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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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10:トール、あの香りに弱い悲しい男の性。


「あれ……来た。予想外」


「……なにその反応」


マキアは今朝の事もあって、俺が今日の夕飯も来られないのではと思っていたそうだ。

だからなのか、俺が庭から部屋を尋ねたら、何だかきょとんとした顔をしている。


「このクソ寒い中、庭からとは。あんたも好きよね……」


「いいから部屋に入れてくれよ。……寒いだろ」


「寒いのは得意だとか、格好つけて言ってたくせに」


段差のある上からマキアに見下ろされると、やはり王女とのようにはいかないなと思う。



「やあトール君。遅かったね」


「……あれ、ユリ……お前も来ていたのか。良いのかよ奥さん放っておいて」


「まあ、たまには友人と夕食も良いかなと思って……」


ユリシスの笑顔がどことなくぎこちない。

いったい何があったのか。


「どうせこの後、すぐ教国に行くんでしょ? 通い夫は大変ですね〜爆発して下さい」


とは言っても、久々に三人が揃った事で、マキアは随分嬉しそうにしていた。

俺たちはテーブルに付くと、ベルをチリンチリンと鳴らして、外で待機していた召使いたちに食事を運んでもらう。

今夜はカモのローストローズマリー風味が目玉のコースと来た。良い匂いが部屋中に広がる。


毎度の事だが、マキアが瞳を輝かせている。

俺も随分腹が減っていたから、マキアに負けず劣らず夕食にがっつく事になった。






「ルルーがヤンデレ? え?」


食後のティータイムの時、今日の事を二人に話した。

ユリシスはルルーベット王女のあらゆる行動の事を聞くと、目を点にして首を傾げた。


「いやいやいや、前も言ったけど、ルルーは本当に心優しい子だったんだ。北の棟に隔離されていたから、たまに僕がこっそり遊びに行って、外に連れ出したりしてあげていたんだよ」


「お前……ルルー王女の事、知っていたのか?」


「いやまあ……それなりには……」


「何で教えてくれなかったんだ」


「いやだって、まさかそんな事になっているとは思わなくて……ごめん……」


謝りついでに、ユリシスは大きく息を吐くと、「そうか……」と。


「あの子が帰ってきて、まだそんなに話していないから、気がつかなかったよ」


「まああんたは自分の新妻の事で、手一杯精一杯だものね」


「まあねえ……って、いやいや。何言ってるんだいマキちゃん!!」


と言いつつ、どこか誇らし気でニヤけ顔のユリシスは、紅茶を全部飲んでしまって一息つくと、


「じゃあそろそろ僕はこれで……」


何か照れながら、そそくさと部屋を出て行ってしまった。

展開の早さに、俺もマキアもポカーン。


「………」


「……は?」


何だあいつ、口で否定しつつ奥さんの所へ行ったぞ。

俺がお前の妹のヤンデレ姫に手を焼いている時に、新婚さん幸せオーラをふりまきやがって。


しかしマキアはクスクス笑っている。


「何だお前、やけに楽しそうだな」


「……ユリシスとペルセリスが上手くいってそうで、良かったなと思って。色々とあった二人だもの。今度こそ、末永く一緒に居て欲しいと思うわ」


「へえ意外。お前は嫉妬するかと思ったけどな」


「……そこまで心の狭い女じゃないわよ。何あんた、私を馬鹿にしてる訳?」


「別に?」


マキアのジトッとした視線を軽くかわしながら、紅茶を啜ってホッとくつろぐ。

やはりこのポジションは落ち着くものがある。


「なあマキア。何か欲しいものあるか?」


「……何それ、直球ね。誕生日の事だったら、別に何もいらないって言ったでしょう?」


やはりマキアはそう言う。

ですよね。


「でも誕生日、あんたも来れそうで良かったわ。……もしかしたらトールは無理かもって、今朝の様子を見て思っていた所だったから」


「まさか。そこはほら、ちゃんと……行くとも」


「なにその曖昧な返事」


マキアはムスッとして席を立ち上がる。何か怒らせたか?

しかし彼女はドレッサーまで歩いていくと、しかめっ面で鏡を覗き込んでイヤリングを取ろうとする。


「もう、やっぱり複雑な装飾のイヤリングはダメね。……耳が痛いし……あいた……っ。ほら、髪にも引っかかっちゃうし……あたたた……」


どうやらイヤリングが髪に引っかかって、上手く取れないようだった。

俺はマキアの側に寄って、引っかかった部分を確かめる。


「かしてみろよ」


「ほら、金属の部分に髪が引っかかっちゃったの」


「ややこしいなら、イヤリングなんか付けなければ良いのに。そう言う訳にもいかないのか?」


「そう言う訳にもいかないのよ。特に王宮に居る時は。それでなくても年齢的には、私はまだまだ小娘だもの。舐められちゃうでしょう? 見栄くらい張らなきゃ」


「……大変だな女も。ほら、髪を押さえていろよ」


マキアが腕を後ろ髪の方に回して、髪を押さえる。俺は彼女の髪にひっかかったイヤリングを確かめつつ、ゆっくりとそれを外す。


「あいた……ちょっと、引っ張らないでよ」


「あ、ごめん」


イヤリングを髪ごと少し引っ張ってしまったらしい。彼女は痛そうに目に涙を溜めている。


「なんか中途半端に髪を引っ張られた時って、絶妙に痛いのよね」


「だからごめんって」


「あれだったらもう、ハサミで髪を切ってちょうだい」


「それはいかんだろ。髪は女の命なんだろ?」


「なにその古くさい説」


男前なマキアさんがドレッサーからハサミを取り出し、本気で髪を切ろうとしていたから、俺はそれをすんでで止めて、ハサミを貸す様に言う。

マキアが自分で切ると、きっとごっそり髪を持っていかれるぞ!!


「必要があったら俺が切るから」


「……そう」


マキアは納得した様にコクンと頷くと、いつもハーフアップに髪をまとめているリボンをほどいた。

長い髪がふわりと解かれ、閉じ込められていたフローラルな香りが一気に広がる。


「………」


俺は驚いてしまった。

一瞬固まる。


「……ちょっと、せっかく髪をほどいて切りやすい様にしたんだから」


「あ、ああ……」


あれですな。男はシャンプーの匂いに弱いと言うけれど、あれと似た感覚かもしれない。

いきなり妙な緊張感に襲われる。


いつもの高飛車リボンが無いだけで、マキアが随分大人びて見える!!


「ちょっとあんた、大丈夫? やっぱり私、自分で切ろうか?」


「い、いやいやいや、大丈夫ですから」


「なんで敬語?」


俺は深呼吸して、イヤリングの絡まった髪の部分だけちょいちょいと切った。

耳元とか首筋とかチラチラと気になるけど、そこは平静を保って。


って思っていたら、切った髪が首筋を流れていって、胸の谷間に落ちると言う危険な罠。

マキアは特に何て事の無い様に谷間から髪を摘んで、隣のゴミ箱へポイッ。


もうすぐ15歳の娘とは思えない反応ですね。流石です。

それ以前に、もうすぐ15歳の娘の胸が、引っかかりのある程育っちゃってる事自体が罪なんですけどね。



さて、取れたイヤリングを持ってみると、それは割と小さめな方だけどずっしりと重い。


「なるほど。これは耳に負担だな」


「でしょう? もういっそ新しいちっちゃいの買おうかしら」


彼女はもう片方のイヤリングを外すと、それらをドレッサーの上に置いて、長いウェーブのかかった髪を払う。

その様子をまじまじと見てしまった。


「……何よ」


「いや、だんだんと紅魔女っぽくなってきてるなーと思って。ほら、昔はそれに三角帽子をかぶってただろう?」


俺は彼女の頭の上で、三角を描く。

魔女らしい帽子を、かつての紅魔女はかぶっていた。


「それはそうでしょう。紅魔女だった頃の私は、セブンティーンの見た目をキープしていた訳だし。……あんたはまだまだ、黒魔王にはほど遠いわね」


「………ほっとけ」


マキアは軽やかに先ほど食事をしたテーブルに戻ると、ベルを鳴らして王宮の召使いに食器を下げてもらっていた。

ドレッサーの前から動けない俺は、ふと考えた。


そう言えば、黒魔王の見た目の年齢ってどれくらいだったっけ?

確か、20代後半くらいだったか。大人の男だったはず。


見た目の年齢はいつの間にか止まっていたから、あまり覚えていないが。



「…………」



ドレッサーの鏡に映る俺は、やはりまだまだ若造に見える。

マキアがほど遠いと言った意味も、理解出来るってもんだ。


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