その7。
王子がいなくなって二日が過ぎた。
「主。アイツ戻ってくるかな。」
膝の上に寝転んだシロフワちゃんがつぶやく。
「そうねえ。」
ゆっくりとハーブティーを飲みクッキーを摘む。
至福のひとときだ。
「ブレスレットを持ち逃げしたりしてさ。」
「うーん、その時は王宮に取り戻しにいくわよ。そして出張料金をいただくわ。
…だけどあの猫好き。シロフワちゃんに会いたくて戻ってくるわよ。きっと。」
「いやあああにゃあー」
可愛いシロフワちゃんが耳をぺたんこにして震えてる。
「まあ戻ってこなくても良いけどね。そんなにお金に困ってないし。」
ふふん。
森の中にいればお金を使うこともないからね。
「こないだまでいたマルル国ではかなり儲けましたしね。」
白猫はあくびをして膝から降りた。
「まあね。」
ここの国の前任者の魔女は三百歳まで生きていた。
彼女が亡くならなければまだマルル国にいたはずだ。
「あの国は交通の便が良かったから。バターも砂糖もすぐ手に入ったわ。」
「そうですねえ。主のクッキーにバターが足りないのはそのせいですのに。なんでこんなへんぴな国に来るのを引き受けたんですか?」
ぬるくなったハーブティーを飲み干して愛猫を抱き上げる。
温かい毛並みに顔を埋める。
「主?甘えっ子ですか?」
猫がたてるゴロゴロという音は何でこんなに心を癒すのだろう。
「…里心がついたのかも知れないわねえ。」
「えっ?」
「この隣の国ね?ベロティ王女の国。
そこが私が110年前に生まれた国だったのよ。
私は生まれてすぐに、魔女になるべく連れ去られた姫だったって言ったわよね。」
「ええっ。主は正しくは110歳だったのですか?」
「気になるのはそこ?」
「という事はベロディ王女は主の子孫なんですか?」
うーん。
「ベロディ王女の国はカカオワナ国でしょ。私の生まれたのはその前の国よ。ディディ国。
…やっと生まれた子供。世継ぎである唯一の娘が魔女に連れていかれてしまった。それが国が絶えた一因でもあるわね。
カカオワナ国はその前の国は無かったことにしている。
普通の人は百年は生きられないし、歴史は作られるから。」
以前の王族の1人を娶ったとも聞いている。私の従姉妹らしい。
緩やかに滅ぼされたのか。吸収されたのか。
詳しく知っているものはいない。
生まれて数日しか居なかった故郷。
「ここの前任者なら詳しく知っていたでしょうね。話を聞いておけば良かった。」
「なるほどお。家探ししますう?以前の婆さん魔女がなんか書き残してるかもですよ?」
「そうね。この家はもう私の名義。前の住民の残した物の所有権は私に移ってるわ。」
本気で調べるか。
「床下と天井裏には何も無かったのは確認済みですにゃ。」
「シロフワちゃん、よくお昼寝してるものね。」
ここの魔女は長年生きてきたチカラある魔女だった。
「隠し部屋がある気がするのよ。どうも。」
妙な結界を感じるのだ。
「…物理的に壊してみようかしら。そしたら出てくるかも。」
「ナイスですニャ。主人!」
頭の中で魔法のイメージを組み立てる。
「すべてを壊して新築にするってのもイイわね!
スクラップ&ビルドでこの国はのし上がってきた。」
「どっかで聞いたセリフですね…瓦礫に埋まったりするんですか?家財はいちど外に出す?」
シロフワちゃんが目を見開いてシッポをピン!とたてた。
「そうネエ…」
その時。
テーブルの上の水晶玉が煌めいた。




