幕間2
いつも彼女は笑っていた。
私をおいて、遠く走って行った。
丘の上から私を呼ぶ声がする。
おいで、ここまでおいでと、私を呼んでいる。
「ねえ、走ってきたらいいじゃない」
「…私は陽が登っている間は満足に体を動かせないんです」
「ふーん、じゃあ私みたいに走れないってこと?」
彼女は眩しい笑顔を浮かべてそう言ってくる。きゃらきゃらと軽やかな笑い声が辺りに響き、地を蹴る彼女の足音が聞こえる。
やっとのことで丘まで登った私は、目を細めて太陽の光を浴びる彼女を見ていた。
彼女と初めて出会った時は、まるでこの世のすべてに絶望をしているような顔をしていた少女だったのに、いつの間にか太陽の下で何よりも美しく輝く天使のような娘になっていた。
いや、あの時この世のすべてに絶望をしていたのは、彼女だけではなかったのかもしれないが。
「ねえ!もっと遊ぼうよ!」
無邪気な声で彼女はそう言った。
私はその言葉を聴きながら、強くなった日差しを目に入れないようにしてより一層目を細めた。輝く琥珀色の光の中では、彼女はまるで大天使ミカエルのようだった。
天使と怪物は、結ばれてはいけない。
それは、この世に大きな災いをもたらすから。
「…貴女が眩しいです」
屈託のない笑顔を浮かべて、楽しそうに野を駆ける少女。
その輝きが、私にはとても眩しくて、神聖で、手に取るのにはとても難しいものだった。
どうして私は知らない世界を知る喜びを知ってしまったのだろう。
どうして私は大切を知ってしまったのだろう。
どうして私は失う怖さを知ってしまったのだろう。
どうして私は、愛を知ってしまったのだろう。
孤独な怪物は、愛など最後まで知らぬままで良かったのに。
彼女の存在がそれを私に赦してはくれなかった。
――ああ、私が人間であれば、貴女の隣に立てたのだろうか。
第2章、これにて終幕となります。




