表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

名前は変えないよ

 すぐに引き取れる訳ではなかった。環境調査があり資格基準が満たされてからの譲渡となる。動物保護施設により違いはあるのだろうが此所はしっかり自宅の状況や家族構成に至るまで聞き取りがあった。犬であれ猫であれ飼うとなれば責任が生ずる。命ある生き物一匹分の一生を引き受けることになるのだから。環境を整え食餌を用意し健康管理を怠らず愛情を持ち命に向きあう覚悟が必要だろう。

呂室は以前から保護施設の里親募集サイトを閲覧していた。呂室の言では子猫はサイトに載るとあっという間に里親が決まる。小さくて可愛いからな、だそうだ。

生まれたばかりの子猫を保護した場合はミルクボランティア(小さな命を救う手伝い)が一時的にあずかる。母猫がいない乳飲み子の猫にミルクを与え、排泄、体温調節や健康管理を見守りながら育てる。母猫がいない目も開かない小さな耳らしきもを持ち蠢く子猫の生存率は50%だと言われている。半分死ぬんだ、懸命に世話して死なれるのはつらいな泣くだろ、呂室は言った、敬意を持たないといけない。

猫に比べ犬の場合は違う。人間の都合で飼えなくなった、事情で飼育が困難になったなど、成犬、高齢犬が主で子犬はほぼいない。

考えてみろ大切な家族の一員を見捨てることがおかしいんだ、まあ事情はどこにでも誰にでも突然湧いて出たりするもんだから、仕方ないのかも知れないが腹立たしい。クソだな。呂室は憤りを隠さない。

珠生の父親が知れないのも事情だろうか。

そして呂室はただのおまわりさんだったと過去を語らない。

母親の莉莎子は珠生に父親はいない私が授かっただけだと言い、祖父母はそんな珠生を好ましく思っていない。

疎ましい存在なのだと珠生は祖父母に心苦しく思い、どこか遠慮がちで距離があった。智明さんと未可子さんは僕を嫌いなのだと思い込んでいた。

繁殖犬だったマリリンは劣悪な環境で子犬を産む道具として扱われていた。狭いケージに閉じ込められていたそうだ。

メス犬の繁殖年齢は6歳まで生涯出産回数は6回までと定められている。マリリンは3歳の時他の犬たちと一緒に保護されたそうで、出産回数は2回らしい。

お前、子どもがいるのかマリリン、お前の子ども達みんな元気で幸せに暮らしてるといいなと呂室はマリリンの頭をクシャクシャ撫でて言った。

父親は誰犬で子犬はどこにいったんだろう、望まれて買われて大切にされているのか、実際のところは分からない。子どもから引き離されたマリリンはどんな気持ちなんだろ。悲しくないのか。マリリンは授かっただけ、出産しただけ、父親や子どもの存在は気にならないのかもしれない。珠生が父親を求めないのと同じか‥‥。

特定の目的を達成するためのシステムのひとつが父親だろうか、そんなふうに考えていた。

男女の行為を理解するまでは‥‥妊娠出産のメカニズムを知って反吐がでた。莉莎子‥‥僕の父親はくそだな。


「名前は変えない」

呼び名変えられるのストレスになるかも知れないからそのままでいこう、この子に似つかわしい名だろ

なあ、マリリン、今日から俺とお前は徳川の家で暮らすぞ。

犬一匹と人間ひとりお世話になりますと頭を下げた。マリリンは呂室を見上げてから、徳川の家族に顔を向け順番になぞっていく。納得したのかしないのか笑顔を見せて尻尾を振った。

「なんてお利口さんなんだ」呂室は大げさにマリリンを褒めそやし撫ぜ回し身をかがめ、マリリンのピンク色のパゲにキスをした。

祖母の未可子にとって呂室は実弟なわけで、それも土田の父親に(珠生の曾祖父)勘当された年の離れた末弟だ。曾祖父が亡くなって代替わりした今も土田の家の敷居は跨がないという頑なな信念があって今に至る。勘当された理由はなんだろ。

「あら、可愛い。ねえ、呂室、子どもの頃飼ってた七々子に似てるわね」

「似てねえわ、マリリンの方が百倍可愛いだろ」

「あれね、あなた、ババアになった七々子しか知らないから、よぼよぼでも七々子は可愛かったでしょ」

「ババアとか言うなよ未可子」

「ババアがババアって言うなってことハハハ」

「違うわ、その言葉、似合ってねえから」呂室は苦笑した。

「まあ、可愛がってよ」

「了解」

未可子と呂室の親しげな姉弟間のやり取りを黙って聞いていた祖父はその犬はメスかと聞いた。

「やだ、パパ、バカなの、名前からして女の子でしょう。ねえマリリン、失礼しちゃうわね」莉莎子は私犬飼うのはじめて、パパが動物は安易に飼うものではないと、徳川の家はペット不可だったから、大丈夫かなと軽く握った拳の背をマリリンの鼻先に持っていった。

マリリンはクンクン匂いを嗅いでお座りをして尾を振る

「わあ、珠生見て、なんてお利口さんなのかしら、可愛い、これから宜しくね」莉莎子は垂れた耳の後ろをそっと掻く、珠生も真似て反対の耳の後ろを掻いてやる持ちが良いのかマリリンは目を細めた。

祖父の智明は憮然と家族の行動を見ていた。

智明さん犬が怖いんだろうかと心の中でこっそり思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ