今は亡き人たちの物語
レゲンが村に戻る頃には日が上り朝になっていた。村の入り口には、カレッジとエメリア、そしてリケイルが待っていた。
「よぉ。フェクネスは倒してきたのか?レゲン」
「えぇ、確かに」
カレッジとレゲンは言葉を交わすとニコッとお互いに笑みを見せた。そんな二人にリケイルがゆっくりと近づいてきた。
「レゲンくん・・・・・・成長したわね」
「姉さん・・・・・・」
レゲンとリケイルは言葉を多く交わさずに見つめ合っていた。
すると次の瞬間リケイルがレゲンを力一杯抱きしめた。
「あーんレゲンくん心配したよ〜。お姉ちゃん心配だった〜」
「ぐぇー!!姉さん!!骨が折れる!!」
「リケイルさん弟離れするんじゃ!?」
エメリアの言葉にリケイルはレゲンを力一杯抱きしめたまま笑みを見せる。
「弟離れしたじゃない。私がレゲンくんと離れたから弟離れよ。弟成分を補充しなきゃ」
そう言いながらリケイルはレゲンの身体に顔を押し当て匂いを嗅ぎまくるのであった。
レゲンの悲鳴が村中に響き渡るのであった。
時は流れ二日後アルファスはベッドの上で横になっていた。胸には包帯が分厚く巻かれていた。
アルファスが退屈そうに天井を見ているとコンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。
「・・・・・・どうぞ」
アルファスが声をかけるとドアを開けてレゲンが入ってきた。アルファスは少し目を丸くして驚いた表情をしたがすぐに穏やかそうな顔を浮かべた。
「貴方がくるとは・・・・・・私に何かようですか」
「お見舞いに来ました。後少し話もしたくて」
レゲンはそう話すとベッドの側にある椅子に腰掛けた。
「その腕の添木・・・・・・レゲンさんも怪我をされたのですか?」
「いやこれは姉さんに折られただけです・・・・・・」
レゲンは二日前のことを思い出したのか苦い顔をしていた。
「そ、そうですか。それよりもフェクネスを倒してくださりありがとうございます。王にも私から伝えておきます。まぁこの怪我を治してからですが」
アルファスは自身の胸を触ってみせた。フェクネスに貫かれた傷がまだ完治しておらず、ベッド上から動くこともできていない。
「ゆっくりでいいですよ。それに僕も貴方に話さなければならないことがあります・・・・・・」
「話したいこと?」
「貴方が父を殺した時・・・・・・本当はわかっていたんです。父が僕の声に反応して隙を見せたことを」
レゲンの言葉にアルファスは目を見開いた。言葉を選んでいるかのように数秒の沈黙が周りを包んだ後ゆっくりとアルファスは口を開いた。
「・・・・・・そうですか」
たったそれだけの言葉だった。しかしその言葉を吐き出した時、アルファスの肩から荷が降りたように見えた。
「だからアルファスさん・・・・・・貴方が僕や姉に罪の意識を感じることはないんですよ」
レゲンの言葉を聴くとアルファスは爽やかな笑みを見せた。
「いえあなた方が後ろめたく思う必要はありません。これは私が判断して下した結果・・・・・・私が背負っていく後悔でもあり、罪でもある」
「ですが・・・・・・」
レゲンが言葉を出そうとするとアルファスは手の平を目の前に炊き出し「いいんです」と一言だけ呟いた。
「わかりました。それでは新たな目標として貴方を超えることを僕の目標とします。父を倒した貴方をね」
「えぇ、いつでも挑戦を受けましょう」
二人はお互いに笑顔を見せながら固く握手を交わした。
そんな中コンコンとまたしてもドアをノックする音が聞こえた。
二人は握手をやめ、アルファスが「どうぞ」と声をかけるとカレッジとエメリアが部屋に入ってきた。
「どうですか?アルファスさん体調は?レゲンさんもいたんですね」
「うっす、これ差し入れ」
カレッジはリンゴが入ったバスケットを差し出すとアルファスはそれを受け取った。
「しかし、事件が解決してよかったですね。でも・・・・・・アンナちゃんは家族を失ってしまったけど」
エメリアが悲しそうな顔をしているとアルファスが声をかけた。
「心配いりません。彼女は私の養子に向かい入れます。彼女に悲しい思いや不自由な思いはさせませんよ」
アルファスの言葉にエメリアは嬉しそうな顔を浮かべるとアルファスも笑みを返した。
「そういえばアルファス。あんたに聞きたいことがあったんだ」
「なんでしょう?」
カレッジの言葉にアルファスは首を傾げた。
「ミサハの城に居た鍛冶屋の爺さんが言っていた話なんだけど・・・・・・」
「あぁ、オリジンシリーズのルーツと悪魔の話ですか」
「その話詳しく聴かせてくれないか?」
カレッジの言葉を聴いてレゲンは不思議そうな顔を浮かべ、エメリアは目を輝かせていた。
「えぇ、なんですかその話聞きたいです!!」
「オリジンシリーズのルーツ?そんな話シール王国で聴いたこともありませんよ」
「あぁ、なぜかシールにいた頃シールの歴史や伝承についてもレットの爺さんに止められたからな」
カレッジやレゲンの様子を見てアルファスは首を傾げた。
「妙ですね。ミサハにはシールの伝承や悪魔の伝説などが伝わっているのですが」
カレッジとレゲンは顔を見合わせた。お互いに何か引っ掛かているような様子だった。
「聴かせてくれないか。そのシール伝承とやらを」
「わかりました。時間もありますからね・・・・・・ミサハに伝わる話はこうです。三百年前、世界は魔物とそれを使役する悪魔が支配していた。それを倒し平和をもたらした、六人の英雄の話」
アルファスは語り始めた三百年前に遡る今は亡き人々の残した物語を・・・・・・