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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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49:エスカ、常に最先端を行く司教。

俺はビビッド・エスカ。

精霊たちは俺の事をビビと呼ぶが、基本的に皆俺の事をエスカと呼ぶし、俺もそう名乗る。


本名はトリスタンだが、この名は公に知らされていないと言うか、俺も少し前まで自分の本名を知らなかった。

名前は世界に自分の存在を釘打つものだと言うが、それは自分自身の魂に刻まれた情報の鍵でもある。


うかつに人に告げる事は命取りになるからと、俺は自分の本名を伏せられ、ビビッド・エスカという偽名を与えられたのだ。

正直エスタ家とかぶっているが、個人的には気に入っている。


ちなみに俺は緑の巫女であるぺルセリス様の実の兄でもある。

しかし俺にとって彼女は巫女様以外の何ものでもなく、妹と言うよりかは教国の大事な巫女様と言う思いの方が強い。


俺は最近まで調査団の一員として海外に派遣されていたが、最近ルスキア王国が不穏って言う事で大司教から呼び戻された。






「いったい何事だ!!」


「わ、若様……っ、大変でございます。教国に魔族が……魔族が……。門の結界は突破され、ただいま大聖堂の前まで……っ」


「魔族だあ〜〜??」


教国の、表向きの司教たちは慌てふためいていた。

ルスキア王国と言う“緑の幕”に守られ平和ボケした国民たちと同じ様に、ここの司教たちもこう言った事態に慣れていない。

そもそも魔族と言う存在すら、絵本の中の化け物程度にしか思った事は無かっただろう。


「巫女様は」


「変わらずお部屋にて伏せっておいでです。巫女様がご病気の時に……何と言う……」


「巫女様には護衛を付けろ。……当然、そんな所まで魔族を侵入させるつもりは無いがな」


俺は長く鬱陶しい司教服を引きずって、教国の大聖堂の入口に向かった。


「いよいよ連邦共が動き出したってか……」


俺が夜な夜な個人的に調べていた情報によれば、ルスキア王国の王位争いが最近顕著であり、どうやら第一王子の陣営の背後には連邦の影がちらほらあったらしい。

そちらに何か動きがあって、こう言った魔族の暴動に繋がっているのだろう。

魔族がこの国に入り込んでいるのは随分前から知っていたしな。


「……チッ……あいつら、仕事しろよな……!!」


王宮に勤めている魔王たち。

いったい何の為のその力なんだか。





「大司教、何ぼんやり見物してるんだ……」


「……おお、ビビ。お前さんが早く来てくれないかと、ずっと待っておったのだ」


「このくそじじい。魔族に食われて死んでしまえ」


大聖堂の入口付近には、魔族たちの大きな唸り声が響き、それに怯みながらも白魔術で結界を張っている司教たちの姿がある。

それを結界の内部からただ眺めているのが大司教だ。この大司教は外面だけは立派だが、こういった騒動や血なまぐさい現場が意外と好きな危ないじいさん。大司教も遥か昔、海外の調査団を経ているから、分からなくも無いし俺も人の事を言えないが。


「おい!! 素人は退け退け!! 俺が全部まとめて一掃してくれる」


「若様っ!!」


「若様だ…っ」


司教たちは俺の姿を見て、どこか安心した様な、やはり不安な様な、良く分からない表情をしている。

彼らはもう保ちそうに無かった結界を解いて、俺の背後に回った。


魔族たちは一斉に大聖堂に突入する。


「止まれクソ魔族共!!!」


俺が声を荒げそう叫ぶと、魔族たちは一斉にピタリと止まって、こちらを伺った。

俺の声から、大きな魔力の波動を感じ取ったのだろう。


流石に魔族と言うだけあり、そう言うのに敏感だ。


「相変わらず醜い奴らだ全く……。神聖な教国にきたねえ足で踏み込むんじゃねえぞ!! おい、責任者出てこいや!!」


「せ、責任者って……」


背後で司教たちが不安そうにしている。

魔族たちは異国の武器をもっている奴や、剣や斧を手にしている奴など様々居たが、皆揃いも揃って醜い茶色の肌をして、瞳は血走ったギョロ目。血に飢えた牙がチラチラと見える。


1000年前の魔族はこうではなかった。

もっと種があり、それぞれの生物としての生態と営み、意志があった。


今はどいつもこいつも、人間の血と肉を求め、“あの男”の言いなりだ。

体を作り替えられ、操作され、理性の欠片も無いただの獣。


だから俺は魔族が嫌いだ。だから魔族を殺すのだ。

奴らは既に死んでいるのだから。


「おやおや……司教ともあろうお方が何と言う口の聞き方……。教国の品格を疑うと言うものですよ……」


「………第一王子の陣営の者か? カッコいいマントと仮面をつけているなおい」


仮面を付けた男が一人、前に出て来た。

見た所魔術師だろう。多分連邦の手の者だ。


「司教様が殺生など出来まい。そもそもそのような力は無いでしょう。……大人しく教国を開け渡してもらいましょうか。助けの兵を待っても無駄です……外にも多くの魔族が居るのですから……」


「………」


仮面の男は連邦の魔導銃を持っていた。

何度も見てきたその銃に、俺は皮肉な笑みが溢れる。


「ハッ……余裕ぶってやがるが、こんな事して何になる。教国を乗っ取れば何とかなると思っているのか?」


「……知っている。今巫女様は病に伏せっておられるのだろう。お前たちもこのような状況が長引くのは本意ではあるまい。……良いからさっさと……っ」


男は言い終わる前に、俺に向かって銃を撃った。

俺はあえてそれを避けず、銃弾は俺の頬をかすっていった。司教たちが「若様っ!!」とあちこちで声を上げている。


「……ほほう、流石連邦の魔導銃。だが駄目だ……使ってる奴がぜんっぜん駄目だな!!」


頬から流れる血を拭いつつ、ギザギザの歯をちらつかせニヤリと微笑む。

俺にとっては普通に笑っているだけなのだが、これが他人には悪魔の微笑みに見えるらしい。


「俺が使い方を教えてやろう。と言っても、それが分かる頃には、お前たちは死んでるんだけどなああああ!!! あーーーっはははは!!! ひゃはははっ!!!」


「……なっ」


仮面の男は僅かに怯み、魔族たちに何かの合図を送ろうとした。

魔族たちの首には、連邦の首輪がはめられている。


奴らに従う以外何も無い犬コロ共が!!


「し……っ、司教のくせに」


「あーーーん??? 俺は最初の司教であり、常に最先端を行く司教な訳よ!! 司教が殺しをしないなんてどこの妄想だよタコがっ!! 心して俺に向かってくるが良い連邦の犬コロ共!!!」


魔法陣を宙に一気に形成し、辺りに魔力の波動が円を描いて広がっていく。

バタバタとなびく司教服の飾りが鬱陶しいったらない。いつものカッコいい防弾チョッキ姿になりたいぜ。

戦闘開始の合図として、四角い司教の帽子を取って投げ捨てた。


「大四方精霊ブラクタータ……第四戒召喚!!」


さて、こんな教国でバズーカぶっ放す訳にもいかないが、ブラクタータは無数の種類の重火器や武器に召喚可能な優れた精霊だ。

連邦のものよりずっと優れた小型の銃として召喚し、それを手にしたまま一瞬で相手の懐に入り込む。


「……なっ」


「遅いぞっ!!」


そのまま仮面の男に攻撃の隙を与える事無く顎の下からアッパー。魔族たちが一斉に襲いかかって来たが、その仮面の男を魔族の鋭い爪の方へ放り投げ、それを踏み台に上へ飛ぶ。


「ははっ」


空中で体勢を整え、一気に銃を撃つ。その弾丸は魔族の脳天をぶち抜き、時間差で倒れる魔族を蹴飛ばし違う魔族の群れを薙ぎ倒す。


「ざまあみやがれ犬野郎共!!」


俺はタータに命令し、サバイバルナイフを召喚した。片手に銃を持ち、片手にナイフ。そのまま魔族たちの群れに入り込み、次々に討ち取っていく。奴らは俺の動きに惑わされているうちにぽっくり死んでいる訳だ。


神聖な教国が魔族の血で染まっていくが、俺は笑っていた。

俺の武器は魔法や精霊の力だけでは無い。俺自身の身体能力をフルで使って敵を蹴散らす。それがスタンダードな戦術。

敵一匹一匹を順番に狩っていくのだ。


黒魔王や白賢者なんかの魔法は大げさすぎるんだ。紅魔女は良く分からんが。

何かちょっと遠い所から一気にドオオオオオンとかゴオオオオンとか、そんな感じの大げさなインパクト。


正直効率が悪いだろ。

一瞬の爽快感を得られるかもしれないが、俺は肉体に直に感じる近距離戦の方が好きだ。

だってその方が、圧倒的に敵をむしり取っている感じがするだろう!!




「ほらテメーが最後だよ!!」


最後の一匹の喉元を掻き斬った。

ざっと40匹から50匹は居た魔族たちが、ほんの15秒ほどで地に伏せていた。

真っ赤な血溜まりの中、俺は奴らの遺体を踏みつつ戻る。


頭からかぶった返り血を気にする事も無く、口笛を吹きながら。

こう言った状況に慣れていない司教たちは震え上がり、いったい何が起こったのか分からずに目を伏せている。


「……ビビ、少しやり過ぎだな……。司教らしくもっと上品に出来んかったのか……」


「はあ? 阿呆かくそじじい。殺しに上品もクソもあるかってんだ」


「………」


俺が真っ赤に染まった司教服をはたいていたら、大司教がそんな風に皮肉を言って来た。

そもそもこの大聖堂をぶっ壊す戦闘に持込まなかっただけありがたく思えって話だ。


しかしその時、大聖堂が揺れるほどの衝撃と、大きな爆音が響く。


「……!?」


大聖堂の外からだ。

外の魔族たちが何かしでかしたのだろうか。


俺は急いで大聖堂を出て、教国の敷地内で何が起こっているのか確かめようとした。



「………は?」


「あ、お義兄さん……その様子では魔族が大聖堂にも?」


外にも大勢の魔族が居たはずだが、奴らは一匹残らず第七戒の束縛の精霊魔法で捕えていた。

そう……白魔術の祖と言われている白賢者の生まれ変わりであり、ルスキア王国の王子であり、教国の巫女様の花婿に決まったあの男の力によって。


魔族を殺してはいないようだった。ただ捕え、身動き出来ない様にしているだけ。その上で強制的に眠らせている。

あちこち地面の抉れた様な場所があるから、きっと地属性の精霊でも使って魔族たちの足場を崩したのだろう。


ちゃっかり大聖堂には風の精霊の結界も張っている。

ぬかり無い奴だ。


奴自身は一滴の血も被っていない。


「……お前もあのくらいスマートにやってのけたら良いのにのお。婿殿は流石と言うか……」


「う、うっさいじじい……っ」


そもそも、魔族に情けなど必要ない。

あいつらには感情もクソも無いのだから。


「おい、白賢者……。魔族をどうする気だ。殺さないで捕えておくつもりなのか……っ」


「………いや、そりゃあ僕だって……かつては魔族を多く手にかけてきましたから、何とも言えませんが。ただ……今はトール君が居るから、彼に処置を決めて欲しいと思って……」


「………黒魔王に?」


「ええ。………魔族は彼の国の住人です。どんなに時が経って……どんなに姿が変わっても。きっと、トール君もそう思っていますよ……」


「………」



良く分からん。


色々と気に食わない事があったが、俺は特に突っ込む事も無く、フンとそっぽ向くと再び大聖堂の方へ向かった。


「あの、お義兄さん……ペルセリスは……っ」


「だからお義兄さんって呼ぶんじゃねーよ!!………巫女様は部屋で休んでおられる。あんまり騒がしく……」


俺が言葉を言い終わらないうちに、白賢者は俺の横を急いで通りすぎた。すぐにでも巫女様の元へと行きたいと言う様に。


「……はんっ」


おい、人の話は最後まで聞いていけ。

どいつもこいつも、全く。



俺は横目で王都の夜空を見上げた。

鈍く濁った赤が混ざった、その空の色。


魔族たちの荒れ狂う声が聞こえる。



黒魔王、お前が何をするのか分からないが、さっさと魔族をどうにかしやがれ。

お前のものだと言うならな。


でなければ俺が、一匹残らず狩り尽くすぞ。

今の魔族に言葉は通じない。俺の仲間も随分奴らにやられたんだ。


白賢者の奴が捕えたままの魔族たちがそこらに転がっているのを見て、俺は舌打ちをした。


「って……あいつ放置して行きやがったっ!!……俺に見張れってか!?」



ふざけやがって。

後でぶっ殺してやる。



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