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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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fin:マキア、雪の上に建てるお城。


それは大貴族会議の終わった後の事でした。

お父様がとある用で、副王であるレイモンド卿に呼ばれ王都までやってきたのです。今丁度、お父様はその用件を伺っている所。


私は王宮の一室で、ソワソワとしてお父様を待っていたのです。トールは私の隣で、どこか落ち着いた様子でいましたが。




「お父様!!」


「おおおうっ、マキア!!」


お父様が部屋に入ってきたとたん、私はお父様に抱きつきました。


「マキア、大きくなったなあ。一年も経たないのに……」


「成長期だもの」


「それに、垢抜けて綺麗になったなあ」


「そうかしら」


私はまたお父様の腰に抱きついて、温かさを身に感じます。

お父様の匂いです。少しだけ老けた様でしたが、お父様は相変わらずお元気そうで、優しい空気に包まれています。


「御館様……」


「おお、トール……立派になったなあ。何だか、顔つきが変わったんじゃないか?」


「………そうでしょうか」


トールも私と同じ様な返事します。

お父様はトールの前に立ち、少しだけ悲しそうな顔をして彼を見ました。


「トール……こんな所で話すのもあれだが、お母上の容態が良くない。少しの間、帰って来れないだろうか」


「………それは……」


トールは何か言おうとして、すぐに口をつぐみました。

ここ数日、トールはとても忙しくしていました。アイズモアに関する書類を作ったり、レイモンド卿と話し合ったり会議に出たり、やる事が山ほどあったのです。だから、それらを放っておいてデリアフィールドに帰郷するとは、なかなか勝手に言う事は出来ないのです。

またしても私は役立たず。


「そこの所は心配には及ばないよ、トール君」


いきなり、レイモンド卿が部屋の扉を開け、入ってきました。


「トール君には、一つ仕事を頼みたいと思っている。アルフレード王子と、ルルーベット王女を、デリアフィールドまで無事にお送りすると言う仕事だ」


「………!?」


私とトールは顔を見合わせた後、お父様を見ました。

お父様はひとりでに「なるほど」と言っています。


何がなるほどなのか。


「実のところ、アルフレード王子とルルーベット王女を、デリアフィールドのオディリール伯爵家に迎えて頂く事になったのだ。ビグレイツ公爵の提案によるものだがね。あそこは食べ物もおいしく、治安も良い。何より、マキア嬢とトール君と言う名魔術師を輩出した実績あるお家だ。私は、これほど良い場所は無いと思って、オディリール伯爵を呼び寄せ一つ相談したのだ」


「副王様、いえ次期国王様でしたね。……ははは、いやデリアフィールドは良い所ですから、御心配無く」


お父様はどこか自慢げです。

私は少しだけ嬉しくなりました。あの二人が、私とトールの育ったあの家に迎えられるなんて、なんて素敵な事でしょう。

きっとお父様もお母様も家が賑やかになるのは嬉しいでしょうし、バルナバだって自慢のレモンケーキを張り切って焼くんじゃないかしら。


ビグレイツ公爵、ナイスです。


「まあ色々とあったが、無事に大貴族会議も終わり、この国も一区切り付いた所だ。顧問魔術師の君たちには、とても感謝しているんだよこれでも」


レイモンド卿はそう言うと、私とトールを見てウインク。

あ、そのウインク久々に見た気が。やはりレイモンド卿とは言え、ここ最近はピリピリしていたのね。


「そう言う事だ。君たち二人には王子と王女の付き添いも兼ね、少しの間デリアフィールドに帰郷してはどうかね?」


「……………え?」


「………」


私は驚き、少しだけトールを盗み見ます。

トールも勿論驚いていましたが、何と言うか……心無しか安心した様に見えます。


「いいのですか、レイモンド卿?」


「ああ、君たちは充分義務を果たしたし、ここからの雑務なんて、我々でしなければならない事だ。もう王都には魔族も居ないし、連邦も一時は様子を見てくるだろう。王都にはユリシス殿下も教国の若君をいらっしゃるし、心配も無いだろう」


「…………レイモンド卿って、せっかく王様になる事が決まったのに、相変わらず腰が低いですね」


「はははは、マキア嬢。天下の魔王様たちの前で、王様ぶっても仕方あるまい」


「………」


流石と言うか何と言うか。そんな事を言って、いつの間にか私たちを使いこなしているくせに。


「とは言え、春の聖教祭前までには帰ってきてもらう事になるだろうがね。聖教祭後からは、今まで以上に忙しくなるだろう……。君たちも大変になるよ、色々な意味で」


「………?」


意味深なレイモンド卿の言葉。

彼はそれ以上何かを言う事はありませんでした。


私も、デリアフィールドに帰れるのだと言う、ジワジワと心の底から込み上げてくる嬉しさのせいで、それ以上追及する事も無く。


「トール、よかったわね」


「え……あ、ああ……」


トールはさっきから少しだけ、心ここにあらずと言う感じでした。

きっと、母親の事が気になるのでしょう。









大貴族会議の後、すぐに国民たちは会議の決定内容や、その年の結果や効果などを知る事が出来ます。

新聞がこぞって記事にして配りますからね。


この時期は地方の貴族たちも多く王都に集まりますから、王都の賑わいも大きく、王宮でも大きなパーティーが催されます。


「おいマキア、早くしろ。パーティーが始まるぞ」


「ちょっ……ちょっと待って」


私はドレッサーの前で身だしなみを整えていました。

耳には、以前トールに貰った小さな雫型のイヤリング。


「………お前、パーティーにそれじゃあ地味じゃないのか?」


「良いじゃない、別に」


「前まで、王宮で生き残るには見映えを〜とか言っていたくせに」


「……良いの、別にっ!!」


やはり口うるさい男です。あんたがくれたものだろうがと。

確かに、少し小ぶりで地味かもしれませんが、私にとってはとても大事な物なので、出来る事ならいつでも付けていたいのです。


だからこそ、ならばチョーカーくらい派手なのものにと思ってドレッサーを漁っていました。


「………あ」


そしたら、引き出しの奥の、チョーカーを閉まっている小箱の底の方から、無くなったはずの丸い小粒のイヤリングが出てきました。


「こんな所にあったのね……」


でも、今更と言うもの。

そのイヤリングはお気に入りでしたが、私は側のチョーカーだけを手に取って、そっと小箱の蓋を閉めます。

ルビーの装飾のぶら下がったチョーカーを急いで首に付けようとしたのですが、やはり結ぶ時に髪を巻き込んでしまったのです。


「ああああっ、急ぐと何でもダメね」


「………ああもう、貸せよ」


トールは部屋の隅で私の用意を待っていましたが、流石に見ていられないと言う様に側にやってきて、髪を巻き込んで結んでしまったチョーカーをほどきます。


「………」


「………」


何でしょう、今までなら何て事無かった事ですが、妙に緊張してしまいました。

肩を上げ、完全にガチガチになっています。


時に首筋に触れるトールの指に、ビクッとあからさまに肩を上げたりして。

何でドレッサーの前なんだろうか、最悪だと、本気で思いました。私の真っ赤にしている顔が、トールに丸見えじゃないのよ。


「何で真っ赤にしているんだお前」


「う、うるさいっ。何であんたってそう言うとこすぐ気づくのかしらね!!」


「何でって言われても……」


トールは相変わらず、どこか飄々としています。

でも何だか笑いを堪えている様で、私的には悔しいのです。最近何でもトールのペースで、正直悔しい。


私は胸元に手を当て、ゆっくり深呼吸しました。


「ほら、出来たぞ」


トールは私の背中をポンと叩いて、チョーカーを結び終わったのを教えてくれました。


「あ、ありがとう」


「………いいから行くぞ」


トールはいつもより少し畏まった、品のある黒い貴族服とマントを身につけていて、髪は少し整えられています。

王子様と言うよりはやはり騎士と言う出で立ちですが、ここ最近前にもまして凄みの様なものがあり、もう下っ端気質とからかう事はできないかもしれませんね。








大貴族会議の後の、王宮でのパーティーは、今までに無い程盛大でした。


シャンデリアは一際輝き、めったに揃う事の無い国の大貴族たちが揃い、この日のパーティーの為に用意したと言わんばかりの流行できらびやかな貴婦人たちのドレスの波が目映いのです。


私は相変わらず真っ赤なドレスでしたが、細かいガーネットとダイアモンドの装飾が施された、高価そうなドレスを前々から用意させられていたので、それを着ていきます。

髪はいつもの高飛車リボンではなく、右側に流してドレスと同じ様な髪飾りで固定しているという感じです。トールに貰った雫型のイヤリングがワンポイントとなり、今回のドレスには合ってなくもないと思っています。


「マキア嬢、今日は一段とお美しいですね」


「………バロンドット卿……いや、もうエスタ家の当主様ね」


「ははは、ちゃっかり、その椅子をちょうだいしましたよ。いやはや、思惑通り」


「………」


バロンドット卿は相変わらず、正直な人。

正直だけど、本当の所、どう思っているのやら。


パーティー会場から、私たちに送られる視線の数は多い。

特に私とバロンドット卿は、わざと噂になりそうな関係を装っていた所もありますから。


「マキア嬢、いかがでしょう。……もうあのような小芝居をしなくともよいのですが、私と踊って頂けませんか? 小芝居抜きでも、私はあなたとああいった噂の関係になりたいと、今でも思っているのですが……」


「………」


バロンドット卿は前々からこう言った人ですが、最近人生に二度あるらしいモテ期到来なのか何なのか。

いや、紅魔女の頃は一度も無かったので当てになりませんが、言い寄られる事に不慣れな私はどう返せば良いのか困ってしまいます。芝居がかってしまえば、何とでも言えるくせに。


その時スッと、トールが私とバロンドット卿の間に割り込み、バロンドット卿に向かって少々冷めた視線を投げ掛けました。


「……バロンドット卿、マキアの“お仕事”は終わりましたので」


「………」


何とも挑発的な言葉。お前は私のマネージャーか何かですか。

要するに、私とバロンドット卿の前までのやりとりや、私たちのあのムードは、全てお仕事故の事だと。

私はあんぐりしてしまって、奴の背中の服を引っ張って「ちょっと、トール!」と。


「何勝手に言っているのよあんた!!」


「だって、そうだろう?」


トールはほぼ断言。

確かに、私にとってバロンドット卿は、お仕事仲間という感覚の方が強いですし、彼との未来は全く見えませんがもっと言い様があったでしょうに。


「………ふふ、……なるほど、今まで飄々としていたから、甘く見ていましたが………君も参戦と言う事で良いのかね、トール・サガラーム」


「………」


トールはバロンドット卿の言葉に「まあそうですね」と、妙に落ち着いた声音で答えると、じっと私を見ます。

私も、当然トールを見上げ、でもスッと視線を逸らしてしまいます。気恥ずかしいので。


バロンドット卿はそんな私たちを、瞳を細め観察していました。


「………なるほど、これは手強そうだ」


彼はクスリと笑います。


「分かりました。今日は分が悪そうなので引き下がりましょう。でも、私は諦めた訳ではありませんよ。あなたと“お仕事”を一緒にして、余計興味を持ちましたから。エスタ家の当主の夫人の椅子は、いつでもあけておりますよ」


「………ま」


私は思わず、あらまあと。

バロンドット卿って、本当に変わった人ですね。倒れても起き上がると言うか。


彼は私に一礼すると、トールを横目に見てその場を去っていきました。

その様子を、きっと遠くから見ていた貴族たちはザワザワと噂のネタに「破局か奪略愛か」と盛り上がっている様です。何だか頭が痛くなりますね。


「………」


「………」


私はちらりと隣のトールを見て、彼がどういったつもりなのか考えつつも、少し頬を染めてしまいました。

まあ悪い気分ではありませんね。


「おい、マキア」


「え、あ、はい」


盗み見ていた時に声をかけられたので、思わず変な声が出てしまいました。


「…………何だその返事は」


「だ、だってあんたが急に……」


「………」


私は焦って、自分の髪を無駄に撫でたりしながら、ちょっと顔を逸らしました。

トールは相変わらず涼しい顔をしています。


「なあマキア。踊ろうか……」


「………え」


「仕事じゃないぞ」


「………」


トールは片方の手を胸に当て、形式通りのダンスの申し込みをしつつも、不敵に微笑んで私に手を伸ばしています。

私は大きく息を吸った後、緊張した様子で息を吐いて、やはり彼の手に自分の手を乗せるのです。


これは仕事ではない。

思い知らされます。仕事だったら、私はもっとにこやかに、スマートに、緊張も無くダンスをお受けする。


これは仕事ではない。

そしてもう、以前のトールとのお気楽なダンスでもない。子供の頃から共に習ってきた、よく知る練習相手とのダンスでは、もう無いのです。


「………お……踊りましょう、トール」


私もドレスを摘んで、優雅にお辞儀をして、承諾しました。



きっと、私たちをよく知る者たちは、私たちの関係に違和感を感じたんじゃないかしら。

どこかから覗き見ているメディテ卿も、私たちに気がついて声をかけようとしていたユリシスも、会場の外から淡々と見ているレピスたちも。



トールに手をとられ、腰を引かれ、ダンスを踊っていた間に、私は遠い悠久の思いに心を乱します。


もう、何一つ変化を望まなかった私たちの関係だったはずなのに、変化する事の無い関係だと思っていたのに。

何かをきっかけに、関係は、思いは、どんどん予期せぬ方向へと向かっていくのだと知りました。


だけど、それらは決していきなりそうなる訳ではなく、そうなる為の小さな小さな積み上げは確かにあったのです。


あの紅魔女の200年の思いは、今に、これからに繋がっていく。

私たちがこれから、どんな道を歩んでも。


私はまだトールに何も返事をしていないけれど、いつか自分も乗り越えるべきものを乗り越え、素直になっていきたい。

紅魔女の思いは、ただしんしんと降り積もっていった雪の様な、冷たく乱れない誰にも触れられなかった恋心だったけれど、確かにただ一つの真心だったのだから。



私は再び、時間と思いを積み上げていきたいと思うのです。

出来る事なら、この国で、彼と共に。


今度こそそれは、雪のような一色で乱れの無いものではなく、きっと色とりどりの積み木の様な、予期せぬ形を伴うもの。

だけどそれは、雪の上に建てるお城。



何もかもが、私たちのまだ見ぬ未来でした。





第三章、完結いたしました。

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。

今回は更新リズムが乱れたり、長引いてしまったり、駆け足だったりと、反省すべき点が多くありました。申し訳ありませんでした。

トールとマキアがメインだった事もあり色々と悩み滾って書いた章だったかなと思います。個人的に楽しんで書きました……。

何とかここまで終える事ができて、ホッとしております。



今後の予定をお話しさせて頂きます。

活動報告でもご報告いたしましたが、この後3・5章と言う短いデリアフィールド里帰り編+があります。日常的な穏やかな話になるかと思います。

その後余裕があれば、数話程地球編外伝を挟む予定です。


そして、4月の下旬頃、丁度一周年頃から第四章をスタートさせたいなと思います。

第四章はマキアがメインの章となり、勇者が本格的にストーリーに絡んでくるかと思います。

今までで一番長く、多くの魔王クラスが関わってくる、沢山の設定を回収するストーリーの折り返し地点になる章だと思っておりますので、どうか今後ともお付き合いいただければ幸いです。



では、何かございましたら、お気軽にかっぱまでお声かけ下さいませ。


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