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寿(ことほ)ぎの魔女は途方にくれる。  作者: 雷鳥文庫


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9/12

その9。

「こちらでありんす。」

フワフワと宙に浮かぶ、白い妖精もどきのゴースト少女について行く。家の裏庭だ。

じっとりと湿った空気が流れていてドクダミが生えている。プンとただようドクタミのにおい。

うっかり踏んじまったか。薬草っていうか青臭いフレーバーが漂う。


「やだあ。ここにハエトリクサも生えてる!踏んだらベトベトしちゃう!」

シロフワちゃんが私の肩に飛びのる。


うん。あんまり好きこのんで来たいところではないな。それも隠し部屋を隠す為に有効なのか。


「確かに。空間が隠れてるわね。あら、ここ。」


コツン。

手を伸ばすと何かに当たる。


「ふうん。ドアみたいですねえ。」

シロフワちゃんが空間にカリカリと爪をたてた。

「このドアを開けると、結界が開いてデイジーナ様の隠し部屋が現れるのでござんすよ。」

へえ。

「呪文が必要なタイプね?アンタはその呪文を知ってると。シロオバケ。」


シロオバケは頭をふってイヤイヤをした。

「私には、アリスという名前がありんす。」


「あら、そう。」

洒落かい。

「とっとと呪文を唱えないと潰すよ!『威圧』!」


「きああっ。なんちょうセッカチなお人や!

『デイジーナ!デイジーナ・メルト!

ディラン・ババーラ!ディラン!ディラン!ディラン!」

これで開くはずです。」


メルト?


「この国の名前ね?デイジーナはメルト国の姫だったの?デイジーナ・メルトが本名だったってこと?」


「いえ、違いますえ。」

そこでため息をつくアリスゴースト。


「…デイジーナ様はおよそ180年前に、このメルト国に来ました。

当時の王太子、ディラン様に一目惚れなさったのです。胸の奥に秘めた、叶わぬ恋でござんした。」


「はああ?」

「うえっ。それで恋しい男の名前をシャウトしたのが合言葉に?情念濃いですよう!」

シロフワちゃんが背中をぶるぶると振った。


おお、少しずつドアが見えてきた。


「あー、久しぶりなので立ち上がりに時間、かかってますえ。ぐるんぐるんと周りの空間が回ってますわあ。」


ところでさあ。


「じゃあアレかい?王子の苗字に自分の名前を重ねて呼んで、…夫婦気分を味わってたのかい?」

シロフワちゃんが眉間にシワを寄せて言う。

うわあっ。厳しい。他人の黒歴史に触れるのは。


「ぶっちゃけそうですわいなあ。悲しき乙女心でござんす。」


ちゃーん、ちゃららららーん♫

「ん?この音楽は…『ちょっとだけよ』の音楽?」 

「ええ、あるじ。『アンタも、好きねえ』に続く思います。」


『タブー』な音楽が流れ、じゃーん♫とドアは開いた。


恐る恐る足を踏み入れる。

そこには乙女の部屋と言うべき空間が広がっていた。


花柄のカーテン。パステルカラーのベットカバー。

レースのテーブルマット。小さな戸棚には薔薇のカップとソーサー。


 そして。部屋一面に貼られた麗しき王子様の絵姿。全ての壁に。天井に。

ペタペタペタと。


……げっ。ベットの上には王子様を模した抱き枕?

見てはいけない物を見たような気がするよ……



「ここの壁には相合い傘の落書きが。デイジーナとディラン。ですってよ、あるじ。」

シロフワちゃんが、たしたしと肉球でそこを指し示す。

「窓の下にもよ。デイジーナ・メルトと、ディラン・ババーラって書いてあるわ、ふははっ。」


あー、少年少女が教室で机に好きな子の名前に自分の苗字を書いて、慌てて消して当たりを見回すというヤツか。それをコッソリと私室でやってたのか。

…しょっぺえ。


「ここがデイジーナ様の私室でございました。あの方が好きだったのはお金とディラン王子。」


…わかるわよ。

だってさ、部屋の隅に壺があってそこに金貨が溢れてるじゃんよ。貯め込むタイプだったのね。


「眩しい金貨の輝きです!ゴールドの価値は永遠ですからね!あるじ。儲けましたね!」


そうね。この家は私のものでこの中のものも私のものだからね。


でもね、それより。


「ディラン王子の顔ってさあ…」

頭痛くなってきたよ。

「あっ、気づかれましたでありんすか?」


「気づかないワケないでしょ!

先日ウチに来た、あの貧乏王子にそっくりじゃんか!」


遺伝って怖い。


さだま○しさんの木根○橋にそんな歌詞ありますね。


好きな子の名前と自分の苗字を重ねるやつ。

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