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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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48:マキア、王都の夜明け前。


私はあの日、黒魔王を諦めてから、二度の転生後こんな事が起きるとは思っていませんでした。

いったいどうして、こんな事があり得ると言うのでしょう。



「……トール……っ、やめて…………っ、やめろっつってんだろうが!!!」


「いてててててててっ!!」


私はいきなり唇を奪われ頭が真っ白になりそうだったけれど、そこはトールの横腹を思いきりつねって、奴が怯んだうちに腹パンチ。


ダダダダッっと部屋の隅っこへ行ってガタガタブルブル小さくなる私。

口元を手で押さえ、パニック状態で目を回している。


この男、絶対頭おかしい。いきなりキスだなんてふざけてる。

前々からあれだとは思っていたけれど、これほどだったとは!!


「いや……マキア、お前がそういう反応をする事は分かっていたぜ……。良いパンチだった」


「そ、そういう問題じゃないでしょう!! ああああ、あんたいったい何のつもりなのよ!!」


「どうもこうも、俺の気持ちはさっき伝えたはずだが」


「…………っ」


トールは私の渾身のパンチに前屈みになっていましたが、だんだんと元通りになっていって、じっと私を見ています。

私はどうにも彼を直視出来ず、でもそれも負けた様で嫌だったので、とにかくトールを睨みました。意味も無く。


「こ……怖……」


「仕方が無いでしょう!!」


そしてやはり、我慢出来なくなって壁際の壁の方を向いて、胸元に手を持っていきます。半端じゃない鼓動の高鳴りです。

お恥ずかしい事に、私はこういった経験には大変疎いと言いますか、紅魔女の時代に恋人は愚か、親しい男性も全く居ませんでしたから。関わりのあった男性自体、黒魔王(既婚者)白賢者(既婚者)と言った具合で……。


「おいマキア……そんな格好で、ずっと部屋の隅っこに居るつもりか。風邪をひくぞ」


「あ、あんたがそこから退いてくれたら、私だってベットに戻るわよ!!」


「……まあそう言うなよ。俺だって疲れているんだ。もうこのまま寝かせてくれよ……」


「ふざけんじゃないわよ!! あんたなんてそこのソファで寝れば良いでしょう!!」


「…………」


「……あ」


言った後に後悔しました。


「あれ……俺、この部屋に居て良いんだな」


トールの勝ち誇った様な顔。

何だこの男……こんな奴だったでしょうか??


やはり、さっきの洗脳魔術にやられてるんじゃ……。


「嘘だ嘘。俺はもう自分の部屋に帰るよ。……お前も疲れているだろうから、ゆっくり休むと良い」


「………」


トールはベットから降りると、いつもの様に庭に出て、背伸びをして自室へ帰ろうとしました。


「ま、待って……トール……っ」


私は彼に帰れと言っておきながら、何故か庭に出て、彼を引き止めてしまいます。

何故でしょう……一つ、聞いておきたい事があったのです。


「……?」


「ト、トール……あんた………その……っ」


私がガラにも無く、頬を染め視線を逸らしつつ、トールにある事を聞こうとした時でした。


王都中に響く鐘の音。

何事かと思ってトールと顔を見合わせ、庭から下界を見下ろすと、あちこちで火が回り煙が上っている、見た事も無い王都の姿が。


「……ど、どうして……」


「いったいどういう事だ。まさか、第一王子の陣営がこうも早く……」


トールは王都を見下ろし、表情を引き締め、魔法で周囲にモニターを出します。

王都の様子を確認しているのです。


「……魔族だ」


「……何ですって?」


「魔族が王都で暴れているんだ……」


私はそのモニターを覗き込み、確認します。

きっと、今まで紛れ込んでいた多くの魔族が、何かをきっかけに暴れ始めたのです。


何がきっかけなのか……私たちはもう気がついています。


「とにかく、レイモンド卿の所へ行って、状況を確認しなければ……」


「そ、そうね……」


何と言う眠れない夜。

さっきの事で、すっかり目は覚めていましたが、こうなるとまだまだ体を休める事は出来ないでしょう。



鐘の音と、闇夜の登る様な炎の赤。

ついに敵国の魔の手が、こういった形でルスキアの王都を襲ったのです。









「レイモンド卿、王都に魔族が!!」


「………」


レイモンド卿の部屋へ行くと、レイモンド卿は窓から下界の王都の様子を見下ろしていました。


「……いよいよ、第一王子の陣営が全てを連邦に投げ出したと言っても良い。城の前にも多くの魔族がやってきて、我が国の兵と戦っている。こうやって国内に入られると、緑の幕は何の役にも立たないからな……。正王妃と宰相はこの騒ぎに乗じて姿をくらましている。……とは言え、後は追っているがね。第一王子を救出すれば、こうなる事は分かっていたからな」


どこからか爆音のようなものが聞こえました。

王都の混乱は相当なものの様です。


「魔族たちは教国に乗り込み、教国を乗っ取ろうとしているらしい。あちらにはユリシス殿下が向かい、最近帰って来た若様もいらっしゃる。緑の巫女が伏せていらっしゃる時にこのような事になってしまうとは……」


「教国が攻められているのですか?」


「ああ。……奴らは教国を盾にこちらに要求をするつもりなのだろう……」


トールは居ても経っても居られないと言う様子でした。

彼は元々、魔族を束ねていた王です。複雑に違いありません。


「……レイモンド卿。この魔族たちの件……俺に任せてくれませんか」


「……と、言うと?」


「俺が、奴らを片付けます……一人残らず」


私はぴくりと反応して、彼を見上げました。


待って、トール。

あんたは魔族たちを、皆始末すると言うの?


「トール……あんた……」


「………」


トールはいったい何を考えているのでしょう。

ただ彼は、戸惑いも迷いもまったく感じさせない瞳をしていて、窓の向こう側の事態に神経を研ぎすませている様です。


「……分かった。トール君……君には考えがある様だし、魔族に関しては君の方がよほど分かっていると言うもの。どのくらい時間がかかるかね」


「………魔導要塞を展開するのに少し時間がかかりますが、展開してしまえばすぐ……終わります」


「魔導要塞……? どういった魔導要塞を造ると言うのかね。以前、巨兵を撃退した、あのようなものを王都の上空に造られても、魔族どころかこの国が壊滅しかねないが」


「……幻影100%の、別空間です。魔族だけを捕え、閉じ込めます。……その魔導要塞の名は……“最北の理想郷アイズモア”……」


「…………え」


私は思わず、戸惑いの視線を彼に向けてしまいました。

だってアイズモアは、かつて黒魔王が北の大陸に築いた魔族の理想郷。


私とトールが初めて出会った、あの雪山の国でもあります。

確かにあの国も魔導要塞によって創られたものでしたが、いったいどうしようと言うのでしょう。









「トール、どういう事なの……っ、アイズモアって……」


「………」


トールは王宮の一番上の空中庭園に出て、下界を見渡せる場所に立ちました。

あちこちから煙が上がっていて、争いの声や悲鳴が聞こえます。

ルスキアの兵士たちが頑張っていますが、民が見た事も無い魔族に怯えているのは想像に難くありません。


「……俺は旧アイズモアの設計図はあるが、幻影100%のものはまだ構築した事が無い。でも……鮮明にあの頃を思い出したんだ……今なら造れるさ」


「あんた、魔族をどうするつもりなの? だって魔族は……あんたがあんなに一生懸命に、守った存在じゃない……」


「………そうだ。だから、取り戻す。連邦に改造され、まるでただの化け物の様に成り果ててしまっているんだ……。エゴかもしれないが、また俺が……魔族を……」


彼はそう言って、グッと表情を引き締めると、何故かマントを取り外し、上着を脱いでしまいました。

謎の行動です。


「ちょっと……何やってんのあんた」


「もっと寒さを感じないと……」


「……意味不明ね」


この寒空の下、トールはアイズモアのあったあの北の大陸を思い出す為に、わざわざ上着を脱いでいるのです。

私はドレス一枚だったので、寒くて両手で体をさすっているのに。


「……ほら…。お前、羽織っとけよ」


「………?」


トールは、厚手の騎士団の上着を私の方に投げました。

彼は飄々としていましたが、何とも憎い奴です。


「……な、なによ……。まあ、寒いから……ありがたいっちゃありがたいんだけど」


「案外温かいぞ」


「……ふん。ま、そこそこね」


私は寒かったので、トールの上着を羽織りました。さっきまでトールが着ていたのですから、当然とても温かいのですが。

何だかな……トールはもともと、なんだかんだ優しい奴でしたが、先ほどの後では、この優しさが複雑で切なく思います。


私は彼の上着を少し握りしめました。


「………グリミンド。アイズモアの設計図を幻影ベースで作り替えろ。対象は魔族だけに設定」


「幻影100%でよろしいので?」


「ああ……奴らを閉じ込めるのは、全く別の空間だ。俺の記憶の世界と言っても良い。アイズモアと魔族の繋がりは歴史上深い。そういった情報を利用するんだ」


「……仰せのままに、黒魔王様」


グリミンドは幻影ベースだとリスクが少ないのでどこか不満げでしたが、トールに横目で睨まれながらも一生懸命言われた仕事をしていました。

既に作ってしまっている魔導要塞ですら、構築にはそれなりの時間がかかると言うのに、いくらモデルがあると言っても最初から創りだすのだから、あとどれほど時間がかかるでしょうか。


それでも、この騒動を一気に解決する策は、やはりトールの魔導要塞しか無いのでしょう。



「………」


私は空を見上げ、一匹の飛行型の魔族がトールに向かって何やら攻撃をしかけようとしているのを見つけました。

トールは今、他の事に手を裂く事は出来ません。


「……全く、世話が焼けるわね」


私は親指を噛んで、その血をそこらにあった石ころに付けました。

そして、その石ころを……投げる!!



ドオオオオン!!!



「な、何だ。爆撃か!?」


「……敵を一匹撃退したのよ。私はあんたと違って、魔族にも甘く無いんだから。あんたはさっさと魔導要塞でも構築しなさいよ。その間は……私に任せなさい」


「………マキア」


私は髪を抜いて、それに血を伝わせます。

するとその髪は長く細いメタリックな刃となって、あちこちに枝を伸ばしていきます。

それは籠の様に網目を作って、私たちを囲いました。


敵はこの中に入って来れません。

攻撃と防御を兼ね備えた、紅薔薇のつぼみなのです。



丁度その時、どこからかとても大きな爆音が聞こえました。

何事かと思ったら、丁度教国の方。教国の方から一際大きな煙が立ち上っています。


「………教国が、攻められているのね」


「少し気になるな」


確か、あそこにはユリシスが行っています。エスカも居るはずです。

あの二人が居て、何か不備があるとも思いませんが、どうでしょう……。


「エスカが暴れすぎて、教国崩壊なんて、やめて欲しいわね……」


「あり得るな」


とにかく私たちは、ここで一刻も早く魔導要塞を構築しなければなりません。

そして、何もかもが終わってしまえば、この国はまた新しい意志を持った、新しい形となっているのでしょう。



新しいこの国の夜明けを、私たちは目前にしていました。



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