心の内を語らずとも
日は落ち山の中は暗く冷たい闇に包まれていた。あたりはフクロウの鳴き声や夜風が葉を揺らす音が聞こえるだけだった。
カレッジ一行は夜の山を進むのは困難であるため、焚き火を起こし野宿していた。
エメリアは日中、風魔法であたりを探知していたせいかはたまた緊張の糸が切れたのか疲れて眠っていた。
「ムニャムニャ・・・・・・えへへやりました。師匠カエルが大量ですよぉ〜」
「どんな夢みてんだこいつ」
寝言を言いながら眠るエメリアの寝顔を見ているとカレッジは少し笑みを見せた。するとカレッジの目の前に焚き火を挟んでガロンが座った。
「周りに敵はいなそうだな」
「あぁありがとうな。ガロン」
「なぁにいいさ・・・・・・日中は悪かったな。敵に情けはかけん主義でな」
「いや俺も悪かった。あんたの価値観を知らなかったし、俺の価値観を押し付けて悪かったよ」
二人は焚き火を眺めながらも沈黙の空間がしばらく続いた。沈黙に耐えられなかったのかカレッジが口を開いた。
「なぁ、ガロンはなんで山賊の討伐を受けようと思ったんだ。やっぱり正義感からか?それとも報酬か?」
ガロンはカレッジの質問にしばらく間を空けると焚き火を眺めながら口を開いた。
「報酬はどうでもいい・・・・・・正義感もあるが、俺は山賊に奪われたある物を取り返しに来た」
「ある物?」
「知り合いの大切な物が山賊に奪われたんだ。それを代わりに取り返しにきたのさ」
「なるほどな。あんたやっぱりいい奴だな」
「それはどうだかな。いい奴ってのは力で解決しようとはしないさ」
「違いない」
二人は静かな暗闇に響き渡るほど大声で笑い合った。二人の表情は先ほどまでとは打って変わって笑顔に包まれていた。
「カレッジ・・・・・・お前はなぜ人を殺すのを躊躇っている?」
「な!?」
驚くカレッジにガロンは腰に挿したレイピアの柄頭をポンポンと軽く叩いてみせた。
「剣を交えた相手なら大体の気持ちはわかる。お前の剣からは闘いに対する覚悟は伝わってくるが殺意はまったく感じなかった・・・・・・お前は何を恐れている?」
ガロンの言葉を聴いてどう答えるか迷っているのか、それとも無意識だったのか考え込むようにカレッジは顎に手を当てた。
「正直・・・・・・もう疲れたんだと思う。人を殺すことに・・・・・・」
何か辛いことを思い出したように悲しそうな顔をしながら言葉を絞り出したカレッジを見てガロンは一言「そうか」とだけ返した。
しばらく焚き火の音が二人の耳に響いていた。再び風で葉が揺れる音があたりに響くとガロンが口を開いた。
「あとお前は嬢ちゃんを戦わせることを躊躇ってるだろう」
「・・・・・・そんなこともわかるのか」
「なんとなくだがな。嬢ちゃんに危険な目にあって欲しくないってところか」
「まぁ・・・・・・そんなところだ」
「もう一つわかることがあるぞ。嬢ちゃんに隠してることもあって後ろめたいんだろう?」
「フッ、なんでもお見通しか正直エメリアには傷つくところを見たくない。そしてエメリアを失うことが俺は怖い」
「お前は嬢ちゃんを甘く見過ぎだ。女はそんなに弱い生き物じゃないぞ」
ガロンの言葉を聴くとカレッジは笑みをこぼした。自身がエメリアを子供扱いしていたことに気がついたことや、弟子として見ていなかったことに気がついてしまったからだろう。
「あぁそうだな。ありがとうなガロン、エメリアに俺の気持ちを話してみるよ」
「あぁそうしろ。俺の知ってる女も怖いからな。お前は女を舐めすぎてる」
「ところで剣を交えて心を読み取るやつ教えてくれよ」
「お前も迷いや後悔をなくせばできるさ」
「・・・・・・なんだそりゃいいから教えろって」
「うっせぇ理屈じゃねぇんだよ!!感覚なんだよこれは!!」
カレッジとガロンの話ははずみ寝ることを忘れて話明かした。日が昇ったことに気がつくころには眠らなかったことを後悔する二人だった。