勝利は望まぬ者の手に
十年前シール王国領地のとある森の中。夜の森中で一人焚き火を見つめる男がいた。朱色の鎧で身を包み、背中には青いマントを纏っており夜風がマントを揺らす。
この男の名前はリゲイン・ロックダイス。十年前のシール王国の騎士団長だ。
男の顔は頬に獣に爪で引っ掻かれたような荒々しい傷跡があった。無精髭を生やしており四十代ほどの年齢と予測できる。腰には水晶のように綺麗な剣を下げており、焚き火の光が剣を照らし光を反射させる。
「しかし、ミサハの軍勢を倒せてよかった。後は我が子と共に国へ帰るだけか」
リゲインが焚き火を見ながら話していると暗闇の奥からガサっと葉を揺らす音が聞こえた。
「誰だ!!」
暗闇の奥からヌッと鎧を纏った男が出てきた。
顎髭を蓄えた中年のように見え、顔や手からは血を流していた。背中には矢が突き刺さり風前の灯のようにも見える。
「見つけたぞ・・・・・・リゲイン・ロックダイス。私の部隊は全滅したが貴様だけは仲間の為にも倒させてもらう」
「そんな手傷で俺の隊の見張りを掻い潜り俺の前に現れたのは敬意に値する。敬意を払いこのリゲイン・ロックダイスがお相手しよう」
「我が名はアルファス・クレアニム・・・・・・いざ参る!!!」
アルファスは腰の剣を抜くとリゲインに勢いよく斬りかかるがリゲインは剣を受け流すようとアルファスの胸を切り裂いた。
「クッ!!」
苦悶の表情を浮かべ、アルファスは胸元を押さえるが斬られた箇所から血が出てこずに結晶のように固まっていた。
「どうした?敵の大将の首をとれるチャンスだぞ。立つまで待っててやる。さっさとかかってこい」
「くっ!!仲間の為にも貴様に勝たねばならん!!勝たねば仲間の無念はどこに行くというのだ!!」
アルファスは喰らいつくようにリゲインに剣を振るうがリゲインはその剣を避け、受け流すと的確にカウンターを入れていく。
「くそ!!なぜだ!!なぜ当たらないんだ」
「お前が目の前の相手を見ようとしないからさ。お前が見てるのは俺じゃなく、亡くなった仲間の背中さ・・・・・・お前本当は死場所を探しにきたんじゃないのか?」
「違う!!私は貴様の首をとりにきたんだ!!」
アルファスは否定するように斬りかかるが、剣はまたもや受け流された。トドメとばかりにリゲインがクリスタルを自身の頭上の掲げアルファスに振り落とそうとしたその時。
「父上。父上どこですか?」
リゲインの後ろの暗闇から子供のような幼い声が聞こえてきた。その声を聞いてリゲインは焦ったように後ろを向いた。その隙をアルファスは見逃せなかった。
「来るな!!レゲン!!」
リゲインが言葉を終えた瞬間だった。アルファスの剣がリゲインの首を切り裂き頸動脈から血が噴き出した。
首から血を出しながらリゲインは地面に倒れた。
地面に伏したリゲインを見て勝者であるアルファスは喜ぶ様子はなく、困惑した表情を浮かべていた。
「・・・・・・どうした?お前が求めた勝利だぞ。もっと・・・・・・喜んだらどうだ?」
「違う・・・・・・私はこんな勝ち方を望んだわけではない。こんなつもりでは・・・・・・」
困惑するアルファスの前を一人の少年が現れた。先ほど暗闇から声を出していた少年だろう。
「あ・・・・・・父上!!」
少年は泣きながらリゲインに駆け寄り必死に身体を揺さぶるがリゲインはすでに事切れていた。
少年は泣きながらもアルファスを睨みつけた。悲しみと怒りと憎しみがごちゃごちゃに入り混じった目をして。
「うぅ・・・・・・くっ・・・・・・」
アルファスは逃げるように暗闇の中に走り出した。
その後アルファスはミサハ王国に帰還し騎士団長となった。
勝者という栄光の光に大きすぎる影を落としながら。