*透、歩幅のカウントダウン。
大変遅くなり、申し訳ありません!
更新が分かりにくいかと思い、地球編のかっぱ祭のみ第二章の後に、外伝2として移動しました。
混乱させてしまうかもしれませんが、これが最新話になります!
*一番下に頂いたイラストがあります。ご注意下さい!!
「あ、あんな所にかっぱが!!」
「UMAよ!! UMAだわ!!」
「限りなく緑色のかっぱだ!!」
こんにちは、透です。
文化祭二日目の午後一時過ぎ、校内をふらつく不審なかっぱが一匹。
「えー、こちら旧棟にて合同企画を行っております、“うちのかっぱ知りませんか?”でございます。ただいま我々が極秘で捕獲していたかっぱが脱走し、大変困っております。文化祭をお楽しみの皆様、もしうちのかっぱを見かけたら、旧棟二階のかっぱ本部まで連行して下さい。捕獲作戦に参加して下さる勇敢な方を募集中!! 見事捕獲された方には、お礼に特製かっぱ巻きスイーツをプレゼント!!」
放送部に協力してもらい、校内アナウンスが鳴り響く。
同時にザワザワし始めるお客様たち。
「あ!! あそこからそれとなくこっちを見てるかっぱが居る!!」
かっぱの影を見つけたら、皆何かしらの反応を見せる。
捕獲作戦に参加する者もそうでない者も、もうかっぱの影から逃げられない。気にせずには居られない。
脳内かっぱ祭な訳だ。
かっぱの着ぐるみを着た黒木先輩が、これまた姿を見せつつなかなか捕まらないもんだから、捕獲イベントも盛り上がるってもんだ。
最終的に他校の男子グループの連係プレイにより囲まれ、捕獲され連れてこられたが、かっぱ巻きスイーツと言う家庭科部特製の謎の菓子折りを進呈され、彼らもなかなか楽しそうだった。捕獲劇を見ていた客たちは連行模様を追って、かっぱ本部までついてきた者も多い。
男子グループは皆に拍手され、かっぱ捕獲の栄誉を称えられた。
「…………」
何とも言いがたい光景である。
「何かしら。もう黒木先輩かっぱのアミューズメント施設作ったら良いんじゃないかしら。きっと皆恥ずかしげも無くかっぱの皿を頭に付けてジェットコースターとか乗るのよ。テンションに身を任せネズミの耳を付ける様にね……」
「かっぱの皿は無えよ……」
確かに、千葉辺りに存在すると言われるネズミが支配する夢の国では、皆何故か魔法にかかった様にネズミの耳を付けてますよね。
ネズミーランド現象、良いと思います。
だけど、かっぱの皿は、無い。カッパーランド現象はきっと流行らない。
「おいお前ら!! 次はお前たちの番だぞ!!」
汗だくの黒木先輩が、かっぱの着ぐるみを脱ぎ捨てながら。
裏の控え室にてスポーツ飲料をがぶ飲みしています。
「大丈夫ですか?」
「美術系を舐めるな!!」
いや舐めるなと言われても……。
「良いか、3時から始まる企画代表戦第二弾の二人三脚障害物競争は、例の副会長が自ら戦場に出てくる。絶対に負けられない戦いだぞ」
黒木先輩は俺たちの肩に汗ばんだ手を乗せ、熱弁する。
とは言え、障害物競争であり二人三脚なんて、色々と危ない香りがするものだ。
俺とマキは視線だけ合わせつつ、ため息をついた。
「皆さんこんにちはこんにちは。放送席です。本日のメインイベント、“二人三脚障害物競走”が始まろうとしています!! グラウンドと体育館に設置されたあらゆる障害を、企画代表の男女一組が二人三脚で立ち向かう、色々な意味でデンジャラスな企画と言っていいでしょう。今年は規模を拡大し、非常に難易度の高い障害物が多いです!! これは運動能力試されますね……。えー、放送席には先ほど捕獲されたかっぱ、もとい三年生の黒木君に来ていただいています。黒木君は今年は女装したりかっぱの格好をしたり色々と話題の人物ですが、あなたは参戦しないのですね、せっかく無駄に運動神経良いのに」
「えーまあ、もっと良い若い連中が居るので……って、かっぱの中に人なんて居ないから!! 中の人とか居ないから!!」
自由すぎる放送席。
というか、黒木先輩お前、何やっとるんですか!!
「ちょっと透、何ボサッとしてるのよ。足にバンド付けないと」
「あ、ああ……」
丁度スタートラインにて、“うちのかっぱ知りませんか?”と書かれた緑のかっぱTシャツを着て準備をする俺たち。
他の企画の代表者たちも続々と集まってきているが、まあどいつもこいつも運動部運動部。文化部の俺たちはどこか浮いている。
だけどマキは長い髪をポニーテールに結って、気合い十分だ。
「意外とやる気だな、お前」
「久々にこの運動神経を生かせると聞いて」
両手にグッと力を入れ、「頑張る!」と。
何やら目がキラキラしているのは、障害物競走の途中にパン食いコーナーがあるからとか考えたら負けだろうか。
例の副会長たちが現れ、会場に既にいる客たちはザワつく。
なぜなら、副会長のパートナーは陸上部エースの、全国的にも有名な足の速い人で、また副会長本人も中学時代は陸上部だったと言う俊足コンビ。副会長の知名度も相まって、このコンビが優勝候補だと言う者は多い。
「うわあ……足速そうね……」
「見るからに陸上部だな。てか副会長のクラス体育会系のエリート多くない?」
こちら文化部の代表は、二人とも無名の一般生徒。
俺もマキもそれなりに運動神経は良いが、特別訓練された者たちに比べ、テクニックは一切無いし張り合えるかと言われたらハテナマークだ。
「しかも身長差が厄介だよな。おまえもうちょっと牛乳飲めよ」
「あんたが無駄に背が高いから!! 私だってもう少しで160行くもん」
「もうちょっとって?」
「……あと、3センチくらいで……」
「3センチって、もう少しなのか?」
俺はマキの頭に手をポンと乗せ、軽く笑う。それが気に入らなかった様で、彼女は俺の横腹に手刀を決め込んだ。
「ちょっと良いかな〜文化部代表の一年生さん」
そんな時、いきなり話しかけられた。
驚いた事に、例の副会長だった。ついでに隣に陸上部の男子生徒も居るが、モブ顔過ぎて視界からはみ出している。
「午前中は凄かったね〜。女装大会、絶対勝てると思ったのに負けちゃった。あの女装した彼、可愛かったね」
ニコリと微笑む先輩。あれ、やっぱりモデルをしている美少女だ。流石可愛い。
「君が斉賀君? 二年生でも有名だよ、一年生にカッコいい子が居るって」
「……はあ」
上目遣いの副会長は、常に笑顔。長い綺麗な足とほっそりとした体のラインを惜しみなく見せてくれるなかなか素晴らしいスポーツ着姿だ。流石モデル。
いかにも女子らしい仕草で、何だか新鮮な感じだ。マキもスタイルは良いが、こいつには無い何かが……。
「あいたっ!!」
マキがまた俺の横腹に手刀を決め込んだ。何か真顔なのが怖い。
「何の用ですか、先輩。負け惜しみですか? 激励ですか? 宣戦布告ですか〜?」
「…………」
マキの嫌みな微笑みったら無い。女子怖い。
副会長は少し表情を歪め、しかし腹の読めない視線で、俺たちを見ている。
さっきまで笑顔だったのに……。
「あっははは。織田さん……だっけ? もうちょっと身長があったら、モデルいけそうだよね。結構いい感じだよ」
「…………は、い?」
再び笑顔の副会長。
凄い、褒め言葉と嫌味、上から目線をミックスさせてきやがった。この女やりおる。
マキは若干額に筋を立てている。
「この競技は運動部強いから文化部には不利だけど……でも仕方ないよね、うん。気にしちゃダメダメ、楽しんだ者勝ちだからね!! まあ、お互い頑張ろっ☆」
「………」
キラキラしたきめ顔で、キャピッ☆とウインクした副会長。そのまま自分たちのスタートの位置に戻っていく。
最後まで陸上部の相方は見切れていた。
「……はあ……副会長凄いな、色々。まあ存在感ありますわ……」
「…………」
「ま、真紀子さん……?」
無言のマキは、拳を強く震わせ、謎の闘志に包まれていた。
「何が気にしちゃダメっ☆だ……文化部に不利な企画にしておいて……っ。まだ始まっても無いのに」
「……何、馬鹿にされたのがそんなにムカついた?」
「当たり前でしょう……何あんたちょっとデレッとしてんのよ、もうっ!!」
膨れっ面で地面の砂を蹴るマキ。
よほど悔しかったのか。
「さあいよいよスタートです!! この戦いが、明日の文化祭最終日の客足を左右することは間違いないでしょう!!」
スタートラインに立つ企画代表者たち。
ピストルの発砲音が鳴り響き、選手たちは一斉にスタート。
勢い余って先走るマキの足並みに揃え、お互いの呼吸を合わせ、俺たちもなかなか良いスタートを切った。
しかし二つ隣で走る副会長コンビの速い事速い事。ずば抜けて先へ行ってしまった。
この為にかなり練習していたのだろう。
「ちょっと透!! 遅れてるわよ!!」
「分かってるよ」
俺たちはお互い頷いて、第一の障害“網”を流れる様にくぐりぬける。
普通二人三脚だと足並みが合わなくて、立ち止まってゆっくりくぐるのだが、俺たちは止まらない。
お互いの歩幅は良く分かっている。
「うおおおおおお、第三滑走一年生、斉賀&織田コンビ、謎の息ピッタリ感で網くぐりを難なくクリア!! 前を行く副会長たちを追います!!」
「流石は文化部の星!!」
放送席が唸っている。その声が聞こえるだけ、俺たちはまだ余裕があった。
「次は!?」
「スプーンだ!! 障害物競走の常連キター」
“スプーン”とは、その名の通りスプーンにピンポン球を乗せ落とさず走るあれで、俺たちは二人三脚しながらこれをこなさなければならない。こればかりは運動部とか運動神経とか、関係あるのだろうか。
しかし流石に副会長組はそつがない。
なかなか手際良く、無駄無く、それなりに速いテンポでピンポン球を運んでいる。
「ああああ、私これ無理かも……こんな繊細な……」
「お前大味だもんな」
俺たちはここに来て若干のペースダウン。文化部の代表のくせに、このチャンスコースを生かせない。
マキが一回ピンポン球を落とし、慌ててそれを取りにいこうとして、俺と繋がった足の事を忘れ転倒。つられて俺も転倒。
「おっと!! かっぱ組若干苦手なコースの様だ!! 次々に抜かされていく!!」
「立てー、立つんだ懺悔同好会一年!!」
白熱する実況。俺たちは砂まみれになりながら立ち上がる。
「ああああごめん透!!」
「大丈夫だ、まだ始まったばかりだろ。いいか、足並み揃えるぞ。次はお前の好きなパン食い競走だ」
「う、うん!!」
俺たちは立ち止まる訳にはいかない。
一、二、一、二……徐々にスピードを上げながら、随分遅れを取ったその分を取り戻そうとする。
ずっと目の前には男女用に長さの違う紐に吊るされたパンが二つ。
他の競技者たちはその場で立ち止まり、ぴょんぴょん跳ねたり飛んだりして、少し手間取っていた。
だがしかし、だかしかし俺たちは止まらない。
マキはこれだけは絶対大丈夫。
俺はパンの位置までの距離を見ただけで計り、歩幅を計算。
あと十歩だ。
「10!!」
俺は足並みに合わせ、叫んだ。
マキは少し驚いていたが、次に足を踏み出した瞬間俺が「9」と言ったから、この数字の意味を悟った様だ。
カウントダウンが始まる。
「3、2、1ー……」
ゼロの声で二人合わせ、一気にジャンプ。
勢いのままパンへ直行コース。
その足を止める事無く、俺たちはパンを食わえ、ただ走った。
「きたあああああ!!! かっぱきたあああああ!!! 何と言う事でしょう。立ち止まる事無くパンを食わえていったぞ!! これは食いちぎっていったと言った方が良いのか!?」
グラウンドに、今までで一番大きな歓声が響いた。
そんな事どうでもいいと言う様に、マキはさっきからパンを頬張っている。走りながら食うとか凄いな。俺はくわえているだけだ。
「透!!」
「何だ!?」
「それ頂戴!!」
「………」
ダメだこいつ、早く何とかしないと。
と考えつつも、無言で俺のパンを与える。
「あげたあああああ!!! 一年生斉賀君、織田さんにパンをあげたあああああ!!!」
「あげんのかよ」
丁度放送席の目前だったため、無駄にシーンを拾われた。
黒木先輩も驚きのツッコミ。
女子たちが何故かキャーキャー言っている。訳が分かりません。
「次は麻袋よ!!」
「お、おう……」
元気になった真紀子さん。
食べ物の力は彼女には偉大すぎる。
さて、長い長い俺たちの戦いはこれからだ。
障害物数的な意味で。




