その肉体に魅入られて
君の肉体が腐り落ちるまで君を愛し尽くそう
夜の闇に包まれたとある村。村の外れの道を歩く二人の男女がいた。
女性は質素な服に身を包み頬にそばかすがついていた。ブラウンの髪を三つ編みにして見た目から明らかに精一杯のおしゃれをしているのがわかる。
隣を歩く男は整えられた服装に艶やかな黒髪を横に流していた。雪のように白い肌は月明かりで焼かれてしまいそうなほど怪しく輝いていた。歩き方も堂々したようで、どこか気品があるような静かな歩き方だった。
「今日はありがとうございました先生。こんな遅くまで勉強を教えてくれて」
女性が頬を赤くし照れたように話すと男性は爽やかな笑みを浮かべた。
「いえいえ。リラさんが頑張ったからですよ。本当に勉強熱心で私も教え甲斐があります」
「先生の教え方が上手からです。先生がこの村に来て一年村のみんなも感謝してますよ。私も早く先生みたいなお医者さんになりたいです」
「そんなことないです。私なんてまだまだですよ」
リラが男性を見つめる目は月明かりに当たり煌めいていた。憧れのようなもっと深い感情を抱いているようなそんな印象が目を見れば伝わってくる。
「ところで先生どこに行くんですか?こんな夜に」
「いいところですよリラさん・・・・・・きっと貴方も気にいるはずです」
二人は夜道を歩いていった。森の奥へと入っていくと月明かりが届かず暗闇の中を進んでいった。
リラは木の根っこや石につまづきそうになったり、気にぶつかったりしそうになるが、男性はまるでその場所に何があるのか知っているようにすんなりと森の奥へと進んでいった。
「・・・・・・ここです」
男性の言葉を聞いてリラは目の前に広がる光景に言葉を失った。
当たり一面に墓地が広がっていたのだ。そして目の前の墓石にはこう書かれていた。
『リラ・マースト』
彼女の名前が墓石に刻まれていたのだ。
「・・・・・・先生これは?」
リラが目を汗を滝のように流しながら男性を泣きそうな目で見ると、肩を優しく掴まれ抱き寄せるように男性の胸に引き寄せられる。
「リラさん貴方は美しい・・・・・・私が見惚れてしまうほどに」
「・・・・・・先生」
リラが安心したような笑顔で男性の顔を見た瞬間鈍い衝撃が彼女の胸に広がった。
「え?」
リラの胸には短剣が突き刺さっていた。そして突き刺したのは目の前にいる男だった。
「貴方は美しい・・・・・・しかし冷たく、静かで、老いることない死体の貴方の方がもっと美しい」
リラは脱力したように地面に倒れた。自身の血が周りに広がる。
雲から月が出てくると月明かりが周りを照らし始めた。
彼女が最後に見た光景は月明かりに照らされて狂気的な笑みを浮かべる尊敬していた先生の姿だった。