徐々に整う準備
「ふ〜ん、私が潜り込めばいいのはフォレスティア学園って言うのね〜」
そう、思案顔でつぶやくと周囲の精霊達から反応があった。
『王族が精霊を道具にしてる可能性が高いよ』
『王族は出来の良い奴と悪い奴極端だもんね』
その言葉に下を向いて考え込んでいたが、少しすると顔を上げ、気楽に言った。
「まぁいいや〜明後日の入学試験に受かればいいのよね〜」
『私たちの記憶、役に立ちそう?』
『試験受かる?』
そう不安そうに聞いてきた多数の精霊たちであったが、そんな不安とは裏腹に優しい笑顔で言った。
「もちろん、役に立ってるよ〜」
地上には3つの大陸があり魔大陸と竜大陸、混合大陸がある。魔大陸は魔人族と魔物が存在しており、竜大陸のは竜人族と竜が存在している。混合大陸には人間や魔人族など様々な種族が存在しているのだ。また大陸とは別に海中で生活している海人族もいる、海人族は決して陸で生活できない訳では無い、混合大陸で生活している海人族もいる。ただ竜は竜大陸にしか表れず魔物は魔大陸と混合大陸にのみ存在する。
調査に行くフォレスティア学園は混合大陸に存在している。混合大陸の中、アナシスタ王国にある。6年制の学園で戦闘科、生産科、研究科など様々な分野に力を入れており、種族、貴族平民問わず合格ラインに達した者が入学できることからとても有名な学園である。
「身元を捏造しても合格ラインに達してたら入学できるのは大きいよね〜」
『名前はどーするの?』
『貴族になる?』
『貴族紹介しよーか?』
「大丈夫よ、平民のままで〜」
貴族と平民の違いは名字があるかないかだけだ、なんなら貴族の方は社交パーティーやお茶会など色々面倒くさいものが多いらしい。
『そういえば名前どーするの?』
『本名?』
『真名?』
「真名は簡単に言っちゃだめでしょう?本名でもいいけどせっかくだし変えようかな〜」
『僕たちが考える!!』
『いい?』
『決めたい!』
「いいよ〜」
精霊にとって真名は本人と契約主しか教えてはいけない、繋がりなのだ。真名によって繋がれたものたちは遠くにいても会話出来たり記憶を共有出来たりなど様々だ。本名は1部例外を除き契約主につけてもらう名前である。基本的には勝手に精霊の名前を呼ぶことは禁止されている、精霊同士なら問題ないが、他種族であるとその地点に災害が起こるだろう。
『決めた!』
『いい偽名だよ!』
『せーの』
『『『『『リーシャ様!!』』』』』
精霊たちは笑顔で胸を張ったように名前を言う、そんな様子をみて微笑んだ。
「ふふっありがとうね〜」
『いっぱい考えた!』
『褒めてー!』
そう言う様子は母親に褒めてもらいたい子供のようなものであった。
「うん、すごいいい名前だね」
『やったぁ』
『これで準備終わりー?』
「あとは学園での格好だね〜、服装は決まってるけどアクセサリーとかを魔道具とかにしておいた方がいいかも.......こういう時は、ヴェナ」
リーシャがそう呼ぶと目の前に人型のメイド服を着た猫耳精霊が現れた。突然のことに周りにいた妖精は驚きを隠せない。
「主〜、呼んだにゃ?」
「うん、呼んだわ〜」
『猫耳だぁ!』
『化け猫と同じ気配するー!』
『なんでー?同じ精霊なのに!!』
化け猫とは魔人族であり、色々なものに変化できる特性を持っている。ヴェナと呼ばれた精霊はそんな化け猫の気配と見た目を完璧に擬態していた。ただ同じ精霊なのでいくら化け猫を模倣していてもわかったようだ。
「これは魔道具にゃ、完璧に擬態できるのにゃ」
「さすがねぇ〜、そんな貴方にお願いよ、私を精霊と分からなくできる魔道具はあるかしら〜」
「...........」
「厳しい?」
「できなくはにゃいです、けどひとつの魔道具でするのは難しいにゃ」
「何個でもいいから、お願いできる〜?」
「わかったにゃ!いつまでにゃ?」
「出来れば明日までなんだけど〜」
「........................」
そんな無茶ぶりにヴェナは黙り込んでしまった。本来魔道具は刻み込む魔術式を考え、それを刻める物を用意し、力を込めていくと作れる物なのだ、どれだけの職人であろうとも完璧に成功する割合は7割合にも満たない。なので普通は最低でも1週間は欲しいものであり、さらには精霊の気配を分からなくするというただの魔道具士では絶対に不可能なことなのだが、現実は非情である。
『黙っちゃったー』
『結構無茶ぶりだもんね』
『がんばれー』
「無理そう?」
「うーん.............あ!」
黙り込んでいたヴェナであったがなにかいい案を思いついたのか顔を上げ目をキラキラとさせていた。
『ひらめいたー?』
『どうにかなりそーな予感!』
「昔集めた魔道具を改良すればいけるはずにゃ!」
「なら任せてもいい〜?」
「わかったにゃ、でも......」
先程まで明るかった顔を急に暗くした、それは絶望とかではなくなにか言いずらそうな雰囲気を醸し出していた。
「どうしたの?」
「ベースにする魔道具が3つなんにゃけど.....」
『だけどー?』
『にゃけどー?』
「その3つの内ひとつはリボンで髪にくくってくれれば大丈夫なのにゃ、残りのふたつが人間社会に溶け込むには目立つものなのにゃ」
『目立つってどんなのー?』
『見てみたい!』
「なら持ってくるにゃ」
「いや、持ってこなくていいよ〜、そのまま作っちゃって〜」
「えっ!」
「結局はそれがないと調査に行けないし〜、目立つだけで似合わない訳ではないでしょ〜?」
「絶対似合うのにゃ」
(とゆうか似合わないものなんてないのにゃ)
リーシャは誰が見ても美しいと答えるような容姿をしていた。長いサラサラな白髪でオッドアイ、右目は白、左目は水色と幻想的な色、微笑みは母のような包容力があり初めて見た者は必ず惹かれるとまで言われている。そんな彼女はどのようなものでも着こなせるのだ、以前服などを作っている精霊が彼女の元を訪れた時には「新作のイメージがドバドバ出てくる」などと言っていた、ただ本人は服やアクセサリーなど身の回りのものに無頓着でこだわりもない、似合っているのならそれでいいというスタンスなのだ。そんな様子には服好きな精霊は頭を抱えていた。
「明日用意してくるにゃ」
そう言い化け猫に擬態した精霊は颯爽と帰った。