王都へ
リーシャとヴェナは大きな扉をくぐり抜けると、小さな森にいた、そこはアナシスタ王国内である、そして森の中から見える先に大きな城壁があった。
「学園に入るには少女の姿の方がいいよね〜」
「そうだにゃ、今の姿にゃと学園生徒とは思われないにゃ」
「なら身長を下げるね〜」
そう言うとヴェナが見た時にはナイスバディであった姿ではなく、小さな少女になっていた。
「美人が可愛くなったにゃ」
「そう?目線が低くなったのが少し違和感ね〜」
「ならあたいは姿を消すにゃ」
「よろしく〜」
アナシスタ王国、それは人間達の国の中で1番の大国である。多大なる領地、発展した建造物や道具、文明レベルは人間の他国に比べると大いに上回っている。そんなアナシスタ王国の王都にあるフォレスティア学園は身分、種族問わず合格ラインさえクリア出来れば入学できる。精霊は戸籍を必要としない、なので身分も何も無いのだ。そんなリーシャにとって学園は都合が良かった。
(都合がいいのもあるけど、目的も学園なのよね〜)
そんな事を考えてる内に王都内に入る人達の列に並んだ。今はお昼時である、なのに長蛇の列ができていた。そんな事に疑問を抱いたのかリーシャは前にいた同じぐらいの背格好の少女に声をかけた。
「ねぇ、あなた」
「はっ、はいぃぃ!」
急に声をかけられたことでびっくりしたようで若干声を上ずらせながら返事をし若緑色の髪を揺らしながら振り返った。
「なっなんですか?」
「そう怯えなくていいわよ〜、私は遠い所から王都に来たの〜、それでね〜こんなに人が並んでるのっていつものことなの〜?」
「いっいや、いつもはもっと空いてます、」
「そうなの〜なら今日はなんで〜?」
「えっそのぉ」
急に話しかけられて少女は明らかに怯えていた、ただ原因はそれだけではないように見える。
(ひっひぃぃぃぃ、変なお面してるし、今暑くないのにマフラーなんかもしてる、絶対変な人なの)
主に原因はリーシャであった、だがそんな事情は知らないリーシャは声をかけ続ける。
「どうしたの〜」
「えっあっ、」
『主、名前にゃ、軽く自己紹介して仲良くしてから聞きたいこと聞くにゃ、明らかに怯えてるにゃ』
あわあわしてる少女の様子を見かねたのか、ヴェナが声をかけた。もちろん、それはリーシャにしか聞こえていない。
「私はリーシャよ〜、好きに呼んでもらっていいよ〜さっきも言ったように王都から遠い所から来たの〜明日のフォレスティア学園の試験を受けに来たの〜」
「わっ私はローズコルアって言います、周りにはロコって呼ばれてます。私も自由に呼んでもらっていいです、母が王都の定食屋をやっていてお使いから帰ってきたところなんです」
「ならロコって呼ぶね〜」
ローズコルアことロコは長い前髪で隠れていた瞳を不安げに揺らしリーシャの方を見ていた。そんな視線に気づいたのかリーシャは微笑んだ。
「突然質問してごめんね〜」
「だっ大丈夫です、今日人が多いのは学園の試験を受けに来た人とそれを狙って商売に来た人達がいっぱい来てるからです」
「へぇ〜商売って〜?」
「フォレスティア学園入学試験は王都の人々からするとお祭りみたいなものなんです、お祭りだと財布の紐が緩む人がいっぱいいるので稼ぎ時なんです」
「へぇ〜そうなんだね〜」
『(商売、魔道具も売れそうにゃ)』
「ねぇロコ〜あなたは学園の試験受けるの〜?」
「えっなんで?」
「なんで?だってロコ、試験受れる年齢でしょ〜」
「どうして知って、」
「見たらわかるでしょ〜」
ロコは絶句した、同じ少女が自分の年齢を見抜き、ましては見たらわかると言ったのだ、しかもロコは外に出るため少々大人っぽい服装をしていたのだ。
「それでロコは受けるの〜?」
「うっ受けます」
「そうなの〜なら明日一緒に試験会場まで行こう〜」
「え.........」
「だめ〜?」
そう聞かれ断ることも出来ずロコは頷いたのであった。
「ふふっありがとう〜」
変なお面に季節外れのマフラー、見ただけで年齢を見抜く観察眼、それらに違和感を抱きながらも、気にするだけ無駄だとロコは考える事をやめたのであった。
「そういえばリーシャさんは王都初めてってことですよね」
「そうだよ〜初めて、あと敬語は要らないしさんは付けなくていいよ〜」
「わかった、リーシャ」
「ふふっ」
少し話していてロコという少女の性格が分かってきた。人見知りで初対面だと言葉が詰まってしまうが、慣れれば大人しい少女である。それと異端児であるリーシャは気づいてないがロコは普通の少女よりも頭の回転が早い、リーシャ質問に対し的確に詳しく答えている。その知識量ははっきり言って異常であるが、一般をあまり理解していないリーシャは気づかない、そのことにロコは安心しているようであった。だがそれはそれで不思議であった、ロコの見立てだと初見で年齢が分かるなら自分の知識量が普通でないのを気づいてないことがどこかチグハグに思った。ただロコはリーシャも自分と同じ類と結論付けそれ以上は考えないのであった。
「初めて王都に来たんだったら通行証を発行しないとだね」
「通行証....」
(ラウルの知識にあったな〜まあ説明してもらお〜)
「通行証ってなぁに〜?」
「通行証はアナシスタ王国内の都の移動する時に発行される物、王都内では身分証にもなるんだ、発行は王都だけでしか出来ないのが難点だよ」
「へぇ〜そうなんだ〜」
「せっかくだしついて行くよ」
「ありがと〜」
そう話していくうちにリーシャたちの番になっていた。そこに門番が声をかけた。
「通行証を確認しても?」
「はい、通行証」
「あぁロコだったのか、今晩も食べに行くよって女将さんに言っといてくれ」
「わかった」
「それでもう1人の子は?」
「彼女はリーシャ、学園への試験受けに初めて王都に来たの」
「初めまして、リーシャです〜」
「俺は門番のザーレルだ、よろしくな嬢ちゃん」
「ザーレルさん、リーシャ王都初めてだから通行証発行して欲しい」
「おう、わかった奥の部屋で待っていてくれ、ロコも付き添うか?」
「うん」
「わかった、なら頼む」
そう言われロコとリーシャは奥にあった部屋に行きザーレルを待つ事にしたのだ。その部屋にはテーブルと椅子だけの質素な部屋であった。
少ししたらガチャと音がし、ザーレルが入ってきた。
「おし、この紙の項目に書けるだけ書いてくれ」
そう言われ渡された紙に書いてあった項目は5項目あり名前、年齢、種族さえ書けば通行証を発行できるようだった。
「リーシャって文字読める、よね?」
「もちろん、読めるよ〜」
「一応注意事項としては、偽って書くと魔道具が反応するから嘘は書くなよ」
「わかった〜」
そう言われたが本当の事を書くことはできないので堂々と偽の情報を書き出した。
名前:リーシャ
種族:人間
年齢:13
故郷:花が沢山あるところ
職業:
所属ギルド:
「おし、魔道具は反応しねぇし、大丈夫だな」
魔道具が反応しなかった理由としては様々な要因があるが主なのは1つだ。この魔道具は魔人族や人間などの生物を対象として造られた物である、リーシャは精霊なのでそもそも対象外である。
「なら少し待っててくれ、発行してくる」
「わかった〜」
そう言うと、ザーレルは外へ出ていった。
「そういえばロコってエルフだよね〜」
「え、どうして....?」
「どうして?だって耳が少し尖ってるのは主に魔人族か竜人族でしょ〜それに、」
『主、ストップにゃ』
リーシャがなぜロコがエルフと思ったのか、理由を説明していると、ヴェナから止められた。
『何故〜?』
『ロコの耳についてるイヤーカフ、認識阻害の魔道具にゃ』
『....?あぁよく見ればそうね〜』
『普通の人間は認識阻害されると分からなくなるにゃ』
『ん〜いい感じに誤魔化すね〜』
本来、そのようなことに気づかず、言及しないことが1番であったが、ヴェナの制止が遅れ、言ってしまったので誤魔化すしか方法はなかった、ただロコを相手に誤魔化すのは普通の人ならば至難であった。
なおこの会話は一瞬だったのでロコに気づかれる心配はないのであった。
「それに、気配が昔会ったエルフに似てたから〜」
「それで気づいたの?今私、認識阻害の魔道具してるから普通は分からないはずなのに、」
「それはね〜、私、生まれつき眼が良いの」
「眼が......」
そう一言こぼすと、ロコは考え込んでしまった。
『これで大丈夫そうね〜』
『なにをしたのにゃ?記憶改変でもしたのにゃ?』
『ふふっ何もしてないよ〜ただ眼が良いって言っただけ』
『どうしてそれで大丈夫なのにゃ?』
『それはね〜ロコは頭が良いの、だからこう言ってあげれば勝手に想像して既存の知識に当てはめて納得してくれるのよ〜、今の場合は魔眼とかだと思ったんじゃないかな〜』
『そういうことなのかにゃ』
『頭が良いのも不便だね〜』
『(その発想に至る主もそれに引っかかるロコも怖いにゃ)』
「もしかして、」
「ふふっそうだよ〜、だから......」
「わかった、内緒にしておくね」
「ありがと〜」
リーシャの策略どうりにロコは嵌ったようだ。
「リーシャが言った通り私は魔人族のエルフなの」
「そうなんだ〜」
「隠してた理由としては人身売買されるのを防ぐため」
『エルフは魔術の扱いが長けてるのもあるけど、それ以上に魔道具士としての素質が高いにゃ』
『魔道具士としての素質が高いのは初めて知ったわ〜、そういえば魔道具士って素質関係してたんだね〜』
『魔道具士としての発想は素質関係ないにゃ、けど道具を造る時に素質が高い方が繊細に造れるにゃ』
『ふふっやっぱり面白いわね〜』
リーシャとヴェナが話している時にもロコは説明していた。本来ならある程度身を守れる力を扱えるまでエルフの里を出ないことがルールとなっているがロコの一家は王都で定食屋を運営しながらも裏でギルドに売る魔道具を造る事や魔道具を極めることを代々行っている。その為ロコは襲われると魔道具でしか反撃できないためエルフであることは絶対に隠しておきたかったのだ。
「だからリーシャも私のことは秘密にして欲しいの」
「分かったよ〜、お互いに秘密ね〜」
「おい、ロコそう言う事話すなら防音結界は必ず張っとけって言っただろ」
ロコとリーシャが話していたらザーレルが入ってきた。
「え、」
「え、じゃねぇよ、この部屋の前は色んな人が通れるんだぞ」
「ごめんなさい」
「次から気をつければいい話だ、それで嬢ちゃんは信用できるのか?」
ザーレルはそう言い、目を細めてリーシャを観察していた。だがそんな風に見られていてもリーシャは普段通り微笑んでいた。
「季節外れのマフラー、黑狐の面、姿だけでもおかしいのに故郷の不鮮明さ、疑う要素は山ほどある」
「それは.........そうなんだけど、」
「あとなんでそのことについて話すことになったんだ」
「えっと、その、」
ザーレルの怒気にロコがしどろもどろになっていた、だがいくら問い詰められようともリーシャは顔色ひとつ変えなかった。ましては煽る始末であった。
「ザーレルさんは何て言えば納得するの〜?」
「は?」
「ここで否定しても信用しないでしょ〜?だからと言って肯定しても納得しない、ならどうすればいい〜?」
「それはだな、」
「ねぇ待って2人とも、ザーレルさん大丈夫だからリーシャに悪意は感じなかったから」
一触即発の様子にロコは慌てながらも止めに入った。そんな様子を面白そうにしていたリーシャに声がかかった。
『主、記憶改変するにゃ?』
『しなくていいよ〜、そろそろ終わらせるから〜』
そろそろ終わらせるとはどういう事なのかヴェナが考えていると、
「ねぇロコ、さっきのこと話していいよ〜」
「え、でも」
「ロコにとってザーレルさんは信用出来る人なんでしょ〜?」
「うん」
「なら大丈夫だよ〜」
「どういうことだロコ」
ザーレルは警戒した声で聞いてきた。そんな様子に若干怯えながらもロコはリーシャについて答えた。