切っ先を向けるのは
カレッジとエメリアはアンバラムに着くと情報収集を行うために酒場に来ていた。
アンバラムの様子は近くに山賊が出ているからか住民が外に出ている様子はなく、ミサハから来た鎧を身につけた兵士や報酬を聞きつけやってきた傭兵たちで溢れかえっていた。
現在いる酒場も屈強な大男や、剣を腰に差した者など見るからに強そうな傭兵たちが騒いでいた。
「怖い人たちばかりですね師匠」
「別に帰ってもいいんだぞエメリア」
カレッジはそう言いながらツマミの干し肉を食べると酒で干し肉を喉奥へと流し込んだ。
「ここまで来たら帰りませんよ・・・・・・それよりもお酒美味しそうですね。一口ください」
「ダメだガキにはまだ早い。大人にしかこの味はわからんからな」
「私十五歳ですよ。飲んでも大丈夫ですよ!!」
「声変わりしてから出直しな。嬢ちゃん」
からかって笑うカレッジを見てエメリアはぷくぅと頬を膨らませた。
「師匠のいじわる!!」
「アハハハハハハハッッッ、そう怒るなって剣術を後でみるからさ」
不機嫌そうに頬を膨らませるエメリアを宥めるとエメリアは目を輝かせた。
「本当ですか!!ぜひ」
「お、おう。なんかやけにやる気だな」
「この前カラトナ要塞の囚人を倒してから自信がつきました。魔法もだいぶ上達しましたし剣術も覚えたら師匠からブレイドを受け継ぐ日も早くなりますから」
「そうかい・・・・・・けど慢心はするなよ」
「わかってますよ・・・・・・そういえば師匠ブレイドの本当の使い方そろそろ教えてくださいよ」
エメリアの言葉にカレッジの手が止まった。楽しそうに酒を飲んでいた顔が真剣な顔つきに変わった。
「私本当の使い方はメタモルフィアしか見てないんですよ。シオンさんのサンダーロアーも見れなかったし」
「本当の使い方か・・・・・・」
「はい。ブレイドって本当の使い方は何なんですか?」
「ブレイドの本当の使い方は・・・・・・」
カレッジが口を開こうしたその瞬間、ガシャンと店の奥から何かが壊れるような大きな音が聞こえてきた。
カレッジとエメリアは音の方向を見てみると、スキンヘッドの大男と、三十代くらいの中年男性が言い争っていた。
スキンヘッドの大男は背中に大槌を背負っており、中年の男性は腰に針のように細い刀身をしたレイピアを腰に着けていた。
先ほどの大きな音はスキンヘッドの男が中年男性の頭に酒の入ったジャッキを頭に叩きつけた音だった。店の床には酒とジョッキだった物の木片が散乱していた。
「てめぇ、さっき言ったこともう一回言ってみやがれ!!」
スキンヘッドの男が店中に響き渡るほどの大声で叫び始めた。中年男性は肩に残った木片を手で払うとスキンヘッドの男を睨みつけた。
「・・・・・・何度だって言ってやるさ。お前のような空っぽ頭には山賊どころかガキも倒せねぇよ」
「何だとてめぇ!!」
スキンヘッドの男は背中の大槌を握り締め大きく振り上げると、中年男性の頭に振り下ろした。
しかし、中年男性は動こうともせずレイピアを音すらたてることなく腰から抜いた。
するとスキンヘッドの男の腕が力が抜けたようにだらんと下に下がった。
「な、なに!?腕に力が入らん!!」
スキンヘッドの男の手から離れた大槌が床にドンと大きな音を立てて落ちた。
スキンヘッドこ男の肘からジワリと赤い血が滲み出てきた。中年男性のレイピアには血が付いており、床に滴り落ちていた。
「お前の腕の腱を斬っておいた。これじゃあ赤子にも勝てないなぁ」
「く、くそぉぉぉぉ」
スキンヘッドの大男は顔を青ざめながら店から走って出て行った。
「まさか二発刺しただけで腕の腱を斬るとは、相当の使い手だなあんた」
カレッジは中年男性話しかけると中年男性はレイピアを腰に納めた。
「あぁまぁな・・・・・・つまらねぇ喧嘩をしただけだ。あんたも強そうだな傭兵さん。素人じゃあ俺の剣は見えねぇのによ」
「試してみるか?」
「え、師匠!?」
カレッジを追いかけてきたエメリアはカレッジの言葉を聞いて動揺していると中年男性はニカっと歯を見せて笑って見せた。
「面白い!!その話のった!!このガロン・バレルがその喧嘩買おう!!」
ガロンの言葉にカレッジはニヤリと笑うのだった。
カレッジはガロンと戦うために町から離れた森の中へと移動した。
二人は向かい合うと剣を抜いて構えた。カレッジは二刀の剣を構え、穏やかに笑みを浮かべていた。
ガロンはレイピアを構え口角を釣り上げ歯を見せて笑う。
二人を見ていたエメリアにはなぜか二人とも楽しそうにしているように見えた。まるで二人とも同じことを考えているように。
「ギャラリーはそこの女の子だけでいいのかい?」
「お前も気づいてるんだろ。森の陰からほかの傭兵が覗いてることにさ」
エメリアはカレッジの言葉を聞いて風魔法の探知を使ってみた。すると森の奥に九〜十人ほどの気配を感知できた。
「なるほど他の傭兵たちの牽制目的で俺に戦いを申し込んだわけか」
「あぁ。あとあんたが強そうだからかな」
「ほう。強かったらなにか得があるのかい?」
「それは口で語る必要があるとは思えないな。あんたもそう思うだろ」
「違いない!!」
ガロンは言葉を終えると共にレイピアを真っ直ぐにカレッジに向けると勢いよく地面を蹴った。するとカレッジの前まで飛ぶように移動しレイピアを突き刺そうとする。
「うおぉ!!危な!!」
カレッジは身体を横に傾けレイピアを避けるがガロンはレイピアを自分の胸元前まで引くと目に止まらないスピードでレイピアを連続で突き立ててきた。
カレッジはガロンのレイピアをブレイドでいなしていたがカレッジの額からは汗が流れていた。
キンッという音が森に木霊した。カレッジがガロンレイピアを弾いたのだ。
「くっ!!」
レイピアを弾かれわずかに体勢を崩したガロンをカレッジは見逃さなかった。カレッジは白いブレイドを振り下ろした。
ガロンはブレイドをレイピアで受け止めた。
「そんな細い刀身で受けたら剣が折れるぞ」
「それをさせないから俺はレイピアを使うのさ」
そう言うとガロンはレイピアを横に大きく振り払った。カレッジの剣は弾かれたのだ。ガロンは自身の筋力とレイピアの細い刀身をしならせてカレッジの剣を弾き返したのだ。
そしてガロンは自身のレイピアをカレッジの喉元に勢いよく突きつけた。レイピアはカレッジの喉元にあと数センチで当たるというところでピタリと止まった。
しかしガロンの喉元にも白い剣が突き立ててられていた。カレッジがレイピアを喉元に突き立てられるほぼ同時にガロンの喉元に剣を突き立てたのだ。
「・・・・・・この勝負引き分けにしないか?このままやると本気で戦いたくなりそうだ」
カレッジの言葉にガロンはニヤリと笑みをこぼした。
「俺もだ・・・・・・お前やるな名前は?」
「カレッジ・スペード。そっちにいるのは俺の弟子のエメリアだ」
「なるほどな・・・・・・でなんで俺に絡んできたんだ」
「お前の実力を知りたかった。この仕事はミサハも手を焼くほどだからな骨が折れそうなんでね人手がほしいんだが・・・・・・手を組まないか?」
「ふふっ、いいだろう。強いやつと組めるならこちらも本望だからな」
カレッジとガロンが握手する中、エメリアは離れたところで会話を聞いていた。そして状況が飲み込めていないのかポカンとした顔をしていた。
「師匠・・・・・・戦いたいだけじゃなかったんだ・・・・・・」
弟子に戦闘狂だと思われていたカレッジだった。