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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第二章 〜王都精霊編〜
103/408

28:ユリシス(ユノーシス)、追憶3。

(追憶・3)


約2100年前

西の大陸・グリジーン王国の西の森/紅魔女の家


ユノーシス:100代〜





紅魔女の家は至ってシンプルでした。

いくつかの香草や薬草をそこらに吊るしてあり、瓶詰めの木の実やジャムが並べられています。

魔術師ならごくごく普通の家です。むしろドングリやまつぼっくり、押し花の飾りなんかもあって、どこか素朴で可愛らしくもある。


至る所で聞いた噂は何だったのか。

ポプリの柔らかい香りがします。



「意外ですね……」


「なによ。美女の顔の皮を剥ぎ取ってコレクションしてるって言う噂、あんたも信じてたわけ?」


「ははは、それは初耳ですね」


「………」


腰に手をあて少し怒った様子で居る紅魔女は、本当にただの少女の様に見えます。

それはとても魅力的で、だからこそ怖くも思えました。これはある種の、彼女の武器なのです。


座る椅子の前に茶を持って来てくれ、彼女は僕を普通に招いてくれたようでした。


「ところで、いったい私に何の用かしら? そこら中にちっさい奴ら引き連れて」


「………精霊ですよ」


「分かるわよ。西の大陸にもあんたの名前は届いているわ。精霊魔法を作り出した魔術師。真っ白だから白賢者。本当にその通りね。もっとじじいだと思ってたけど」


「それはお互い様でしょう」


「………あら、私の噂は16、17歳程の美しい少女。そうじゃなくって? 若さを保つ為に多くの美女の生き血を飲んでいる……。おお怖い怖い」


「………」


向かい側で茶にミルクを入れ、匙でかき混ぜている彼女の表情はどこか皮肉めいていました。


「ついこの前、私は北の大陸にてあなたと黒魔王の争いを目の当たりにしました。黒魔王に会いに行ったのですが、空間を閉ざされ、会う事が出来なかったのです」


「ああ……あの男、引きこもりだからね」


「お二人はなぜ争っているのですか? 理由があるなら教えていただきたいのです」


「………なぜ?」


彼女は少しだけ眉を上げ、僕をじっと見つめました。

その視線の強さには若干圧倒されます。しかし僕も白賢者。そこは余裕のある態度で臨みます。


「ヴァイビロフォスの意志ですよ。理由によっては、私はあなたたちを止めなければなりません」


「………理由ねえ……。そんなものあったら、私だって苦労しないわよ」


「は?」


しかしその余裕は一瞬で歪みました。


「理由なんて無いのよ。ただ、私たちはああやって遊んでるの。何でか分かる?」


「………」


理解出来ません。


「あんたなら、分かると思ったんだけどな……。私たちは、お互いの力を認め合っているの。対等だからこそ、本気で競い争うのよ。あなた、白魔術は平等で対等な魔術だって説いて広めている様だけど、あなた自身誰かと対等だと思った事があって?」


「……それは」


紅魔女は身を乗り出し、その意味深な海の色の瞳で僕を捕えます。

じっと、視線を逸らす事はありません。


「白賢者……あなたの名前を教えなさい。私が全部見てあげる。そして、教えてあげるわ」


「……魔力数値の事ですか?」


「そうよ。その表情じゃあ、いままで誰にも測定出来なかったんじゃない? まずはそれを知らなければ、お話にならないわ」


「……」


魔術師が名を名乗るのは、ある種の覚悟が必要です。

このように、目の前の者が何を考えているのか分からない場合は。


でも僕は迷いませんでした。


「……私は、ユノーシス・バロメット。ここ最近は、この名を呼ぶ者はほとんどいませんが……」


「そうでしょうとも。誰もが恐れ多く、本名を呼んではくれなくなる。それは、生き長らえば生き長らえる程。自分が周りから離れていけば行く程……」


彼女は立ち上がりその瞳の奥を一瞬鈍く光らせる。

一瞬の静寂。


そして彼女は口に綺麗な弧を描きました。


「ふふ……あははは!! 凄いわ……っ。あなたもやっぱり私とあの男と同じ!!」


こみ上げてくる笑いが止められないと言うよう。

紅魔女は椅子に座る僕にピシッと指をつき立て、見下ろす様にして言いました。


「ユノーシス・バロメット。あなたの魔力数値マギベクトルは127万2850。100万を越える、私たちと同じ存在。同列の魔王」


「……127万……!?」


初めて自分の魔力数値を知った時の衝撃は凄まじいものでした。

この時の一般平均は400mgほどで、魔力の高い人間でも6000mg行けば化け物扱いでしたから。

もしかしたら自分は1万mgは越えているかもしれないと思っていたけれど、100万を越えていたなんて。規格外も良い所です。


「ふふ、驚いた顔をしているわね。無理も無いわ。……もうね、多分生物としての仕組みが違うんじゃないかしら」


「……そう考えざるを得ませんね。考えたくはありませんが……」


「ふふ……」


彼女は再び椅子に座って、茶を飲むと小さく息を吐きました。


「本当におかしな話よ。今まで沢山の人の名を見てきたけれど、普通の人の魔力数値は、差はあれど200〜7000程なの。なのに、随分と飛んで100万mgになってしまっているのよ、私たちは。間が無いの」


「………」


「でも、だからこそ規格外の力を手に入れる事も出来る。あんたみたいに白魔術を作り出したりね。その魔法は厄介だわ」


彼女は机の中心に出した木の実をつまみながら、僕の反応を伺っている。

僕は自分の魔力数値に若干の驚きを隠せなかったけれど、だんだんと同列と言う紅魔女、黒魔王への興味が湧いてきました。


「あなた方は認め合っているから争うと言っていました。憎しみあっているわけではないと?」


「……そうね。まあ……黒魔王はムカつくやつだとは思うけど」


「ならなおさら、その不毛な争いはやめるべきです。あなた方の力は……いえ、私たちの力がそれほどに規格外なら、この力は世界を破壊しかねません」


「……ふふ、真面目ねえ白賢者って。嫌いじゃないけど」


木の実をかじりながら、彼女はただ笑っていました。


「ならあんたが全力で止めてみなさいな。私と、黒魔王の全力の戦いを、あんたも全力で止めるのよ」


「……何を考えているのです紅魔女」


「別に。何も」


何も考えていないとは到底思えない意味ありげな視線。

彼女の笑みはどこか挑発的で、それでも上品で、圧倒的に意味深でした。僕は今まで、これほど対等だと、むしろ自分以上かもしれないと思えた女性に巡り会った事がありませんでした。


それ故にやはり彼女は魅力的で、どこか憎らしく切なくも思えたのです。

黒魔王も同じだったのでしょうか。



「……分かりました。あなたは私にもその戦いに参加しろと言いたいのですね?」


「ふふ、同じ力を持つ者であるならば。あなたも自分の全力、試せる相手がいないとつまらないでしょう? つまらないくせに長い人生なんて、生きた心地がしないわ」


「あいにく、私にはやる事も多くつまらない人生だとは思っていません。なので……その戦いを全力で止めさせていただきます」


「………ふふ、良いんじゃない?」


力ある者の定めと言うものを、この時の僕は人々を守る事だと考えていました。

それは間違っていたとは思いません。


ただ単純に、紅魔女と黒魔王とは、考え方が違ったのです。




それでも僕は、この二人がなぜ争う様になったのか、争う事で対等である事にこだわりたかったのか、分からなかったわけではないのです。僕自身もどこかで求めていた事でした。


だけど、僕らの力を好き勝手に振るえば、世界はあっという間に壊れてしまう。

それほどに僕らの世界は脆かった。


戦いは僕らにとっては一瞬の事であっても、力のない民にとっては、長く苦しいものであったのです。

僕が戦いを止めようと紅魔女と黒魔王の戦いに関与すればする程、二人は楽しむ様に争いを拡大しました。





そうして僕は、僕だけはこのままではダメだと思う様になり、聖域にてある伝説を教えられるのです。


異世界からやってくる勇者の伝説。

世界が混沌の中にある時現れると言う、救世主の伝説を。


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