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俺たちの魔王はこれからだ。  作者: かっぱ
第二章 〜王都精霊編〜
101/408

26:ユリシス(ユノーシス)、追憶1。

(追憶・1)


約2200年前

東の大陸フレジスタ王国の国境


ユノーシス:20代〜






まだ若かったこの頃、僕は商人の仲間と旅をしながら、精霊たちの記録をしていました。

魔術師たちが力をもっていたこの時代、魔法の主流は黒魔術ばかりで、魔法と言うものはどこかリスクと対価を伴う危険と隣り合わせのものでした。勿論黒魔術の中にも生活に生かせる魔法もありましたが、やはり魔族との抗争の絶えなかった時代ですから、それは戦闘手段の一つだった気がします。


「ユノー、町マダー」


「もうすぐだよ」


「ユノー、プラナはもう水がなければ死んでしまうわ!!」


「そんなに飛んでないで少しお休みよ、プラナ」


「マダー町マダー」


既に数匹の精霊たちを連れ、僕は荷馬車の後ろで羊皮紙に精霊の事について書き記していました。

主に、精霊たちと協力し力を得る魔法。そう、精霊魔術について。


それを見つけたのは本当に偶然の事だったけれど、たまたま僕の最初の相棒であるハチドリの精霊に向かって古い魔法陣を構築してみた時、プラナはとんでもなく神々しい槍になったのです。


その時お告げの様に何か特別な事を察したものです。

精霊たちは、きっとこの世界に偶然居る存在ではなく、世界を構築する何かしらの要素なのだと。

彼らはそんなエレメンツの人々に信じられた姿で、きっと状況によっていくつかの姿を持っているのだと。



僕は旅の途中に出会った、同じく精霊の見えるブラントとミナという兄妹の商人と共に、世界を巡りながら妖精を探していました。

僕らは自分たちの事を、“精霊調査団”と名乗っていました。






「へえ、こんな所に遺跡があったとは驚きだ」


「ヘトラ遺跡だよ。旧ヘスニア族の砂漠の遺跡だ。今は廃墟の様になってしまっているけれど、ほら、前はオアシスだったんだな。ここに井戸の跡がある」


「………あ、見てみて、お兄ちゃん、ユノー!!」


共に旅をしていたミナという少女は、僕と兄を呼びつけました。

井戸のあった場所の、その奥に何かを見つけたのです。


「……おや、精霊だ」


枯れた井戸の中にいたのは、サソリの精霊でした。ギラギラした瞳でこちらを威嚇しています。

僕は瞳を輝かせ、何も考えずに井戸の中に飛び込みます。


「おいユノー!! ばっか」


「そこで待ってて、ブラント、ミナ!!」


「あらら」


僕は精霊を目の前にすると我慢の出来ない若造でした。

もうね、精霊が好きで好きで仕方の無かったわけです。ムツ◯ローさんも真っ青。


「やあこんにちは」


「………」


「君はこの神殿を守っている精霊かい?」


「………お前、俺が見えるのか」


見た目は小さなサソリでしたが、声は低くもの凄いイケボでした。


「精霊の見える人間は珍しい?」


「あいつらは俺を殺そうとした。厄災だと言って、俺を嫌い名を消した。だから砂嵐を起こし、追い出した」


「……それって黒魔術師? それとも神官?」


「………」


サソリは真っ赤な目を光らせ、僕の側に居るハチドリのプラナや、ハリネズミのウプーを見ては、僕を見上げました。


「ここから出て行け。俺を奴隷にでもする気なら毒で殺すぞ」


「何を言っているんだい。僕は、君たちと対等の立場を築き上げたいんだ」


「…………」


「僕は、君たちとの対等を約束し、契約する、優しい魔法を作り上げたい。君も一緒に来ないかい? こんな寂れた場所、もう飽きただろう?」


「………俺は厄災だぞ」


「自然は恵と災いの紙一重だ。それは、この世界になくてはならない現象だよ。僕ら人間は結局、その仕方が無い流れの一部に過ぎないんだ。僕たちが創る魔法は、そうだね……共存の魔法なんだよ」


「………変なやつだな、お前は」


「そうだねえ」


サソリの精霊スコラ・ピオーネは、かつてはこのヘトラ遺跡の守り神として崇められいたが、やがてオアシスは枯れ砂嵐が巻き起こり、その姿は邪神と言われる様になった。

人々はそんな遺跡を捨て、土地を離れ、スコラ・ピオーネはだんだんと忘れ去れられて行った。

僕はここからだいぶ南下した場所にある町で僅かに残っていた、このような毒サソリの伝承を聞きつけ、この捨てられた遺跡へやってきたのでした。



精霊信仰はこのように各地に残っていたけれど、人間の意志やリスクを糧にする黒魔術が発展し、自然界への祈りが忘れられようとしていたこの頃、僕はそんな精霊たちを探しては、対等の魔法を共に創らないかとスカウトしていました。

それは、気まぐれで寂しがりやの彼らにとってとても斬新な事だったのだそうです。


信じられる事を力の源とし、存在を確定する彼らにとって、白魔術の仕組みは魅力的でした。

今まではその土地だけの信仰が全てで、結局人間たちがその土地を離れてしまえば忘れられ、力を失っていくだけの存在でしたが、契約する事で常に名を唱えられ、供物を与えられ、また魔法陣を支払われる事で力を貸すと言う僕の編み出した“白魔術”は、彼らの存在を明確にするものです。それは世界に名を広める役割も果たします。

人間たちは精霊に敬意を払い、その力を借りる度に色々と準備をしなければなりませんが、精霊たちは基本とても穏やかで優しく、素朴なものを求め、人間が好きでした。それほどのリスクを要求しません。

僕たちは対等の立場で、与え与えられ、求め求められ、優しい力を手に入れる事が出来たのです。






共に旅をしたブラントは、体格の良い商売上手な男で、たまたま同じ宿に泊まった事で知り合った、僕の大親友でした。

そんなブラントと共にいたのが、彼の妹のミナです。

ミナは溌剌とした少女で、栗色の髪のおさげが特徴の可愛らしい娘でした。

二人とも小さい頃から精霊が見えていたそうで、僕の連れている精霊たちに気がつき、声をかけてきたのが馴れ初めです。


二人は僕の作っていた精霊魔法に興味を持って、僕と共に旅をする様になったのです。


しかしこの頃の僕はとても若く、また元気に溢れていて何をやっても上手く行くと思っていたヤンチャっ子でしたから、まあ精霊たちを見つけ連れ立って、ただ楽しく白魔術を創っていくと言う事に何の恐れもなかったわけです。


「フクロウの精霊ファン・トロームゲットだぜ!!」


「魚の精霊セリアーデ、とったどー!!」


「トカゲの精霊ピノー・ドラは、ユノーシスと、けいやくした▼」


「タランテラは拾った」


まあ若気の至りってやつでした。無敵でした。違ったかもしれないけど、何かこんな感じのニュアンスでした。

世界を巡って各地に残る精霊の逸話なんかを研究し、遺跡や山奥、海の中、たとえ火の中水の中あの子のスカートの(自主規制)。


まあ、どんな所でも探って、狭い所が好きな彼らを見つけるため壺や箱なんかを壊したりして、ゲットだぜしてたわけです。

精霊たちはそんな僕を気に入ってくれ、何故かついてきてくれましたね。







いったい、どれほどの時間を精霊探索に費やしたのでしょうか。

世界には精霊が溢れ、またその伝説や伝承がいたるところにありました。最終的に100の精霊と契約し、僕は彼らと協力する魔法を“白魔術”と位置づけたのです。

黒魔術程の威力は無いにしても、リスクが小さく実用性のあるこの魔法は、忘れかけられていた精霊たちの存在を再び明確にし、だんだんと世界各地に普及していきました。僕が世界を巡る場所に、白魔術の方法を記した書を残していったのです。


そしてやがて、僕は“白賢者”と呼ばれる様になっていきました。


僕と共に精霊を探索していったブラントとミナも、白魔術の歴史上、名を残す存在となっています。

“精霊の十戒”説を作ったのは僕ですが、そのうち第三戒を初めて使ったのはミナで、第七戒の可能性を見つけ出したのはブラントでした。彼らは“白の兄妹”として、白魔術の教科書に載っています。



でも、僕と彼ら二人は、決定的に違う何かがありました。

それは魔力の量です。

ブラントとミナには、勿論一般魔術師の中ではかなり高い魔力数値マギベクトルを示していましたが、僕は少し異常でした。

有名な名前魔女の元へ行って、調べてもらった事がありましたが、どんな高名な魔女でも僕の詳しい魔力を見る事は出来ませんでした。僕はこの頃、自分の魔力数値を知る事はありませんでしたが、時が巡っていく程に、老いていく周囲と老いる事の無い自分を比べ、自分が別物なのだと知りました。


白魔術がある種の完成を迎え、旅が終わった後僕はミナと結婚する約束をしていましたが、その時すでにミナは僕の異常性に気がついていて、告げたのです。


「私とあなたの時の流れは違う。それはきっと、あなたが特別だからよ」


ここで、あなたは終われない。

まだ何か役目がある。

白魔術を作るだけではなく、それを何か別の事に使う、そんな時代がやってくる。


その頃にはきっと、私はもういない。



彼女はそう言って、僕から離れ故郷へ帰りました。

兄であるブラントも、自分の精霊を僕に託し、ある町で店を構え商人になりました。


それから、僕はブラントとは長い付き合いを果たしますが、だんだんと年老いていくブラントと、青年の姿のままの僕の時の差は広がっていき、僕が生まれ70年が過ぎた頃、彼は死にました。この時代にしては、彼はとても長生きでしたが、寿命だったのです。寿命を白魔術でどうにかする事は出来ません。それは、確かで平等な運命ですから。


そして、ブラントの葬式の日久々にミナと会いましたが、すでに若かった頃の溌剌とした少女の姿ではなく、失明し腰の曲がった老女でした。彼女は僕の声を聞いて穏やかそうに懐かしそうに笑ったのです。側には息子と孫が居ました。

彼女の人生がもうすぐ終わろうとしていて、それでも豊かであったのだと知りました。間もなく、ミナも寿命を迎えました。



そして、ふと思ったのです。

自分の寿命はいつなのだろう。


僕がこのまま生き続ければ生き続ける程、きっと、僕と他人との差は広がっていって、もう対等に語り合える者がいなくなるんじゃないだろうかと。


平等の魔法を作っておきながら、自分が何と不平等な存在だろうかと。


(ここだけ登場人物)


◯ブラント・ディーア(白の商人/白の兄)

白賢者と共に白魔術の確立に貢献した白魔術師。顎髭が特徴。

ユノーシスとは20代半ばに出会った兄貴分であった。商人としての腕はなかなかで、綿花や香辛料を中心に商売をしていた。白魔法を商売に役立てる魔法はユノーシスより優れていたので、白の商人として魔法経済学の教科書に載る事もある。

旅を終えた後もフレジスタの都にて店を構え、その後も旅に出るユノーシスの拠点となっていた。

享年77歳。フレジスタの都一の大富豪として華やかな人生のまま幕を降ろした。




◯ミナ・ディーア(白の治癒者/白の守護者/白の妹)

ブラントの妹。ユノーシスと出会った頃は15歳程。栗色のおさげが特徴。

溌剌とした元気で素直な娘で、争い事が嫌いで第三戒の守護壁を発見し、また治癒魔法を発展させる白魔術師となる。魔法の才能は兄よりずっとあった模様。

ユノーシスの事が好きで、精霊調査団の旅の途中彼と思いを共にするが、自分だけが歳をとって行く事に耐えられず、彼と共に生きる道を諦める。

享年68歳。現代ではブラント以上に白魔術師としての名を残している。

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