表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
151/408

28:メディテ卿、戦う魔法王女のカリスマ。



『激動のシャンバルラ海上戦!!〜戦う聖王女〜』





「………」


「………音でかっ」


始まった映像の、ごてごてのタイトルロゴが、やたら大げさな効果音と共に出てきた。

どうもこんばんは、ウルバヌス・メディテです。


ちなみにシャンバルラ海というのは、フレジールから大きな砂漠を挟んだ向こう側の、東の大陸第二位の大国、シャンバルラ帝国の中央海側の呼び名である。


映像は四つん這いの巨兵のアップに切り替わった。

前にルスキアで見たものより顔面の範囲がデカく、ラクリマが頭上に二つ連なっている。


またタイプの違う巨兵の様だ。それが三体程海の上に浮いている。


「うわあ……相変わらず気持ち悪い造形ね」


「これって、造形の違いに能力の違いがあったりするのか?」


「ラクリマの数が多いと言う事は、それだけエネルギー消費が激しいタイプって事かな?」


「ごちゃごちゃうっせーんだよ、倒しゃいいんだよ倒しゃあ!!」


上からマキア嬢、トール君、ユリシス殿下、エスカだが、それぞれの魔王達はらしい第一声を放ったもんだな。

考えるタイプと考えないタイプの二分化。マキア嬢とエスカはある意味似たもの同士ってことか……。


映像はどこかの灯台の上から撮られているようだった。


『エスカ先輩、見てますかー!! こちらヴァベル第一調査団でーす。実況はこの私、メルダリア・メディテが担当いたしまーす!!』


映像の向こう側でドヤ顔実況する、眼帯を付けた巻き毛の娘を、この俺ウルバヌス・メディテは知っていた。


「あ、メルダちゃんじゃん。これ俺のいとこだから。俺の親父の弟の娘」


「え………」


その場の空気の妙な感じ。


「確かにあの眼帯は、メディテんところのばあさんを彷彿とさせるな」


「あはははは、メディテ家の女性はみんな眼帯をしているよ。逞しいよ」


メディテ家はヴァベル調査団に人材を提供する義務がある。婆様も昔、調査団に加わっていた。そのため、親父の弟一家はずっと海外の調査に出ていて、俺もたまにしか会う事が無い。


「メルダは爆薬担当の魔術師だ。そこにいる胡散臭い毒薬魔術師とはタイプが違うが、メディテ家らしい相当イカれた女だぜ。まあ、俺の教育の賜物でもある」


「そっか、メルダってエスカの部下だったんだね〜」


妙な所で身内話。マキア嬢やトール君達は何が何やらと言う顔をしていたので、彼女の話はここまでで。


『えー、本日未明、シャンバルラ海沿岸部に三体の遊撃巨兵が出現いたしました。フレジール王宮はこれを第25、26、27号と発表。エルメデス連邦による試験襲撃の可能性大。シャンバルラ帝国は同盟国家フレジール王国にヴァルキュリア艦隊の出撃を要請。あ、あーーーー、ほらほら見て下さい!! あの駒上の美しいフォルムを!! フレジールの誇る最新戦艦ヴァルキュリアです!! あれは第七カノン艦隊ですよね。あのイケメンの将軍のっ!!』


映像は上空を映した。そこにはルスキアにも一度現れているフレジールの最新技術の結晶、ヴァルキュリア艦の姿が。

メルダリポーターの実況もテンションが上がっている。


『この灯台には勇気ある報道陣たちもめっちゃ集まってます!! フレジール国営放送と、民放と……ジャーナリストと……あらあら、“シャトマ姫命”と書いたはちまきを付けた追っかけまで。みんな何なんですか!! 戦場カメラマン!!』


調査団の映像には、その他にカメラを回す者達の姿も映されていて、これにはマキア嬢もトール君もユリシス殿下も目を見開いてぽっかーんとしていた。


「え………、え、海外ってこんな感じなの? 戦場にこんなにカメラ入ってるの?」


「……フレジールはこんな感じだぞ。カメラマンも命張ってる。フレジール軍の勇姿を常にカメラに収め、放送している。……ルスキアがいかに遅れた国かってのが分かるだろう?」


エスカが腕を組んで、ふんと偉そうにしている。彼が偉い訳では無いが。


『ああああ、巨兵が、巨兵がビームを、ビーム砲にエネルギーを溜め始めました!! やばいやばいやばい』


メルダの実況は相変わらず。ビーム砲って。

しかし確かに、巨兵の一つが頭上のラクリマをこちらに向け、砲撃準備に入っている。

報道陣たちはざわつき、緊張していた。こちらまで緊張する。あれが通ったら一帯の沿岸は焼け野原になる。


『あ、シャトマ姫です!! シャトマ姫が空中停止したヴァルキュリア艦のブリッジに姿を現しました!!』


映像、一気にそちらへ。

シャトマ姫がヴァルキュリア艦のブリッジに出ている。

後ろに控える様にカノン将軍も居た。


シャトマ姫は右手を前にかざし、そしてそのまま振り落とした。

その瞬間、上空に無数の魔法陣が連なる様に出現し、振り落とされた大きな光の剣が、今まさに砲撃しようとしていた巨兵のラクリマをぶち抜く。


巨兵の一つは体勢を崩した。


しかしこれだけでは巨兵は倒せない。巨兵は何度も再生する。

シャトマ姫もそれは分かっている様で、すぐに次の指示を出す。


『トワイライト・ゾーン!! 展開!!!』


シャトマ姫の号令までばっちり録音されている。

その言葉と共に、空間は一気に色を変え、オレンジ色の夕暮れの箱の中に入ったかのようだった。


『あああ、これはフレジールの顧問魔術師、ソロモン・トワイライトの魔導要塞、“黄昏の時間帯トワイライト・ゾーン”。必勝パタ―ン来るか!!』


実況に反応したのはトール君、そして同じトワイライトのレピス嬢とノア。ソロモン・トワイライトと言えば、確かトワイライトの一族の当主であり、レピス嬢の兄だ。

俺はちらりとそちらに視線を流す。


巨兵の一つが、飛び上がってもの凄いスピードで大陸を目指した。

報道陣たちの悲鳴が聞こえる。


しかし、巨兵の行く手は見えない大きな壁によって阻まれた。


「……魔導要塞か」


「ええ。これはトワイライトの一族の、防御用物理100%の魔導要塞、“透明の籠ダイヤモンド・バスケット”です。トワイライト・ゾーン展開時のみ使えます。東の大陸には西の大陸の様な“緑の幕”はありません。防御用魔導要塞とシャトマ姫様の精霊宝壁のみが、大陸防御の唯一の方法です。……しかし、防御力は“緑の幕”より遥かに劣りますが」


「………フレジールにはトワイライトの一族は何人居るんだ」


「5人ですね。魔導要塞を使える者は」


トール君とレピス嬢の会話。

皆、映像に釘付けになりながら、それぞれの会話には敏感になっている。


『おおお、高い壁がどんどん構築されています。沿岸部から透明の硬い壁が……。あ、巨兵の一匹が壁をよじ登っています!!』


巨兵は無数の足を生やし、壁にくっついた。

そして猛スピードで登って行く。


巨兵はおぞましい顔を壁にへばりつけ口付ける。そこから一直線に砲撃。細長いエネルギー波が壁を焼き、向こう側にあった大きな山をぶち抜いた。その様子は非常に気味が悪く、恐ろしい。


報道陣、そしてそのカメラの向こう側の国民達は、きっと悲鳴を上げただろう。


しかし、映像の向こう側のシャトマ姫はフッと笑い、手に持つ扇子で手を打った。


『我がフレジールの民よ、そしてシャンバルラの友よ。巨兵など見ているでない。妾を見よ!!』


シャトマ姫の声が響き渡る。

彼女は白魔術師特有の魔法陣を、無数に展開。ユリシス殿下にも負けない程多くを一度に作り上げる。

そろそろ彼女が、戦場に出て来るようだった。


光の細かい粒が、まるで鱗粉の様に彼女を包み込む。

藤色の光が帯を成し、グルグル糸を紡ぐ。


「………虫だ」


ユリシス殿下が呟いた。

そう、無数の虫が、彼女の周囲を取り巻き、包込んでいたのだ。

光は魔法陣の力を得て、第九戒の召喚として、形を成す。


「シャトマ姫は、第十戒召喚は出来ないと言っていた。だから、第九戒を極めたと……」


ユリシス殿下はそろそろ、彼女の魔法の形を確信していたようだった。

第九戒は、精霊宝具の召喚。


映像を見ている誰もが息を飲んだ。その神々しい姿は、確かに1000年前、戦う姫、聖少女と言われた姿の体現だ。

彼女は精霊宝具を纏わせていたのだ。緩やかに舞う絹の衣、その上からメタリックな鎧と重火器、飛行武具などのおびただしい数の宝具が融合し、彼女を覆っている。手には彼女の二倍もある大きな王錫を持っている。



『第九戒召喚………精霊宝具“精霊武装”…………。民よ、妾は誰だ?』



シャトマ姫の投げかけの後の一瞬の沈黙。その沈黙を破る様に、報道陣が自分のカメラを抱えたまま叫ぶ。


『姫様あああああ!!!』


『シャトマ姫!! シャトマ姫!!』


『次期女王様!!』


『聖なる女王様!!』


カメラマンがこれなのだ。カメラの向こう側の国民も同じような感じなのだろうか。

恐怖の悲鳴は一気に歓声に変わる。




「藤姫ええええええ!!」


「………」


「………」


「………え、何今の、誰?」


モニター越しのこちら側でも、エスカがただ一人感極まった様子で両手を広げ立ち上がる。

マキア嬢達はドン引きした様子でエスカを見ている。


「なにあんた、藤姫のファンなの?」


「………俺は1000年前から藤姫の信者だ!!」


「………」


「え、ヴァベル教国を立ち上げた大司教が、何で別のものを信仰してるんだ? 訳が分からん……」


トール君の最もなツッコミ。エスカは「うるせえこれは別なんだよ!!」と。

まあエスカの事は置いておいて。


「………」


俺はまた藤姫の……シャトマ姫の姿を拝む。


これは、聖少女と言われた理由も分かるものだ。魔法が、本人を巻き込んで一つの象徴となっている。

シャトマ姫………いや、1000年前の“藤姫”は、自分と言う存在を政治に多いに利用した姫だった。

これもある種のパフォーマンス性を利用し、国民に「我ここにあり」という姿を見せつけている。ただ強い魔術師だけでは駄目な、国家の頂点と言う存在が、これほど神々しく見えると言う事。そこに意味があるのだ。


精霊武装を纏ったその姿は藤色の、大きな蝶のようでも、妖精の様でもあった。


「………凄い」


マキア嬢も、その姿と声援に、目を見開き呟く。


フレジール王国におけるシャトマ姫の支持率は非常に高い。彼女の持つカリスマ性、そして特別な力、加えてあの姿。国民は彼女を時代の救世主だと思っている。フレジール王国の強さはここにある。トップの圧倒的な支持。エルメデス連邦も、フレジールは一筋縄では行かないと分かっている。






『さあ来い化け物め。妾が直々に天罰を下そう。今回はヴァルキュリア艦は必要ない』


シャトマ姫はその視線を、もっともっと上で空に擬態しただ観ているだけの、連邦の戦艦に向けた。



『暇を持て余した神々の遊びでもしているがごとく、巨兵を試し他国を脅かす連邦を、妾は絶対に許さない!! 今はそうやって高みの見物をしているが良い。すぐにでも妾が、そこから“お前”を引きづり落としてやる!!』



彼女の言葉は、一体誰に向けられたものだったのだろう。

映像越しのこちら側でも、遠い因縁があるかのごとく眉間にしわを寄せているエスカが居る。





「………ふう」


俺は小さく、息を吐いた。


すまないが俺は、巨兵の脅威や恐ろしさより、今この映像に映っている者や、それを見ているこちら側の魔王クラスの者達の表情のほうが、よほど気になる。

大変、大変興味深い。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ