その9。
「こちらでありんす。」
フワフワと宙に浮かぶ、白い妖精もどきのゴースト少女について行く。家の裏庭だ。
じっとりと湿った空気が流れていてドクダミが生えている。プンとただようドクタミのにおい。
うっかり踏んじまったか。薬草っていうか青臭いフレーバーが漂う。
「やだあ。ここにハエトリクサも生えてる!踏んだらベトベトしちゃう!」
シロフワちゃんが私の肩に飛びのる。
うん。あんまり好きこのんで来たいところではないな。それも隠し部屋を隠す為に有効なのか。
「確かに。空間が隠れてるわね。あら、ここ。」
コツン。
手を伸ばすと何かに当たる。
「ふうん。ドアみたいですねえ。」
シロフワちゃんが空間にカリカリと爪をたてた。
「このドアを開けると、結界が開いてデイジーナ様の隠し部屋が現れるのでござんすよ。」
へえ。
「呪文が必要なタイプね?アンタはその呪文を知ってると。シロオバケ。」
シロオバケは頭をふってイヤイヤをした。
「私には、アリスという名前がありんす。」
「あら、そう。」
洒落かい。
「とっとと呪文を唱えないと潰すよ!『威圧』!」
「きああっ。なんちょうセッカチなお人や!
『デイジーナ!デイジーナ・メルト!
ディラン・ババーラ!ディラン!ディラン!ディラン!」
これで開くはずです。」
メルト?
「この国の名前ね?デイジーナはメルト国の姫だったの?デイジーナ・メルトが本名だったってこと?」
「いえ、違いますえ。」
そこでため息をつくアリスゴースト。
「…デイジーナ様はおよそ180年前に、このメルト国に来ました。
当時の王太子、ディラン様に一目惚れなさったのです。胸の奥に秘めた、叶わぬ恋でござんした。」
「はああ?」
「うえっ。それで恋しい男の名前をシャウトしたのが合言葉に?情念濃いですよう!」
シロフワちゃんが背中をぶるぶると振った。
おお、少しずつドアが見えてきた。
「あー、久しぶりなので立ち上がりに時間、かかってますえ。ぐるんぐるんと周りの空間が回ってますわあ。」
ところでさあ。
「じゃあアレかい?王子の苗字に自分の名前を重ねて呼んで、…夫婦気分を味わってたのかい?」
シロフワちゃんが眉間にシワを寄せて言う。
うわあっ。厳しい。他人の黒歴史に触れるのは。
「ぶっちゃけそうですわいなあ。悲しき乙女心でござんす。」
ちゃーん、ちゃららららーん♫
「ん?この音楽は…『ちょっとだけよ』の音楽?」
「ええ、主。『アンタも、好きねえ』に続く思います。」
『タブー』な音楽が流れ、じゃーん♫とドアは開いた。
恐る恐る足を踏み入れる。
そこには乙女の部屋と言うべき空間が広がっていた。
花柄のカーテン。パステルカラーのベットカバー。
レースのテーブルマット。小さな戸棚には薔薇のカップとソーサー。
そして。部屋一面に貼られた麗しき王子様の絵姿。全ての壁に。天井に。
ペタペタペタと。
……げっ。ベットの上には王子様を模した抱き枕?
見てはいけない物を見たような気がするよ……
「ここの壁には相合い傘の落書きが。デイジーナとディラン。ですってよ、主。」
シロフワちゃんが、たしたしと肉球でそこを指し示す。
「窓の下にもよ。デイジーナ・メルトと、ディラン・ババーラって書いてあるわ、ふははっ。」
あー、少年少女が教室で机に好きな子の名前に自分の苗字を書いて、慌てて消して当たりを見回すというヤツか。それをコッソリと私室でやってたのか。
…しょっぺえ。
「ここがデイジーナ様の私室でございました。あの方が好きだったのはお金とディラン王子。」
…わかるわよ。
だってさ、部屋の隅に壺があってそこに金貨が溢れてるじゃんよ。貯め込むタイプだったのね。
「眩しい金貨の輝きです!ゴールドの価値は永遠ですからね!主。儲けましたね!」
そうね。この家は私のものでこの中のものも私のものだからね。
でもね、それより。
「ディラン王子の顔ってさあ…」
頭痛くなってきたよ。
「あっ、気づかれましたでありんすか?」
「気づかないワケないでしょ!
先日ウチに来た、あの貧乏王子にそっくりじゃんか!」
遺伝って怖い。
さだま○しさんの木根○橋にそんな歌詞ありますね。
好きな子の名前と自分の苗字を重ねるやつ。




