第二話 重なった世界
階段を降りるごとに、
空気が変わっていくのが分かる。
湿り気を帯びた冷気。
肌にまとわりつくような
重たい魔力。
現代ダンジョン特有の、
機械的で無機質な感覚とは、
明らかに違っていた。
「……やっぱりだ」
ライクが低く唸る。
「この匂いは、
俺たちの世界の
深層ダンジョンと同じだ」
「えー……」
フィオが肩をすくめる。
「つまり、
帰ってきたつもりが、
帰れてないってこと?」
「そうなるわね」
ティファニーが静かに頷く。
「ここは、
現代ダンジョンと
異世界ダンジョンが
重なった場所……」
「もしくは、
繋がってしまった場所だ」
アドルが続ける。
階段を降りきると、
視界が一気に開けた。
巨大な円形ホール。
天井は見えないほど高く、
壁一面には
黒曜石のような鉱石が
埋め込まれている。
その鉱石が、
脈打つように
赤紫色の光を放っていた。
「うわぁ……」
フィオが思わず声を漏らす。
「見るからに
ヤバい場所だね」
バルガスは
ゆっくりと剣を抜いた。
「全員、
戦闘態勢を維持しろ」
五人は自然と
円陣を組む。
前衛にバルガスとライク。
後衛にティファニーとアドル。
その隙間を縫う位置にフィオ。
完璧な陣形だった。
そして――
少し離れた場所で、
佐山孝也は
壁際に身を寄せていた。
(相変わらず、
無駄のない配置だ)
異世界で、
何百回と見てきた布陣。
身体が、
勝手に記憶を呼び起こす。
だが、
自分はそこに立たない。
立ってはいけない。
今の自分は、
ただの探索者だ。
「……来るぞ」
ライクが呟いた瞬間。
床の魔法陣が、
不気味に光った。
ズズズ……。
岩が砕ける音。
床が盛り上がり、
そこから
異形の影が這い出す。
四足の獣の身体。
人型の上半身。
顔はなく、
代わりに
巨大な口だけが
縦に裂けている。
「キメラ系か!」
アドルが叫ぶ。
「現代系魔物と
異世界魔獣が
融合している!」
バルガスが踏み込む。
「行くぞ!」
大剣が、
唸りを上げて振り下ろされた。
ギィン!
硬質な感触。
「硬い!」
「私が削るわ!」
ティファニーが
魔法陣を展開する。
「聖光よ、
刃となれ!」
白い光が
魔物を包む。
表皮が焼け、
悲鳴が上がる。
「今だ!」
ライクが突撃。
竜族特有の
膂力を込めた斬撃が、
魔物の脚を切り飛ばす。
フィオは背後へ回り込み、
短剣を突き立てた。
「っと、
これはサービスだよ!」
致命傷。
魔物は
黒い霧となって消えた。
「はぁ……」
フィオが肩で息をする。
「一体目から
この強さって……」
「気を抜くな」
バルガスが周囲を警戒する。
「ここは、
まだ入口に過ぎん」
佐山は、
戦闘を見ながら
内心で頷いていた。
(間違いない……)
(こいつら、
異世界の中層以上の強さだ)
現代ダンジョンの
五十階層相当。
だが、
ここはそれ以上。
探索者ランクで言えば、
最高位クラスでも
生き残れるか怪しい。
(ギルドに
知られたら、
大混乱だな……)
だが、
今はそれより――
彼らを
どうするか。
佐山は悩む。
このまま放っておけば、
彼らは
帰還方法を探して
進み続けるだろう。
だが、
その先には、
確実に死が待っている。
(助けるなら……
バレずに、だ)
彼は、
腰の短剣に手を伸ばす。
現代製の装備。
だが、
中身は――
異世界で鍛え上げた、
勇者の技。
「……誰かいる?」
突然、
ティファニーが
振り返った。
佐山は、
即座に呼吸を止める。
「気のせいじゃない?」
フィオが首を傾げる。
「でも、
さっきの戦闘……」
ティファニーは
小さく首を振る。
「いえ、
悪意は感じない」
「むしろ……
守られている感じがする」
その言葉に、
佐山は苦笑した。
(さすが聖女だな……)
バルガスが言う。
「見えない味方なら、
敵じゃない」
「今は進むぞ」
彼らは再び、
歩き出す。
佐山も、
影の中で歩く。
勇者パーティーの背後。
誰にも知られず。
だが、
確かに存在する、
六人目として。
重なった世界で、
運命はさらに
絡み合っていく。




