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真面目に生きるには人生は短すぎる


 「おい、アルフレッド。魔導書はどうした?」


廊下を歩いているといつもの連中がちょっかいをかけて来ている。


俺は無視して歩き進めるが奴らは引くことを知らない。


「ま〜た無視か? あ、わりぃ。お前腕ひとつだったな。杖握ってたら魔導書なんて持たないよな。いや待てよ? 口に咥えたらいけるんじゃないか?」


どんなに歳を取ろうと人はあまり変わらない。結局子供と大人にそんな違いはないのだ。大人は強制されて大人になる。


「チッ、いらつくなぁ。何か言い返せばうちのペットより上なんだけどよぉ?」


肩に重い一撃が走り思わず前方に倒れてしまう。


「おいおい〜。大丈夫かぁ? 起き上がれんのか?もう俺たちは四年生だし、一人でやれるよなぁ?」


クスクスと周囲は笑っている。


「ちょっと。何をしているの?」


凛とした声が笑い声をかき消して俺にまで透き通る。


「お〜。これはこれは。クレアちゃん。どう? 今度のパーティーで俺と」

「どいて」


彼女はいじめっ子であるデジンを押し退けると俺の方に近づき、身体を起こそうとしてくる。


「貴方達、恥を知った方がいいわ」

「おいおい〜。あんまりそんな口を聞かないほうがいいぜ。俺の父親、クレアちゃんのパパと関係があるのは知ってるでしょ?」


彼女は口を閉じているものの目は睨みつけている。


「あ〜あ。なんかしらけちまったわ。行こうぜお前ら」


デジン達は身体を大きくしてズカズカと歩いて去っていってしまった。


「大丈夫?」

「気にしなくても良かったのにな。助けてもらっておいてなんだけど」

「そりゃあ虐められてたら助けるわよ」

「俺が可哀想だからか?」

「え?」


彼女は少し驚いた表情をした。


「悪い。起こしてくれてありがとう。もう大丈夫だ」

「……」

「助かったよ。じゃあな」

「別に貴方を可哀想だと思ったことはないわ」


歩き進めようとする俺を止めるように彼女は話し続ける。


「現にこの学院にいるわけだし。ただなんで反撃しないの?」

「さぁな。俺に片腕がないからかもな」


何か言いたげな表情をした彼女だったが、何も言うことなく俺とは真反対の方向に去っていった。



放課後、図書館で勉強していると珍しくデジン一人で俺に向かって歩いて来ていた。


「よう真面目。こんなとこで何してんの?」

「息抜きにな」

「さすが真面目ちゃんだね〜。でもその本とかも実践では持てないよなぁ?」

「何が言いたいんだ」

「魔法使いの基本。片手には杖を。もう片方の手には魔導書を。これは基本だぜ?」

「魔導書を持たない魔法使いもいる」

「一緒に考えるなよ。そいつらは生まれつきの高度な計算能力と暗記能力、そして場数から来る経験でカバーしてんだから」


こいつは俺のことが大好きらしい。


「お前といると気分が最悪になる」

「あ?お前誰に口聞いてんの?」

「分かった。分かった。俺は去るよ」

「あ、おい」


図書館から出るとクレアは何やらポスターを外の壁面に貼って来た。


「あ、アルフレッド。手伝ってくれない?」

「構わない。これは?」

「後一ヶ月で『魔女の夜(ワルプルギスナハト)』でしょ?そこでパーティーを開くから」

「良いな。今年も愉快な夜になりそうだ」

「今回も来ないの?」


俺は受け取った紙を持ったまま動きを止める。


「どうだろうな。行けたら行くかな」

「それって来ないパターンのセリフじゃない?」

「俺はいつも通り学長と過ごすよ」

「まさか学長と付き合ってるわけ?」

「どうだろうな」


意地悪な笑みを浮かべて彼女の作業を手伝い続ける。


「お〜。お二人さん。仲良しこよしだねぇ。付き合ってるのか?」

「何よデジン。もうそろそろ帰ったほうが良いわ」


彼女の忠告を無視して彼は俺の手から無理やりポスターを奪い取る。


「クレアちゃん。このパーティー俺も行くから。夜は俺と過ごさない?」

「いや。絶対無理」

「お〜怖いなぁ。でも時期にイェスしか言えなくなるから。楽しみに待っているね〜」


彼はそう言い、手に持ったそれを引きちぎりながら廊下を歩いていく。


彼女を見ると少し震えていた。


「大丈夫か?」

「え、ええ」

「あいつに弱み握られているのか?」

「あいつの父親は……。なんでもないわ。貴方には関係ないもの」

「そうか」


俺達は無言になった。

そのうち気まずくなったのか彼女が口を開ける。


「私たちもいつのまにか四年生よね」

「ああ。この学院にいられるのも2年間だけだな」

「その頃には立派な魔法使いになれてるかな」

「クレアならなれてるだろうな。成績優秀なんだろう?」

「今はね。未来のことは分からない」


どこか悲しみをともした顔をした。



無事に作業を終えると彼女は「ありがとうね。また明日」と言って玄関へ向かっていった。


俺も自分の寮へ戻らないとな。


男性寮に向かおうとしていると学長が少しばかり怒った表情で近づいて来てきた。


「アルフレッド!お前またあの部屋に入ったな!? あそこは誰にも入らせてない部屋だ!教師でさえ禁止だと言うのに……」

「もう学ぶことがなくて」

「はぁ……。お前はここの学院に置いておけんかもな」

「悪かったよ。これからそう言ったことはないようにする」

「いや身勝手な行動からではない。お前さんがさっき言った『()()()()()()()()』、この言葉を聞いたからだよ」


彼は俺の方に手を置き話し続ける。


「別の魔法学院に行くか? ワシならもっと上の」

「いや良いよ。俺はここで良い」

「だがなぁ……。もう既にこの学院にある魔導書は全て読んだのだろう?そして暗記もしている。なんならワシの禁忌コレクションにまで手を出しおって」

「まぁな」

「この学院で学べることはないのだろう?」

「いや、四年生から始まる交換留学、それに興味がある」

「あれだろう? 成績優秀者が別の学院に行って学べるやつだろう?」

「それ。この学院は短期間でかつ色んな別のとこに行けるからな」

「そうか。でもお前、今成績良くないだろ。担任から聞いておるぞ」

「それはわざとだよ。これから実践や決闘も成績に入るのにわざと目立って対策されるヘマはしたくないからな」

「……ワシにはお前がよく分からん。無心かと思えば貪欲でもある……」

「俺は常に魔法に飢えてるからな」


そうだ。俺は魔法に飢え続けている。





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