夜に忘れられた者
レットが目を覚ますと、岩の天井が目の前に広がっていた。
藁でできたベットから起きるとレットは自身の身体を確認する。
「傷がない・・・・・・俺はケルベロスに身体を引き裂かれたはず・・・・・・」
自身の裂かれた部分を触るが傷跡すらない。そして自身の左手の薬指に、ニュイからもらったリカバリングをつけていることに気がついた。
「そうか・・・リカバリングで再生したのか」
レットはベットから起きると、ふらふらとした足取りで部屋から出ようとドアを開けた。
「なんなんですかこの武器は!!予定していた武器と違うしないですか!!魔力消費が多すぎます!!」
ドアを開けるとニュイの怒声が聴こてきた。ドアの向こうを見てみると、鍛冶場が広がっており、溶けた鉄や立派な剣や斧が立てかけてあった。
そんな鍛冶場の真ん中で、ニュイがエンベルトと言い争っていた。
「仕方ないじゃろ!!こっちだって少ない材料でやってるんじゃ!!ブレイドの魔力の消費が多いくらい我慢しろ。そいつは大喰らいなんじゃ!!」
「百歩譲ってそれはいいですよ。なんですか本当の使い方って、使うのになんでわざわざ宣言するんですか!!」
「相手に敬意を表すためじゃろがい!!宣言せずに使用するなど武人の心に反する。それにカラバスは気に入っておったぞ」
「だからってなんなんですか。私のブレイドの本当の使い方!!誰がわかるんですか!!」
ニュイは次の言葉を発しようとした時、部屋をのぞいているレットの存在に気がついた。
ニュイはコホンと咳き込むと髪を掻き分け、レットに笑みを向ける。
「目が覚めていたのですかレットさん。お見苦しいところをお見せしました」
「いやなんか取り込む中なら出直しますけど・・・」
「いえ、ちょっと制作の違いでエンベルトと話していまして・・・・・・ねぇ、エンベルト?」
「ニュイが勝手にヒートアップしただけじゃ」
「・・・・・・エンベルトォォ」
ニュイは笑顔を引きつらせながら、拳を握ってエンベルトに見せつけるとエンベルトはやれやれという呆れた表情をした。
「あーわかったわかった。それでよいよ。じゃあ儂は寝る。徹夜での作業だったのでな」
「ごゆっくり〜」
エンベルトは鍛冶場の奥の扉を開くと部屋に入っていった。
「ところで俺はケルベロスに身体を引き裂かれたはずだけどなんで生きてるんだ?」
「リカバリングの力ですよ。あの後レットさんの身体はすぐに再生しました。ですが痛みで気を失ってしまったんです」
「・・・・・・このリカバリングってのはすごいな」
レットは自身の左指にはめられた指輪をじっと見つめていた。
指輪に施された、龍の彫刻が咥えたピンクの宝石は鍛冶場の炎に照らされ輝いていた。
「私も焦りました。ですがレットさんが生きていてよかったです。目の前で誰が死ぬのは嫌ですからね」
「優しいんだな」
「そんなことないですよ」
照れたように笑うにニュイを見てレットは自然と笑みをこぼすのであった。
「ところでルミナスはどこだ?剣を壊したのも謝らなくちゃな」
「ルミナスさんは寝てますよ。今は夜更けの時間ですから」
「そうなのか。眠ってたし、ここはずっと暗いから時間の感覚がわからないな」
「カラバスとデュランも休んでますよ。魔物に拠点を襲われたので明日にはここを発たなければなりませんから」
「そうか・・・・・・ところでニュイは寝ないのか?」
レットの言葉を聞いて、ニュイは動揺したような顔をした。そして唇を少し噛むと作ったような笑みを浮かべた。
「・・・・・・私は・・・もう休んだので大丈夫です。それよりもレットさん達こそ、私達の戦いに巻き込んですいません」
「どうせここから離れても、あの魔物たちが外に出れば同じさ。手伝わせてくれよ」
「・・・・・・そうですか。ではともに戦いましょう。私達、夜明けを目指す者たちとともに」
「あぁ、よろしく」
レットはニュイから差し出された手を握ると力強く握手した。
「しかし、夜明けを目指す者たちってなんで名付けたんだ?」
レットの言葉にニュイは少し悲しそうな顔をするがまた作り笑いを浮かべる。
「みんなにこの土地の夜明けを見てほしいからです」
「そうか・・・・・・じゃあみんなで魔物と悪魔を倒して夜明けを見るか」
レットが眠気を吹き飛ばすように気合いを入れている中、ニュイは静かに呟いた。
「・・・・・・私に夜明けは来ないですが」
その静かにこぼした言葉をレットは聞き逃さなかった。
しかし悲しそうに言葉をこぼすニュイを見て、レットはその言葉の意味を追求することはできなかった。