秘密は魔法のスパイス
俺はわざと扉を大きく開けて今ほど入ってきたように演出する。
「何しにきたんだよ。アルフレッド」
「お前こそ何してるんだ? 何かの講義か?」
「良いからこっちこいよ」
俺は誘いに乗るように前に進んでいく。
「スライムも倒せないからってクラスメイト襲ってんのか?」
「お前は前から気に食わなかった。学長の義理の息子だからか知らねーけどよ。何の身分でもないお前がこの学院に入ってきてんのが頭に来るんだよ」
「馬鹿を言うのはよせ。魔法は誰のものでもない。今はな」
「何が言いてぇんだよ」
「魔法の前には身分やら血筋なんかは関係ない。等しく平等だ」
「お前みたいな捨てられた子供が魔法を立派に使える? それに片腕もないんだぞ? それでもなお平等だって言うのか?」
「ああ。だが確かに俺とお前で違うことはあるな」
「なんだよ」
俺はデジンのお腹目掛けて拳突き立てる。
「全てだよ。無能」
「……!? 何すんだよテメェ?!」
「魔法なんてお前にはいらない。かかってこいよ。オーディエンスもよ」
「クソがクソがクソが!」
彼は乱暴に腕を回し始める。確かに彼は身体がでかい。当たればそれなりのダメージはあるだろう。
だがこいつは能無しだ。次の行動も予測するわけがなく適当に振り回している。それに足は太りすぎて上がっていない。
お供の二人も彼より痩せていてすばしっこいがその分拳は軽いし蹴り慣れていない。
「良いか。太ももを狙って蹴ろうとするな。狙うなら脛を狙え」
「うぉっ?!」
情けない声を出しながらお供Aは崩れ落ちていく。
「それに拳は人差し指と中指の拳頭で殴れ。変な箇所で殴るから痛みを伴うんだ」
「ガハッッ」
情けない。男が膝から倒れ込むなんてな。
残るはデジンだが……。奴らしいな。
彼は片手に魔導書、もう片方には杖を俺の方に構えていた。
「勝つためには何でもありか?」
「当たり前だろうがッ!」
「そうか。分かった」
彼は杖の先端から炎を飛び出させる。
「炎の渦!」
馬鹿だな。杖の先が真っ直ぐになっていない。
それに人差し指にだけ魔力が溜まりすぎている。
彼の放った火の塊は人の頭一つ分ぐらいのものだった。きっと焦っているのもあるのだろうが実戦で使えなければ意味はない。
こいつには痛い目をあって欲しいし、なんならリタイアさせたい。この教室がしばらく使えなくなるが……学長ごめんなさい。
何千回とその魔導書は読んだ。
杖の振り方も何万回と振った。
あいつらが寝ている時にさえも。
大丈夫だ。
俺ならいける。
例え魔導書がなくともあの偉人たちと同じように杖だけでいける。
俺にはこの脳があるのだから。
俺は静かに杖を構え、静かに、だが透き通るように魔法を唱える。
「赫灼断界」
教室を埋め尽くすような勢いで赤黒い炎の塊は大きくなっていく。
「おい馬鹿野郎?! お前は俺を殺す気なのか?! そうすればお前は退学だぞ?!」
「そんな無駄なことは考えるな。お前は死ぬから関係ないだろう」
俺は彼に向かって魔法を解き放つ。
おびただしい音共に爆発が起き、埃が舞い散る。
気がつけば教室の扉はおろか、壁にさえ、複数穴が空いている。あんなに大きな炎の塊だが実態は小さめにしておいた、はずだった。
ここまでやらかしてしまうとは。
デジンは……小指がピクピクしてるな。大丈夫だろう。
俺はクレアに駆け寄る。
「これを着て逃げるぞ。バレたら怒られるからな」
俺はそっと来ていた制服のコートを羽織らせる。
「怒られるっていう次元じゃないと思うけど……」
「そうか? 多分大丈夫だろう。あいつらのせいにして逃げようぜ」
俺は急いで学長室に彼女を運び、連れ込む。
中には学長が居たが既に事の顛末を知っているようだった。
中に入って最初の一言目が「呆れた。ワシまじで呆れた」だったからな。
「全て見てたなら止めろよ」
「いやなぁ……。ドラマ感覚で見ていたところはあったけどなぁ」
俺もあんまり言えないがこの爺さん、人からは嫌われやすい体質ではある。
「まぁ……。誤魔化してやろうって誤魔化せるか!ドアホ!あ〜あ。デジンの父親めんどくさいんだよなぁ……。いっそのこと殺せば」
「良くはない。それこそ父親がブチギレて乗り込んでくるだろ」
俺とジジイの話し合いをぼーっとクレアは見ている。
「おっとすまんすまん。後のことはワシに任せたまえ。……聞いてしまって申し訳ない。だが学費のことと治療費はワシに任せなさい。この馬鹿が償いのために荒稼ぎさせるから。金には心配ないからな」
「あ、ありがとうございます……」
「いや、は? 俺に荒稼ぎさせるってどういうこと?」
「危険な依頼だが金が良いのが何個か耳に挟んでる。それ行ってこい」
「いや俺にも学業が……」
「停学だから関係ないよ。頑張ってね」
めんどくさいのに巻き込まれた。
いや自分から薮をつっついたのだが。
「まぁデジンの方は彼女に対して行った行為をもとに退学させておくか。周りの奴らは……あいつらワシの悪口言ってたからなぁ。一緒に退学させておくか」
「一部始終を収めてんのか? その気持ち悪い水晶に」
彼は急いで机の上にあった水晶を後ろに隠す。
「いやぁ〜これはなー」
「この水晶。特定の鳥の目に映ったものを全て残せるんだ」
「悪用はせん! だからな、見せたらすぐに消す!」
なら一件落着か?俺以外。
「おいこの馬鹿たれ小僧! 何か暖かいものを買ってこい!」
「え、クレア何か飲みたいのか?」
「馬鹿たれ。この状態で同級生に見られたいと思うか?こんなボロボロで下着姿で?」
「あの、言わなくて良いです」
「そうか。悪い。なんか買ってくる」
「ワシは予備の制服を持ってこようかの」
俺は学長室を出ると白髪の女性が壁にもたれかかって誰かを待っているようだった。
「凄いやん。君」
待っていたのは俺だったのかわからない。
周囲には誰にもいない。俺に話しかけている。
「悪いが新キャラはやめてくれ」
「はぁ?」
これ以上今日は何か起こって欲しくない。
「まぁええわ。君の魔法見させてもらったからな。これから仲良くしてな」
「だるそうな奴とは絡まない主義なんで」
「昔からそうか?〇〇〇〇君」
俺は歩みを止める。
「なんでその名を」
「さぁな」
この学院の生徒が知るはずがない。
なぜならその名は孤児院時代のものなのだから。
驚きを隠せない俺をよそに彼女はニヤリと笑うと、俺の肩に手を置きどこかへ行ってしまった。
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