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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第二章 〜王都精霊編〜
107/408

32:ユリシス(ユノーシス)、追憶6。

(追憶・6)


約2000年前

北の大陸・ヨルウェ王国


ユノーシス:200代〜









「魔導要塞………“最上段の玉座”……」



それは長くいびつに連なる階段と、広々とした10のフロアからなる黒魔王の魔導要塞でした。

その最上階に辿り着けなければ、黒魔王と対峙する事すらできません。


外界とは隔離され、完全に閉じ込められた空間で、勇者率いるパーティーは潜む魔族たちを倒し、最上段を目指し上り詰めていました。


「アレン!!」


弓使いのアレンが第9フロアにて、魔女リーリアを庇い大鬼の攻撃によって足を切断しました。

側にいたリーリアが悲鳴を上げ、彼に駆け寄っていきます。


「アレン、アレン!!」


「……っ大丈夫だ……行け、カヤ!! 黒魔王は目の前だ!!」


「………ああ」


カヤは淡々とした奴でしたが、アレンとは長年の付き合いでしたので、きっと心の中では心配していたのでしょう。

しかしアレンの意志を組んで、仲間のバラド王子と共に最上段に居る黒魔王の元へと階段を上っていきました。


「……ふっ、楽しかったぜ相棒……。リーリア、俺の事なんて放っといて、さっさとあいつの所へ行ってやれ」


「……アレン……でも私……っ」


なんか二人は良い感じのムードです。パーティーの関係性を手短に説明するなら、紅一点のリーリアは勇者カヤが好きだけど、弓使いアレンは密かにリーリアを思ってるみたいな。お互い酬われない系の二人みたいな。


でも、何か忘れてないかな?


「あのね、私の存在を忘れてクライマックスぶってもらっても困るんだけど」


「あれ、白賢者様いたんですか?」


「連れ戻したの君たちだったよね!!」


さて、最近勇者パーティーの中で空気になりつつある白賢者でした。

仕方がありません。最近は高みの見物を決めこむ事も多かったですし、我が子が生まれたからとしょっちゅう南の聖域に戻ってましたから。そんな僕を引っ張ってここまで連れ帰ったくせに。


まあアレンの切れた足を持ってちょいちょいと白魔術を施します。こういった少し厄介な治癒の場合、光の精霊“ハープ”に力を借ります。


「木漏れ日の精霊ハープ……第六戒召喚」


第六戒は精霊本来の力を導き出すタイプの中位召喚です。スタンダードLv2と言った所です。

今回は少し治癒を急ぎますから。


ハープの第六戒は白い羽をもった人型の姿です。天使のようなイメージです。


「ハープ、アレンの足を治してくれ。まだ間に合うだろう? 下段から魔族が登ってきているから、できるだけ急いでくれ」


「……御意ですわ。47秒ほどお待ち下さいまし」


ハープは、その名の通り手に金色のハープを抱き、47の弦を弾きキラキラした光を音色から零します。

それらがアレンの負傷した足に落ちていって、ハープの言った通り47秒で完治に至りました。


ハープは治癒系最高峰の精霊です。僕の以前にミナと契約していました。


「流石は賢者様!!」


「やっぱり賢者様がいないと!!」


「………」


なんて都合の良い奴らだ。

しかし僕自身も好き勝手に聖域に戻ったりしていたのでおあいこかな?



ドオオオオン……!!!


「!!?」


最上階にてなにやら大きな爆音がしたので、僕らは急いで階段を上っていきました。

まさに黒魔王が、その最上階の玉座から重い腰を上げ、大きな黒い剣を鞘から抜き振り降ろした所でした。

ただの魔導剣ではありません。あれはメイデーアの神器の一つ、“時空王の権威”です。僕の“精霊王の錫”と並ぶ代物。


奴がいったいどこで手に入れたのか知りませんが、それは運命的に彼の手に留まったと言う事でしょう。


「……目障りな勇者きどりが。白ハエに踊らされて場違いな壇上にまで上がってきた愚か者どもが」


今までも何度か黒魔王と戦った事がありましたが、彼がその剣を持ち出した事はほとんどありませんでした。

少なくとも、勇者たちには見せた事が無かったでしょう。それは紅魔女と戦う時くらいにしかお目にかかる事は無かったのです。


「カヤ……黒魔王は本気です」


「……分かっています」


カヤは金色に輝く剣“女神の加護”を構えました。

何度となく魔王たちと戦ってきましたが、もしかしたらこれが最後の戦いになるかもしれない……そう、思いたいと思いました。


「勇者、道は私が作ろう」


フレジスタの王子、バラド殿下でした。

僕が幼い頃から精霊魔法を教えてきた弟子の一人でもあります。


「勇者様、援護はお任せを」


リーリアはサポート魔法が得意な魔女なので、後方で杖を構えています。

僕はと言うと、その場の様子を幅広く気にかける必要がありました。僕らを囲む魔族たちも、いつ号令がかかっても良い様に目を光らせています。


それよよりももっと気がかりなのは……あの人がいつ、どこから来るのかと言う事でした。

そう、紅魔女が。


「黒魔王……そろそろ決着をつけよう」


「………良いだろう」


一瞬の緊張と、力を込め構えた時の金属の音。

3、2、1……




「あっははははは。私を差し置いて、その男を殺そうって言うの?」




ある意味、とても予想通りのタイミングでした。

真っ赤な無数の帯が、今にも剣を交えようと言う黒魔王と勇者の間に溢れる様に現れ、振り上げられた二人の剣は血のいばらに弾かれました。

彼女はそんな中から現れた、真っ赤な大輪のバラの様。血は花びらの様。


「……紅魔女……っ」


「黒魔王……あんたふざけてんの? こんな20年かそこらしか生きてないガキ共相手にムキになっちゃって」


紅魔女は横目に黒魔王を見て、また高笑い。黒魔王は彼女を前に、その鉄仮面を僅かに動かします。

絶対彼女が来ると思っていました。彼女は自分が黒魔王を倒さなければ気がすまないのです。


「あーら白賢者、お久しぶりね。若い娘とできちゃったって聞いたから、お祝いしなきゃって思ってたのよ。……でもあんまり浮かれてると、あっという間に奥さん、ババアになっちゃうわよあっはははは」


「……余計なお世話です。永遠に老けない“だけ”のあなたよりよっぽど若々しいですから」


「………あ?」


紅魔女は額に筋を作り、瞳を細めます。一瞬空気が凍りました。


「……ふっ」


「……あ、ああ……あんたたち絶対殺すからっ!!」


黒魔王が鼻で笑い、紅魔女が憤怒する。

僕らは、今までいったい、なんどこんなやり取りを繰り返したでしょうか。

いつもそうです。


「なんなんだあいつら」と言いたげな瞳の勇者たち一行。

いままでシリアスだったのに、こんな風に一瞬でムードは崩れるのです。勇者に言わせてみれば「老人共の喧嘩に付き合わされる身にもなれ」です。


「そうそう、勇者……あんたこの男は私が100年以上も前から狙ってた獲物なんだから、横取りなんてしないでよね。せっかくの良い男が台無しよ。私が黒魔王を倒したら、その後ゆっくり料理してあげるから」


「な、なによあなた!! そんな事言っていっつも本気で戦ってないくせに!! なんで勇者様があなたの事情や機嫌を伺わなきゃいけないのよ!!」


「黙んなさい小娘」


リーリアと紅魔女は、よく睨み合っていた気がします。


「紅魔女……お前のせいで萎えた」


黒魔王はそんな様子と、個人的事情をふまえ、剣を鞘に収めました。

そろそろ引き上げるようです。


「ちょ、黒魔王!! 私まだ来たばっかり……!?」


紅魔女の訴えも虚しく、黒魔王は指をパチンと鳴らすと、その魔導要塞の結界を解除しました。









地上に落とされた僕らは、また大きくため息をつきました。既にそこはただの雪山で、黒魔王は居ません。


あと一歩の所で、また紅魔女に邪魔されたのです。


「……あーあーまたか」


「一人一人倒そうと思っても、もう一人が妨害に来るなら……何も変わらんな」


「いっそ紅魔女から倒した方が良いんじゃないの?」


「………」


確かに、黒魔王に執着している紅魔女から倒した方が有効の様に思いました。

ただいつも、その案に勇者が乗り気ではなかったのです。

理由は、彼の剣“女神の加護”にありました。この剣は紅魔女と相性が悪かったのです。


そもそも、その剣がいったい何なのかカヤはいつも教えてくれませんでしたが、威力は十分僕らの神器に匹敵するものがありました。

なのに、神器を持たない紅魔女にあまり効果がなかったのです。


「紅魔女は造形物に命令する事が出来る。もし、何らかの形でこの剣があの魔女に奪われでもしたら、もう勝ち目はない。情報量の多い造形物であればある程、奴の力によって本来の力以上のものを暴かれる」


勇者はいつもそう言って、紅魔女を最も警戒していました。

あの可憐な姿の中に、破壊兵器と言っていい血を抱えているのです。


戦えば戦う程、血を流せば流す程、彼女は強くなっていく。

それは本当に厄介な事でした。剣で体を傷つけようものなら、もれなく血が付着するわけですから。





魔王たちとの戦いは、まだまだ長引きそうだなと思っていたのです。

しかし、案外終わりはもうすぐそこに来ていました。


(勇者パーティー)



◯勇者カヤ(勇者/ミステリアス系勇者)

色々な事が謎に包まれている淡々とした青年。

勇者なのに慎重派で、熱さが足りない。アレンに「もっと熱くなれよ」と言われる。

金髪碧眼のイケメンで、女性に人気だが本人はどうでも良さそう。何事にも淡白なのに、魔王たちには執着している様子。白賢者に冷徹なつっこみを入れる事が多い。緑の巫女と白賢者の息子シュマをよく気にかけ、密かに遊んであげていたらしい。



◯アレン・アンデルゼ(弓使い/永遠の二番手)

主人公みたいな髪型と性格を持っているのに二番手ポジションに甘んじている、勇者カヤが最初に仲間にした狩人の青年。貧しい家で生まれたため貧乏性。術式の書き込まれた弓を使いこなす。情に厚くお調子者でお人好しで、カヤを心底信頼し相棒と言っている。パーティー唯一の女性である魔女リーリアに惚れている。考えるより行動派。



◯リーリア・パレス(魔女/紅一点)

外ハネの髪型の魔女っ娘。全体的にオレンジ色。

世界で一番好きなものが勇者様で、一番嫌いなものが紅魔女。サポート系の魔法を駆使し、パーティーに貢献している。愛らしい容姿だが紅魔女に「地味なカボチャ魔女」と言われてから彼女を敵視している。本来お宝ハンターだったが、魔族に襲われている所を勇者に助けられ、一目惚れしてついて来た。感情表現が豊かで女の子らしいが、割と凶暴。



◯バラド・リーン・フレジスタ(精霊剣士/やられ系王子)

フレジスタの第二王子にして、白賢者の弟子。華のある容姿をしているが、色々と勇者に敵わない。かなり幼い頃から精霊魔術を学んできた。白賢者を師として深く尊敬していたが、勇者カヤにばかりかまっていたのでカヤを妬んでいた。カヤに喧嘩を振ったり陥れようと画策するが、カヤ自身は全く相手にしなかった。色々あって仲間になる。マザコンで年上趣味。好みはリーリアより紅魔女と言ってリーリアに殴られた事がある。



◯ユノーシス・バロメット(白賢者/若作りした老人)

言わずと知れた白賢者。三大魔王の一人。精霊魔法の祖。

勇者を導き、勇者パーティーの保護者のような存在。尊敬はされているが、いじられる事も多く稀に空気扱いされることもあった。新婚期から新米パパ期にかけてはのろけ話をウザがられる。しかし長年の教育者としての腕前は凄く、短期間でメンバーを魔王たちと対等に戦えるまでに育てた。




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