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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
153/408

30:マキア、もしもの話。



マキアです。


色々な意味で凄く眠れません。

トールがやっと目を覚ましてくれて、ホッとした所なのに。


フレジールの巨兵との戦いを、映像として観たからでしょうか。

久々に勇者と藤姫を見たからでしょうか。


「………」


あの二人は相変わらずでした。

相変わらず、私たちよりずっと向こう側に行っている。


結局勇者の戦う姿は見られなかったけれど、あの二つの剣を今でも持っていると言う事だけは分かった。

勇者の証としての金色の大剣“女神の加護”と、もう一つの霧の剣。以前、ユリシスの夢の中で、白賢者を殺す時に使われていた剣です。


そして藤姫の戦闘には驚かされました。彼女は凄い。

ユリシスやエスカとはまた違った戦闘スタイル。精霊魔法にもあのように色々な応用の形があるのかと感心しました。


何より凄く格好良かったし、美しかったし、あれは国民にとっても偉大な姿として映り、励みになるでしょう。

そう言った意味でやはり彼女は国を背負う事を使命とした存在です。カリスマ性があると言うのでしょうか。


「私の魔法は見映えも良く無いし……痛々しいだけだし、恐れられるはずよねえ……」


分厚い布団から顔を出し、素直にそんな言葉が出てきました。

特にそれが嫌だった訳ではありません。ただ、何となく出てきました。



「………?」


何となく大きな窓ガラスから外を見て見たら、ぽっかりと大きな月明かり。

そしてなんと、白い雪がチラチラと降っていました。


「わあ……初雪だわ!!」


暖かい布団から飛び出して、ネグリジェ姿の上から厚手のストールを羽織ると、庭先に出てみます。

ルスキアはあまり雪が降る事はありませんが、やっと本格的に真冬になったと言う事です。


「………」


寒いのにわざわざ飛び出して雪を眺めます。

この小さい雪が深く積もる事は無いのでしょうが、雪を見ているとやはり、2000年前、黒魔王の居たあの国を思い出さずにはいられません。


私は寒いのが嫌いでしたが、それでも何度も何度も、あの雪山に赴いたっけ。



「おい、マキア。お前も起きていたのか」


「………トール」


驚いた事に、病み上がりのトールがこんな寒い中薄着で夜中の庭をうろうろとしていました。


「病み上がりのくせにそんな薄着で!!」


「俺は風邪でもひいてたのかよ」


トールは流石に、この程度の寒さどうってこと無いと言う事でしょうか。

私たちは側のベンチに座りました。



「ね、トール。雪よ」


「……初雪か。いや………なんか夢の中で一面の銀世界見すぎて初雪と言う感じはしないが……」


トールは不思議そうに空を眺め、月明かりにうっすらと映される白い雪を見つめていました。

きっと彼は、2000年前の事を思い出していたのです。


「懐かしい人には……会えた?」


「………」


「あんたには会いたい人、沢山居るでしょう?」


「ああ……。会ったと言うのも変な感じだが、ずっと記憶の隅に追いやっていた部分を思い出していたよ。途中で夢が覚めてしまったから白賢者にも会えなかったけどな」


「………そう」


「でも紅魔女は結構出て来たぞ。最初なんてお前、酷かったもんだよな。いきなり俺の腕を焼きやがって」


「え……そうだったっけ? 私はあんたとどうやって出会ったか覚えていないわあ……」


「………」


いえいえ、本当はちゃんと覚えています。

私は西の大陸に居た時、ある旅人に北の黒魔王について教えてもらい、彼に会いに行ったのです。しかしすぐに追い払われましたが。

懐かしいような、ちょっと苦い思い出。


「よくよく考えるとお前ってあんまり変わらないよな。大雑把っていうか」


「そうかしら。あんたは昔の方が男前だったわよね。………色々な意味で」


「ほっとけ」


「あはははは。でも今の方が可愛げがあるわよ」


ぱしぱしトールの膝を叩きながら、笑います。


「だって黒魔王って何かと飄々としていて、上から目線で、格好つけで、ダークヒーローぶってて何だかなって。おまけに女たらしだし」


「あああ………もうやめてくれやめてくれ」


トールは耳が痛そうにしている。

私は少しおかしくて、眉を寄せクスクス笑いました。


「でも私、あんたの事結構本気で凄いなって思っていたのよ。自分の力を良くも悪くも、ちゃんと大きな目的の為に使っていたじゃない」


「それでも今なら何となく分かる。あんなのは自己満足だ。……俺は本当に、自分の力に驕った悪い魔王だったよ」


「あら、でも様になっていたわよ。あの黒くて無駄に長いマントも何か格好よかった」


「お前……お前わざと言っているだろう。絶対許さないからな」


「あはははは」


トールは、まるで記憶を過去からの刺客だとでも思っている様に。

まあ過去と言うものは恥ずかしいものです。


「お、お前だって昔はきっちり自分で料理していたくせに。今となっちゃ作ってもらってばかり食ってばかりの贅沢な身分だよな」


「え………」


私は少し記憶を遡り、自分が昔、黒魔王に手料理を振る舞った事があるのを思い出し無性に恥ずかしくなりました。

しかも今思えばそれほどおいしいものでも無かったような。


「し、仕方ないでしょう。私はあの時代、他にする事も無かったんだもの。いいい、今は楽しい事が沢山あるから……それどころじゃないっていうか。自分で作ったよりプロの味の方がっていうか……」


私は自分の指先を撫でたり握ったりしながら、口ごもります。

あの時代、調味料もそれほど無く時代も時代でしたし。


「浮かれていたのよ。私もまだ若かったんだわ。……ゆ、許してちょうだい」


「何を言っているんだお前は。美味かったぞ」


「………そ、そう?」


トールは、慌てて意味不明な事を言っている私を、大丈夫かと言わんばかりの表情で見ます。

私は話題を逸らそうと思いました。


「2000年前の夢ってことは、あんた奥さん達には会えた? シーヴとか、テルエスとか……ヘレーナとか居たじゃない」


「………シーヴは会ってきたさ」


「シーヴかあ。懐かしいなあ………私、あの子の事は結構気に入っていたのよ。レピスを見ていると少し思い出す時があるわね、流石に先祖ってだけあって雰囲気似ていると思わない?」


「あ、ああ……。言われてみれば………」


シーヴは良い女でした。

私にも気をつかってくれていたし、黒魔王の理想をもっとも理解していたのはあの人だったんじゃないかな。

だから私は、シーヴと黒魔王の子供に名を与えたのです。


「テルエスの時代までは行かなかった。………ヘレーナにはむしろ会いたく無いな」


「あんた……まだ引きずっているのねえ」


シーヴ、テルエスは最初の正妻、次の正妻ですが、ヘレーナは黒魔王の物語にいつもついてまわる有名な人です。

黒魔王にとって最後の妻であり、最も寵愛を受けた姫と言われていましたが、最終的に黒魔王を裏切り彼を死へと追いつめる存在になります。


私は全ての時代を見てきました。

トールは腕を組んで何とも言えない表情をして、またムキになって言いました。


「彼女の事は思い出したくも無い」


「……あんなに好きだったのに? やっぱりあんた、あの子の事は特別大切にしていたわよ」


「………そうか? 他と変わらないだろ」


「あんたがそうムキになるって事が何よりその証よ。だって、あの人の事があってからあんた、すっかり誰も好きにならなくなったじゃない。地球でもずっと、恋はしない女は信用出来ないだの言って」


「………」


「それだけ好きだったのよ、あんたはあの子の事」


トールは無言でしたが、私はちらりと彼を見て、そして白い息を吐くと空の星を見上げました。


「もしもまたあの子が現れたら、どうせあんたは気にせずにはいられないわ。ユリシスがペルセリスを、今もずっと好きな様にね」


「それは……無い。そもそもありえない」


「………もしもの話って言っているでしょう」


でももし、トールまで前世の大切な人が現れて、この現世でもその愛を忘れられなかったら、私はどうしましょう。

きっと凄く寂しくなるのでしょうね。


「あんたまで誰かと結婚しちゃったら、私どうしようかな……」


「………えらく話が飛ぶな」


「おかしな話じゃないわよ。あんたの事だもの、歳も歳だし、この時代はみんな結婚も早いし」


「………」


トールは腕を組んで、小さくため息をつきました。


「紅魔女の時代から思ってたんだが、お前ってそっちの話はめっきり自信が無いよな。……何で自分は一生独り身みたいな前提があるんだよ」


「………え、違うの?」


「何の法則だよ」


「だって、“私”よ。紅魔女よ。色々と面倒よ」


「………」


トールはぽかんとしていました。

しかし彼だって理解しているはずです。力のありすぎる女は面倒ですし、私は我が強いですし。一般人だった地球でも透や由利に比べ全くモテなかった訳ですし。


「2000年前だって、黒魔王や白賢者には良い人が居たのに、私は200年も生きながら独り身だった訳だし」


「………」


「………これでも私、結構気に入っていた人が居たのよ。………でも、最後まで相手にされなかったわねえ…………」


「え、お前そんな奴居たのか? 初耳だぞ………誰だ?」


「あっははははは。秘密よ、秘密」


「………」



紅魔女には、隠して隠して、隠し通した思いがあります。

でもそれはきっと、隠し通して正解だったのでしょう。



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