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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第三章 〜王都要塞編〜
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04:トール、ビビり上がったり感動したり。


レイモンド卿は言った。

ルルー王女の騎士になるのは、ほんのひと月ほどの事だと。大貴族会議が終わる頃までの事だと。

いったいそれがどういう事なのか、あの人は教えてくれなかった。



俺は寝床で、マキアへの言い訳を色々と考えていたが、どれも結局怒らせる事になるだろうという結論に至る。

そして、以前俺のカルテッド行きが決まった時の事を思い出していた。


あいつは子供の様に拗ねて、俺に殴る蹴る引っ掻くなどの暴力を働き、一ヶ月まともに口を聞いてくれなかった。

日本語のメモだけのやり取りで、本当にひと月を過ごしてしまったのだ。


あの時は色々と堪えたが、あれはあれで、最後の方のマキアの折れっぷりが潔く可愛かった気がする。

しりとりしたっけ。


「……ふん」


って、何思い出し笑いしてるんだそれどころじゃ無いから。

それどころじゃ無いから!!


俺の部屋の天井のシャンデリアには、無数の雫型の飾りがぶら下がっているから、眠れないときは月明かりを頼りに、それを数えたりする。








「…………」


朝、目を覚ますと、まず視界がいつもと違う事に気がついた。


そもそも部屋の天井が見えない。

天蓋付きのベットのようだ。


それに俺のベットはこんな細かい刺繍や、白いヒラヒラした乙女チックなレースなんかついていなかったはず。


「おはようございます、トール様」


さっきから気になってはいた。隣に人影がある事を。

気にしない様に気にしない様にしていたのだ。


「……へ?」


隣に、淡いブルーの、絹の寝巻きを着たルルーベット王女が。

なぜか当たり前の様に、寝起きポーズであくびをしている。


一緒に寝ていた……だと……?

この展開は予想していなかった!!


「えええええええええ!!!」


俺は慌ててベットから飛び降り、昨夜の事を思い出す。変な過ちは無かったはず。

いや確かに、俺は昨日天井のシャンデリアのガラスを数えて寝たはずだ。


妙に甘ったるい匂いが、この部屋中を満たしている。


「あの、ルルー王女……こ、ここはいったい……というか、俺はいったいなぜこんな場所に……?」


ベットから随分離れた壁際で、俺は目を点にして尋ねた。

部屋の隅には沢山の人形が綺麗な着物を着せられ、並べられている。若干不気味だ。

そして、控えめに佇んでいる同じ顔のメイドが二人。

双子かなにかだろうか。人形と間違える程表情を変えず、ただじっと俺を監視している。


ルルー王女は天蓋付きベットの、外側を囲む透けたレースをめくって、笑顔でこちらに向かってやってきた。


「ここはわたくしの部屋ですが、何か不思議な事が? 騎士と姫は常に一緒に居るものでしょう……? いかなるときも、例え寝ているときでも、側を離れず守って下さる存在……。姫に全てを捧げ、ただただ愛して下さる存在……」


「いいえ、そんな事はないと思いますけど」


きっぱり言ってみる。

それはきっとどこぞの恋愛小説の話です。


「そんな事はありませんわ!! ジブラルタの王女には常に7人の美形の騎士が側にいて、何から何まで面倒を見ていましたし!!」


白雪姫か!!

と、つっこみたかったが、やめた。

ジブラルタは女性の方が強いと聞いた事があるが、なるほどそれが噂の逆ハーレム……。


「わたくしだってルスキアの王女ですもの……わたくしの事だけを見てくれる、わたくしだけの騎士が居てもおかしく無いでしょう?」


「…………」


「忠誠は絶対的な愛の証……例えわたくしが悲劇的な運命のもと、怪物の生け贄に捧げられようとも、敵国の花嫁にされようとも、悪党に攫われようとも、騎士様だけはわたくしを助け、その悪戯な運命から救い出してくださる……。世界中で誰もが私を見捨てようとも、騎士様だけは私と共に生き、そして共に死ぬと、あなたが居なければ生きてはいけないと言ってくださる……」


「……えーっと……」


「初めてお会いした時から、わたくしの騎士はあなただけだと確信していました。だってあなたはわたくしを受け止めてくださったもの。あなたは物悲しそうな瞳でわたくしを見ていた。東の国の出身だからと、孤独に打ちひしがれておられた。……わたくしがその孤独を癒してさし上げなければ、と……」


「…………あ、あの……」


えええええええ。

えええええええええ!?


誰がいつ孤独にうちひしがれたって!?


ルルー王女は笑顔だが、瞳はぱっちりと開かれていて、そして眼に光が無かった。

彼女の手には何故か飾りのついた小刀がっ!!


「……」


こ、これはまずい…。

姫様は色々な意味で病んでおられるのだ!!!


「トール様、わたくしの騎士様となって頂けるのでしょう?」


「……いや、あの……俺はまだマキアの騎士ですから、彼女の了解を得なければ……」


先日のパーティーでは全く気がつかなかったが、ルルーベット王女は清楚可憐な容姿の裏に、とんでもない怪物を飼っておられる。

この手の女性は大変厄介だと、俺の黒魔王センサーが警報を鳴らしているのが分かる。


王女はマキアの名を聞いて、少しきょとんとしていたが、すぐにまた目に光の無い笑顔になると、


「では、あのマキア嬢に、今すぐわたくしの騎士になるとおっしゃって下さい。わたくしはルスキアの王女。逆らえるはずもありませんもの。……必ずあの魔女から、トール様をお守りいたしますわ」


「…………」


双子のメイドの一人から金属のシンプルなブローチを受け取り、その裏に勢いよく小刀で自分の名を掘る。

なぜだろう……凄く寒気がした。


「これをどうぞ、トール様。わたくしとあなた様の永遠の絆の証に……」


「絆……って」


絆と言うのは、積み上げていくものであって、このように会って間もない姫と騎士の間に成り立つものなのだろうか。

しかし、双子のメイドの視線が妙に痛いのと、この部屋から早く出たいのと、姫君を怒らせてはいけない気がする直感的なものから、俺は一応そのブローチを受け取り「では……ありがたく」と言って冷静に部屋のドアの元へ一直線。


「失礼しました」


笑顔で部屋を後にした。








「やばいやばいやばいやばい……あれはやばいって……」


あれは怖いって。


レイモンド卿はこれを知っていて俺を監視として差し向けようとしたなら、一言言ってやらないと気がすまない。

ユリシスのアホ!! 健気な良い子だって言ってたじゃないか!!


マキアあああああマキアああああああ!!!

助けてくれ!!


元ハーレム黒魔王ともあろう俺が、一人の姫に本気でビビって早歩き。


しかしふと立ち止まって、この場所がどこか考えてみる。

棟は北側の離れで、渡り廊下を渡らねば行けない場所だった。


これならば俺たち顧問魔術師の方が、よほど城の中心部の良い場所に部屋を設けられている。

一国の姫君がこのような離れの塔に居るとは、何とも不思議な話だ。








「どうしたのトール、何だか青ざめているわよ。寒かったの?」


いつもみたいに庭園からマキアの部屋に来た訳ではない。

廊下を渡ってやってきたのに、この震えよう。マキアはきっと不思議に思っただろう。


彼女は自室でアップルシナモンティーをいれてくれた。


「ん〜……冬ってこういったスパイスの利いたものを、体が欲するわよね」


「そ、そうだな……」


「なにあんた、さっきから様子がおかしいわよ」


「………」


俺は机の上に、先ほどルルー王女から頂いたブローチを置いて、マキアを見た。

マキアはそのブローチを前に、不思議そうに首を傾げている。


「マキア、ルルー王女から、専任騎士になる様にと言われた。レイモンド卿にも頼まれた。でも、お前が嫌なら、嫌とはっきり言ってくれ。俺は断ろう」


「……何で?」


「………え?」


目が点。

マキアは至って普通であった。


「別に、あんたはもう私の従者じゃないし、一人の王宮の騎士として王女に仕えるのは当然ってもんでしょう。たった一ヶ月なら、べつに構わないわよ。出世したわね、あんたも」


「………」


あれ、おかしい。昨晩したシミュレーションではここでマキアは俺に殴る蹴る引っ掻くの暴行を働き、あげくベットにくるまって出てこないはず。


こうもあっさり納得されると、拍子抜けというか、微妙に残念である。


「それにしても、悪趣味なブローチね。名前まで掘ってあって…………あいたっ……」


ブローチを弄んでいたマキアが、その名の掘ってある部分の金属の尖りに、指を切ってしまったようだった。

ポタポタと血がブローチにこぼれ落ちる。


「ああ、お前……気をつけろよ」


マキアは指先を切る事に慣れているため、ちょっと蚊に刺されたくらいの態度だが、俺はいつもの様に胸ポケットからハンカチを取り出し傷跡に当てる。

そんな事をしているうちに、俺たちの場合傷は治ってしまうのだが。


「ふふ……あんたは良い騎士になるわね」


「………」


「……ねえ、ちゃんとお仕事が終わったら、夕飯前には帰ってきてよね」


「……え?」


マキアは少し俯いて、足をぶらぶらさせながら、照れくさそうに言った。


「だ、だって………夕飯時くらいあんたがいないと、寂しいもの……」


「………マキア……」



マキアアアアアアッ!!!


何故か緩む涙腺。妙な感動。

ハンカチを巻いた指を何故か縋る様に握りしめる。


「あんた本当に、どうしちゃったの」


「いや別に…」


さっきルルー王女と居たせいか、マキアが側に居るとやはりホッとする。長年の付き合い、絆とはこういったものだ。

そしてふと、マキアは思い出した様に。


「あと、もうすぐ私の誕生日じゃない……? メディテ先生がね、メディテのお屋敷でおいしいものを沢山用意して下さるんですって。身近な人たちだけ集めて、一緒にお食事会するの!! プレゼントなんて何も要らないから、その日は絶対来てね」


「……うん……うん……っ」


勿論だとも。

俺がお前との約束を破るものか。


俺がいつまでも手を離さないから、マキアはとても不思議そうに、ポカンとしていた。



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