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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
外伝2 〜地球・文化祭編〜
118/408

*速水栄太郎、かっぱ同盟の結成。

更新が分かりやすいよう地球編の“文化祭編”のみ、第二章の後に移動しました。

ご注意下さい。



僕は速水栄太郎はやみえいたろう

青柳高校の二年生。UMA研究会の会長だ。









「というわけで、今年の文化祭における、文化部の展示場所は、本棟から旧棟に移す事になりました」


生徒会の副会長のドヤ顔の後、文化部からは悲鳴が聞こえた。

僕だってそうだ。今年は去年から引き継いだ河童のレポートの展示をしようと思っていたのに。


ここに居るものは皆知っている。本棟と旧棟の集客力の差を。


「ふざけんな!! なんで今までは文化部の使っていた教室を、運動部ばかりのクラス展示に譲らなきゃいけないんだ!!」


美術部部長で、文化部連合の会長である三年の黒木先輩が机を叩き付けている。

彼は美術部とは言え、見てくれは完全に極道の息子で、というか実際にそんな感じで、立場の弱い文化部のパトロンでもある。

ちょっと怖いけど、まあ文化部には居なくてはならない存在だ。


しかし黒木先輩の凄みにも屈しない今の生徒会は厄介である。

特に二年生の副会長、佐久間綾乃は、去年一年生にしてミス青高の名を手にしたアイドル顔のリア充。読モもやっている女子のカリスマ。人気そのまま副会長の座を手にした。

あーやという愛称で親しまれ、可愛いは正義の哲学で何をしたって許される。


サッカー部のマネージャーでもあり、イベント事には特に出しゃばる。ガリ勉風の会長は空気。


「しかしですね〜黒木先輩。去年の文化祭の事を覚えていますかあ? 集客力のある本棟の二、三階を毎年の様に文化部の展示に利用したけれど、どうみても盛り上がりに欠けていましたよね。なんというか……地味で?」


眉を八の字にして、困ったような笑みが正直ムカつく。語尾を伸ばす口調もムカつく。

と、黒木先輩は思ったであろう。いや、僕はそんな事思わないけど。


「ですから〜クラスを総動員した、もっと沢山の人に見てもらえる、需要のある今時の展示や模擬店をメインフロアで行う事を決定いたしました。客はそういったものを求めているんです。ですよね、会長」


「……う、うむ」


どこか押され気味の眼鏡会長。おいおいもっとしっかりしてくれよ、と。そんな事許されるのかよ、と。


「意義ありだ!! 文化部の発表を地味の一言で終わらせやがって!!」


「だったら〜もっとエンターテイメント性に富んだ需要のある展示をして下さいよ〜。何も展示をやめろと言っている訳じゃないんですから〜」


右側の高い所でふわふわの髪をまとめあげ、ピンクのリボンをつけている副会長。

その後れ毛を指でいじっている。ふざけた態度だが、言っている事はもっともで、これには黒木先輩も言い返せないようであった。


「そして〜UMA研究会の速水君」


「……はい?」


いきなり副会長に声をかけられ、少しドキッとした。

くりっとした大きな瞳はやっぱり可愛く、地味な僕が声をかけられる事などほとんど無いから嬉しく思ったりした。


「実は〜、言いにくいんですけどね。教室が一つ足りないんです。去年ほとんどお客の入ってなかった、そちらの展示? 今年は、無しと言う方向で。あ、どうしてもっていうなら、どこか他の文化部の展示に混ぜてもらって下さい」


「………」


撤回だ。

この性悪女め!!


可愛いなんて思った事無いもん!!


「…………」


他の文化部の部長や同好会長が、僕に変わってブーイングを巻き起こしているが、僕自身何も言い返す事が出来なかった。









「と、言う訳なんだ!!!」


「…………」


文化祭の会議が終わり、僕が真っ先にやってきたのは、この青高における7不思議の一つとなった謎の同好会“懺悔同好会”の部室だ。

旧棟の奥の、二階の端に存在する。正直ここまで来るのは大変だ。


いったい何を懺悔するのか、そもそもその懺悔に何の意味があるのが、何もかもがさっぱり分からない謎の同好会。

今年入学して来た一年生の三人が創設した。

まあ、ここまでならそんなに話題にならないかもしれない。しかし、問題は、これを作った者たちだ。


「で、それがいったい何なんですか? 速水先輩」


「………織田さん」


まず、一人目は同好会長、織田真紀子女子。その美貌たるや副会長とは真逆にしろ、入学当初から話題となった。

なるほどこうやって真正面から見ると、確かに可愛い。少しつった猫目で、色白だ。


「この同好会は文化祭に何か出展したりしないのかい? 今日の会議には居なかったけれど」


「………そういった同好会じゃないですから」


いぶかし気に顔をしかめているのが、斉賀透男子。背が高くて、憎らしい程イケメン。黒髪黒目で、チャラ付いていないのが女子に良いのか。少しストイックそうに見える所が良いのか。一年から三年まで凄い人気。

僕にしてみたら、愛想の無い嫌みな奴だが。


「しかしまあ、生徒会の言い分は強引ですね。先生たちはそれを許すのでしょうか」


「……文化祭は基本的に生徒主催だからね。しかも、隣の北高の文化祭と被っていて、毎年あっちの派手な文化祭に人を取られるんだ。副会長はそれに負けない様に、今年から派手にしようって事だと思う」


「………まあ、副会長の狙いも分からなくもないけど……せっかくの文化祭なのに文化部を地味の一言で片付けられると寂しいですねえ先輩」


ヤレヤレのポーズで、困った様に笑っているのは、一年生きっての秀才、由利静男子だ。

家が凄くお金持ちらしく、ボンボン風の余裕と気品に溢れた端正な優男。

たまに茶道部に居る。駆り出されていると言う事だろうか。この三人の中じゃ、一番よく見かける気がする。


それにしても、何だろうなこの三人は。一つ年下だって言うのに、それを感じさせない大人びた空気。

凄みと言うか。こりゃ大人しくしていても目立つわ。


「去年までは、人の集まりやすい本棟を、クラス展示と文化部展示で分けて使っていたのに、今年はクラス展示に二部屋づつ使ったりと、大々的に人気の出そうな模擬店や展示をするらしい。確かに、そっちのほうが人も集まるだろうし、クラス展示には目立つ運動部の輩もいる。去年のUMA研究会の展示も地味そのもので、人っ子一人来なかったとも。しかし、このままあの副会長の言いなりって言うのも癪だ。ぜひ君たちの力を借りたい!!」


「………はあ」


「共に、文化祭の展示をしよう!! 僕らの活動はどこか近しいものがあると思っていたんだ〜ずっと」


「………」


微妙な空気が、三人の間で漂っている。

でも、めげない負けない。負けられない。


「しかし、UMA研究会は部屋を貰えなかったのでしょう? 何か展示をするにしても、場所が無ければ………」


「………それは大丈夫! 黒木先輩が文化部に呼びかけているから」


僕は選挙のポスターの様に、拳をぐわしと握りしめドヤァ。

一年生の三人はますます胡散臭そうな顔をした。







「よく来たな、懺悔同好会諸君。まあ、そこらのデッサン椅子にでも腰掛けたまえ」


「…………」


懺悔同好会の三人を連れ、美術部員のいる美術室へやって来た。

そこには既に、この青高の文化部の部長クラスが集まっている。皆さっきの会議で心底腹が立っている顔であった。


黒木先輩が、円を描くデッサン椅子の中心で、どっしり構えている。

この人も凄いオーラだ。見た目は高校生にあるまじきがっしりした体格のオールバックだが、一応美術部です。

美しいものを描くのが好きな美術部部長です。


「………あの、これはいったい……」


「織田一年生、まあそう構えるな……」


黒木先輩は指をパチンと鳴らし、美術部員に紅茶を出させる。

まあ、コンビニのペットボトルの午後ティー(レモン)だけど。黒木先輩の所を尋ねるといつもこれが出るから、多分常備されているんだろう。

織田さん率いる懺悔同好会の面々は、何だか不審そうにキョロキョロしながらも、言われるがままにその場に留まった。

斉賀君が「面倒は嫌だぞ」とか由利君が「でも話くらいは、ね」とヒソヒソ話しているのが聞こえる。


「さて、文化部の諸君。生徒会の圧制により、我々は唯一の発表の場すら奪われようとしている。旧棟はそれほどに、ほとんど人の来ない場所だ。しかし、この決定を退けることは出来なかった。全ては俺が、あの時反論出来なかったせいだ。すまない!!!」


黒木先輩は椅子から降りて、美術室の真ん中で土下座した。

しかし、文化部の面々はそれを否定する。


「黒木君のせいじゃ無いよ!!」


「自分を責めないで黒木君、自信を持って!!」


「先輩はやれば出来る子!!」


黒木先輩は、学校全体を見渡せば、怖い極道の息子という浮いた存在だが、立場の弱い文化部を、体を張って守っているその姿を、文化部の面々は知っている。

彼は意外と愛されキャラである。


「…………」


しかし、今年入学して来た懺悔同好会の三人は、そんな事知る訳が無い。この場の空気に、ポカンとしている。


「……えっと……その、僕らはいったい、どういった用で呼ばれたのでしょうか」


由利君の、現実へと引き戻す一言。

黒木先輩はずるずると椅子に戻って、またふてぶてしい偉そうな態度になる。


「何って。文化部全体で一つのプロジェクトを企画するのさ。あんな風に文化を馬鹿にした生徒会を、俺は許さない。ここに居る部は、皆そう思っている。だからといって、一つ一つの部活が、毎年のようなありきたりな展示をしても意味は無い……だから、統一するのさ」


「……何を……ですか?」


織田さんの疑問に、黒木先輩はフンと得意げになって。


「かっぱ、だ」


「…………」


三人は少しの間沈黙を作った後、ひそひそ審議中。

当然、意味が分からなかったのだろう。


「まあ、聞きたまえ諸君。我々文化部に与えられたフロアは、旧棟二階と三階だ。賛同してくれた部活はこのとおり。美術部、家庭科部、被服部、写真部、映画部、茶道部、華道部、ロボ研、園芸部、演劇部、タップダンス同好会、UMA研究会……懺悔同好会……。まあ、軽音部と吹奏楽部は別な。あれは文化祭の華だから、俺たちとは住処が違う。……ちなみに、今回協力者として、山岳部のメンバーも文化部連合の一員としてこのプロジェクトに参加してもらう事になった。はい、拍手!!」


パチパチパチ。

運動部でありながら、部員二名で大会にも出られず、美術部の隣にある空き地でテントを貼ったり畳んだりしている山岳部のメンバー。多分、黒木先輩にスカウトされたのであろう。

人の良さそうなおっとりした山岳部の2人組だ。


「で、だ。UMA研究会の速水があまりにも可哀想と言う事で、我々は統一の展示テーマを“かっぱ”に決めた。それぞれの展示に、何かしらかっぱの要素を取り入れるのだ。ざっくり言うなら、旧棟を緑に染めよう!!」


「……ざっくりですね……」


「そうだとも斉賀一年生。既に決まっているのは、映画部の作る映画は、河童を探索し、捕獲するていのミステリーホラー。演劇部と山岳部、タップダンス同好会はこの映画に参加する事になった。勿論美術部も、美術として参加しよう」


「なぜ、タップダンス同好会も……?」


「フィナーレで、捕獲された河童と探索部隊がタップダンスを踊るからだ!! 出演者は今年の夏、猛特訓するしか無い」


「…………」


そんな映画、どこかにありましたよね。


「家庭科部と茶道部、華道部、園芸部、被服部には、3部屋ぶち抜きの大掛かりな和装喫茶を模擬店として企画してもらう。メインは抹茶和菓子!!」


「……緑ですね」


「そう言う事だ、由利一年生!!」


黒木先輩の二つ隣の席の茶道部部長が、由利君にウインクしていた。


「ロボ研と漫研、美術部、写真部、UMA研究会は、お化け屋敷風の展示室を作る。その流れで映画上映室にもっていければ完璧。どうだ、面白そうだろう!!」


「…………まあ、なかなかの企画力だと……」


「だろ!?」


黒木先輩は手応えを感じている様で、なかなか上機嫌だ。

僕は紙コップに注がれた、温くなったレモンティーを飲んで、この異様な空間を見渡す。

それぞれ文化部の部活は、自由度が低くなったとは言えこのプロジェクトへの参加に意欲を示している。かっぱという、普通ならふざけたと思える共通のテーマだが、すでに皆から緑色のオーラが出て来ている。


河童の展示を一人で企画しようとしていた僕から見たら、なんとも感無量な光景だ。


「……あの、概要は分かったのですが、それが僕らとなんの関係が……」


「何って。お前たちは客引きパンダさ」


「………は?」


「華のあるものは、目立つ所に!! 向こうがそうくるなら、こっちもパンダを置くまでだ!!」


「………」


失礼しました、と出て行こうとする懺悔同好会。

流石に今の言い方は無いでしょう、黒木先輩……と皆頭を抱えたが、黒木先輩は「待った待った!!」と必死になって彼らの前に立ちふさがる。


「どいて下さい、先輩。私たちはこれでも結構忙しいんです……」


「待ちたまえ、織田一年生。君らは色々と勿体ないのだ。……別に河童の着ぐるみを着ろと言っているのではない。その恵まれた素材を生かし、我々のプロジェクトの一端を担って欲しいと……」


「……えっと、失礼しました」


「待った待った待った!!」


どうしても冷めた瞳のままの三人に食い下がる様に、黒木先輩は「賄賂を!!」と叫ぶ。

ここで出て来たのは、美術部一年のエース、丸山女子だ。赤ふち眼鏡を光らせ、織田さんの前に立ちふさがる。


「織田さん、我が美術部から、賄賂を贈呈するわ」


「……!!?」


不敵な微笑みの丸山さんの手には、大きな袋があった。

駄菓子詰め合わせファミリーパックだ。よく500円くらいで売っているあの。懐かしいお菓子がたくさん入っているあの!!


しかしそんなもので、何がどうなると言うんだ。


「………」


織田さん、動かない。


「おい、おいおい、お前これで釣れたらちょろすぎだぞ。餌付けされているぞ!!」


斉賀君がなにやら焦っている。

ほら出て行くぞと、扉の方へしきりに促すが、織田さん動かない!!


「……まあ、僕らも一応文化部だから、少しくらい参加したって良いんじゃないのかな」


「何言ってんだ由利!! お前はお茶でもたててろよ」


「まあそう言わずにさ、透君。君が模擬店の前に立っていれば、女性客がわんさかやってくるっていうのは、もう約束された事実みたいなものだよ」


美術部員一同女子が、熱心に頷いたりしている。

斉賀君はとても嫌な予感がしているのか、望みの綱というように織田さんをしきりに見ている。


しかし織田さんの視線はさっきからずっと丸山女子のもつ駄菓子ファミリーパックにある。


「………ほーれほーれ。もう知ってるもんね、織田ちゃんがこういうのに弱いのって。……それにね、もし和装茶屋の看板娘してくれるって言うなら、きっと家庭科部の皆が試食させてくれると思うよ色々。……色々」


「……い、色々……」


色々、のフレーズが意味深だ。

斉賀君の「おいマキやめろ」の声も虚しく、織田さんは賄賂を受け取った。悔しがりながらも、その賄賂をひしと掴んでいる。


ここに、我々文化部の勝利の布陣が整った。


「よし!! 文化部連合の総合プロジェクト名は“うちのかっぱ知りませんか?”で、スタンプラリー形式!! 企画内の全ての展示を見た事で、見つかるかっぱがいるみたいな」


「……もうかっぱって何だっけ……」


かっぱのゲシュタルト崩壊……。

とにかくこの、文化祭の企画が出そろう夏休みの前の時期に、生徒会の言う華やかなパフォーマンスに対抗すべく集まった文化部のメンバーたち。巻き込まれた者たち。

彼らが今の所抱くイメージカラーは緑色。何か少しミステリー。


このシュールな題材を本格的に、とことん追究する事に意味があり、それが出来るのは文化部だからだと言う所を見せつけなくてはならない。

誰得と言いたくなりそうだけれど、逆に興味深いと言わせるクオリティを追究しなければ……。


さて、僕、速水栄太郎は、たった一人のUMA研究会のメンバーだったわけだが今年の文化祭は監修と言う立場になる。

かっぱかっぱかっぱ。


河童を調べてきた僕の知識が、この謎のかっぱ同盟に、大きな意味を持たせる事になるか。


そして、同じ様に謎の同好会、懺悔同好会の三人組が、このプロジェクトにどんな影響力を持つか。



緑色の青春を謳歌せよ。


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