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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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32:トール、ここには若妻推奨派しか居ない。



「どういう事ですかレイモンド卿!! エスタ家との縁談をマキアに勧めるなんて!!」


文句を言いながら副王室の扉を開くと、その部屋の長椅子にはなんとルルー王女とユリシスが座っている。


「………え」


これは予想外。


「まあトール様。もうお体は良いのですね……っ。良かった……」


ルルー王女はホッとした様子で、俺を見上げた。

しかし俺の後ろのマキアを見ると、どこか切なげに笑う。


「やあトール君。やっぱり君は食いついてくるね」


レイモンド卿が笑顔で「さあさあこっちへ」と、いかにもこのタイミングで俺らが来るのを分かっていた様に迎える。

非常に腹立たしい。


「顧問魔術師たちに揃ってもらったのはありがたい。少し困った事になった。………ルルー王女にも聞いてもらいたい」


「…………」


何だかいつもと違う空気だ。

レイモンド卿は俺とマキアが椅子に座ると、さっそく話し始めた。


「第一王子アルフレード殿下が自分の母と宰相に、反乱の計画をやめるよう言ったそうだ。自分は王にはならないと。……しかしそれを言ったところ、アルフレード殿下は陣営の怒りに触れた様で、今では陣営の奥の間に幽閉されている」


「………!?」


俺たちは驚いたような、しかしやはりそうなったかというような表情だった。

特にマキアは、こうなるんじゃないかと以前アルフレード王子に言っていた。それでも正王妃や宰相に自分の意見を言うのかと。


ルルー王女は口元に手を当て、心配そうに瞳を揺らした。

彼女にとってアルフレード王子は実の兄に当たる。


「あちらの陣営は殿下を徹底的に監視し、説得に応じない場合はエスタ家の魔術師によって洗脳の魔法を施すつもりらしい」


「せ、洗脳!?」


「大貴族会議まであと二週間ほど。向こうは焦っているのだろう」


「し、しかし王妃は!? 王妃はそんな事を許すのでしょうか!!」


「………」


レイモンド卿はため息をついて、俺を見る。


「現にそう言った動きになっている。あちらの協力者によって得た情報だ。このままでは殿下は文字通りあやつり人形になってしまう………」


彼は心底許せないと言うような表情だった。いつもどこか余裕のあるレイモンド卿が、拳に力を込めている。

この人は本当に自分の甥や姪が可愛いんだな。


「そんなのは駄目です!!」


ルルー王女が声を張った。

彼女は今、いったいどういった状況なのか分からずに居るだろう。でも、自分の兄が大変なのだと言う事は悟ったようだった。


「私は……派閥争いや後継者争いの事は良く分かりません。しかし、アルフレードお兄様が危険なのでしょう?」


「………ルルー王女」


マキアが眉を寄せ、肩を震わせるルルー王女を見た。

レイモンド卿が、そろそろかと言う様に、ルルー王女の前に立つ。


「王女……。あなたをここへ呼んだのも、全てをお話しする為です。そして、あなたにも決断して頂きたいからです」


「………」


「あなたの母である正王妃、そしてその背後に居るテルジエ家、そしてエスタ家の繋がり、あなたの出生の秘密をお話しします。王女はきっと、ショックを受けると思いますが、落ち着いて聞いて下さい。何を聞いても心配は要りません。私たちはあなたの味方ですから……」


レイモンド卿はルルー王女の肩に手を置いて、彼女の瞳を見てそう言った。

とうとう、彼女に本当の事を告げる時が来たのだ。


俺は何か言おうとして口を開いたが、結局やめる。そして、奥歯を噛んだ。

母に殺されようとしていた事を知ったら、彼女は心から悲しむだろう。








「…………」


ルルー王女はやはり、話の途中から泣き出した。

しかし彼女が泣き始めたのは、自分が王妃に殺されようとしていると言う件より、自分の兄であるアルフレード王子が、自分を心配して王宮を飛び出し、母や宰相達に自分の意見を言う為に帰って行った所だ。


一体何が彼女を泣かせたのか。

ほとんど会った事も無い兄が、妹である自分の身を案じていた所か。それとも兄が母や宰相と言う肉親と向き合って戦おうとした所か。


「アルフレードお兄様……っ」


彼女は隣に座っていたユリシスの袖を握って、泣きながら訴えた。


「お願いしますユリシスお兄様!! アルフレードお兄様を助けて下さい!!」


「……ルルー。良いのかい、もしアルフレードの兄上をこちら側が保護し、あちらの反乱の証拠をこちら側が揃えれば、正妃や宰相は……罪人として裁かれる事になる」


「…………。はい……分かっております。しかし、母上の行おうとしている事は、許されるものではありません。……わたくしはそのくらい、分かっております!!」


「…………」


ルルー王女は、今度は俺の方を向いた。彼女の瞳には、ちゃんと光がある。


「トール様!! トール様、お願いします。もうあなたに、ずっと側に居てほしいなどと我が侭を言ったりはしません。ですからお兄様を………っ。レイモンドの叔父様……マキア様………っ。お願いします、お願いします……!!」


彼女の言葉は切実で、こちらもとても無視出来るものではなかった。

レイモンド卿はいったいどう動くのだろう。


ユリシスは心配そうにルルー王女の肩をさすり、マキアは腕を組んで神妙な顔をしている。

しばらくしてレイモンド卿が、口を開いた。


「……もちろん、こちらもアルフレード殿下を救出するための手を打っている。実はエスタ家の中にも、第一王子の陣営に愛想を尽かし、こちら側に寝返りたいと言う者も居るのだ。バロンドット・エスタのようにな」


「バロンドット・エスタ……? って、あの………」


俺はその名から思い出す。マキアと俺とで、アルフレード王子と食事をしていた時、バロンドット・エスタという王宮魔術師が王子を迎えに来た。


「バロンドット・エスタは現エスタ家当主の次男だが、今のエスタ家に未来を感じていない様だ。奴はとても現実的な男で、私もまあ……同期なので良く知っている。何と言うかちゃっかり者だ」


「………?」


レイモンド卿は続けた。


「彼はこの騒ぎの後のエスタ家の当主の座を狙っているのだ。そしてマキア嬢……君を妻に欲しいと切望している。こちらと手を組んだ証にもなるし、何よりあなたほど美しく優秀であれば、誰だって娶りたいと思う。ハハハハ」


ってあいつかよ。

マキアに縁談を持ちかけたのってあいつかよ!!


バロンドット・エスタ……そこそこ見映えの良い長髪の男だった。しかし、レイモンド卿と同期と言う事は28か29ほどの年齢。

何と言う歳の差!! 奴はロリコンか!!


「………はん」


マキアは皮肉な微笑みを浮かべた。


「レイモンド卿……お話はありがたいけれど、さっき言いましたよね。まあ、探りを入れるつもりなら協力しますけれど、結婚はしませんよ?」


「そうかい? 結構良いお話だとは思うけれど……。大貴族の、しかも国内最大の魔術一門の次期当主の奥様!! 贅沢し放題美味しいもの食べ放題……」


「………え」


「おいマキア、つられるなよそこに!!」


マキアが妙な反応を見せたから、俺は慌てて口を挟む。


「そもそもマキアはまだ15歳になったばかりじゃないか。三十路近くの男がそんな若い娘を嫁に欲しがるなんて……怪しすぎる……っ。怪しいし危険すぎる!!」


「……え」


「……え」


上からレイモンド卿。マキアと同級生のスミルダ・ビグレイツが次期王妃候補として名を挙げている。

次にユリシス。白賢者時代に200歳ほど年下だった緑の巫女と結婚。


「ってここにはこういう奴しか居ないのかよ!!」


俺は自分でつっこむ。

ここにはロリコンしか居ない。若妻推奨派しかいない。


「しかしまあ、バロンドットが敵か味方か、どのみち調べる必要がある。味方なら味方で、彼は殿下の救出作戦で必要な人物になるだろうし、敵なら敵で、探りを入れなければならないだろう。と言う訳で、マキア嬢……大変申し訳ないが、バロンドット・エスタとの婚約の話、受けるまではいかなくとも、そこそこ良い反応を見せてる様、装ってはくれないだろうか……」


「…………」


マキアがふむと考え込んでいたので、俺がすかさず否定する。


「駄目ですレイモンド卿、そんな事をマキアにさせるなんて」


「トール、あんたはさっきから過剰反応し過ぎなのよ。何なのよいったい」


「何だとは何だ!! 人がせっかく心配して言っているのに!! そもそもお前にそんな器用な事が出来るとは思わない」


「な……っ!! 私だって人並みに、ふりくらい出来るわよ!!」


俺とマキアは再び言い争い始めた。

ルルー王女とユリシスが、「痴話喧嘩ですか?」「痴話喧嘩だね」と言っている。


「でもトール君……アルフレードの兄上を救出する為には、マキちゃんと、あちらに深く通じているバロンドット・エスタの協力は必要な事だ。確かに危険かもしれないが……」


「やるわ、ユリシス。私もたまには役に立つって所、見せなくちゃ」


マキアは俺が否定する前に、ユリシスに向かって強い口調で言った。

そして、どこか心配そうに俺の様子を伺う。


「………トール、あんたが私の身を案じてくれているのは分かっているのよ。……でも、これはやらなくてはならない事だわ。ルルー王女と、アルフレード王子の為にも……」


「………」


「お願い、トール」


「…………」


マキアがさっきの態度とは裏腹に素直だから、俺はもう強く否定出来ない。

短い息を吐く。


「分かったよ……。そのかわり、俺が物陰からお前を護衛する。奴が変な動きを見せたら俺が飛び出す仕組みだ」


「……凄い仕組みだね」


レイモンド卿がニヤニヤしながらつっこむ。

しかし俺はこのおっさんの反応は無視して、今度はルルー王女に向き直る。


「ルルー王女、すみません。またしばらくあなたの護衛には付けないかもしれませんが……」


「い、いえ。大丈夫です。私も……出来る限りの事はしなくては……。お兄様の為ですもの」


「ルルーには僕の精霊をいくつか付けておくから、心配しないで」


ユリシスがルルーに笑いかけ、ルルー王女もホッとした様だった。

マキアはどこか気を張っている。


確かに、ここから大貴族会議までは、きっと気が抜けないだろう。

お互いの陣営の水面下の戦いが、いよいよ表に出て来るのだ。





さてと、病み上がりそうそう、面倒な事になった。

今度は正真正銘、マキアの騎士で居なければならない。御館様にマキアをよろしく頼むと言われているのだ。

例え大貴族の跡取りだとしても、気安くちょっかいを出されては困る。


それもあるけれど、一生独身かもと思っているマキアが、いざ「もうこんな機会無いかもしれない」と焦り、変な結論を出すかも分からない。


何だかな。

俺は何かに試されているのか。



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