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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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38:マキア、信頼していると言う。


ポタポタと、床に十分血が流れ落ちた時、私は瞳を細め回りを見渡しました。

誰もが、私の豹変っぷりに呆気にとられ、動けずにいます。


王妃は腰を抜かし、座り込んだまま私を見上げていました。

まるで恐ろしいものでも見たかの様。


「正王妃……あなたは自分の過ちに、いくつ気がついているのかしら」


「………え……は?」


アダルジーザ様は眉を寄せ、戸惑いの表情を浮かべました。


「あなたはいったい何を望んで、こんな事をしたのかしら。第一王子が次期国王になるため? 自分のため? 一族のためかしら?」


私は自分の髪の毛を一本抜くと、それを地面に落ちた血だまりの上へ落とします。

この空間の中で、最も情報量を持った物質は私自身。

私自身、消費しても問題ないものは髪の毛。


こいつらには、私の髪の毛一本で充分でしょう。


「正王妃、あなたの過ちはいくつもあるけれどね。我が子である第一王子の気持ちも考えないで、王位争いを激化させたことは愚かだったわね。こっちから見たら、あなたたち自滅でもしたいのかと思うわよ」


「……なっ……無礼な……!!」


「無礼はどっちよ。ねえ、私の事、無能だとかなんとか言ってくれたわよねえ。攻撃魔術は使え無いのなんのって……。それがあなたの、一番の過ちよね」


「…………」


「ふふ……なら見せてあげるわよ。私の魔法……私の力を…」


私は指をパチンと鳴らしました。

それを合図に、地面の血はまるで細長い糸のような、しかしメタリックな針金のような、長い長い真っ赤なイバラとなって、周囲に広がっていきました。それは鋭い刃物で、周囲にいた仮面の男たちの、その仮面を弾き飛ばし、衣服に絡み付き壁に突き刺さります。


鋭い赤い、うねった刃物が、部屋中のあちこちの、あらゆるものを裂き散らしていきました。

その様子は、誰もが息を飲む、たった一瞬の出来事。


気がつけば、部屋のソファや花瓶は乱れなく裂けていたと言う話。


「お、お前……いったい何を……っ!!」


「おっと、動かない方が良いわよ!! その真っ赤なイバラに少しでも触れてごらんなさい。あなたたちは一瞬で真っ二つよ!! あははははは!!」


高笑いが止められない私。

そんな私に、バロンドット卿は目配せをします。


時間が来たのです。予定では、今頃トールやユリシスが第一王子を救出したはず。

こちらの騒ぎで、いっそう向こうの警護が薄くなっていれば良いのですが。


「さーて、正王妃様。言っておきますけどね、私は自分の力を見せびらかしたまでで、あなたには指一本触れちゃいないわ。そこの所、忘れないでよね。それって私が、まだまだ本気ではないって事よ!」


私はそう言い捨て、カツカツと彼女から遠ざかり部屋を出て行こうとすると、正王妃は甲高い声を上げました。


「お、お待ちなさいっ!! お前、こんな事しておいて、ただですむと思って……」


「それはこっちの台詞よ。あなた、まだ分かっていない様ね」


去り際にくるりと王妃の方を向いて、私は口元を緩めます。


「あなたたちは誤ったのよ。私の力をね。……それが、あなたたちの崩壊を意味しているってことに、まだ気がついていないのね」


「………?」


「まあいいわ。そのうち、あなたたちも気がつくでしょうよ」


私は意味深な言葉を残し、その場を駆け足で去っていきました。

バロンドット卿が、私を追う風を装って、付いてきます。


王妃は何も言えず、動く事も出来ず、ただイバラに囲まれ、座り込んでいました。



そのうちに、王妃は気がつくでしょう。

大切なものは全て、自分で遠ざけてしまったと言う事を。


この血のイバラが、消えてなくなる頃には。









「あははははは、爽快爽快。やっと自分の力を惜しみなく発揮する事が出来るの、ね!!」


爆音が響いたのは、私たちを追いかけてくる男たちに向かって、私の血を付けたドアノブを投げたからです。

それはもうただのドアノブではありません。ただの手榴弾でした。


爆発の威力は、それなりに制限していますが、まあ私たちが逃げる分には丁度良いでしょう。

剣を向けてくる者がいれば、先ほどの血のイバラで自動防御。


「……ふふ」


私に死角はありません。この血のイバラは、かつて黒魔王も相当苦労したものです。

何せ媒体が私自身の髪の毛ですから。私の細胞を持つただ一本の髪の毛が、どのようなものより使い勝手の良い剣にも盾にもなるのです。


私は長い廊下の向こう側から、次々とやってくる仮面男たちが見えます。

今度は壁に掛けられていたオブジェっぽいものをもぎ取って、血を垂らしました。


バロンドット卿はさっきから、私を不思議そうな目で見ています。


「マキア嬢……いったい何を」


「良いから見ておいてちょうだい」


私はそのオブジェを、再び兵士たちの方に投げました。

そして自分はバロンドット卿を引っ張って、壁の影に隠れます。


はい、ドーン!!


「やったか……」


私は悪い笑みを浮かべながら、壁から顔を覗かせます。

しかし、バロンドット卿に「危ない!!」と引き戻されました。


直後、ひょろひょろな炎の玉が私の方へ向かって放たれていました。

たとえ直撃しても大した事は無いでしょうが、一応バロンドット卿にお礼を言います。


「あ、ありがとうバロンドット様」


「いいえ……あなたをお守り出来るならば。しかしお気をつけ下さい。一応彼らはエスタ家の魔術師です」


「…………」


彼は相変わらず紳士です。


私たちは煙に乗じて、第一王子陣営の、迷路のような回廊を抜けていきました。

ここの事をよく知るバロンドット卿が居るので、難なく抜けていく事が出来ます。


彼はとある部屋に入ると、壁に掛けられた大きな絵画を魔法で動かし、その裏にある隠し通路を開きました。


「………?」


「マキア嬢……。これは、エスタ家の者と国王のみが知る、王宮の隠し通路です。かつてはこの通路を使って、エスタ家の魔術師たちは国王の密命を受けていたと言います」


「……ここを通っていくのね」


私は特に意味があって、そう呟いた訳ではありません。

しかし、バロンドット卿は少し困った様に微笑みました。


「私の事が、信じられませんか……?」


「……? い、いえ……そう言う訳で、言ったつもりではなかったのよ」


「いや……仕方の無い事です。私は元々、ここ第一王子陣営の人間だったのだから。あなたをわざとここへ導いているのかもしれない……」


「………」


さて、バロンドット卿の本心がどこにあったのか分かりませんが、彼はとても複雑そうな表情をしています。

しかしまあ、先にそう言う事を言うのは、ずるいと言うかちゃっかりというか。

私は思わず吹き出してしまいました。そして、自らその通路へと入ります。


「何言っているのよ。私を誰だと思っているの。たとえ、この通路の向こう側に罠があったとしても、私が危険に陥る事はまず無いわ。ええ………あなたを信頼してここを通った方が、楽と言うものよ」


どうせ何かあった所で、今の私は魔術を使う事を許されているのだから。


「………マキア嬢。……私を信頼してくれると?」


「……? ええ。私はあなたを信頼していますとも。ここまで色々な事が上手く行ったんだもの。さっきも、私を助けてくれたしね」


「…………マキア嬢」


バロンドット卿は、見た事の無い程嬉しそうな表情をしました。

彼の珍しい表情に、私は思わず驚いてしまいます。


彼は私の手をバッと取ります。


「マキア嬢!! も、もう一度お願いします!!」


「な、何が……?」


「さっきの言葉です!!」


「さっきの言葉? え、何? 信頼のくだり?」


「そうですそうです!!」


無邪気にそう言う彼の勢いに押されてしまいました。良い歳して瞳がキラキラしていて、まるで少年の様。

彼はいったい何を喜んでいるのでしょう。


いそいでこの場を脱出しないといけないのに、何と言う足止め。


「あ……えっと……。私はあなたを信頼している……わ」


「本当ですか!?」


「……ええ」


私はクスクスと笑って、彼をちゃんと見上げました。

こんな言葉一つで、喜ぶ人だとは思わなかった。


「あなたを信頼しているわ、バロンドット卿……」


彼は何に感動していたのか、ジーンとして目頭を押さえていました。

大げさな反応です。


「いえ……すみません。私はあなたに、きっと信用されていないだろうと思っていましたから。たとえあなたが私の妻になって下さらなくても、この言葉だけで十分、励みになります」


「ま、またまた……大げさなんだから」


「本音です」


私たちは隠し通路を通りながら、そんな会話をしました。

バロンドット卿の妙な正直さには、敵わない部分があるなと、つくづく思ったものです。






通路を抜け、出た場所は、なんと王宮の礼拝堂でした。

これはどこの陣営の範囲にも入っていない、ある意味独立した空間ですが、こういった通路が繋がっていたとは驚きです。


「マキちゃん!!」


そこには既に、私たちを待っていたユリが。

しかしどこか様子がおかしいのです。もしや、アルフレード王子の救出が失敗したのでしょうか。


「マキちゃん……大変な事になったんだ」


「ど、どうしたの。まさか、救出に失敗したの……?」


「いや、アルフレード兄上の救出は成功したと言える。だけど、トール君が……っ」


「……トール……? いったいどうしたって言うの!?」



ユリシスの表情は、私の不安を駆り立てるものでした。


また明日、更新いたします。

よろしくお願いします。

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