表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第二章 〜王都精霊編〜
110/408

35:トール、緑の巫女のお守り。

こんばんは。

ただいま絶賛、緑の巫女のお守りをしているトールです。




なんでこんな事になったのかと言うと、話は夕方に遡る。

ペルセリスが目覚めた後、マキアの奴が「ユリシスを迎えに行く」と豪語し城へ行ってしまった。

あいつは辛抱が足らんのだ。ユリシスだって会議中で、国を背負う男としての役目を果たしているのに、マキアの奴に会議ごとぶちこわされでもしたらと思って若干ハラハラする。がしかし、俺はあの女を止める事は出来ず、これまた一人ふらふらと海の方へ行ってしまった緑の巫女の後をついていく事になった。


女って本当に訳が分からんな。

俺が言うのも何だけども。







「ねえトールってさ、前世の事覚えてるんでしょう?」


「え……ああ、まあある程度は……」


人けの無い海岸線。ペルセリスは俺より少し先の方を歩きながら、聞いてきた。

月夜の潮風が少し肌寒い。


「トールは黒魔王だったんでしょう? だったら奥さん居たんでしょう? ハーレムだったんでしょう?」


「………」


どうしよう。


記憶を思い出したこの子すっごいややこしいよ。

そんな言葉、今まで意味すら分かってなかったんじゃないかな?


「……え、何? 何が聞きたい訳?」


海辺の岩場に座り込んだペルセリスの、どこか悟った瞳が悲しい。


「好きな人居たんでしょう? 今でもその人の事、好きなの?」


「え……恋ばな?」


ははは……笑って誤摩化そうとしたけれど、ペルセリスの視線はただまっすぐこちらを向いている。

まいったな。


「お、俺の事はノーコメントで」


「まあ黒魔王って、女の人沢山居たんだもんね。今更だよね……」


「………」


き、厳しいな……。


「でも、何となく分かるかも。トール、ユリシスよりかっこいいもん」


「………ふふん」


ユリシスより、と言う部分に何とも言えないまんざらでもない感情を得る。

俺は咳払いを一つして、さっきから夜の海の波をぼんやり眺めているペルセリスの事を横目で見た。

あきらかに前のペルセリスとは違う。見た目は何も変わらない。童顔、絶壁、小柄……。

しかしどこか雰囲気があるのは、やはり俺たちと同じ様に前世の記憶を思い出したからだ。しかも俺たちと違って、それを整理する長い時間はたっていない。


彼女は何を考え、ここへ来たのだろうか。


「そう言えば、“約束の場所”がどうとかって言ってたよな。そこで待ってるって、マキアに言づてを頼んでいただろう」


「……うん。でも、そう……思い出せないの。それだけは」


「……?」


「っていうか、多分知らないんだと思うんだ。私、ユリシスとシュマの会話だけでしか、その“約束の場所”の事知らないの」


「………」


意味不明である。

全くもって謎だ。知らないなら、行き様が無いじゃないか。なのに、そこで待っていると言ったのか。


見た目の割に複雑な女だ。

こりゃ……これからユリシス大変だな。


「ねえ、トールってマキアの事好きなの?」


「なぜそうなる!?」


「だって……いつも側に居るじゃない。マキアが聖域に遊びにきた時も、いつも迎えにくるし……。まるでお姫様と騎士みたいだよ」


「それを言うなら、女主人と従者だ」


「でも、変なの。……私の記憶の中の黒魔王って、もっと孤高でクールで、かっこいい感じ。女の人、沢山はべらしてる感じ。話にしか聞いた事無いけど……」


「うわ……やめてくれ……。過去程恥ずかしいものは無いんだから」


「あはは。でもトールって、何かイメージと違うなあ」


「………」


俺は視線を斜め下に逸らしつつ、過去の諸々を嫌でも思い出す。

そうだよな、ペルセリスの生きた時代と、俺たちの生きた時代は、僅かに被ってるんだから。


彼女の記憶の中に黒魔王や紅魔女の話題が無い訳ではないんだから。


「でも、黒魔王と紅魔女って、別に恋仲って訳じゃ無かったんでしょう? それとも、もしかしてそんな関係だったの?」


「………天敵だった」


「だったら何で、今はあんなに仲が良いの? ユリシスだって……。思いだせば思い出すだけ、今のあなたたちの関係って妙だなって思うよ」


「だろうな」


それを語るには、まず一つ前の地球の話をしなければならない。

しかしこれこそ厄介な話である。


メイデーア人にとって、地球なんて異世界でしかない。理解出来ないと思う。


「色々あったんだよ。……それは、お前がユリの奴に聞けば良い」


「………ユリシス、来てくれるかな」


「来るさ。ただも少し待ってやれ。……あいつだって、色々と複雑なんだ。蛇行型なんだよ。……まあでも、マキアみたいな猪突猛進型がなんとか軌道修正してくれるとは思うけど……」


「………マキア」


ペルセリスは少しだけ表情を曇らせた。とは言え、視線は明るい紺色の夜空にあるけれど。


「あれ、まさかマキアに妬いてるのか? ははは、そこは心配要らないと思うがな」


「………別にそんなのじゃ無いけど」


案外あっさりと否定される。


「でも、あなたたちの関係がそんなにも変わった様に、あの頃の気持ちも変わっちゃうのかもって思って。……マキアも紅魔女のイメージとは少し違うしな……マキア、綺麗だし、可愛いよね……やっぱり……私でも魅力的だなと思うもの」


「……まあ、あいつも丸くなったってもんよ」


「………そうなの?」


「だって、超凶悪だったぞ紅魔女の頃のあいつは。出会ったら即暴力。ジャイアンかっての……」


「……?」


ペルセリスは小首をかしげ、クスクスと笑った。

そして、スッと空を見上げ、大きく息を吐く。


「でも、マキアも辛かったのかな……だって、一番最後に死んだでしょう? あなたたちの中で」


「………」


「私、前世で緑の巫女をしていた時、妙に紅魔女に興味を持っていたのよ。……ユリシスは自分がずっと生きている事をあんなに怖がってたし、寂しそうにしてたの。あれだけ周りに人がいたのに、よ。……でも、紅魔女は誰かと一緒に居たって事無かったみたいだし」


「………それは……どうなんだろうな」


少しの間瞬きが出来なかった。

そこは俺もユリシスも、分かっていながらなかなか触れない部分である。


例え聞いても、今のマキアならおちゃらけた返事しか帰ってこない。


「というか、お前はマキアの事……その、恨んでたりしないのか?」


「………なぜ?」


「だって、あいつと勇者の起こした爆発が……元凶じゃないか。お前たちの息子が死なないといけなかったのだって」


「……でも、紅魔女が直接殺した訳じゃ無いじゃない。どうしようもなく、繋がってしまっただけじゃない。でも、世界ってそんな連鎖反応で、沢山の望まれない事が起こってしまうんだね。そりゃあね……シュマがあの棺に入れられた時は悲しくて仕方なかったよ。なんで紅魔女がここに居ないんだって思ったけど……でも、それを言ってしまったら“ユノーシス”が殺されないといけなかった事も正当化してしまうでしょう? 私、それも出来ないの」


ペルセリスが砂浜の砂を手に取って、それをさらさらを落としては、また摘んでいる。

俺は頭を掻いて、複雑な思いのまま。


「……それにね、紅魔女だって残された女って意味では、同じ立場なんじゃないかなって思って。あの人は勇者カヤと戦って、私はそんなこと出来なかっただけ。だから、きっと私なんかよりよっぽど……。だって、自分を殺してまで、カヤを殺したかったんだよ……敵わないよ」


「………お前」


驚いた。

この子がそんな事を考えているとは思わなかった。

いや、記憶を取り戻した直後にそんな事を、と言ったほうが良いかもしれない。


俺たちは随分と時間がかかったのに。


「ねえトール、マキアの事、ちゃんと大事にしてよね……」


「なんだそれ。なんで俺が……」


「だってユリシスは渡せないから……あはは」


「…………あははて……」


手を叩きながら笑うペルセリスの意味不明な事。こんな良く分からん女だったか?

いやしかし、今まさになにかとてつもないものをまかされた気がするのは、気のせいだろうか?


だけど……あんまり考えた事が無かったな。

白賢者と黒魔王の死んだ後の、紅魔女か。


あいつが俺たちの戦いにある種の生き甲斐を感じていた事は何となく分かっている。

だからこそ、白賢者と黒魔王が殺された後、あいつはどんな思いで勇者と戦っていたのか……。


俺たちが三つ巴の戦いをしていたあの頃、誰かが誰かに殺されるというのは、きっといつか来る未来だって分かってたのにな。

紅魔女があんな風に自爆する程、追いつめたのはいったい何の感情だったんだろう。どんな思いだったんだろう。


「いかんいかんいかん、俺までお前たちみたいな答えの出ない記憶の迷宮に……」


「何言ってるのトール」


ペルセリスはまたクスクス笑って、ふと海を見てその大きな瞳をもっと大きくさせる。

ぎょっとした、と言う感じだ。


「……ね、ねえ、トール!! ねえ!!」


「ん?」


「ねえ、海、海見て!!」


なんのこっちゃと思ったが、服の裾を引っ張って声を上げるペルセリスに、普段の無邪気な彼女を感じホッとしたのも事実。

言われた通り海を見て、絶句したのも事実。


「………」


「ねえ、何あれ。亀? 海坊主?」


そこには大きなシルエット。大きなカメの甲羅に乗った仁王立ちの男の図。



「ひゃはははは!!! あーあ、いけないんだ〜。夜遊びかよ!!」


「…………エスカ」


相変わらず狂ったテンションの男が、巨大な海亀に乗って現れた。

昼間にも会ったのに。最悪だし、ちょっとかっこ悪い。


「巫女様その男から離れて下さい!! そいつは危険です。女にだらしない匂いがする!!」


「ふざけんなてめえ!! 何でそんな事お前に言われなきゃならん!!」


反論しつつ、「ん?」と思う。

そう言えばこいつ、一応司教でペルセリスの実の兄だったんじゃ……。


「お前……ペルセリスのあにk……」


「わあああああああああ!!!!」


エスカは何故か大声を上げ、俺の言葉をかき消した。

ペルセリスはきょとんとしている。


「ビビ……いったい何でこんな所に?」


「巫女様、お迎えにきました。大司教の命令で……」


何だか敬語を使っているこの男が気持ち悪い。ギャングみたいな顔をしているくせに。


「も、もうちょっと待って、ビビ。もうちょっとだけ……」


「……まさか、あの王子……白賢者を待っているんですか? 何だかな〜」


「ユリシスは来るよ……」


尻すぼみに声が小さくなっていくペルセリス。

俺は彼女の前に立って、エスカを睨む。


「もう少し待ってやれよ。なんなら、また俺が相手をしてやろう……ここなら十分暴れられそうだし」


「はっ」


エスカは亀から降りて、浅い海の波を蹴る。ギザギザの歯をむき出しにして、凶悪な笑顔を向けてくる。

これが司教って言うんだから世も末だ。


「望む所だぜ、この建築野郎……」


「だから、あれは土木だと何度言ったら……」




その時だった。

どこからかよく知る魔力の波動を感じたと思ったら、一瞬でエスカの周りに白い魔法陣が構築され、それが一斉に発動した。

俺はペルセリスを庇うようにして、マントを広げる。

エスカはその衝撃を直に受け、海の面を流れる様に飛んでいった。

あいつ今日こんなのばっかりだな……。



ああ、でも、やっと来たか。



「あなたが次期大司教候補ですか。……そろそろ帰ってくるとメディテ卿から聞いてましたが……」


白い衣服を纏った、白い髪の魔術師。

この国の王子であり、かつて白賢者と言われた男。


砂浜を歩いてくる奴は、手に何故か白桔梗の花を持っている。



「ならば話は早いでしょう。……僕、ユリシス・クラウディオ・レ・ルスキアは、王位継承権をルスキア王室に返上し、現緑の巫女であるペルセリスの………花婿に立候補します」



ユリシスの表情は鬼気迫るものがあり、その口ぶりは俺ですら「おお」と思った程だ。

よく言ったな、と。奴は本気だ。


ペルセリスは何と言うか、ぽかんとしたまま固まっている。


「……くくっ……ひゃはははは!!! ふざけんな白賢者!! かつて緑の巫女を不幸にしたお前が今更何言ってやがる。……それでもって言うなら次期大司教である、聖域代表の俺を倒してみろ!! 白魔法の最高峰と言われたその力を、俺様の大四方精霊にも通用するのか、見せてみろよ!!」


エスカは海の上で亀に助けられゆらりと甲羅の上にたつと、ぶち切れた表情で狂った様に叫んでいる。

何だろうこの展開。


妹さん下さい!!

ならば兄の屍を越えてゆけ!!


みたいな。



それでも二人の魔力は酷く澄んでいて、異様な緊張感がある。

ユリシスもエスカも、白魔術師でありながら戦場にでも行くかのような殺気と形相だ。


なんという戦いが始まろうとしているのか。


「ちょ、ちょっとユリ……私を置いていくなんて……後で見てなさいよ」


息を切らしながら、やっとマキアが来た。

これで役者は揃ったと言った所か。


ペルセリスはただじっと、その瞳を見開いている。ユリシスの戦いを見逃すまいとしている。


「……見といてやれよ、男の戦いだ……」


格好良く言ってみたけど、言った後何か恥ずかしくなった。

誰一人俺の言葉なんか気にしていなかったけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ