮明になってくる。

私は塾の帰り道、期末試験前で単語帳を読みながら夜道を歩いていたら、突然前から来たトラックにはねられたのだ。

きっとここは死後の世界。だけどきっと……天国じゃないと思う。


それにしても、死ぬまで単語帳を離さなかった私って………。


「あああっ……どうしよう、明日から……期末試験なのに……っ!!」


頭を抱え、砂漠の真ん中で膝をついて、今更関係ない事に嘆く。大げさに落ち込んでみるけど意味なんて無い。

万年主席だった私の記録はここで止まるのよ。


それは、母の期待に応えられないと言う事でもある。


「………うう……っ。何で私、こんな所に居るの……」


訳が分からなくて泣けてくる。

砂漠に座り込んで、単語帳を抱きかかえながら。



ゴゴゴゴゴ………


突然、空から轟音が聞こえ、思わず見上げる。

空が割れる様に大きな大きな、紫色の駒上の戦艦が現れたのだ。


「え……えええええっ!?」


何あれ何あれ!!


ハリウッドのSF映画であんなの見た事ある!!

激しい風が、私の髪を後ろになびかせる。私はその巨大な戦艦から目を逸らす事が出来ない。


「………?」


その戦艦から、二人の人間が降りてきた。

一人は、薄い紫色の長い髪をしている、この世の者とは思えない程可憐で美しい少女。年頃は私と同じくらいかな。


そして、もう一人は、深く軍帽をかぶっている背の高い金髪の男の人。


二人とも外国の軍人の様な格好をしている。

動けずに居る私の前にやってきて、まず少女が扇子を口に当てつつ、私をマジマジと見下ろした。


「ほお………これが、異世界からやってきた“少女”という者か……。特別変わった所も無さそうだが……」


「…………だ、だれ……?」


「ほお……この世界の言葉が分かるのか」


紫色の髪の少女は、何がそんなに愉快なのか、クスクスと笑う。ふわりと甘い香りが漂ってきた。


金髪の男は、軍帽をグッと上げ、私を冷たい瞳で見下ろす。

その瞬間、私は身が凍り付く様な感覚に陥り、熱い砂漠の真ん中だと言うのにガタガタと震え出す。


青く鋭い瞳と、金髪。

私はこの男を知っている……。


「おいカノン、怯えさせてどうする。保護するんだろう?」


「………ああ。連邦に見つかると厄介だからな」


「おぬし、名は何と言う?」


「………」


紫色の髪をした少女が、どこか試す様な微笑みで私に聞いてきた。

今はこの少女だけが頼りなのではないかと思って、私は彼女を縋る様に見上げた。


「た………平……玲奈……」


「……レナ?」


「そ、そう……です……」


一瞬、その少女の瞳の色が変わった気がした。

少女は瞳を大きく見開き、たまらずバッと扇子を開き、顔を隠しつつ笑う。


「はは………これはこれは。確かにヤバい。お前並みにヤバいな、カノン」


「………だからこそ、世界の救世主とまで言われるのだ」


金髪の男が、少し強い口調で言う。

その声音は低く、落ち着いているが、鋭い視線は相変わらず私を見下ろしたまま。


怖くて仕方が無い。


「だが……世界の救世主なんて嘘だ。異世界から“転移”してくる者は、世界を乱すもの。……俺を含め、争いの火種となる存在だ」


「………ふふ、言うじゃないかカノン。しかしな……それはある意味で、世界の“主人公”と言う意味だ。どのような物語も、“主人公”を中心に物事が起こるだろう? 主人公が居るから、世界が劇的に上下する。逆説的な皮肉を言ってしまえば、主人公さえ居なければ、世界は何事も無く平和なんだよ………フフ」


「…………」


「異世界からの救世主が現れれば、妾たちは結局脇のキャラクターに成り下がる……」


何だか意味の分からない話をしては、私を観察する様に見る、目の前の二人の人間。

紫色の髪をした少女は、一度瞳を細め私に手を伸ばした。


「妾の名前はシャトマ・ミレイヤ・フレジール。……レナ……そなたを待っておった」


「………私を?」


「ああ。……ようこそ、メイデーアへ」


「………」




メイデーア。


とても懐かしい名前。

私にとって、英単語以上に、もっと大切な意味のある名前だったはず。


でも何も思い出せない。


私は、この世界を知っているの?



「あ、あの……あの、あなたの名前は………」


私は思いきって、背の高い金髪の男の名を聞いてみた。

彼は再び鋭く私を睨んだ後、ふいとそっぽ向く。


「ああ、奴はカノン・イスケイルと言う者だ。かなりの無愛想でな。………まあ、気にするな」


「………」


シャトマという少女はそう言う。

でも、あからさまに私に対する敵意を、嫌と言う程感じる。

私はあの人と、いったいいつ出会ったと言うの? 私はあの人に何かしたの?



ぞくぞくぞくと、体の下から上に向かって、思いもよらない妙な感覚が込み上げてくる。それは恐怖であり、興味でもある。

いったいなぜ?



「さあ、レナ。こんな所に居ても仕方が無いだろう。妾の国へ迎えよう………」


「あ、あの、でも……私、家に帰らないと……っ」


「お前の世界に? ははははっ、ふふっ、いやそれは、なかなか難しいだろう……。でも、帰りたいならあのカノンに付いていると良い。奴だけが、世界の境界線を越える方法を、いくつも知っているからな」


「………?」



砂漠の真ん中で、私はあの男に出会った。

そして、それがかつての遠い遠い“私”に繋がる出会いだったと、この時の私は知る由もない。




そう。ここはメイデーア。

私の本当の故郷。


私が居るべき、私の異世界。



何もかも分からないのに、そんな気がするのだ。


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