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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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29:メディテ卿、魔王クラスと巨兵とクラシック。


「シャトマ姫の持つあの杖は……もしかして“神器”ですか?」


ユリシス殿下が映像内に映るシャトマ姫の持つ王錫を気にした。

殿下には、それが精霊宝具でない事は分かっていたようだった。


エスカがその言葉に反応し、ユリシス殿下を見る。


「流石は白賢者。白魔術の祖だけあって、あれが精霊魔法の武具でない事は分かる様だな。ああ、あれは神器だ。“聖女王の号令”………メイデーア創世神パラ・プシマの神器だ……」


「……パラ・プシマ」


エスカの言葉で、彼女がパラ・プシマの魂を持つ魔王クラスである事が判明。

そう言えばそうだ。エスカは最もヴェビロフォスの情報に精通している魔王クラスと言っても良い。


「エスカ……君は彼女の神器の事まで知っているのか」


俺はさり気なく聞いてみた。


「当然だ。1000年前、聖域からあれを預かって、藤姫に手渡したのはこの俺だ」


「………ふーん。そう言う繋がりな訳ね」


エスカってば、突けばどんどん情報を出しそうで、なんておいしい……。


と思っていたら、映像内でシャトマ姫が、艦隊より光線のごとく飛び出し、気づけば巨兵の上部に居る。本当に一瞬の事で、見事な速さと言って良い。


巨兵もシャトマ姫を確認すると、今までの妙な鈍さは何だったのか、発狂したようなギチギチとした金属音を鳴らし体から無数の手を生やして、飛ぶシャトマ姫をつかみ取ろうとする。きらきらと鱗粉を撒きながらも、電光石火のごとく巨兵の手の隙間を縫う姫。彼女は隙を見て手にもつ長く幅のある神器の、その先の結晶の飾りの部分を巨兵に向けた。


飾りの結晶が、花弁のように花開き、杖の周囲で円を描いて並ぶ。

杖を紫色の光の帯がシュンシュンと音をたて取り巻き、一瞬収束。


『殲滅せよ!!』


シャトマ姫の号令の後、無数の光の帯がその花弁から放出され、それらは巨兵の体の隙間に入り込み、巨兵は体をぶくぶくと膨らませ爆破した。

一瞬の目映い光の後の、爆音。映像のこちら側まで、その熱風を感じそうなほどの爆発だ。



『四足型25号撃破!!』


シャトマ姫の凛とした声が響く。

ついでにカメラのシャッター音が大量に聞こえてくる。その後の盛大な歓声。


『シャトマ姫!! シャトマ姫!!』


この時、この国でどれほどこの名が叫ばれたのだろう。




『新型の巨兵の一体は、シャトマ姫の力の前に殲滅させられました!! しかしまだ二体ほど残っています!!』


アナウンスが挟まれた丁度その時、二体の巨兵が背中の羽を広げ、ふわりと浮かぶ。

何とも奇妙な羽だ。半透明で機械の骨組みが透けて見える。


『………』


シャトマ姫は無言だった。

彼女は背負った大量に重なる重火器の口を両方向に向けたまま。


しかしシャトマ姫がそれらを放つ事は無かった。

黒い霧のようなものが巨兵の体の隙間から溢れ、それらは巨兵自体を蝕む“何か”の様にも見える。





「あれは……」


「………奴か……っ」


映像を見ているこちらの、マキア嬢とトール君、ユリシス殿下はおのおの注目した。

そして、やはり強ばった表情になる。


彼らはその霧を知っていたようだった。





映像内の両巨兵は、目をガタガタと震わせ、体を苦しそうによじらせた。


頭上の輪っかのついたラクリマは光を失い完全に停止。そのまま足先からぼろぼろと崩壊していく。


『……おやカノン。……私だけで良いと言っただろうに』


いつの間にか、シャトマ姫の背後にカノン将軍が居る。

空中だと言うに、奴が立っていられるのは、トワイライトの空間魔法による足場が出来ているからだ。


カノン将軍は二つの剣を持っている。

一つは金色の剣。そして、もう一つは形も曖昧な黒い霧のような剣。


カノン将軍はシャトマ姫に何か耳打ちした。


『………』


『……ほお。お前、大人しい顔してなんて事を!? よいよい、好きにしろ』


『………』


カノン将軍の声だけはこちらには聞こえない。ただ彼がシャトマ姫に何か言ったということだけ、何となく分かる。


その後シャトマ姫は何だかとても上機嫌になって、カノン将軍の肩をポンポンと叩くと、軽やかに後退。

カノン将軍を表に出し、彼女は扇子を口元に沿え、少女の様に瞳を輝かせる。何かを凄く楽しみにしているような表情だ。




一体何が始まるって言うの。

奴を大人しい顔してと言えるシャトマ姫の感性を疑う。

そもそもシャトマ姫とカノン将軍の関係がわからない。わからない。

シャトマ姫可愛い。


見ているこちらにも緊張感がはしり、おのおの色々な疑問、考察を抱いたりしているところだろう。

少なくともこの俺、ウルバヌス・メディテは映像の向こう側と、それを見ている魔王達の表情をチラ見してそんな風に解釈した。




カノン将軍が二つの剣のうち、金色の剣を構えた。






プツン。



「…………」


「…………」


「………あの、映像切れたんですけど」


「………」


突然、ラクリマの映像が途切れ、モニターは一瞬砂嵐に。そして何か美しいクラシックと共に美しい花畑とかの映像が!!


エスカは「ふん」と偉そうに鼻で笑う。


「ここから先は、何も映されてはいない。他の撮影班のカメラにも何も映ってはいない。フレジールの奴らはここから先の事を“諸事情”により公開しないとしたようだ。トワイライトのインテリ共によって映像をすり替えられた。フレジールでは魔導回路によって魔導器具を管理されているからな。カメラの映像を操作する事なんて容易い。ちなみに現地人がその場の様子を見たかと言ったら見ていない。最初に展開された壁の魔導要塞を“非公開モード”に切り替え、透明から真っ黒な壁にしてしまったらしいからな」


「…………」


何とも言えない。

癒されるはずのクラシックがこんなに耳障りな事があっただろうか。


と、マキア嬢とトール君、ユリシス殿下は思っただろう。


「ふ、ふっざけんなよ。何だよここからだろうがよおおおおお!!!!」


病み上がりのトール君が頭を抱える。


「あああ……なんだろうこのがっくり感……」


「心臓が痛い!!」


緊張感が一気に崩れたような、見ていてとても面白い光景だった。

魔王クラスの一喜一憂。


「ぷっ……魔王クラスがこぞってこのくらいでへこたれやがって。メンタル弱すぎなんだよ!! うける〜」


「エスカ、あんたこの様子を見る為にわざわざ残ったんでしょう……」


「大正解。お前達の盛大にがっくりする所を見たかったんだよな〜」


エスカの笑い方は腹が立つ、と言うようなマキア嬢の「ぐぬぬ」な表情。

彼女が一発エスカを殴ろうとしたその拳を、エスカは何て事無く受け止め言う。


「だがこの後、トワイライトの奴らの魔導要塞が全部解除されるのにかかった時間は約10分だ。そして、このシャンバルラ海上には巨兵の影も無くなっていた………」


「………?」


「そして巨兵は居なくなった………」


エスカは大切な事だったのかもう一度言った。マキア嬢は瞳を細める。


「なにそれ、そして誰も居なくなったみたいなホラー展開」


「実際ホラーだぜ」


「………」


要するに、非公開となった空白の10分間に、黒い壁の向こう側では巨兵が姿形を消すほどの何かがあったと言う事だ。

魔導要塞は音すら非公開モードの範囲に指定していたから、何があったのか予想すら出来なかったと。


「おいレピス。お前は前にフレジールに居たんだろう。何か知らないのか?」


「…………」


トワイライトのレピス嬢は、いつもと変わらず淡々とした表情だった。それ故に、魔王達よりずっと落ち着いて見える。


「知りません。……と言っておきます」


ある意味とても分かりやすい返事。

と言う事は何か知っているんだなと。


「ほらこれだよ。ノア、お前も何も言えないのか」


トール君がノアに聞いてみても、ノアは困った顔をしてレピス嬢とトール君を見比べるばかり。

ノアは首を振った。


「よーし。だったら俺様が徹底的に尋問して……」


「ちょっと何考えてんのよ。止めなさいよ、レピス達だって仕事なんだから言えない事くらいあるわよ」


マキア嬢が慌てて二人の前に立って、エスカと睨み合う。やんのかこらという様なあからさまな睨み合いだ。


「はいはい、もうその話はここまでにしましょう。今観た映像だけでも十分な情報がある。僕らはそこから、考えられる事を考えないと」


「流石は殿下。正論だな〜」


ユリシス殿下がこの場を収めてくれたので、俺は思わず呟く。


「そもそも、僕が思ったのは、エルメデス連邦の目的が何かって事だ。連邦は沈黙したまま、上空で戦いを見物している。巨兵がやられても知らんぷりだ」


「……奴らは試作品の実験をしている様だな」


トール君がそう言うと、エスカが反応した。


「多分、それは正しい。連邦の巨兵はまだ未完成と言う見方が強い。数が多ければ厄介だが、俺たちほどの力があれば倒せないものじゃない。連邦にとっては、まだ本格的に巨兵を使った侵略に乗り出している感じではないな」


「じゃあ何の為に、定期的に巨兵を海に放つの? 倒させる為だとでも言うの?」


「一つは、敵国の戦力の限界がどこにあるのか、見極めているのではと言う奴も居る。だがそれだけじゃない気もするんだよな……」


「どういう事ですかお義兄さん」


「エルメデスには青の将軍が居る。もっと別の目的がありそうで、俺は警戒しているんだ」


「え、そうなの……?」


「………」


「………」


青の将軍と言う言葉を聞いて、一番反応してしまったのは俺。

新しい魔王クラスの出現に一番胸高鳴ったのは俺。こんな時にキラキラした表情のこの俺。


他のもの達は皆、青の将軍がエルメデスに居る事を知っていたようだった。

痛い視線が俺に向けられる。


「………ゴホン」


俺は咳払いして、「あ、どうぞ続けて」と言って、そこからは変に口を出す事はしなかった。





考え込む魔王達を尻目に、俺は先ほどの戦いの様子を思い出す。

巨兵を試し続ける連邦の意志はどこにあるのか。


超魔導遊撃巨兵“ギガス”。

その本来の姿の完成は、もうすぐそこまで来ているのだろうか。



巨兵と言う、魔王クラスにとって縁のある超古代兵器が、恐れの象徴として出現する事で、魔王クラスはどう動いていくのだろう。

前世、国の関係、因縁を絡ませて、世界はどう動いていくだろう。




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