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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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06:レピス、黒のトワイライト。

私はレピス・トワイライト。

ルスキアの顧問魔術師であり元紅魔女であるマキア様の護衛として、常にお側についています。


すでに王都ミラドリードには沢山の魔族が入り込んでいて、彼らは魔力ある者を食っては、“ある時”を今か今かと待っているのです。

レイモンド卿は、魔族たちが待っている時期を“大貴族会議”だと考えている様でした。

それはすなわち、エルメデス連邦が仕掛けてくる時期でもあります。






「ノア……やめなさい」


「……レピス姉さん」


私は仮面の男たちにとどめを刺そうとしているノアの手を掴んで、強く言いました。

するとノアは少し気に入らないと言う表情をしましたが、すぐに魔導要塞を解除し、手にもつ鎌を消しました。


仮面の男たちは血まみれで倒れています。


「ノア、このような輩に魔導要塞を使うものではありません。自分自身を傷つけるのですよ」


「……それの何が悪いの、姉さん。僕自身、もっともっと魔導要塞を使いこなしたいのに」


「この人たちは人間です。魔族ではありません」


「人間だって魔族と同じだ。だって魔族を操っているのは、結局人間なんだもの」


「………」


ノアは生き残ったトワイライトの一族の中で、一番幼い子供です。

しかし、誰より優れた空間構築の才能と、想像力を持っていて、私の兄である当主も一目置いています。


ただ子供が子供として生きる大切な時期に、両親を殺され魔族や敵を憎み、それらを殺すような技を覚えてしまったため、彼は少々歪み、そして魔導要塞の虜となっていました。


「ちゃんとあのマキア様をミッドガルドに連れて行ったんだ。文句は無いでしょう?」


「……ええ、何も文句はありません。よくやりました」


私はノアを引き寄せ、抱きしめました。

無性にそうしたくなったのです。


「やめてよ、姉さん。……姉さんはいつも僕を子供扱いするよね」


「子供扱いではなく、あなたは子供です。子供であると言う自覚をお持ちなさい……」


私がそう言うと、ノアは私を引き離し、すっぽりとフードを被ってしまいました。

怒っている時と、照れている時、恥ずかしい時、彼はこのようにフードを深くかぶるクセがあります。



「……では、皆降りてきて下さい……」


私は細い路地裏の、空の見える隙間に向かって顔を上げ、そう呟きました。

すると、空から数名の黒いローブを着た者たちが降りてきたのです。


私たちと同じトワイライトの一族でした。

実は、マキア様の護衛にはもう数名トワイライトの一族の者が付いていて、それ以外にもミラドリードの各所を点々と見張っているのです。


「レピス姉さん、この男たち、王宮へ連れて行くの?」


私にそう質問した長い黒髪を二つに結ったつり目の少女は、名をキキルナ・トワイライトと言います。

最近フレジールからルスキアにやってきました。


「そうですキキ。この者たちを王宮の地下へ。スカラ、後はあなたに任せますね」


キキの隣に居た大きなスキンヘッドの男を、スカラ・トワイライトと言います。

スカラは大柄のくせに無口ですから、頷いただけ。そこらの仮面の男をキューブの空間に閉じ込め圧縮し、それを懐にしまってしまいました。


「姉さん姉さん、ここに倒れている男の人は!? きゃはは、変なポーズっ!!」


「………その人は無関係です。決して連れて行ったりしない様に」


壁際で少しおかしなポーズで倒れ込んでいる立派な身なりの青年が一人。確かあのスミルダ・ビグレイツ嬢の騎士だったはず。

キキがさっきからおもしろそうに彼を指差しています。私はため息をつきました。


「もう、王宮へお戻りなさい。後は私が彼を連れて行きますから」


「……何だかあっさりで拍子抜け。ルスキアに来たらもっと面白い事があるかと思っていたのにな」


「キキ、当主があなたをルスキアへ送ってきた意味を考えなさい。トール様が残留魔導空間の遺産を利用した、新しい魔導兵器を考案しています。それに力を貸し、現実のものとする為に、あなたが送られたのです。魔導回路のエンジニアであるあなたが」


「……わかってるって、姉さん」


キキはつり目をニッと細め、「さあ王宮へ戻りましょう」とスカラの腕のローブを引っ張っています。

二人はスッと宙に消えていきました。









私とノアがミッドガルドのドアに前に立つと、ドアはひとりでに開かれました。


「おや来たね。……ちっこいのも居るね」


「……お久しぶりです、マダム・エグレーサ」


ドアを開いてくれたのは、この店の店主である、マダム・エグレーサ。メディテ家の元当主です。

私たちは店に入りました。



「レピス、ノア、良かった!! 何とかなったのね」


「……ええ。特に何も問題なく。魔族は処理し、男たちは王宮の牢へ」


「……そう」


私はそう言うと、思い出した様に、ノアに目配せ。

ノアはコクンと頷いて、手のひらのキューブを床に転がすと、その中からスミルダの騎士エリオットが出てきました。

まだ目を回して、しかもまた変なポーズをしています。


何が彼をこのようなポースにしてしまうのでしょう。

なかなかの美丈夫なだけに勿体ない。


「キャー、エリオットが目を回しているわ!!」


スミルダ嬢が頭を抱え悲鳴を上げながら、彼に駆け寄りました。

私とノアは、あまり一般人の前に姿を出してはいけないと思い、この店を出ようとします。


「ちょ、ちょっと待ちなさい二人とも」


「……!?」


マキア様が私たちに駆け寄ってきました。


「ありがとう、助かったわ。……ええもう、本当に今回は少し焦ったから」


「……いいえ、滅相もございません」


「ノア、あなたもありがとう。あなたの魔導要塞、ユニークで素敵ね。しっかり構築されていて、なかなかの乗り心地だったわ」


「……どうも」


ノアは被ったままのはずのフードを掴んで、更に深くかぶってしまいました。

きっとマキア様のような大物に褒められ、恥ずかしいのです。


「では、私たちはこれで。いつでも御呼び下さい」


「……ええ、帰り道も頼むわね」


「も、勿論です」


さて、勿論ですと言ったのは私ではなく、ノアの方。

ノアは思わず口から出てしまったのでしょうが、その後顔を真っ赤にして、またフードを深くかぶってしまいました。

このようなノアは、初めて見ます。


「………」


マキア様はノアの事をほとんどご存知ありませんから、「お願いね」と、ポンポンと頭を撫でたりしています。

私は少しだけ嬉しくなって瞳を細めると、ノアの肩を抱いて「では……」と、店を出ました。



その後、マキア様のご友人であるスミルダ嬢は、マダムのオススメのお守りを買って無事帰宅。

私たちも王宮へと帰り、無事一日を終えました。









「………」


私は自室のテラスの風通しの良い場所で、普通なら寒いと言われる風を浴びながら、小型のラクリマに話しかけました。


「……お兄様、お久しぶりです。……ええ、今日また、魔族が……。ええ、ノアはよくやってくれました。マキア様に褒められ、少し照れてしまっていましたが。……ええ、マキア様は凄い人です。ただの一言が、とてつもない影響力を持っていたり……ええ。ノアをあの方の護衛につけたのは、正解だったかもしれません……。今、ノアはマキア様と一緒にトランプをしているのですよ?」


小型の通信ラクリマで、兄であるトワイライトの当主に、週に一度の報告を。

兄は今、フレジールのシャトマ姫のお側で常に戦いの中に居ます。


兄は私に聞きました。マキア様はどういったお方かと。


「マキア様は、そうですね……。きっととても気高い人です。気高いのですが、それを表に出そうとはせず、常に我々と同じ目線であろうと努力なさっています。……私たちにもとても気をつかって頂いて、でも信じて下さっていて。最近は私も……まるで普通の友人であるかの様に思ってしまう時があるのです。恐れ多い事です」


視線を少し斜め下に落とし、思い浮かべる事は多々あれど。

兄は笑っていました。


「ですがお兄様、私は稀に、マキア様を見ていて思うのです。……あの方はとても素直で、感情的に見えますが……心の奥底の大切な事は、決して私たちに言わないのだな、と……。甘えたりもしますし、弱音を言ったりもしますが、本当の意味で弱みを見せたりしないのです……」



それは、私たちだけに、では無い。

トール様にも、ユリシス殿下にも。


トール様と、ユリシス殿下ですら、マキア様の全てを理解している訳では無いでしょう。

マキア様が何かをひたむきに隠している様に思ってしまうのは、きっと私が同じ女だからでしょうか。


私は続きを語ろうと口を開きかけ、少し言葉に詰まって、やめました。



「おやすみなさい、お兄様」



そして、敬愛する兄との会話を終えます。

何もかも、ただの私の憶測でした。


でもマキア様が隠したい何かがあるなら、私が探ったり語ったりするのは、野暮と言うものでしょう。



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