いざ、地上へ
翌日、朝早くから精霊たちは集まっていた、昨日はいなかった精霊たちも噂を聞きつけあつまってきたようだ。その中心にいる1人の猫耳の精霊が口を開いた。
「できたにゃ」
そう言い持っていた魔道具を見せた、が周囲の精霊達はとてもザワついていた、なんせヴェナが持っていた魔道具が特徴的だったからだ。
「へぇ〜、こんな魔道具もあるのねぇ」
その魔道具を身につける予定のリーシャはそう言い、ヴェナが持っていた魔道具を受け取った。
「リボンにマフラー、そして狐のお面ね〜、ふふっなんとも不思議な組み合わせね〜」
「一応主の髪色や目の色に合わせ、違和感のない物を選んだにゃ」
ヴェナの言った通り、リーシャの左目と同じ水色の2本のリボンと綺麗な白髪と同じ白いマフラーであった。だが狐のお面は黒をベースに青い装飾がしてあった、青も寒色の色で揃えてはいるもののどこか異色を放っていた。
『黒狐のお面だねー』
『すごい組み合わせだ!』
『個性がすごい』
精霊たちは魔道具に触れはしないが興味津々のようだ。
「これは全て普通につけて効果を発揮するの?〜何か手順とかいる?」
「基本的には大丈夫にゃ、だけどリボンは髪の毛に括った方がより効力を発揮するにゃ」
「どうやって結ぼうかなぁ」
リーシャは髪型にもこだわりがなく、普段はおろしたままで後ろに黒の大きなリボンをつけているだけなのだ。
「ならあたいが結ぶにゃ」
「できるの〜?」
「もちろんなのにゃ!地上でメイドをしていたことがあるにゃ」
「そうなんだね〜、ならお願いするね〜」
『だからこんな奇抜な格好なんだ』
『メイド服着て猫耳としっぽの魔道具つけてる......』
『でもやっぱセンスを疑う』
ヴェナの格好は白と黒を基調としたミニスカートのメイド服に猫の耳としっぽを付けていた。
「にゃんだと!別に変じゃないにゃ」
『いや変だよ』
『化け猫もそんな口調じゃないでしょー』
『可哀想な奴なんだ』
「うぅ」
周りにいた精霊たちは容赦なく評価した、その言葉に悪意も嘲りもなくただの本心からの評価である、精霊の箱庭にいる精霊たちは良くも悪くも純粋なのである。
「みんなヴェナをいじめちゃだめよ〜、みんな仲良くね」
『いじめてないよー』
『仲良くしてるもん』
『そーなの、思ったこと言っただけだもん』
その純粋な悪意のない言葉にヴェナは心にダメージを負ったが普段から図太く生きてるためすぐ切り替えたようだ。
「なにか髪の毛結ぶ時気をつけて欲しいこととかあるにゃ?」
そう聞いてきたヴェナに対して少し迷った様子を見せ言った。
「基本なんでもいいわ〜、でもきつく結ばれるのは好みじゃないね〜」
「わかったにゃ!」
ヴェナはそう言うと慣れた手つきでリーシャの髪の毛をどんどん結んでいった。
「完成にゃ!」
リーシャの髪の毛は編み込まれたツインテールになっていた。その姿は普段の姿とはまた別の魅力があった。
『すごい!』
『手先は器用なんだ』
『リーシャ様きれい!!』
「ふふっありがとうね〜」
「きついと嫌って言ってたから下の方で緩めにしたにゃ」
「さすがね、ヴェナありがとう」
リーシャに褒められたヴェナはものすごいドヤ顔をしていた。そんなドヤ顔を無視して精霊たちは言った。
『狐のお面ってどうやってつけるの?』
『紐とかないよ?』
『どーするの??』
その疑問は至極真っ当であった。お面をつけなければいけないのにつける紐などが一切ないのだ。ただその疑問にはヴァナが笑みを深めて言った。
「それはそのままつけるにゃ!」
そんな言葉に精霊たちは、
『バカになった?』
『知能下がった?』
などと散々に言った。
「あらすごい」
リーシャが言ったその言葉で彼女の方を見ると、狐のお面が紐などで結んだ訳でもないのに頭の左側面に付いていた。その様子に周囲は唖然とする。
『え?なんで?』
『浮いてる!!』
そう、狐のお面は頭の側面でピッタリと浮いていたのだ。
「それは特別製なのにゃ!製法は詳しく言うことはできにゃいけど、これなら本人の意思以外では取れないにゃ!」
その言葉を聞き、リーシャは宙を音速で舞った。
「すごいね〜軽く舞っても全然ズレないね〜」
「急に音速で飛ばないでにゃ!!!」
『びっくりしたー』
『驚いた!!』
「ごめんね〜」
「主、絶対に地上じゃやっちゃだめにゃよ」
「うん、わかってるわよ〜」
(不安だにゃ)
多少不安が残りながらも着々と準備は進み、
『硬貨の準備完璧!』
『軽く持ち物も用意した!』
「精霊の偽装もカンペキにゃ」
「なら地上に、」
「待ちなはれ」
リーシャが地上に行こうとしたところで先程までいなかった人型の精霊が待ったをかけた。
『誰?』
『見たことない精霊だ!』
『人型だし、大精霊?』
『もしかして古い精霊?』
急にあらわれた人型の精霊に他の精霊たちは驚きを隠せていない、ただ内2名は驚いていないようであった。
「あらあら、久しぶりね〜」
「久しいですな、嬢」
「いつぶりかしら?」
「数えていたら気が遠くなりますぞ」
「ふふっそうね〜」
「主、再会を懐かしむのも大事だと思うけど、今は地上問題を解決しないとにゃ」
「あら、そうだったね〜」
「まぁまぁヴェナ殿そう焦りなさんな」
「にゃんだと?」
人型の精霊3人は顔見知りだそうだ。
『むぅ、3人だけで話進めたらつまんないのー』
『面白くなぁい』
「おぉ、すまんな」
「ごめんなさいね〜」
「あたい悪くないにゃ」
ヴェナの言い訳を全員スルーして、先程あらわれた精霊に寄っていった。
『おじさん、古精霊?』
『大精霊ではあるよね?』
『リーシャ様と知り合いなの?』
「そなたらの質問に答えるならばわしは古精霊に分類されるだろうな、もちろん大精霊でもあるがな」
大精霊とは主に人型になれる精霊のことである。ただ、人型といっても大人サイズの人型である。精霊は基本的に5000万年ほど年月を過ごせば大人サイズの人型精霊になれる。そういう精霊達が大精霊と呼ばれる。子供サイズの精霊はまだそこまで生きてはいないが、力を持っているということだ。大精霊と呼ばれる条件にはまだ転生などの1部例外が存在したりするが、今は割愛しよう。
古精霊は世界が構築される前から存在していた精霊達のことだ、古精霊として存在しているのは2桁も満たないだろう。
「いくらわしが古精霊である気配を隠してはないとはいえ初見でまだ1000年も生きてない精霊達に見抜かれるとは思わんかったな」
「まぁ精霊の箱庭にはよくヴェナは来るから気配に馴染みがあったんだろうね〜」
精霊の箱庭にいる精霊達は基本的には1000年も生きてない精霊たちだ。その他の精霊は地上で好きなようにやっている。そんなまだ若い精霊たちが気配をわかったのはリーシャの言った通りヴェナの気配と馴染みがあったからだ、なのでもちろんヴェナも古精霊である。
「それでなんで来たのにゃ?」
「愉快な語尾をしとるな」
「今は関係ないのにゃ!」
「まぁ何故なら、そのまま嬢を地上にやったら地上は大混乱になるだろうな」
ヴェナと軽く言い合いをしながら言った。ただその内容は聞き捨てならなかった。
「なぁぜ?」
「嬢は人間に馴染むのは極端に向いてない、その上中途半端な知識で地上に行こうとしてたら止める他ないだろう」
「あら、そ〜なのね〜」
「だからわしの知識を使うと良い」
「いいの〜?」
「あぁ、事情は聞いたからな、知識さえどうにかすればお主ならどうにかできるであろう」
「じゃあそうしようかなぁ〜、記憶共有でいい?」
「知識の方で良いぞ」
「そう?ならそうするよ〜」
トントン拍子で進む会話にヴェナと他の精霊たちはついていけてなかった。
「そういえば今の名はなぁに?私はリーシャよ〜」
「わしは今、ラウルだな」
「じゃあ、するね〜《知識共有:ラウル:開始》」
そうリーシャが言うと2人が目を瞑り、辺りが静かになった。その空間は光が花にあたり、神秘的であった。その様子をみてヴェナは思う。
(ラウルがおじさんじゃなくてイケメンだったらその様子を絵にもすれば金になるのににゃぁ)
「《終了》」
ヴェナがそんなことを思っているうちに終わったようだ。
「どうだ、成功したかい?」
「うん、いけたよ〜、ありがと〜ね」
「なら良かったわい、ん?ヴェナ殿どうしたんだい、考え込んで」
「いや、ラウルがおじさんなのがもったいないと思ってただけにゃ」
「?」
「はっはっは、イケおじこそが魅力なのだよ」
「そんなもんにゃのかぁ」
「?」
リーシャは2人の会話についていけてないようだ。
精霊は年齢により容姿が歳をとることはない、ある程度技術を持っていれば、肉体年齢を操るのは容易である、ラウルがわざわざおじさんの容姿をしているのは先程も言っていた通りただの趣味である。
「マフラーもつけて〜これで精霊って分からないでしょ〜」
「うむ、これはすごい、精霊の気配を一切感じないな」
「でしょ〜なら地上に行こうかな〜」
「あたいもついて行くにゃ」
「嬢の頼みなら何時でも呼んでくれれば駆けつけよう」
「ありがと〜」
『いってらっしゃい!!』
『調査頑張って!』
『また帰ってきてねー』
『頑張って!』
話がややこしくなりついていけず、静かだった精霊たちがいっぺんに声をかけた。
「なら行ってくるわ〜《地上門》」
そうリーシャが言うと目の前に大きな扉がでてきた。
その扉をリーシャとヴェナがくぐり抜け姿が見えなくなった。
「そういえば、あやつらに言っておかんで良かったのか」
『あやつらって?』
『だあれ?』
『僕たち知ってる?』
「ほら、__達だよ...........まぁどうにかなるか」
大妖精:5000万年以上生きてる精霊のこと。主に大人サイズの人型になれる精霊。1部例外あり。
古精霊:世界が構築される前から存在した精霊。その生息数は2桁にも満たない。