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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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05:マキア、ノアの小舟。


トールがルルーベット王女の騎士となった数日後、私はとある故郷の友人に会いに、城下町へ繰り出そうとしていました。

本当はトールも連れて行きたかったのですが、仕方がありません。いや、これはトールにとっては都合がいい事かしら。


そんなときの事でした。

レピスが私の目の前に、一人の少年を連れてきたのです。



「マキア様、トール様が護衛から抜けたので、レイモンド卿がもう一人お側にと……」


「……?」


レピスが私の前に連れてきたのは、彼女と同じ様に黒いローブを着た少年。

歳は11、12歳程に見える、まだ子供です。


「はじめまして……ノア・トワイライトと申します」


少年はまだ声変わりのしていない高い声で、でも素っ気なく挨拶をしました。


「ど、どういう事?」


私は目を点にして、目の前の少年を見下ろします。

この国にレピス以外のトワイライトの一族が来ている事は知っていましたが、彼らはフレジールとこの国を行ったり来たりしていて、とても忙しいらしく、ほとんど会った事がありませんでした。


それにしても、このような子供が居たとは。

黒髪黒目で、小さい頃のトールに似た面影があって、でももっと華奢で何とも言えずにぎゅっとしたい気分です。


「マキア様は公の場で魔法を使う事が出来ません。私だけの護衛力では少々不安ですので、このノアを連れてまいりました。まだ子供ですが、こう見えて僅か10歳で魔導要塞を構築した、トワイライトの一族の中でも特別才能のある逸材です」


「……へえ、それは凄いわね」


一番凄いと思ったのは、その名の相性と、その名から読み取れるこの少年のポテンシャル。

魔力数値は6000mg代とレピスとそんなに変わりませんが、とにかく名との相性がベストマッチで、空間構築の才能に溢れています。


ノアと言う少年は私をじっと見ていました。特別臆するでも無く、特別愛想良くするでも無く。

ただ観察している様子でした。


「よろしく、ノア。……あなたに名を付けた人は、凄いわね」


「…………よろしくお願いします」


私は手を差し出し、ノアと握手をしました。

その時のヒンヤリした金属の冷たさに、ハッとします。この子もまた、右腕が義手だったのです。

こんなに小さな子供ですら、体の一部を失っているなんて、少し心が痛みます。






寒い冬だと言うのに、ミラドリードは変わらず活気があります。

さて、私がわざわざ城下町にやってきたのは故郷の友人に会う為。

そう、デリアフィールドに居た頃の私の友人と言えば、お分かりですね。


12大貴族の令嬢でもある、スミルダ・ビグレイツ嬢です。


今朝いきなり、王宮に呼び出しの連絡が来たのです。

相変わらず自分勝手な子だけど、久々だから会いたいなとも思ったのです。

なんだかんだ言って、こうやって会いたいと連絡をくれる友人は、スミルダくらいのものですから。



「マキア!!! こちらですわよ!!!」


呼び出された高級レストランの入口にて、わざわざお出迎えしてくれたスミルダ。

相変わらずブルネットの巻き毛をツインテールにしていて、派手な出で立ちです。


「久々ねスミルダ」


「ふふん、あなたの誕生日が近いので、良いレストランを用意して差し上げたのよ。感謝なさい」


「………」


まあ自分勝手な奴ですが、悪い奴では無いのです。

長い付き合いなので、私がいったい何を喜ぶのか知っています。私の誕生日も覚えていてくれたのですから。







スミルダは、来月から始まる大貴族会議にビグレイツ公爵が参加するため、ミラドリードの別荘にやってきたと言う事でした。

側には、薄いベージュの髪を肩で切りそろえた美形の騎士が控えています。


「わたくしに仕える新しい騎士、エリオットですわ。マキア、あなたのトール様はいったいどこに?」


「……トールは今、ルルーベット王女の騎士をしているわ」


「あらあらやだ、マキアったらトール様を王女に取られてしまったの?? あらあらあらら〜」


「なにその顔」


スミルダは何だか妙にニヤニヤした、嬉しそうな顔をしています。

私はレストランの高級な肉料理に夢中になりながら、たいした事の無い様に切り返しました。


「来月の大貴族会議までの事よ。何でかは知らないけれど……」


「……そうですの?」


スミルダはグラスで高級な葡萄の炭酸水を飲みながら、少し気になる事がある様に視線を横に流しました。

何か知っているのでしょうか。


しかしすぐにいつもの得意げな表情に戻って、言いました。


「でもあなたは一応、王宮顧問魔術師なのでしょう? 騎士なんて必要無いですわよね」


「……まあねえ。でも、いつも何人か側に居るけどね」


「側に居るんですの?」


「ええ。見えない所に隠れているから分からないかもしれないけど……。魔術師が常に何人か居るわね」


「……魔術師……」


スミルダは僅かに眉を動かし、少し小声になりました。


「ねえ、マキア。折り入って頼みがあるのですが、ここら辺によく効く、魔法のお守りなんかが売ってあるお店ってあります?」


「………お守り? 魔法の?」


「そうです」


「あんたが必要なの?」


「い、いいえ。お父様の為のものを探しているのです。……ビグレイツ家は元々魔術師の家だったらしいのですが、今はただの一貴族ですので、わたくしは魔法の事は良く分かりません。来月からの大貴族会議は、今までのものとは違う意味を持つでしょう。お父様の身がとても心配で……わたくし、何かお守りがあればと思って……」


「……へえ」


スミルダがもじもじしながら言うので、少し新鮮でした。

やはりスミルダも、自分の父の事は心配で仕方が無いのでしょう。


「一つ、良い魔法雑貨屋を知っているわ。あんたが入るには怪しくて埃っぽすぎるけど」


「構いませんわ。お洒落で今時な、商店街の中にある魔法雑貨屋なんて、あんまりに効き目が無さそうですもの」


「……そう言うのは分かるのね」


「勘ですけど」


確かに、元魔術師の家だったと言うだけあって、ビグレイツ家の面々は一般人より少し魔力数値が高めです。

そう言った事もあって、魔術の波動には敏感なのでしょうか。








食事を終え、私たちは魔法雑貨ミッドガルドへと向かいました。

スミルダの用意していた馬車で大通りを進んでいたのですが、途中、馬車は急停止しました。

何やら大きな歓声が聞こえます。


「……何なのです?」


「スミルダ様、ここから先へは行けないようです。どうやらルルーベット王女ご一行が、ミラドリードの御視察をしている様で。王女はこれから、あらゆる地方へ御視察に参るらしいですから」


おかっぱ騎士エリオット君が、スミルダに状況を説明しています。

私は窓から顔を出して、その人だかりを確認しました。


「……わあ、凄い」


皆ルスキアの小さな国旗を持って、王女様のご帰還を祝っているのです。

御一行は見えませんが、その中にトールも居るのかな。


「脇の細道を通って、お店に行く事も出来るけれど。……でもその場合、馬車は通れないわね」


「いいですわよ。わたくし、歩きますから」


「……え!?」


あら意外。スミルダが自分で歩くと言うなんて。

昔は少し歩くだけでも使用人や女騎士のメルビスに駄々をこねていたのに。


「大人になったのねえ、スミルダ……」


「な、何なのですその顔は。マキア」


私は思わず親戚のおばちゃんみたいな事を言ってしまいました。








しかし、脇道に入ったのは失敗でした。

私はもう少し慎重になるべきだと、“その”異様な気配を感じて思ったものです。


人々はみな王女ご一行を見に行って、脇の細道には人っ子一人居らず、とても静まり返っています。

でも私たちを見ている何かの気配だけは、じっとずっと、付いてきているのです。


「……まずいわね」


スミルダが居る時に、これはまずい。

誰かが私を狙っているのか。それとも、魔族が……。


「どうしましたの、マキア」


「……スミルダ、私の側を離れてはダメよ」


私はそう言うと、視線を上に向け、大声で「レピス!!」と、彼女を呼びました。するとどこからとも無く、ふわりと黒いローブをゆらし、目の前にレピスが現れました。


「な、何ですの、その人!!」


いきなり現れたので、びっくり仰天のスミルダ。

しかしレピスはいつもの様に淡々とした口調で、私に。


「マキア様、囲まれております」


「……人? それとも……」


「それとも、の方です」


と言う事は、魔族が私たちを狙っていると言う事。

私の魔力を嗅ぎつけてきたのか、それともスミルダの一般人より多い魔力に惹かれたのか。


「この場は私にお任せ下さい。その隙に、そちらの令嬢をお連れになって、ミッドガルドへ。あそこへ行けば、安全です」


「……大丈夫なの?」


「ええ。小物です」


「………分かったわ。あなたも無理をしないでね」


「分かっております」


お互い頷き合った、その瞬間、私たちは呼吸を合わせる様に臨戦態勢。

私はスミルダの手を引いて、「走って!!」と。


「ななな、何ですのマキア!!」


「説明は後。とにかくこの場を離れるわよ!!」


「いかがなされた、マキア嬢!!」


スミルダの騎士のおかっぱ君が妙な顔をして腰の剣に手をあてていますが、私は走りながら説明出来る程器用ではありません。

とにかく付いてきてもらうしかありませんでした。



しかし、後少しでミッドガルドのある通りに出る曲がり角で、私たちは謎の男たちに遭遇しました。


「!!?」


真っ白の仮面を付け、顔を隠し、マントを羽織った男たち。

その風貌は怪しすぎますが、手には剣や、他大陸の銃を持って、こちらに構えています。あきらかに敵です。


「キャー、暴漢よ暴漢!!」


スミルダが金切り声をあげ叫んでいます。騎士エリオットが剣を引き抜き、「うおおおおおお」と男たちに向かって斬りかかっていきましたが、相手の剣に止められ、そのまま他の男に壁に叩き付けられノックダウン。


「弱っ!! あんたの騎士弱っ!!」


「キャー、エリオット!!」


エリオットが弱いのかこいつらが強者なのか。

私は仕方が無いと思って、魔法を使おうと親指を口元に当てましたが、その瞬間、私たちの目の前にストンと降り立った黒いマント。


小柄な少年でした。


「……あ、ノア……っ」


そうだった。

ノアが私の護衛に付いたのだった。すっかり忘れていた。


ノアは私を横目にチラリと見上げると、手の甲を目の前にかざし、トールと同じような、正方形のキューブの立体魔法陣を形成。

仮面の男たちが銃を撃ってきましたが、それらは全てこのキューブによって迎撃されました。

流石は空間魔法。このような事もお手の物です。


「マキア様、ミッドガルドまで僕の“舟”が連れて行きます。その舟から、絶対に降りないで」


「……舟?」


ノアの言葉に疑問を持った時、一瞬で変わった視界に、私は驚きました。


私とスミルダはいつの間にか、小さな船に乗っていたのです。

小道は小川の様に見えました。


「キャー!! 舟よ、舟に乗っているわ!!」


スミルダは舟の上でガクンと膝をついて、さっきから騒がしいです。

でも無理もありません。自分をとりまく状況が一瞬で変わったのですから。


「魔導要塞……“ノアの小舟”……」


ノアはかざしていた手の甲をグッと握りしめ、そして人差し指を弾きました。

すると私たちの乗っていた舟は、男たちの間をまっすぐに進んでいきます。ゆっくりと、ただ指示された場所まで。


「ノアの小舟は前進を妨げる事の出来ない、守護空間。乗っている者を攻撃する事も出来ない」


ノアはニヤリと笑って、得意げに。

彼の言う通り、私たちの乗っている舟を、仮面の男たちは攻撃出来ないようでした。

剣は振り下ろす事が出来ない、銃は撃つ事が出来ないというように。


「ノア!!」


私はだんだんと遠ざかっていくノアの名を呼びましたが、彼はただ頷いただけで、あとは不敵な笑みを浮かべ仮面の男たちを睨んだまま、こちらを見る事もありません。


ノアの笑みが気になりましたが、舟が止まる事はありませんでした。






私たちはノアの小舟に乗って、無事ミッドガルドの店先に着くと、そのまま店内に駆け込み扉を閉めてしまいました。


「おやおや、いったい何だって言うんだい」


「マダム・エグレーサ……店の外に魔族と、怪しい仮面の男たちが……っ」


「おやおや、とにかく店の奥へお入り……ヒヒッ」


私は座り込んだまま立てないスミルダの手を引いて、店の奥へと入り、以前ペルセリスが退行催眠の際寝ていた部屋の長椅子に、彼女を座らせました。


「大丈夫、スミルダ……」


「え、ええ。……しかし、あれはいったい……。エ、エリオットを置いてきてしまったわっ!!」


「大丈夫よ、きっとあの二人がどうにかしてくれるわ。とても強い魔術師なの。だからここから出てはダメよ」


「……そうなの……」


彼女はホッとした様子で、息を大きく吐きました。

あの様にへっぽこな騎士君でも、彼女にとっては大切な騎士だと言う事でしょう。


「一時、この店から出ない方が良いわね……」


私は窓から、淀んだ空を見上げました。

その色味は、このミラドリードに迫るあらゆる怪し気な空気を、表現したかのようです。



レピスとノアの事が気がかりでした。



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