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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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08:トール、きみはペット。


俺はトール。

親方様につれてこられたオディリール家。

そこのお嬢様は、何とマキだった。



「ねえこれも食べなさいよ。ねえこれもおいしいわよ」


「わーかったから。お前いい加減にしろって」


マキ、お前がいままでどんないい子ちゃんぶりっこしていたかはだいたい想像がつくが、ほうら見ろ。

周りが俺たちに注目しまくってるぞ。ヒソヒソ話して、困惑してる。お前のお友達も何かポカーンってしてる。


御館様なんて目が点だ。どうしよう、どう言い訳すればいいんだ。


それにしてもこの女、さっきから俺にやたらと飯を食わせたがる。

久々に実家に帰ったら家族がやたらとおいしいものを食べさせたがる図、みたいになってる!!


マキよ、お前ちょっと落ち着きたまえ。


「ねえお父様、ありがとうありがとう!! こんなに素晴らしい誕生日って無いわ!!」


「あ、ああ………良かった。絶対喜ぶって思ってたんだけど………どこかで会った事があるのかい?」


マキが子供らしくぴょんぴょん飛び跳ねながら、御館様に抱きついていた。

しかしさっきの再会リアクションで、流石の御館様だって気がつく。俺とマキが知り合いだって。

いいや、正確に言えばこの姿で会った事は無いから初対面だが。前世の知り合いだなんて、子供の言った事だとしても若干引かれるぞ。


「んー知っているけれど〜知らない子。いいのよ、私が気に入ったんだから。ねえ、あの子私のお供になるのでしょう? ずっとここに居るのでしょう?」


「あ、ああそうさ。お前がお友達が欲しいって言っていたから。仲良くしなさい」


「うん!」


おお、マキの奴子供ってことをいい事に揉み消す気だぞ。流石、横暴な奴め。嘘や揉み消しは専売特許だもんな。


この時俺は、マキの持ってきた大量の料理を、大量の視線の中黙々と食べていた。


お、貴婦人が俺をチラチラ見て噂話しているぜ。

“う”と“ね”が聞こえたから、きっとどこぞの馬の骨とか言ってるんだろうけど。


でも、御館様が用意してくれた服はちゃんと着こなしているはずだ。二前世前はこんな服、腐るほど着てたんだから。


「ねえ、あんた今なんて名前なの?」


「………トール・サガラームだ」


「わ、凄い。前の名前とそっくり。私もマキアよ。マキア・オディリール。…………ふーん、でもあんた、相変わらず名前との相性が悪いわね。ほぼハーフマッチよ。似たような名前が続くならその名前から逃れられないと言う事だろうけど。………だからずっと運が悪いのね」


俺はマキの言葉で、黙々と料理を口に運んでいた手を止めた。


「……すっかり忘れてたぜ。お前、名前命名魔女だったな、そう言えば」


「そう。私もこっちに戻って来て思い出したわ。名前さえ分かれば、私はどんな奴の魔力数値マギベクトルでも“見える”もの。……でもあんた、やっぱり凄いよ。私より全然多いんだもん、あんたの魔力数値マギベクトル


「へえ、前よりどのくらい増えてる?」


「約5割増えてるわ」


「………」


俺は前の魔力数値を覚えている。

あの時代ならきっと最高レベルの数値だった。それの5割増しとは、恐れ入る。


この世界では、人は皆生まれ持った限界魔力数値マギベクトルを、どう頑張っても増やす事は出来ない。多少の上下はあるが、本当に微々たるものだ。このように生まれ変わる事、これが、あの勇者が言った「魔力を跳ね上げる方法」なんだろう。


「ま、だから何って感じだがな。今のままじゃ、宝の持ち腐れだよ」


「良いんじゃない、ただ持ってるだけでも。……使わない方がきっと奴も、私たちを見つけられないわ」


「……」


奴…か。


俺は今まで誰とも話す事の出来なかった、あの日の懺悔同好会室での事を、今ここで話したかった。

そうだ、こういう話は結局、お前たちとしか出来なかったんだから。


でも、俺は常識人。それに雇われの身だ。


「その話はおいおいな。ここで物騒な事を話していたら、きっとすっごく怪しまれる。俺はお前の御付きとして雇われたんだ、語る時間は一杯あるさ」


「………うん。うん!!」


マキは猫目をキラキラさせて、大きく頷いた。

こいつ、こんなに素直な奴だったかな。

前世の地球ではあんなに枯れ腐った女だったくせに、子供の姿と相まってお前があの恐怖の紅魔女だった事なんて、もはや無かった事の様だ。


ちょっと可愛いぞ、やっと主人の帰って来たペットみたいで。





マキの七歳の誕生日のメインケーキには驚いた。

何か良く分からないけれど、日本の某オネエ系タレントにそっくりなパティシエが自信ありげに持って来たそれは、真っ白なクリームとツヤツヤの果物を沢山乗せた、三段重ねのデコレーションケーキ。

てっぺんに、飴細工で作った見事なリンゴの樹がたっている。

お客たちもこのケーキの出来にはしきりに唸っていた。


「うわあ、凄い凄い!! 素敵よバルナバ!!」


「マキア様、前にリンゴの樹を見て丸ごとケーキにしたいって言っていたでしょう? あたしが作ってみたわ」


星を撃ち落とす威力のありそうな、おかまさんのウインクだ。対するマキアは相変わらずテンションが高い。なんというかちょっと舞い上がっているな。



実際そのケーキはとてもおいしくて、メイデーアに転生してきてこのような滑らかな生クリームを食べたのは初めてだった。ちょっと目頭が熱いな。

やはり人間は美味い食べ物を食べた時、幸せを感じる生き物だ。

ああ、生きてるって素晴らしい。


甘いものが好きだった由利は、今頃どこで何をしているだろうか。

こっちに転生している事は間違いないと思うが、幸運の加護を受けているあいつの事だ。きっとまた良い家庭に生まれ幸せにやっているだろう。


というか、マキよ。

お前の腹に限界は無いのかい? さっきからものすっごい食べてるんだけど。


「おいおい、俺の側で食べるのやめてくんない? 目立って仕方が無いんだけど」


「何言ってんのよ!! ぱーっとやりましょうよぱーっと!!」


駄目だこいつ。おやじか。

もう完全に他人の目なんて気にしていない。


御館様、ごめんなさい。

俺を拾ってくれた優しいあんたを失望させるかもしれない。だって俺のせいで、あんたの可愛い娘は今までの猫っ被りを捨てて、暴飲暴食、横暴検定一級の暴の字マキを、完全復活させちまったかもしれないんだから。


まあでも、いいか。

なるようになるさ。


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