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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第二章 〜王都精霊編〜
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29:マキア、狭間にて。

「あっはははははは!!!」


「ははは、懐かしいねえ」


「ぶってたわねえ、あの頃私も、あんたも。あいつも」


「大物気取り?」


「そうそうそう。あっははは」



ゆらゆらした、私とユリシスだけの空間。記憶の間の、曖昧な世界。

ユリの記憶を覗きながら、私はお互いの出会いを見せつけられ笑うしかありませんでした。

何でしょうねあの態度。無性にこそばゆいです。


「でも、あんたはあまり変わらないわねえ。前から緩くて」


「一番変わったのはトール君かな? というか、僕の思い出の中のトール君の存在感の無さ凄いなー……」


「だってあいつ結構無口だったもん。多分この中で一番魔王ぶってたわよ」


「僕一回だけ『うるさい、白ハエが……』って言われた事しか覚えてないなあ……」


「あっはははは、何よそれ。今度言ってやんなさいよ、あいつきっと一日は恥ずかしさで寝込むわよ」


「ははは」


確かにあの頃の黒魔王は、それはそれは魔王ぶっていてクールというか、今みたいに親しみやすいやつだったかと言うとそうではなかったのです。でも愛する姫が待っているからと戦いを長引かせる事無く、ある一定の時間になったら引き上げていたな。


多分この中で一番早く。


「あーあー、何か嫌な事思い出しちゃったな〜」


「トール君の愛しいお姫様の事? ははあ、嫉妬かい?」


「ふん。一女として苛立たしかったわね。あいつ絶対、女は弱くて守ってあげないといけないものーみたいに思っていたのよ。ていうか、そういうか弱い女が好みなのよ。だから私の事、女じゃない別の何かみたいに思ってたんじゃないかしら」


「君は特別逞しかったからね。僕らの力関係はとても面白いものだった。君の命令魔法はトール君の空間魔法に強くて、トール君の空間魔法は僕の精霊魔法に強く、また僕の精霊魔法は君の命令魔法に対し強かった。まさに三つ巴だったね」


「そうそう。トールの空間は結局あいつ自身の作った“造形物”という位置づけだったから、私の命令魔法は有効だったの。でもあんたの精霊魔法は絶対的契約が表にあったものだから、私の命令は契約の下位に位置づけられて、あんまり効かなかった。要するに、あんたの精霊を私が操る事は出来なかったわけね。ただ、条件によっては命令出来たときもあるけど……。あんた頭よかったから、そういうのすぐ分析して対処してきたものね」


「………ふふ、懐かしいね……」


「この頃は、まだ平和だったなあ」


これでも、一応は反省してるんです。

この頃の私や黒魔王はその他の人間を取るにたらない存在と思っている節があったから、我が侭に戦う事が出来たけれど、白賢者はそうではなかった。彼は人民の暮らしに影響が出ない様に心がけていた。


今なら、あの時代の私たちがいかに思い上がっていて、またどこかやけになっていたのかが分かります。


ただ、それでもまだこの頃は穏やかだったと言えます。

魔術合戦は暗黙のルールの下行われ、それは決して殺し合いではなかった。


確かな争いになっていったのは、そこに“奴”が加わってからでしょう。


「……ねえ、マキちゃん。僕はね、ずっと考えていた事があるんだ」


「……?」


何もない記憶の狭間で、私とユリシスはお互いの存在だけに意識を向けています。

彼は少し苦しそうに微笑んでいる。


「君はあの日、僕に謝ったよね。勇者が、僕たちに全ての真実を話した日。あの聖域で……」


「………」


約半年前の事。今でも鮮明に覚えている、緑の空間で雫の落ちる音。

勇者こと、フレジールのカノン将軍が私たちに告げたメイデーアの真実。


2000年前、私のやってしまった事が、今の時代に大きな影響を与えている。


「でもね、元を辿れば、僕が彼をあの戦いに連れ込まなければ、何も起きなかったんじゃないかって……そう思うんだ」


「………ユリ?」


「僕自身が、君たちを倒す事を諦めなければ……」


「………」


確かに、勇者があの戦いに関与し始めてから、色々な事が変わっていった気がします。

世界の情勢、私たちを取り巻く環境、私たちの立場。どちらが正義でどちらが悪なのか、はっきりと定められていって、そしてその戦いはただの遊びと言えるものでは無くなっていきました。


「でも、あの男は結局あんたと“勇者”という立場を利用して私たちを殺しにかかってきただけでしょう? あんたが何をしなくたって、きっとあいつは私たちの前に現れていたわよ。……多分、それは定められていた唯一絶対の事だったんだわ」


「………それはそうかもしれない。でも、僕はその考えに至る時、ふと不思議に思う事がある。異世界から来た少年少女の伝説を知っているかい?」


「ああ……えっと、ちょっと聞いた事があるわね。“世界の救世主は、異世界から来た少年と少女である”って言う言い伝えでしょう?」


「そうだ……これがいったい何を示しているのか。2000年前の僕も、この言い伝えを元に勇者を探し出したのだけど、気になる点は、“異世界から来た少年”という認識を、周りが持っていた事だ。それがどういった場合か、マキちゃん分かるかい?」


「…………?」


「ならば、僕らも前世が地球人で、確かに世界の境界線を越えてきた存在な訳だけど、これに当てはまると思う?」


「………」


その言葉で、私はユリが何を言いたいのかピンと来ました。

そして、表情を引き締めます。


「いいえ、そうはならないわ。だって私たちは、確かにこちらの親から生まれた、メイデーアの肉体を持った存在だもの」


「そう。その通りだよ。だから、異世界から来た少年少女には当てはまらないんだ。この伝説自体相当昔からあるものだけど、これが“最初の9人”の事を含めて言っている事なら、彼らは……異世界転生したわけではなく、転移してきたと考えるべきだ」


「……転移?」


「そう。別の世界の肉体、見た目をそのまま持って来た場合。まさに、こちらに“やってきた”場合だよ。この言い伝えは、多分“異世界転移”してきた場合の事だと思う。………2000年前の勇者がまさにそうだ。彼は突然、東の大陸のとある村に現れた。妙な格好で、大きな剣だけを持った少年が居るという噂を聞いて、僕は彼に会いに行ったのだから」


「………」


私は口元に手を添え、少し考え込みました。


「異世界転生と異世界転移って、なにか条件が違うのかしら。ほら、私たちは境界線を越えて、魔力数値を跳ね上げたじゃない? 勇者は何で転移してきたのかしら……」


「……それは分からないな。そもそも、世界の境界線の仕組みすら、僕らは何も知らないんだ。でも奴なら知っているのかもしれないな」


「勇者……」


「そうだね」


ユリがこんな事を考えていたとは思わなかった。ある意味勇者と最も長い時を過ごした彼だからこそ、思い至った考えなのでしょうか。いつも涼しそうにしていたのに、色々と考えていたんだな。


「だったら、奴は紛れもなく世界の救世主だったわけね」


「そう。周囲がその認識を持てるかどうか、きっとそれが鍵なんだろうな。異世界転生では、それは不可能だから」


「………世界を救う救世主……認識……」


そうだった。異世界から来た少年と言う噂が、彼を勇者として別格の存在に仕立て上げた一つの要因だった気がします。

確かにそれは、とても特別な事だから。人々はそこに期待してしまうのでしょう。



「今からなのね」


「そうだね。確かめながら、思い出していかなきゃ……」


私とユリシスはお互いを見て、一度頷きました。

そして、記憶を次に進めます。



私たちはここからクライマックスまで、目を背ける事は出来ないのです。



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