過ぎ去る時代に生きる者たち
我々はこの時代という名の登場人物に過ぎない。
我々はこの時代という名の傍観者に過ぎない。
我々はこの時代に名を残す可能性を持つ英雄に過ぎない。
大きな石造りの広間、床には豪華な絨毯がキッチリと敷かれ、見上げるほど高い天井とそこから吊り下がるテラス、少し高い窓から日差しが差し込む。
その部屋の真ん中にカレッジは立っていた。手首には鉄と木材でできた手錠が付けられており、腰に下げた剣を抜くことすらできない。
広間の周りにはカレッジを見張るように鎧を着た騎士たちが整列して立っていた。そしてカレッジの目の前には玉座に座り頬杖をつく金髪の男が一人。現ミサハ王国国王ティーカ・ミサハ王だ。
「よく来てくれたねシール王国騎士団長カレッジ・スペード。このような場ですまないね」
ティーカは貼り付けたような笑みを浮かべカレッジに話しかけた。窓から差す太陽の光がティーカの指に付けた宝石の指輪を輝かせる。彼の服装は一目では国王だと分からないような地味な黒い服装をしており、手につけた指輪と玉座に座っていなければその辺の村民と変わらない。
「無礼を承知でいいますが国王。客人にこれは失礼ではないでしょか?」
カレッジは自身の手首に付けられた手錠をあげて見せてみるがティーカは意に介さず貼り付けた笑みを浮かべ続けた。
「私たちもシールの騎士が怖いんだ。悪いがそれは君に対しての最大級の敬意だと思ってくれ」
「敬意ね・・・・・・なぜ私をミサハ王国に連れてきたんですか?処刑するためでしょか?それともこの剣が狙いですか?」
「ふ、違うよ。君には依頼をするために来てもらったんだ。シールの騎士としてではなく傭兵としてね」
「傭兵として?ミサハに仕えろという話ならお断りしますよ。国に仕えることには疲れたので」
カレッジの発言を聞いて列に並ぶ騎士の一人が剣を抜こうと身構える。しかしティーカは手のひらをその騎士に向けた。
剣を収めろとジェスチャーするティーカを見て騎士は剣を握る手を離した。
「運が良ければと思っていたがそれは残念だ・・・・・・だが違う。君に依頼したいことはある男の討伐だ」
「討伐?」
「数週間前ミサハ王国の墓からミサハ王国騎士団長シャルマ・ブイフォースの死体が盗まれた。盗んだ男はフェクネスというネクロマンサー。その男を討伐してほしい」
「依頼なら雇い主を通して欲しいですね」
「依頼したんだが君たちには情報が届かないように操作されていてね。それでこのような強引な方法をとったわけだ」
カレッジはティーカの言葉を聞いて眉をひそめた。そしてレミアの言葉を思い出したミサハ王国に正体はバレるなという言葉を。
「そうかレミアさんが関わらないようにしていたのか」
カレッジは小声で呟くが周りには聞こえていなかったのかティーカは言葉を続けた。
「依頼受けてくれるなら君たちシールの騎士が平穏に暮らすのであればミサハ王国は関わらないと約束しよう・・・・・・さぁどうするカレッジ・スペード」
「いいだろう。その依頼受けよう。ティーカ・ミサハ王」
「よかったよ。私も君たちと正面から戦いたくないからね」
「あんたが国王だから受けるのさ。あんたの兄が死んであんたが国王になってからだろシールとの停戦協定が結ばれたのは・・・・・・」
カレッジの言葉を聴いてティーカの貼り付けたような笑みが一瞬崩れたように見えた。しかしティーカは再び笑みを浮かべてみせた。
「先代・・・・・・王位を継いだ兄は戦争好きでね。戦争に反発した妹も殺してしまったんだ。だから私が兄を一服盛って殺したのさ。ミサハの平和のためにね」
カレッジは笑みを浮かべると腕に力を込めたすると手錠がクッキーでも砕くように簡単にバラバラになった。
周りの騎士が剣を抜こうとするころにはカレッジは両手に白と黒の剣を持ち臨戦態勢にはいっていた。
しかしティーカは全く動揺した様子は見せず頬杖をついたままだった。
「ミサハ王よ。平和のためにと油断してるとこういうことも起こるかもよ?」
「ここで私が仕留められたとしても、それはそういう運命だったということだ・・・・・・私はこの時代という物語に出てくる一人の登場人物に過ぎない。ここで君に殺されるならそこで私という物語が終わりということ・・・・・・ただそれだけのことだ」
玉座から動こうしないティーカを見てカレッジは両手の剣を腰の鞘に納めた。
「あんたいい王だよ。俺たちの国王よりもな」
「それはどうも。シールの騎士に認められて光栄だよ。では依頼を頼むよカレッジ・スペード」
「あぁ朗報待ってなミサハ王よ」
「アルファス騎士団長。彼について行ってくれ。無事依頼が完了できるようにね」
「は!!」
ティーカの言葉を聞くと一人の騎士が列からカレッジの前に出てきた。カレッジを超える身長に黒い髪を後ろで結んだ顎鬚を生やした初老の男性だ。
「アルファス・クレニアムと申します。よろしくお願いしますカレッジ・スペード様」
「あんたどこかで会わなかった?」
「戦場でしょうかね。私はシールの騎士団長を一人討ち取っていますので・・・・・・」
「そうか・・・・・・そんな強い奴が手伝ってくれるなら心強いよ」
アルファスに案内されカレッジが広間から出ようとしたその時。広間の出入り口のドアが勢いよく開かれた。
ドアを開けたのは鎧を着た若い騎士だった。息を切らした様子で顔中汗で濡れていた。
「ハァハァ・・・・・・お話中失礼致します。国王・・・・・・」
「何事だ?そんなに焦って」
ティーカの言葉に若い騎士は息を整えるとこう話した。
「シールの騎士が攻めてきました!!」