悪魔降臨
川の流れに身を任せるように
時の流れに逆らえないように
ただ流されてゆく
私という一雫が大海に溶けるその時まで
岩肌が周りを取り囲む山道。レット達はそんな足場の悪い山道を歩いていた。
「なんで山登ってるんだ?」
「悪魔はこの山の上にいる」
レットの前を歩く、エンベルトは背中を向けたままレットの質問に答えた。
「悪魔ってのは魔界から来たんだろ?なら地獄の扉とか、地下洞窟とか下にいるのがお決まりじゃないのか?」
「ふ、違うんじゃよレット・・・悪魔はのぉ、上から来たのじゃ」
「は?」
エンベルトが指を天に指すと、レットは驚きのあまり口を開けていた。
「奴らは天から落ちてきたのじゃ。そして生き物を魔物へと変えた・・・・・・そして奴らと共に落ちてきた石とニュイの魔力で作ったのがお前さんたちが持っているオリジンシリーズじゃ」
「悪魔が天から・・・・・・」
「悪魔が降りてきてまずここにあった村が襲われた。その村の出身がカラバスとサエンじゃ」
二人が話していると列の前を歩っていたサエンが足を止めた。
「何かくる・・・・・・」
サエンが周りを警戒すると、デュランもハンダルに跨りながら周りを見渡し剣に手をかける。
「無謀なものだな」
聞きなれない声が突然聞こえてきた。その声の持ち主はハンダルの横に立ち、ハンダルの頭を撫でていた。
額から生えた黒い角に怪しく光る赤い目、死人と見間違うほど青白い肌、闇に溶けるほどの黒い長髪が風に揺れていた。
レットやハンダルに跨っているデュランがその人物に反応するときにはもう遅かった。
ハンダルの顔が突如として膨らんだ。まるで身体の中に空気でも送り込まれたようにハンダルの顔が膨らむと、中から弾け飛んだ。
「ハンダル!!くっよくも!!」
デュランが倒れるハンダルから降り、ハンダルを殺した者に斬りかかるが、デュランは頭を掴まれた。
そしてデュランの頭もハンダルの時と同じように膨張した。
「やめて・・・・・・デュラン!!」
ニュイの言葉がデュランに届く頃にはもう遅かった、デュランの顔は何が送り込まれたように膨らみ弾け飛んだ。周りにデュランのものだった血と肉片が飛び散ると、デュランを殺した者は血を身体中に浴びて、悪魔のような笑みを浮かべていた。
ルミナスとレットは突然のことに唖然に取られていると、カラバスとサエンが武器を構える。
「カラバスの旦那・・・・・・きましたね」
「あぁ、悪魔・・・・・・マルガンテ」
「久しいな。愚かな人間ども・・・・・・それと忌々しい魔女の娘」
「よくもデュランを貴様!!」
ニュイは剣を抜き構え、歯を食いしばっていた。その顔は怒りに満ち、剣を持つ手が震えていた。
「ルミナス!!エンベルト!!ニュイを連れて逃げろ」
カラバスが叫ぶとエンベルトとルミナスはニュイを抱え、山道を戻り始めた。
「待って!!私も戦います。ここで逃げたらデュランの無念はどこに行くのですか!!」
「逃げましょう。ここはカラバスさんたちに任せましょう」
「そうじゃ。お前さんが死んだら全てがおしまいじゃ。ここは耐えて逃げるぞ」
ニュイ達が逃げるのを追わせないように、カラバスとサエン、レットはマルガンテの前に立ち塞がった。
「悪いな。レット・・・・・・付き合わせて」
「いいですよ。俺も覚悟してきましたから」
「油断したら死ぬぞレット・・・・・・さっそくエンベルトからもらったオリジンシリーズが試せて嬉しいぜ」
サエンは自身の腰に下げた剣を鞘から引き抜いた。その剣は水晶のように輝き、透き通っていた。
「愚かしいな。虫が鳥に勝てないようにお前らも、ただ無惨殺させるだけなにのな」
マルガンテは脱力したように手を下げるが、目はこちらを睨みつけていた。まるで蛇に睨まれたように三人は動けなくなった。
「お前はなんで俺たちを・・・・・・人を殺すんだ?」
レットは震える唇を必死に動かし、言葉を発するとマルガンテは首をポキリと折るように曲げると、虚な目でレット達を見つめる。
「・・・・・・理由?虫を殺すのに躊躇いがないように、食物連鎖の上に立つ者が下の者に配慮することがないように、ただの自然の摂理だ」
「わかった・・・・・・話し合いは無駄だな」
レットの言葉を終えたのを合図にしたかのように、カラバスがサンダーロアーをマルガンテ目掛けて放った。
サンダーロアーから放たれた青白い矢はマルガンテの眼前まで迫った。
しかし、マルガンテは矢を素手で簡単に受け止めて見せた。
「なんだこれは・・・・・・魔法の類か」
マルガンテが興味深そうに矢を見つめていると、青白い矢はマルガンテの手の中で溶けるように形を崩し、青白い光がマルガンテを包み込んだ。
バリリリという雷音がマルガンテを包む。光が小さくなると何事もなかったかのようにマルガンテは立っていた。
マルガンテの青白い肌は黒い焼け焦げ、皮膚が破け赤黒い血が皮膚の下に見える。しかし、その傷はマルガンテの血が破けた皮膚の部分を覆うと瞬く間に再生した。
「・・・・・・化け物が!!」
「これは少し驚いたぞ。私に傷をつけられる武器を作っていたとわな」
レットとサエンが二人で斬りかかるが、マルガンテは二人の剣を華麗に交わし続けた。そしてそのままサエンの腹に蹴りを入れると、サエンを後方へ蹴り飛ばした。
「ぐぁ!!」
「サエン!!」
レットはサエンに気を取られ後方を見てしまった。
「・・・・・・その腕もらうぞ」
マルガンテはレットの右腕を掴んだ。するとレットの右腕は中から膨張し始め、膨らむとその力に耐えられなくなりレットの腕は弾け飛んだ。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
レットはあまりの痛みから疼くまり、自身の弾け飛んだ右腕の傷を押さえた。
「ん〜いい声だな。人間」
マルガンテが笑みを浮かべると、レットの口角が釣り上がった。そしてそのまま剣をマルガンテの胸の中心に突き刺した。
「ほう・・・・・・右腕を吹き飛ばされてまだ動けるとはな」
「残念だったな。右腕はまだ使えるぜ」
レットがそう言うと、吹き飛んだ右腕の傷口から骨が生え、その周りを血管が這うように出てくると筋肉が包み込み、皮膚がその上を覆った。
レットの腕は何事もなかったかのように再生し、再生した右腕で、マルガンテに突き刺した剣を握るとそのままマルガンテの頭を割るように剣を持ち上げた。
グシャという音とともにマルガンテの顔が二つに割れた。
左右に裂かれた身体から血が吹き出す。レットは勝利を確信し笑みをこぼした。
しかし、その確信は無意味だったことを次の瞬間理解した。
マルガンテの目がギロリと動きレットをみつめたからだ。
「ん〜お前も再生するのか・・・・・・我々とは過程は違うようだが」
マルガンテの身体から出ていた血が左右の身体を引っ張りそのままマルガンテの身体をくっつけた。そして、血が固まると同時に傷も消え、マルガンテは何事もなかったかのように立っていた。
「な!?こいつ不死身か!?」
レットが驚きの声をあげる頃には、マルガンテの手はレットの胸元に触れていた。
レットの胸部が膨れ上がると、レットの身体は内部の膨張に耐えられなくなり破裂した。レットの胸部の肉が弾け飛び、肺や心臓が外気にさらされる。
「流石に、心臓を破壊されたら再生しまい」
マルガンテがレットの心臓に手を伸ばそうとしたその時。
煌めく光の一閃がマルガンテの左腕を切断した。サエンがクリスタルで左腕を斬り落としたのだ。
サエンはそのままレットを抱き抱えるとマルガンテと距離をとった。
左腕を斬られたマルガンテは自身の傷口を興味深そうに見ていた。傷口は血が固まったように赤い結晶が突き出ていた。
「・・・・・・再生できない。その武器はどうやら私に効く武器のようだな」
「カラバスの旦那あぁぁ!!」
サエンが叫ぶとサエンの後ろにはサンダーロアーを構えたカラバスが立っていた。
サンダーロアーには青白い矢が装填されており、バチバチと稲妻を放ちながら光り輝いていた。
「テメェにサンダーロアーの本当の使い方を教えてやる・・・・・・心の底から撃ち抜きたい物を口にすることだ」
「ほう・・・・・・面白い受けてやろう」
マルガンテは腕を大きく広げるとまるで打ってこいとでも言いたそうにその場に止まった。
「舐めやがって・・・俺が撃ち抜きたいのはテメェの命!!サンダーロアー解放!!」
カラバスが矢から手を離すと青白い矢は雷鳴を鳴り響かせ、周りに衝撃波を撒き散らしながらマルガンテ目掛けて飛んでいく。
マルガンテはその場から動くことなく、防御することなく矢を喰らった。
周りが土煙に包まれる中、マルガンテの身体は上半身を僅かに残してそのほかの部位は消し飛んでいた。
「へ、ざまぁみやがれ」
カラバスがニヤリと笑うがその笑みはすぐ消え失せた。マルガンテの身体はすぐに元どおり再生したからだ。
「ふむ、切り落とされた腕は戻らなかったか」
サエンに斬り落とされた、左腕以外は元どおりに再生していた。
「クソ・・・・・・お手上げだ」
「どうします?カラバスの旦那」
「サエンお前が首を落とすしかない。レットは気絶してるし、それしか今勝ち筋はない」
「なら援護頼みます」
「わかった」
サエンがクリスタルを構え、突進するとカラバスはサンダーロアーに青白い矢を込め発射する。
サエンの身体の間を縫うように矢がマルガンテ目掛けて飛んでいくが、マルガンテは矢を華麗に交わし、サエンの剣も糸も容易く避けてしまう。
「いい剣筋だな。しかし甘いな」
マルガンテの手がサエンの左腕を掠った。ほんの少し皮膚に指が触れただけだった。しかし、サエンは自身の左腕の違和感を見逃さなかった。
「くっ!!」
マルガンテと距離を取るとサエンは咄嗟に自身の左腕をクリスタルで斬り落とした。斬り落とされたサエンの左腕はブクブクと膨らむと、弾け飛び血が辺りに散らばった。
「カラバスの旦那・・・・・・どうやら勝てそうにありません」
「くっ・・・・・・ここまでか」
「フフッ・・・私はお前ら人間が絶望した時が一番楽しい。さてではそろそろ殺すか」
サエンとカラバスが死を覚悟したその時。
どこからか飛んできた白い光の塊が、マルガンテの目の前で停止した。
「フラッシュ!!」
その言葉と共に白い光の塊が弾け、眩い光が辺りを包み込んだ。マルガンテ、サエンとカラバスもその強い光に目を開けられなかった。
「カラバス、レットさんを担いでください。こちらです」
「助かったぞ。ニュイ」
ニュイが杖から光の玉を出し、マルガンテの前で発光されたのだ。ニュイはカラバスたちを先導し、そのまま山道の斜面を駆け降り、森の中へ消えていった。
マルガンテが目を開ける頃には、カラバスやニュイの姿は無くなっていた。
「こんな物を作っていたとは・・・・・・本当に忌々しい魔女だ」
マルガンテは一人呟くとその姿は闇の中へと消えていった。




