終戦
ミサハ王国の城下町。アイスノックはミサハの兵士数百人を相手に一人、戦い続けていた。
全身に纏った朱色の鎧は傷一つ付いておらず、敵からの攻撃も受け付けていない。
しかし鎧の中にいるアイスノックは息を切らしていた。連戦による体力の消耗が顕著だった。ミサハの兵士を立て続けに一人で相手していれば疲弊は免れない。
恐らく別の場所で戦っているシオンも同じだろう。
アイスノックは歯を食いしばると自身を鼓舞するかのように叫んだ。
「おらおらどうした!!まだ俺はやれるぞミサハの雑兵ども!!」
アイスノックが声を上げるとミサハの兵士の間を掻き分けてひょこっと一人の男が顔を出した。
「あ?」
アイスノックはその男の顔を見て驚いたような声を上げた。その男はアイスノックがこの国で探していた男カレッジ・スペードだったからだ。
「あ、いたいたアイスノック。派手に暴れたなぁ」
「・・・・・・カレッジお前捕まったんじゃ?」
「あぁなんか傭兵として仕事をしてほしかっただけらしい」
カレッジの言葉を聞いてアイスノックはガッカリしたように肩を落とした。
「なんだそりゃ」
アイスノックが肩を落としているとカレッジの後ろから無精髭を生やした初老の男性が出てきた。
「アルファス騎士団長!!」
ミサハの兵士が驚き声を上げるとアルファスは頷き周りに聞こえるように叫んだ。
「戦いはこれで終わりだ。ミサハの兵は直ちに撤退せよ」
「しかし我々の同胞もやられたんですよ!!それにマグナ騎士団長もやられましたこのまま引き下がれません!!」
一人のミサハ兵が喰いかかるようにアルファスに意見するとアルファスはその兵士の目を見て静かに語りかけるように話し始めた。
「この戦い・・・・・・先に手を出したのは私たちだ。それにシールの騎士は手加減している。それを証拠に死者が出ていない」
「え?」
ミサハ兵は疑問の声を上げるとアイスノックは疲れたように肩を鳴らした。
「骨が折れたけどかなり手加減した。マグナってやつとの戦いはかなり危なかったけどな」
「無駄に血を流すことはない。この戦いは終わりだ」
アルファスの言葉を聞くとミサハの兵士は倒れたほかの兵士を助けに向かっていった。
「カレッジ!!」
名前を呼ぶ声がしたため声がした方向を見ると屋根の上から弓を持った女性が降りてきた。シオン・レイダーツだ。
「・・・・・・よかった。無事だったのね」
顔を赤めながら目線を合わせようとしないシオンにカレッジは笑顔を見せた。
「あぁ迷惑かけてすまなかったな二人とも」
「・・・・・・ほかのミサハの兵士達が引いて行ったけど・・・・・・何があったの?」
「詳しく説明すると長いんだが・・・・・・まずはミサハの王宮にいかないか?」
「王宮に?なぜだ」
「エメリア達が待ってる。それに依頼の内容も話したいしな」
「ふーんまぁいい行くか。それでこのおじさんは?」
アイスノックは自身に纏ったメタモルフィアを菱形の形状に戻すとポケットに閉まった。
「アルファス・クレアニムミサハの騎士団長なんだと。そしてレゲンと因縁があるらしい」
「・・・・・・アルファス・クレアニムと申します。ミサハの使いとして貴方たちに同行するように仰せ使いました」
「へーで因縁ってのは?」
「私がリゲイン・ロックダイスを倒しました」
リゲインの言葉を聞いてアイスノックとシオンは口を閉ざししばらく驚いたような表情を浮かべたが静かに口を開いた。
「・・・・・・そうか。だが戦場は命を取る場所俺たちに文句を言う資格は無い」
「私たちもミサハの兵の命を奪ったことがあるし怨むことはないわ」
二人の言葉を聞くとアルファスは眉間に皺を寄せると頭を下げた。
「私は騎士でありながら卑怯な手段で勝利を収めました。貴方達からいかなる罰も受けるつもりです。ですが今は王からのめいを終えるまではこの命を奪るのを待っていただきたい」
三人は顔を見合わせると頷いた。
「命は取らないさ。それに判断するべきなのはレゲンだと思うしな」
「・・・・・・慈悲に感謝いたします」
「さて・・・・・・じゃあ王宮に行くかエメリア達も待ってるしな」
「それよりも肩貸してくれよカレッジ。骨が痛い」
「全く仕方ねえなお前は」
カレッジはアイスノックに肩を貸すと四人は王宮に戻るのであった。