表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第二章 〜王都精霊編〜
116/408

41:メディテ卿、朝酒語り。



「連絡も無しで朝帰りなんて……あんたなめてんの?」


「………あれ、起きてたのかいジゼル」


メディテ家に帰るや否や、妻ジゼルが睨みをきかせていた。

俺は帽子を取って、分厚いローブを脱いで身軽な格好になると、そのままドサッと長椅子に座り込む。


「なんだいなんだい、いつもは朝早くに家を出て夜遅くに帰ってこいって言ってるくせに。やっぱり俺が居ないと心細いんだねえ……可愛いねえ」


「消え失せて」


ジゼルは薄手の水色のネグリジェ姿で仁王立ちして、腕を組んだまま俺にガンを飛ばしている。

俺はニヤニヤしたまま「さてアーちゃんを見に行くかな」と。


「アーちゃーん……」


隣の寝室のベットの上に、小さな小さな我が子を見つけ、そのあどけない寝顔を覗き込む。


「ああ可愛いなあ。なんで我が子はこんなに可愛いのかね」


「……ちょっと、大きな声出さないでよね。起きちゃうじゃない」


「目元なんかが俺にそっくり」


「……そこは否定しないわ。だから少し不安を覚えるんだけど」


「………ふふん」


俺はアクレオスの額を優しく撫で、一時ただ眺める。

どれだけ見ていても飽きない可愛さと興味深さである。


「……今日は大変だったんだジゼル。ユリシス殿下と巫女様を見ていたら、無性に君らに会いたくなってね」


「とか言いながら、どうせあの方たちのストーキングしてたんでしょう」


「それはそれ。これはこれだジゼルよ」


「調子のいい事……」


相変わらずの皮肉めいた妻だが、俺はそんな彼女の肩を抱き、そのまま部屋を出る。

妻の機嫌をとる為に、今日は良い葡萄酒でも開けようか。







「あんた今日、午後からの四国会議に出席するんでしょう? 朝から酒をあおるなんて、良い度胸しているわね」


「と言いつつ、ちゃっかりグラスを用意する」


ジゼルであった。

彼女はムッとしていたが、俺に乱暴にグラスを渡すと、開けたばかりの上等の酒を注ぐ。


俺も彼女のグラスに酒を注ぐと、静かな朝焼けの時間帯にお互いグラスで乾杯。


「ユリシス殿下は、王位継承権を返上するそうだよ。それで、巫女様にプロポーズしたんだ」


「……それは素敵な話ね。あんたが推薦人を請け負ったの?」


「いやいや、そこは巫女様のお兄様に話をつけていたよ。とても良いパンチだった」


「………どういう方法で話をつけたのよ」


ジゼルのジトッとした視線が妙に嬉しいと思う俺はいったい。

葡萄酒を一口飲んで、フッと笑う。


「そう言えば、海の方向で妙な爆音が聞こえていたわね」


「そうそう。魔王クラス同士の白熱の一騎打ちだった訳だよ!! 燃えたな〜凄かったな〜。白魔術は爆発的な攻撃力が無いとは言うが、あれだけ魔法陣を好き勝手に使えれば、軍隊要らずの威力になる訳だ。規格外だよ全く」


「ふん……やっぱりあんた、随分なお楽しみ様だったんじゃない」


ジゼルは再びグラスに酒を注ぐ。流石ペースが早いな。

とは言え、こうやって俺の話を聞く為に起きてくれていた事を、俺はちゃんと知っている。


「教国の若様も帰ってきた事だし、これからますます面白くなると思うんだがね……。キーワードは揃いつつある気がするよ」


「……それって何?」


「うーん、色々ある訳だけど。“魔導回路”に、“神器”だろう……あと、“魔族”や、“残留魔導空間”だろう……? あ、そうそう、黒魔王が面白い事を提案してきたんだ。教国付近に残されていた手つかずの残留魔導空間、あれを資源に何か出来ないかと。トール君の力や、トワイライトの連中の協力を得られれば、新しい魔導事業に乗り出せるかもねえ。うちの研究機関も、いよいよ黒魔術に手を出しますか」


「とっくに魔導回路でグレーゾーンでしょうに」


「そうかも」


グラスをクルクル回しながら、俺は心躍るいくつかのキーワードと、魔王たちの繋がって行く様を想像してみる。

まだ想像の域を出て行く事は無いが、繋がりはきっとあると信じられる。


だって、彼らは時代を刻む者たちだ。

逆説的に考えて、新時代のキーワードが彼らと関係がない訳が無い。


「これから、また少し慌ただしくなりそうだよ。まず、ユリシス殿下と巫女様が婚約でもすれば、ルスキアは大きく盛り上がるだろうし、他国は少なからず反応しそうだよね。ま、その前に教国の連中が元白賢者という目の上のたんこぶを花婿に迎えれば、の話だが。まあそこはエスカが手を尽くすだろう……なんだかんだ彼は律儀で情が深いからね」


一度やると決めたら、彼は手を抜く事は無いだろう。

ましてや自分の妹である緑の巫女様の意志をないがしろにはしないだろうし。


「ユリシス殿下は本当に男らしい決断をした。王位継承権を返上するなんて、そうそう出来る事じゃないさ。とは言え、これはこれで色々と責任感大だなあ……次代の緑の巫女様を生まねばならないと言う……。お励みにならねば……」


「………あんたそう言う事本人たちの前で言ったら、セクハラで訴えられるわよ」


ニヤニヤしながら顎を撫で、ひとりでに頷く俺を、彼女は呆れるようなドン引きの瞳で見ていた。

とは言え事実である。教国にとってとても重要な事だし。


別におじさんのセクハラ的言動なんかじゃありません!!


「しかしそうなるとレイモンド卿はしょんぼりだろうな。第一王子の陣営は息を吹き返すかもしれないけど……はは」


「最近存在感無かったものね」


「そりゃあ、レイモンド卿が副王になって、ユリシス殿下が顧問魔術師になって、二人とも話題と期待に溢れていたからね。第一王子もそれなりに有能だと思うけれど、なにしろ王妃がなあ……。さてさて、どう出てくる事やら」


「……楽しそうね、ウル」


「楽しいとも。平和ボケしていたルスキアが、やっと動き出したんだ。不謹慎かもしれないが、やはり危機感は色々な事を加速させるよねえ……」


俺は少し酔っていたのだろうか。いや、いつもこんなテンポか。

今後への期待感が高まって仕方が無い。


「そうそう、さっき彼らと神様談議してたんだよ。いったい自分たちが何者だったのか、客観的に推測してたんだ。それで、少し面白い事を知ったんだけどね」


「………何?」


「神器の事さ。魔王クラスがメイデーアの創世神の生まれ変わりだと気がついてから、俺も勝手に神器の事を調べ、それらが魔王クラスと関わりがある事を知っていたけれど、2000年前にもそれらは密接に彼らと関わっていたそうだ。主の元に行く様になっているんだろうか……」


そして俺は、クスリと笑った。


「だけどねえ……マキア嬢だけ無いんだよねえ……」


何が無いかって。

神器との関係を含む、様々な神話との接点。判別する為の決定的な要素。


「神器が手元に無いから神を判別する要素が無いのか、神を判断する要素が無いから神器が辿り着けないのか、ましてやその両方なのかそれ以外なのか、さっぱりだねえ。やはり紅魔女は、色々と謎だよ」


「………マキア嬢……良い子だけどね」


「おやおや、君は結構彼女の肩を持つねえ。ま、我が子の名付け親だしね」


「………」


ジゼルはツンとして再び葡萄酒を一気飲み。

素晴らしい飲みっぷりだ。そしてまた注ぐ。


「あと、そうだ。ユリシス殿下は前世の息子である、“例の”棺に入っている子供を、大地に返すそうだ。問題は無いだろう……元々あの棺は作動してない訳だし。ただ、教国はどう動くだろうね……」


「………空席を憂うって事?」


「そうだね。特にエスカは、紅魔女を気にしていたし、うーん……。マキア嬢も大変だねえ……」


「でも、魔王クラスは何かしら大業を残さないといけないのでしょう?」


「それは、“回収者”であるあの金髪の彼の事情さ。勇者とも、カノン将軍とも言えるあの青年のね。もと聖灰の大司教であるエスカとしては、すぐにでも緑の幕を完成形にしたい所だろう」


と言いつつ、口元が笑っている俺は、本当に酷い男だ。

散々関わりを持って、それなりの関係を築きつつある彼らの危機に、ワクワクを隠せないんだから。


「……面白いよねえ……何一つ見逃す事なんて出来ないよねえ……」


「…………」


「魔王様たちの人生は、実に興味深いよ。むしろ彼らの人生こそが、このメイデーアなんじゃないかとすら思わされる。彼らはまさしく、この世界の主人公さ。争い憎しみあったり、殺したり壊したり、愛したり育んだり、そう言った一つ一つの行動がもれなく世界に影響を与える、まさに物語を紡ぐ権利を持った者たち。神であり英雄であり、勇者であり魔王であり、ただの人だ。あんな力をもっているのに、色々な事が上手く行かなくて、もがき苦しんでいるって、何だか凄いよねえ……。俺なんか結局、彼らの紡ぐ物語を読んでいる一般の読者に過ぎない。とは言え、ただの読者になりたく無いから、俺は記し手を担っているのかも……。見聞きした事を、ただその通り記録し、この世界に残すんだ」


「………それって読者じゃ無いじゃない」


ジゼルは瞳を細め、一つため息。

何かもう色々と諦めている表情だ。うんうん、良き理解者。


「あんた本当に、深追いしすぎてプチッとやられないでよね。あんたなんか、魔王クラスに比べたら虫ケラ同然のただの一般人なんだから」


「あれ……心配してくれてるのかいジゼル。感激だな……」


「一応あんたもあの子の父親なんだから、勝手に死なれたら迷惑なのよ。あんただって自分の父親が早く死んじゃって、色々と苦労したって言ってたじゃないの」


「まあ、婆様のスパルタ教育が始まった的な意味で」


「………」


俺の歪んだ性格は幼少期に出来上がったのではないかと思う。

まあでも、仕方が無いと言えば仕方が無かったのだ。普通の子供のままでは、メディテの当主として生き抜いて行く事はほぼ不可能だったから。スパルタ教育は婆様の愛の形だったのだろうと、今なら分かる。


とは言え我が子にはやはり、幼いうちからあのような苦労はさせたく無いからなあ。


「ま、ほどほどにしとこうかね」


「……そうしてちょうだい」


ジゼルはそろそろ目を擦り、小さくあくびをしている。

俺はというと、夜の興奮がまだ覚めやらぬというように全然眠たく無い訳だけど。


しかしまあ、午後から会議もある訳だし、少し睡眠を取っておこうか。


「………」


ジゼルがソファでうたた寝を始めたから、俺は寝室から毛布を持って来て、彼女にかける。

そろそろ肌寒くなってきたからね。


その隣でソファにもたれ、長く長く息を吐くと、あら不思議。

少し眠たくなってきた。



とその時、寝室で寝ていたはずの我が子アクレオスが泣き声を上げたものだから、俺もジゼルもすぐさま飛び起き、足並み揃えてそちらへ向かうのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ