魔物の巣窟
私は夜が憎い 夜は私を一人にするから
私は夜が怖い 夜は私の心まで冷たくするから
私は夜が嫌い 明けることのない暗闇が続くから
時は三百年前に遡る。まだ国がなく人々が争いを知らない時代、人類はある脅威に脅かされていた。
三百年前とある森の中。辺りは夜の闇に包まれ足元すら見えない。
そんな中息を切らしながら二人の男が何かから逃げるように走っていた。
「ハァハァ・・・・・・おいルミナス!!まだ追ってくるぞあいつ!!」
一人の男が隣にいる男に話しかけた。銀髪の髪に、黒い服を来た二十代の男だった。筋肉質の身体は美しくもあり、笑ったらさぞ顔が整っているとわかるだろうが、必死に逃げるその顔は恐怖に包まれていた。
「わかってるよ!!レット!!だから必死に走ってんだろ!!」
返事をしたルミナスはレットと同じくらいの年齢に見え、筋肉質な身体をしているレットと比べたら身体は細かった。そして身の丈には合わないほどの大剣を背中に背負っていた。
「ハァハァ・・・・・・てかルミナスその大剣捨てろよ!!絶対それない方が逃げやすいだろ!!お前の大剣のせいで隠れられないんだよ!!!」
「うるせぇ!!これは市場で全財産叩いて買ったんだ!!そうそうに手放せるか!!」
「使えねぇなら置いてけ!!邪魔なんだよ!!昔から無駄な買い物ばかりしやがって!!」
二人は言い合いに夢中になり足元の木の根っこに気が付かなかった。そして転んだ勢いで急斜面を転がり落ちた。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
二人は転がっていくと大岩に衝突し、その勢いを止めた。
「クソ・・・・・・いてぇ。大丈夫かルミナス」
「あぁ・・・・・・なんとか・・・・・・あっ!?」
ルミナスが目を丸くして目の前を見ていた。レットもルミナスが見ている方向を見てみるとそこにはレット達を追いかけていた生き物がそこにいた。
よだれをダラダラと垂らし、目は瞳孔が見えないほど赤く染まり、鋭い牙と爪が生えていた。黒い体毛に身を包んだ三首の犬、ケルベロスだ。
「しまった・・・・・・追いつかれた」
「どうする!?レット!!」
レット達とケルベロスの距離は五メートルほどしかなかった。レットは汗を垂らしながらも唇を噛むとルミナスの前に出た。
「ルミナス・・・・・・俺が囮になる。お前は逃げろ」
「しかし!!」
「いいから行け!!二人で死んだら意味ないだろ!!それにお前には夢があるんだろ!!」
「レット・・・・・・」
「いけ!!」
レットの言葉を合図にするようにケルベロスが飛びかかってきた。二人を逃がさまいとその牙を突き立てようとしたその時。
白いの光球がケルベロスに直撃した。
「キャイン!!」
ケルベロスは子犬のような声をあげて吹き飛ばされた。
「ヤァァァァァァァァ!!」
間髪いれずに黒い鎧を来た剣士が怯んだケルベロスの胴体を真っ二つに切り裂いた。
「大丈夫ですか?」
真っ二つになりピクリとも動かなくなったケルベロスにルミナスとレットは唖然としていると突然白いマントを羽織った女性が話しかけてきた。
長い黒髪に水色の瞳、白と黒の宝石が埋め込まれた杖を持った女性だった。張りのある肌はレット達よりも若い印象を与える。
「ニュイ様・・・・・・こやつら族かもしれません。お下がりください」
黒い鎧を来た剣士がニュイとレット達との間に割り込むように入ってきた。ショートヘアーの髪にキリッとした目元、そして鎧の上からでもわかるほどの豊満な胸が目立つ。
しかしそんな胸元に見惚れているほどの余裕はない。
なぜなら彼女が黒曜石のように黒い剣をレット達に向けながら敵意剥き出しで睨みつけいるからだ。
「ち、違う。俺たちはあの化け物に追われてこの森に迷い込んだだけだ」
「黙れ族が!!叩き切ってくれるわ!!」
「ダメだレット・・・・・・この人話聞いてくれない」
ルミナスが諦めたように手を挙げるとニュイは黒い鎧の剣士の腕を掴むと腕を下げさせた。
「いけませんよデュラン。この人達は本当に迷い込んだだけかもしれません。しかもこんな場所に来る物好きはいません」
「しかし、ニュイ様・・・・・・」
「・・・・・・・デュラン」
少し怒ったように頬を膨らませてデュランを見つめるニュイにデュランは根負けしたのか剣を鞘に納めた。
そんな様子を見てレットは首を傾げた。そして手を挙げるとニュイに話しかけた。
「あのーすみません。こんな場所とは?それにあなた達はいったい?」
「あ、そうですよね。いきなりのことで困惑していますよね」
ニュイは丁寧にお辞儀をするとニコッと笑って見せた。
「私の名前は魔導士ニュイ。ここ魔物の巣窟で魔物達と戦っています」
「「魔物!?」」
ニュイの言葉に信じられないと言いたそうに驚愕の表情を浮かべると、二人は動かなくなったケルベロスの死体を見た。そして彼女が話したことに間違いがないことを確認する。
「なんだぁ貴様ら!!ニュイ様のお言葉が信じられんのか!!あぁん!!」
睨みつけながら圧をかけるデュランにレットとルミナスは首を縦に振った。
「「信じます。信じます」」
そんな三人の光景を見てニュイはクスッと笑みを見せた。
「デュランそれぐらいにしなさい。お二人ともお疲れでしょう。私たちの拠点にご案内しますよ」
ニュイの言葉に黙って二人は首を縦に振るとニュイに案内されニュイの後についていった。
後ろからデュランに睨みつけられながら。