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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第一章 〜幼少編〜
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04:トール、貧乏くじに嘆く。


俺の名前はトール・サガラーム。10歳。

前世の名前は斉賀透。更にその前世は、この異世界メイデーアで北の黒魔王だった。


なのにどうしてこうなった。


何もかも勇者のせいですね、そうだと思います。

あいつが俺たちを殺したせいで、俺はまたこのメイデーアに転生したのだから。






今、俺は南の大陸の港町カルテッドで、煙突掃除夫をしている。

南とは言え冬になると少しは寒いからだ。

そう言った時、少年の小柄な体格をいかして煙突の中に潜り込み、煤をはらうのだ。


と言う話はどうでもいい。

問題は、なぜ俺がこんな事をしなければならないのかと言う事だ。


俺が生まれたのはここよりずっと遠くの、東の大陸だ。

南の人間は平和ぼけしていて分からないかもしれないが、東の大陸は激しい戦火の中にある。

北の大国エルメデス連邦の侵略により、荒れに荒れているのだ。俺の親父は、息子の俺とお袋を安全な南の大陸に移住させる金を稼ぐため兵士となって、そのまま死んでしまった。


しかし南の大陸に来たとしても、そう上手く事が運ぶ訳ではない。

お袋は元々体が弱かったせいもあるが、親父が死んで心身ともに疲れきって病気となり、今じゃずっと床に臥せっている。

俺が煙突掃除夫として稼がないとどうしようもない。


まあ、それでも俺はマシな方か。

この歳にしては物覚えが良く賢いと、親分には可愛がられているし、俺だって大人が喜ぶ事を心得ている。


お金が無くって学校へ行けなくったって問題なーい。

そこらの貴族のボンボンより頭良いです。

まだ子供だけど、見た目も悪くない。だって元ハーレム魔王だもん。将来黒髪黒目のイケメンになることは保証されている。

俺がちょっと大人のお姉さんに言い寄れば、可愛い少年を哀れに思って色々と恵んでくれたりする。

ちょろいもんだぜ。


「じゃ、ねーだろおおおおおお」


俺は港町の露店の建ち並ぶ道の真ん中で、思わず叫んでしまった。

叫ばずにはいられない。もう嫌だ。もうやってられない。


どんどん生活レベル落ちてるじゃねえか。

なぜ俺は今、この歳にして煙突掃除夫なんてやっているんだ?


魔王だったんです!! 俺魔王だったんですよ、皆さん!!

伝説上最も邪悪とされていた北の黒魔王だったんですよ!!

早すぎる中二病とかじゃ無いです。


地球での生活にも堪え難いものを感じていたのに、今じゃあれの方がマシだったとさえ思える。

食うものには困らなかったし、大砲が飛んで来て町が焼けてしまう事も無かったし、毎日ぼろぼろの服を着て働く事も無かった。



「………はあ。どっかに金づる、落ちてねーかな〜」


俺がとぼとぼ歩いていたら、後ろの方でひったくりがあったらしく騒がしかった。

振り返ってみるとゴツい海賊風の男が、貴族風のダンディーな男から荷物を奪って逃走中であった。


しかも、貴族さん途中で腰をやってしまいましたか。


「ははーん。良い金づるそうじゃねーか。一本釣りいきますか………」


俺は長年の記憶のせいか、勘がとても良い。

あの貴族風のおっさんは、きっと俺の求めている何かを持っている。


俺はモップをくるりと回して、走って逃げて来た大柄の男の足を引っかけ、荷物だけパッと取る。そして男が転ぶ直前で、その巨体をちょいと蹴って飛ばした。

まずかったのは果物屋のオレンジコーナーにつっこんでいった事だ。ごめん、果物屋の親父。


腰を痛めた貴族のおじさんが、何だか平和そうな顔をしたお供に担がれてやっときた。


「おい、おじさん。これおじさんのだろ?」


俺は荷物をそのおじさんに差し出した。

ふふん、俺は良い子なのだ。逆にこれを盗んだりしない。


知ってる。

ここでは恩を売っておいた方が後々良いってことをね。


「ああ、もしかして君がこの男を?」


「……まあね。あんた、見た所貴族様って感じだけど、この町じゃ大切なものは服の中にでも入れときな。そこの能天気そうな兄ちゃんじゃあ、ちょっと危ないぜ」


ま、これは本当の事だ。

デリアフィールドなんかの、人の少ない農耕地帯から来た平和ボケ野郎なんか、すぐに目をつけられる。

気がついたら有り金全部盗まれてたってこと、ざらだよ。


それにしてもこの貴族さんの人の良さそうな顔ったら。

こりゃあ、目をつけられるわ。

ただ、俺にとっちゃこの人は金のなる木かもしれんがね。


「君…名前は?」


ほら来た。

釣り竿に引っかかったぞ。


だけど俺は焦らない冷静な男。釣り竿は立てて、ゆっくり引いていくもんだ。



「トール・サガラームだ。煙突掃除の御用があったら、どうかごひいきにってね」



俺はその場を一度引く。

なぜならここでお礼を貰っちゃ、それでさようならになりかねないからだ。


ぜひとも俺に興味を持って、俺の所まで来てくれよ。



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