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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第二章 〜王都精霊編〜
112/408

37:マキア、観戦実況ユリシスVSエスカ戦。

マキアです。

今まさに、一人の女性を巡った男と男の戦い(?)が始まる所です。

ちなみに私たちは海岸沿いの岩場にて観戦決め込んでいます。


「ぐー……」


緊迫した中、空きっ腹は正直です。ここにレモンソーダとローストチキンのサンドウィッチでもあったら最高だったのになと。

だってミッドガルドでちょっとしたスープを飲んで以降、何も食べてないんだもの。

あんな長いユリの夢を一緒に見て、お腹が減らない訳が無い。


「……お前……こんな時に……」


「正直ごめん」


ペルセリスが、あんなに心配そうにしているのに。でも絶対に目を背けないと言うような強い表情でユリシスを見ているのに。

私ときたら。


トールのドン引きした表情に素直に謝ります。







「白賢者の100精霊が超有名な平凡王道精霊なら、俺の大四方精霊は伝説の幻の神がかった超凄い精霊だ!!」


「……何が言いたいんです? ちょっと意味が分かりません」


びしっと指差し格好つけて言ったエスカでしたが、今のユリシスに冗談は通じません。

いつもなら戦いたくて仕方がない戦闘狂のイメージのエスカですが、今ばかりは戦いたくて仕方が無いのはユリシスの方だと思います。もうね、殺気と言うか闘争心と言うか、そう言うのがゆらゆら見え隠れしています。

こんなユリは滅多に見れるものではありません。


エスカはチッと舌打ちをして、足踏みを一つします。

すると砂浜がどんどん盛り上がっていき、小さな黒い海亀が沢山出てきました。


「俺の審判を始めるぞ白賢者!! 俺の大四方精霊の一つ、黒海亀のブラクタータだぜ!! ぶっ放すぞタータ!!」


「アイアイサー!!」


エスカが叫びながら魔法陣を砂浜に構築し、9つを連ねます。

それらはどこか濁った白い魔法陣で、模様はユリシスのものとは違うようでした。

筆で書きなぐったような不規則な陣です。


それらはバリバリと音をたて、現れたのは黒いバズーカ。


「第九戒召喚、精霊宝具!! 死ねや白賢者!!」


死ねや、辺りでもうバスーカを発射していたと思います。

大きな爆発と爆音は砂浜を抉り、私たちはその砂埃を直に浴びた……と思ったらトールがちゃんと透明空間で囲んで完全ガード。


それが戦いの幕開けの音でした。

ここからは白い光と魔法陣が空を覆い、綺麗な花火の時間です。


エスカのバスーカはユリには当たらず、ユリは風の精霊ファンの背に乗って空に回避し、そのまま空中の至る所に魔法陣を構築。

ユリシスの元にいる精霊は、現時点で14匹ですが、それらをどの段戒、どの用法で利用するかが鍵です。


ファンは空を迂回しながら、ユリシスの望む場所に魔法陣を構築出来る様にしています。

よく訓練された精霊です。


「フン……空中戦をお望みかよ」


エスカもバズーカを肩に乗せ海に走り込んで、魔法陣を6つ構築。


「大四方精霊、赤鳥せきちょうのフェニキシス!! 第六戒の姿を見せろよ!!」


バリバリと魔法陣を割って出てきたのは真っ赤な火の鳥です。

その美しさには目を奪われました。流石は伝説級の精霊。ちょっと普通じゃない神々しさがあります。


エスカはフェニキシスの背に乗ってファンを追います。

バズーカを大きなライフルに換装し、その銃口にまた魔法陣を構築。


「追加武装だ!! タータ!!」


「アイアイサー」


今や武器のタータがどこで返事をしたのか分かりません。

しかし、追加された魔法陣はライフルの弾のようで、それは雨の様にユリシスに降り注ぎます。


「……第三戒………精霊壁……」


ユリシスは冷静に、三つの魔法陣の精霊壁を二つ距離を置いて構築し、精霊壁を二重に配置。

弾丸を防ぎます。



「何でユリシスは精霊壁を二つ連ねたのかしら。第八戒の精霊宝壁の方が一つですむし、防御力もあるのに」


「………あいつは極力魔法陣を温存するつもりなんだろう。魔法陣の消耗戦になるかもと思ってるんだろうな……」


「でも、ユリシス程の魔力があれば、あんな奴……」


「それはどうだろうか。俺も一度戦った事があるから分かるが、エスカの力は正直読めない。あいつは精霊が少ない分、精霊の召喚にそれほど魔法陣を使わない。だからこそ火力の方に魔法陣を注ぐんだ」


私とトールは二人の戦いを見上げながら、戦いの流れを読もうとします。

トールは顎に手をあて、何だかとても興味深そうです。


「あれだけの魔法陣をストック出来るなんて、エスカの奴も相当魔力あるぞ。……あいつの本名が分かれば、お前に魔力数値マギベクトルを調べてもらえるが……」


「でも流石に、魔王クラスでない限りどんなに高くても6000mg〜7000mg程度だと思うのだけど。そうなると、白魔術の魔法陣のストック数はどのくらいかしら」


「現代白魔術でなら、6000mg程度の魔術師の個人ストック枚数は50枚程度だぞ。そっから現場での直接構築数含めても60枚行くか行かないか……」


「あの消費の勢いだと、もうすぐ尽きるわよ」


ところがエスカの勢いは留まる所を知りません。

既にどれほどの魔法陣を使ったのか分からない程です。


彼の高笑いというか狂った笑いは爆音の中嫌でも聞こえてくるので、彼にはまだ余裕があるのでしょう。

ユリシスはさっきから精霊壁で防御してばかりです。何か考えてのことだろうから、心配はしていませんが。


「もしかして……エスカの奴もまた、魔王クラスなのかも……。何かそれはあんまり考えたく無いが」


「え……?」


トールの言葉に、私は驚きました。トールはどこか唸りつつ。


「だって考えてみろよ。あの魔法陣量は異常だし、大四方精霊と契約してるなんて、俺たちの魔法系列の下だと判断出来るものじゃない」


「……確かに、そうね……」


少なからず、現代の魔法はどこか私たちの時代の魔法の延長上にあるのですが、エスカの大四方精霊に関しては白賢者ですら見つけられなかった古の精霊なのです。

私たちの魔法の系譜から少し外れた所にあると言えます。……たとえ同じ白魔術だとしても。





「逃げてばっかりだと白魔術の偉大な父の名が泣くぜ!!」


「………」


エスカはファンの飛ぶ方向を読んで先回りし、どこからか取り出した手榴弾の安全装置のピンを歯で引き外し、投げつけます。

ユリはファンの召喚を解除し、空中から海へ一直線に落ちていき、直撃回避。

しかしエスカがまっすぐにユリシスめがけ銃を構えています。


ユリシスは海上に三つ魔法陣を構築し、水面上にふわりと降り立ち、エスカの向かってくる空を見上げ手をかざしました。海の水にセリアーデの力が宿って、足場としているのです。


彼は僅かに口の端を上げました。


「………さあ、準備はできたよ」


「!?」


ユリシスは次に、魔法陣を4つ流し連ね、銀色の小刀を召喚しました。

これは光の精霊シルヴィエの第四戒召喚です。前に巨兵が現れた時、私の手を傷つける役目を負った小刀。


ユリシスは右手に小刀を持ち、左手の小指を空に突き出しました。

そして、その小指の先で、“何か”を切ったのです。


「……何!?」


ユリシスが指先で切ったのは………チラチラと僅かに光って見える、“白い糸”でした。


カラカラ糸を巻く糸車が、ユリシスの側に見えます。

これは綿花の精霊リエラコトンの第九戒の姿です。ユリの植物精霊の中で、彼に最も縁深い精霊と言っても良いでしょう。帰ってきていたんですね。


「綿花の精霊リエラコトンは、魔法陣を繋ぎ、その魔法陣の発動を操作する魔法補助の精霊だ。僕が今まで防戦一方だったその意味が、君にも分かるでしょう」


「あ? お前何を………!!?」


エスカがその魔術の発動を感知し、急いで振り返った時、夜空に浮かぶ大きな魔法陣の輝きに目を奪われたのは当然でしょう。

私たちだってあっけにとられたのですから。


百はある魔法陣がリコラコトンの糸に繋がれ、大きな陣の様に見え、今か今かと発動を待っていたのです。

それからはまるでピタゴラ装置の様に連続的な魔法陣の発動を生みました。


エスカが呆気にとられていた時、瞬間的に発動した防御壁によって顔面を強打。


「ぶはっ」


そのまま赤鳥フェニキシスから落ち、フェニキシスはその側で発動した第七戒、精霊の楔によって捕えられました。

エスカが召喚を解いたり、その他の精霊を召喚する間も与えることなく、彼の落下する真下で発動したピノー・ドラの第十戒最上位召喚、炎のドラゴンが魔法陣を割って現れました。


「何いいいいいいい!!!!」


ピノー・ドラは白賢者の精霊の中では、かなり攻撃力のある上位精霊です。

普段は江戸っ子トカゲのくせに、本来は雄々しい炎竜の姿なのです。


ピノー・ドラは両頬の炎袋を光らせ、一度首をしならせ、落ちてくるエスカに向かって炎の柱を放ちました。

私たちはここまで伝わってくる熱気に息苦しくなりながら。


「……うわああ……まったく容赦ねえな白賢者様は……」


「えげつない……」


エスカは炎の柱に巻き込まれ、まるで黒い炭の一点のように見えました。

しかも周囲に逃げ場を作らせる事無く、エスカを囲んだ魔法陣から追加攻撃。残りの精霊を第六戒召喚にて攻撃させるよう魔法陣を繋いでいたのです。

爆殺と言う感じで、哀れなり。


「……」


「ありゃ死んだな」


砂浜にて傍観する私たち。波が荒立って危ないので、岩場の上に登って行きます。本当にただの野次馬で、まるで花火でも見てる様。不謹慎ながら、目映い輝きと大きな音にワクワクが止まりません。

ペルセリスだけがハラハラして、胸元の服をぎゅっと握っています。


「……ペルセリス、大丈夫よ。もうユリシスが勝ったわ」


「………マキア……」


私は彼女の肩に手を置いて、彼女を安心させようと思いました。

しかしトールが大きく声を上げます。


「おい!! 待て、まだ終わってない!! ユリ後ろだ!!」





エスカは少し焦げていましたが、その爆発のしぶきに隠れ一瞬でユリシスの背後に回っていました。

そしてファイティングナイフでユリに斬りかかって行きます。


その刃物はユリの頬を微かにかすり、そしてそのままユリの首を狙って方向転換されました。

ユリはとっさに手に持つシルヴィエの小刀でエスカのナイフの軌道を流し、力任せに押さえ込みます。


「……っ」


二人は接近戦に入ったのです。

ユリシスとエスカは睨み合っていました。


「……いったいあの爆発からどうやって逃れたのです。あなたは精霊召喚の暇さえ無かったはずですが」


「ひゃははっ……。流石にあの仕掛けにはビビったが、俺だって防御の策をしてなかった訳じゃ無いんだぜ、白賢者様よお……っと!!」


エスカは三白眼をカッと見開き、ナイフを振り下ろしきり、ワンターン入れユリシスの胴を狙って行きました。

ユリシスはその場にセリアーデの水の膜を張って勢いを殺します。その僅かな時間でシルヴィエを第九戒に召喚し直し、細身の長剣にしてエスカのナイフを抑えます。


あれ、よく見たら、エスカの防弾チョッキが無くなっていました。


「……もしやあのダサい防弾チョッキが、あなたの防御への布石だったのですか?」


「おうよ。あれはブラクタータの防御壁の仕様の一つだぜ。それとダサいって言うなカッコいいだろうが!!」


「さっきから思っていたのですが、あなたの精霊は一つの段戒にいくつかの仕様があるようですね。それが大四方精霊の特徴だと言う事ですか」


「はっ!! 今更気がついたのかよっ!! 大四方精霊は一つの精霊が複数のエレメンツを掛け持つ一度で何度もおいしい精霊だぜ。特にブラクタータは第九戒に多くの仕様を持ち、俺に合った重火器系武装をイメージ通り作ってくれる!! しかも防御力も高い!! てめえの使えねえ精霊共とは違うんだよ!!」


刃物を交わしながら、いやはや、よく喋る敵だこと。

多分自慢したくて仕方が無いのでしょうね。


しかしながら複重エレメンツとは恐れ入る特徴です。ユリシスの100精霊には一体につき一つのエレメンツしかありませんから。




「ユリ、ヤバいかもな。あいつ接近戦は苦手だぞ。逆にエスカは超接近型だ」


トールは自分の経験上、エスカとユリシスの戦況に拳を握りました。

流石に魔王クラスにここまでやるあの中二病野郎……もといエスカは、ただの一般人魔術師とは到底思えません。


「あいつの本名さえ分かればな……」


爪を噛みつつ仕方の無い事を呟きながら、瞬き出来ない程の攻防を前に、エスカと言う男について思考を巡らせてみました。

ユリシスの足場はセリアーデの精霊壁によるものですが、エスカもその場に留まれると言うことは、彼自身の水の精霊によって足場を作っていると言う事でしょうか。


蒼竜そうりゅうのブルーウィンガム!! 小魚なんか食っちまえよ!!」


エスカがまだ見ぬ精霊の名を叫ぶと、ユリシスの足場が急に揺れました。二人の足場が競り合っているのです。

ユリシスは何とか踏ん張り、剣を構え直しました。


「遅えっ!!」


しかしエスカはその揺れた瞬間を逃さず、懐に入りナイフを一直線に喉元に持っていきました。


「ユリシス!!!」


ペルセリスが身を乗り出し、彼の名を叫びます。

ユリシスにその声が聞こえたのか、聞こえなかったのか、それはきっと前者でしょう。


彼はそのナイフの刃先にただ一つの魔法陣を作り、その衝撃で軌道を逸らし、すんでの所で刃をかわしました。

そして、エスカを追い越す様に一度足を踏み出すと、いつの間にかシルヴィエの召喚を解いていた手ぶらの右手で拳を作り、まるで長い長い糸でも引いているかの様に、その拳を勢いよく引きました。


そう、彼のリエラコトンの魔法の繋がりは、まだ終わっていなかったのです。糸の終着点は、彼の右手でした。



「第五戒………精霊乗算……」



拳に5つ連なった魔法陣が、更に何重にも連なっていました。

第五戒は威力の“上乗せ”、また“掛け算”の召喚です。

契約している精霊の質は関係なく、精霊の数がそのまま威力として、何か他の武器や攻撃に上乗せされる召喚方法です。多くの精霊と契約していれば、その分威力は掛け乗せられて行きます。彼は拳に、糸で繋いでおいた精霊たちの力を上乗せしたのです。


「……な……っ」


エスカは自分を越えて行ったユリシスを目で追いつつ、瞳を見開きました。

しかしその時には、既に何もかも遅く、ユリシスの右ストレートが彼のみぞおちに決まっていました。


そのまま、精霊の乗算により何倍も力を増したユリシスの“ただのパンチ”によって、エスカは自らの足場の範囲よりもっと遠くまで、海の波を割きながら吹っ飛んで行きました。


なんという「妹さんを僕に下さい右ストレート」。



月夜の中、不自然に割れる海の波のしぶきを、岩場の私たちも僅かに浴びながら、この場がだんだんと静かになって行くのを待ちつつ。

ああ、終わったんだなと、やっと理解したのは波が随分と収まってからです。


「白魔術師が右ストレートで相手を倒すとかありなのか?」


「意表をついたからこその勝利でしょう? まあ、男らしくて、良いんじゃ無いの?」


ユリシスはその拳に随分と力を込めていた様で、そのまま倒れ、波間に消えてしまいました。


「ユリシス!!!」


ペルセリスが声を上げ岩場を降り、海に分け入って行きます。

私たちも慌てて彼女の後を追い、深い所へ入らない様に彼女を止めます。


「ユリシス!! ユリシス!!!」


押しては引くさざ波の音の中、彼女の声が響きます。

月だけはさっきから、何食わぬ様子でぽっかり浮いて、その変わらぬ光で海を照らすのです。


そんな、さっきまでの戦いの魔力の余韻の漂う海の中から、ゆっくりと姿を現した男が一人。

濡れた白い髪を乱し、頬にくっつけ、格好はどうにもぼろぼろです。しかし表情は変わらず、とても強い眼差しでペルセリスを見ています。


「……ユリシス……」


私とトールは空気を読んで、ペルセリスから少し離れました。

浅瀬の波が彼女の長い衣や帯をゆらゆら揺らし、なんだかとても神秘的です。


ユリシスは彼女の前まで体を引きずりつつやってきました。

お互い見つめあった、その瞬間的な沈黙が、長く複雑な記憶にけりをつけた時。私とトールは少し離れた場所で、息を飲み彼らを見守ります。


ゴソゴソとユリシスの胸ポケットから出てきた小さな白い子猿が、彼に花を差し出しました。白い桔梗の花です。

猿の精霊ククル・チャクタがずっとその花を激しい戦いの中守っていたのです。


ユリシスはその花を受け取り、そのままペルセリスに差し出しました。

眉を寄せ、泣く様に笑いながら。



「ペルセリス……僕と、結婚して……」


「………」



ただ一言、シンプルに。本当はもっと色々と言いたい事があったんだろうに。プロポーズが下手なのは変わらないけど、それが少し泣けます。白桔梗の花言葉は、「永遠に君を愛する」……それだけが、全てだったろうに。


ペルセリスは潮風に髪を揺らしながら、ユリシスの差し出す手を包む様に花を受け取り、そのまま彼を抱きしめました。

何もかも包込む様に。何もかも、長い長い記憶の美しいものも醜いものも、全部受け止めると言う様に。


耐えきれず涙を流すユリシスを見上げ、頬に手を伸ばし、張り付く髪を優しくときながら。

彼女は大きな瞳を揺らしました。


「この花を、受け取っていいの?」


「勿論……今朝言った事を、許してくれるなら」


「……“また”幸せにしてくれる?」


「……………うん……っ」


その言葉に、ユリシスはどれほど驚いたでしょうか。

彼の記憶と同調した私には、それが何となく分かっていました。


彼女は前世を幸せだったと、そう言ったのですから。

心の傷の痛みがスッと消えていくような、そんな救いの言葉です。でも、ペルセリスはただ真実を言っただけだったのでしょう。

表情は彼女が目覚めたときと同じ、とても清々しいものだったから。




二人は顔を寄せ合い、そうして優しく口付け合うその絵は、きっと2000年前から変わる事無い思いの重なりで、それでいてただこの時だけの、美しい瞬間だと。

もしかしたら永遠は、そんな瞬間瞬間の連なりなのかもしれないと。

私は彼らの寄り添う姿を、ユリシスの記憶の中でしか見た事が無いのに、そのように感じたのです。



潮風の香りも、そのさざ波の音も、明るい夜の空の雲も月も、全てがとても印象的で美しい、とても心地よいただの一瞬でした。



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