第5話:涙のレクイエム、そして運命の招待状
真っ赤な夕焼けが町を染めていた。
高台からその景色を見下ろしながら、姫歌はどこまでも続く暗闇に心を沈ませていた。
ノォトを失ってから、もう1ヶ月――それでも、悲しみは薄れるどころか心の奥底に重く沈殿している。
「わたしはもう聖女じゃないの。もう歌わないって決めたから。」
駆け寄ってきた子供たちの涙に滲んだ瞳を見つめながら、姫歌の胸が締め付けられた。
「わたしたちは聖女さまの歌が大好きだからーーっ!」
その言葉を残して走り去る小さな背中たち。
その瞬間、姫歌は込み上げる何かに耐えられなくなった。
――わたしだって歌うのが大好き。だけど……もうなにも失いたくない。恐いんだっ。
震える喉を押さえる。しかし、堰を切ったように感情があふれ出す。
姫歌は ノォトへのレクイエムを歌った。
夜風に乗った哀愁の旋律が、粉雪のように町に降り注ぐ。
その歌声を、お忍びで町を訪れていたこの国の王子が聞いていた。
「この歌声の主は? 誰か知らぬか!」
従者たちは顔を見合わせ、確信したように頷く。
「流星のごとく現れて、流星のごとく消えた聖女――ヒメカさまです。」
「なんと……。かような歌声を失うのは、国益を損なうのも同じ。」
王子は迷いなく命じた。
「国中の聖女を招き、コンサートを開くのだ。かの者にも招待状を出せ!」
そして翌日。姫歌のもとに王家からの使者が訪れた――