06:マキア、レモンケーキとホロホロ鳥をつまみたい。
マキアです。
今日は私の7歳の誕生日。やっと一つ歳をとれそうで何より。
ここ最近冬が近くて少し寒いですが、その分料理のおいしい季節です。
特にこのデリアフィールドでは沢山の食物がとれますし、港町との交易も盛んですから、料理のバリエーションも多くかなり期待できます。
誕生日パーティーは夜からでしたが、準備は朝早くから始まっている模様。
楽しみで前の日が寝られないなんて、私にもまだまだ可愛い所があるわ。
「あら、マキア様いけませんよ。厨房に入っちゃ〜」
パティシエのバルナバが体をクネらせてやって来た。厨房を覗き込んでいる私を目敏く見つけたのだ。
「バルナバ、今日のお料理はいったい何なの?」
「もうマキア様ったら本当に食いしん坊さん。じゃあ少しネタバレしちゃおうかしら」
「うん、してして!! そうじゃないと私、夜まで待てないわ!!」
私はこの時ばかりは、まるで子供のように瞳をキラキラさせています。
まあ、子供なんですけどね実年齢は。
「マルギリア産の生ハムと、デリアフィールドの朝採り野菜のサラダ。カルテッド産の白身魚とトマトの特製ジュノベーゼ。クレア島産のホロホロ鳥のロースト・ローズマリー風味。ククレア牛フィレ肉のステーキ・ベリージュレ添え……」
「………ふわあ…」
ヤバいです。
名前を聞いただけでよだれが止まりません。厨房の奥の方で、シェフのアウグストが黙々と調理にとりかかっています。他の料理人たちも忙しそう。
ああ、私がこっちに転生して本当によかったと思うのは、おいしい料理をたらふく食べられる事、これに尽きます。
運良く伯爵家の娘として生まれたこの巡り合わせに感謝。
「レモンシロップをたっぷり縫ったレモンケーキ、用意しているわ。マキア様大好きだものね」
「うん好き!! バルナバの作ったレモンケーキ大好き!!」
バルナバの作ったレモン菓子は絶品。
ここデリアフィールドはレモンの栽培が盛んで、それを使ったお菓子が一つの名物なのです。
レモンケーキ、レモンパイ、レモンゼリー……
「イチジクジャムのクロスタータもあるわ。洋梨のタルトも………まあ、目玉のお誕生日ケーキは内緒よ。びっくりさせちゃうんだから」
どうやらバルバナはかなり自信があるようです。
ああもう、好きよバルバナ。あんたのそう言う所。おいしいもの沢山作ってくれる人って大好き。
アウグストも大好き。
前世では由利のお母さんの料理も大好きでした。だからおばさんの事も大好きでした。
ああ、元気かしら由利のお母さん。私たちがみんな殺されちゃって、きっと一番悲しんでくれるのはあの人だろうなあ……
話が逸れましたが、私ってこう見えて、食べ物の好き嫌いが無いんです。
何だっておいしいと思うし、何だって沢山食べたがります。確かに豪華なディナーはたまらないほどおいしいですが、別に納豆ご飯だって好きだったんです。
好き嫌いが無いって、本当に幸せな事。この世のあらゆるお料理を食べることが出来る訳ですから。
ああ、厨房の奥でホロホロ鳥をローストしているいい匂いがします。甘いジャムの匂いも漂ってきます。
それらが私の食欲を掻き乱し、想像を膨らませるのです。
だから厨房を覗くのが好き。
その匂い、音、料理人の手の動きから、出来上がる料理をイメージ出来るもの。
そうすれば、出てきた料理はきっと、もっとおいしいものになるでしょうよ。
ああ、早くこいこい、夜の誕生日パーティー。
確かスミルダちゃんとラミアちゃん、カミーユちゃんとリンダちゃんあたりのいつものメンバーが来るらしいけれど、彼女たちの母親の選んだ気張ったプレゼントに、私の心をくすぐるものなんて無い。
あ、お昼過ぎにお仕事を終えたお父様が、カルテッドから帰ってくるそうです。
きっとプレゼントを買ってくるんでしょうね。おいしい料理だけも十分なのに。
メイドたちがパーティーの準備に明け暮れています。
お母様も忙しそう。色々と手配をする事があるようです。
私もいつも以上におめかししないといけないんですって。
今日は何だか良い事がありそうな気がします。
一番気に入っている、赤い流行のドレスを着ましょう。