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マリリンのピンク色のハゲ

 突然触れた冷たい感触に驚き‥‥仕方なく瞼を開くと、極々間近目の前に犬の顔があって、黒く輝く瞳が珠生を見ていた。冷たいのは笑顔を見せる犬の濡れた鼻先だった。その犬は知った顔でその犬の鼻は見慣れた鼻だった。瞳と同じく艶々と輝く湿った黒い鼻先に小さな丸い鮮やかなピンク色の痣がある。しっとりと濡れた黒い鼻の上で 畏まっているピンクのパゲだ。クロとピンクは色の相性がいいと誰かが教えてくれた。色の相性を考えるには、色相、明度、彩度の3つの要素を理解し統一感かメリハリのあるものかで配色を決めると良いと教えてくれた‥‥誰が教えてくれたのか‥‥僕が問うたのか‥‥何を目的に聞いたのか‥‥忘れた。

思い出せない‥‥‥‥今思い出す必要は‥‥ない‥‥とはいえモヤモヤはするだろ、嫌だな。大きく息をはいて犬の顔を見た。お前マリリンだよな、クロとピンクの見慣れたコントラストに軽く安堵を覚える。

やあ、マリリン、可愛いなあ、お前はいつも可愛いしずっと可愛い‥‥

やけに接近しているじゃないか、お前ここでなにしてる?近すぎないか?ぼんやり頭を巡らせ、何故か重い腕を伸ばしマリリンの頭を両腕に捉え顔を寄せすんと匂いを嗅いだ。

 ‥‥あれ、胸が、いや心臓か、痛くて、なに?動けない、身体拘束されてる? 夢か、マリリンの匂いはするけど‥‥

待て、まじで、こいつ本物か?幻覚かも知れない‥‥

確かめるべくよいしょと身体を寄せて犬をぎゅっと抱き締めると、犬はクウクウ喉を鳴らしグリグリ頭を押しつけてくる。本物のマリリンだと顔を向けると、待ち構えたようにくすんだピンクの大きな舌がベロンとひとつ顔を舐めた。的を得たのか舐めが止まらないベロベロベロベロ呼吸困難に陥りそうだ。

無抵抗の珠生の顔を容赦なく蠢くマリリンの舌。大きなストロークの舌がべちゃべちゃと鬱陶しい。

生温かい感触と高い体温、モフモフ被毛の手触り、黒い瞳に鼻の頭のピンクのパゲ、マリリンの匂い、マリリンで間違いない。夢じゃない、マリリンは実態で舌のうねりは現在進行形で動いている。

現実だ‥‥ふっと頭の中何かが過る‥‥‥‥嫌だ‥‥揺れてる‥‥何‥あ‥‥人‥間‥‥      

ふるんと頭を揺らし思考を逸らす‥‥そうだマリリンのこと考えよう。

マリリンのピンクのパゲは出会った頃からあるものだが 、生まれた瞬間からあるものではないだろうか。

そうですね、怪我の痕だと思うのですが、よく分からないのですよと動物保護施設の職員が言った。珠生と珠生の手をぎゅっと握る大叔父の土田呂室に向かって‥‥そうだ、珠生は呂室と一緒にマリリンに会いに行ったんだ。初見の感想は綺麗な犬。そこは可愛いだろと呂室が笑った。

確か呂室ともその日の朝が初対面だった。

諸々経緯は飛んでしまったが正体不明の大叔父と保護犬に会いに行くという危うい行動。極度の人見知りで選り好みが酷い珠生が‥‥莉莎子はいなかったよね。なぜ呂室について行ったんだろう。人に対してイエス、ノーがある珠生がは誰とでも容易に話せるわけではない。多くは無言を貫く。知らない人間とはそんなものだろう。違うか。全人類お友だちとはいかない。相容れない人物は多数いるものだ。

‥‥あ、思い出した‥‥         

呂室が言ったんだ

『おい、小僧、犬に会いに行くぞ』

『‥‥え、いぬ』呂室は手早くスマホを操作して

『この子、可愛いだろ』と珠生にスマホを差し出しプラチナカラーで毛足の短い笑顔の犬の画像を見せた‥‥白くてきれい、画像に引き寄せられるように見入ってしまう

『‥‥あ』なんと言えばいいのかわからず戸惑っていると

『どうだ、脳天気そうでいいだろ』そう言って珠生を見る呂室は笑っているけど、目が笑っていなくて何処か胡散臭い。

そもそも脳天気は褒め言葉か、違うだろ。

腰が引けてる珠生に車のキイをシャランとひとつ鳴らして会いたいだろうと顔を寄せ行くかと尋ねる。キイの音にとんと背中を押されたのか、呂室の色素の薄い瞳に魅入られたのか、無意識にうんと頷いていた。

『よし、行こう』呂室はしゃがんでキイを左手に持ち直して右手を珠生の体の前に差し出した。珠生は呂室の顔を見返してそっとその手を握り返した。珠生の小さな手は大きくて武骨な呂室の手に包まれ手の温かさにスッと体の力が抜けた‥‥。

職員は続けて言った、なぜ怪我したのか分からないのですが、保護したときには既には痣は鼻の上にありました。3歳までブリーダーの元にいましたのでね怪我の程度は私どもには分からないのですよ。丸くて可愛らしくてこの子のトレードマークみたいですから、そこまで掘り下げなかったのです。適切な措置を施したのか詳細は不明です。痛みがあったでしょうにと動物保護施設の男性職員が愛しそうに鼻先に触り優しく話しかけ知れ得ない過去を思いマリリンを慮る。

誰しも語れない過去や思いはありますからねと静かにプラチナカラーの被毛を撫でる。

珠生は苦笑いする呂室を見上げた。

感情移入しすぎだなとこっそり耳打ちする。

”16南YD001”ニックネーム マリリン 種類ゴールデンレトリバー 毛色 クリーム 性別 メス 

生年月日 2013․1․3

狂犬病予防接種 済 不妊手術 済

血液検査 フェラリア (-)

小柄なゴールデンレトリバーの女の子です。

人といることを好む甘えん坊ですが静かな子です。

一緒にゆっくり過ごしてくれる方に向いています。

右足に障害あり歩行のさいに軽く引きずる様子が見られます。

体重 18キロ

マリリンは劣悪な繁殖現場からレスキューされた犬だ。



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