言葉を紡ぐ
声無しの魔女との戦いから五日後。エメリアとシオンは家で雑談していた。二人の頬や腕にはまだ傷が癒えないのか包帯やガーゼが貼り付けられていた。
「しかし結果はどうあれ金貨二十枚も手に入ったしシオンさんも声を取り戻せてよかったです」
「エメリア・・・あなたが声のレプリカを奪ってくれたおかげよ。あなたの勇気に敬意を払うわ」
「い、いえそんなことないですよぉ」
照れるエメリアを見てシオンはニコリと笑みを返した。そんな二人とは裏腹にボロ雑巾のようにリケイルが転がって何か呟いていた。
「あーーーーーう。レゲンくん成分が足りない」
「リケイルさんまた言ってる・・・・・・それ三日前から聞いてますよ」
「リケイルは昔からこうだから。レゲンとしばらく会えないと廃人みたいになるからね」
「あーうレゲンくぅん」
リケイルの戯言を聞いていると部屋のドアを開けて妖艶な雰囲気をした女性レミアが入ってきた。
「お邪魔するわよ。あんたたち、傷の具合はどう」
「あ、レミアさんだいぶ良くなりました」
「そのようね。それよりもその床に転がっているリケイルはどうしたの?」
リケイルの姿を見てドン引きするレミアにシオンはニコッと笑い「いつものことです」と返すとレミアは「あそ」と軽く返事を返した。
「そういえばあんたらカレッジたちから連絡とかあった?」
「・・・・・・いえ師匠からは特に」
「・・・・・・そう」
カレッジたちと別れてもうすぐ二週間近く経とうとしていた。連絡も何もない。
「師匠たちなら帰ってきますよ」
エメリアが言葉を終えるとまるでその言葉に応えるように部屋のドアが開き三人の男が入ってきた。
カレッジ、レゲン、アイスノックが帰ってきたのだった。
「よぉ久しぶりお前ら・・・・・・あれ?シオンやっぱりミサハに来てたか」
「シオンさんお久しぶりです・・・ねぇ!?」
レゲンがシオンに挨拶を終える前にリケイルがレゲンに飛びついて来た。まるで獲物に飛びつく蜘蛛のように飛びあがり、レゲンを押し倒した。
「レゲンくぅんお帰りぃぃぃぃぃ」
「うわぁぁぁぁ姉さんやめてぇぇぇ骨が折れるぅぅぅ!!」
リケイルに抱きつかれ鯖折りにされているレゲンを横目にアイスノックはレミアと話していた。
「やぁ待たせたかな。愛しのハニー」
「・・・・・・あんたなんか少し見ない間に変わった?」
「えぇ!?そんなことないさ」
「嘘ね」
「なぁ!?」
動揺するアイスノックにレミアはクスリと笑い指をアイスノックの唇に押し当てた。
「女は嘘が上手だけどそれと同じくらい嘘を見抜くのも上手なのよ」
「・・・・・・ふっ。敵わないなぁレミアには」
「あとで何があったか聴かせなさいな」
「あぁ・・・・・・ゆっくりとな」
カレッジはシオンに近づき目の前までくると笑顔でシオンに話しかけた。恐らく久々の再会が嬉しいのだろう。
「シオン久しぶりだな。声は取り戻せたか?」
カレッジの言葉にシオンは顔を赤くするとペンと紙を取り出し文字を書くとカレッジに顔を背けるように紙を見せた。
『取り戻せた』
「・・・・・・そうなのか?ならなんで筆談なんだ?」
カレッジの疑問にシオンは顔を赤くしたまま答えようとせず硬直してしまった。
「師匠無事だったんですね」
「エメリア久しぶりだな・・・・・・その傷どうした?」
カレッジは包帯やガーゼが貼られたエメリアを見て驚愕するとエメリアはニカっと笑って見せた。
「カラトナ要塞の囚人と声無しの魔女を倒したんです。シオンさんと一緒に」
「そうだったのか・・・・・・シオン世話かけたなうちの弟子が」
カレッジが声をかけるとシオンはカレッジの顔を見せようとはしなかったが口を開いた。
「・・・・・・エ、エメリアがいなかったら・・・勝てなかった。む、むしろ感謝するのは私の・・・方」
カレッジの顔を見なかったが拙い言葉を無理矢理繋ぎ合わせたようにシオンは話すとカレッジは笑顔で「そうか」と返した。
「師匠たちはどこにいたんですか?」
「ん?ルーラ王国までな。まぁゆっくり話すからそっちの話も聴かせてくれ」
「いいですよ師匠」
この日自分たちが何をして、何を成したのか夜になるまで話あった。
それは久しぶりに訪れた平穏な時間だった。
言葉を紡ぎ、会話し、自分が思うこと、考えていることを話す。それだけでこの場にいる全員は満足だった。